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キジン2

アーティアスは、部屋へ籠って出て来なかった。

咲希は気になったが、クラウスとエクラスが準備してくれるままにかなり広い部屋へと案内され、そこでリリアナと克樹、ラーキスとアトラスと共にこれからの話をしていた。

克樹が、言った。

「アーティアスのお父さんって、10年も行方不明だったってラウタートだろう?ほんとに、なんだって今頃、しかもシャデル王を連れて戻って来たんだろう。もしかして、シャデル王にずっと捕まってて、洗脳されたとかじゃないよね。」

ラーキスが、それには首を振った。

「それはない。シャデル王の王城には、オレとサルー大使以外は捕まってなど居なかった。それに、王城にラウタートを入れるはずなどないではないか。シャデル王がそれをしようとしても、他の民や兵士達が絶対に許さないであろうぞ。それほどに、あちらではラウタートを恐れておるのだ。」

リリアナが、言った。

「そうね。エクラスから聞いたけど、マティアス王は捕まるぐらいなら死を選んだだろうって。だから、もしそうならとっくに死んでるわ。ラウタートは、とても誇り高いのよ。それにそもそも、あなたが言う通りならなんだって10年も捕らえたままにしておくの?もっと早く来ても良かったんじゃない?」

克樹は、肩をすくめた。

「じゃあ、全くわからないや。どうして、敵対してるはずのシャデル王を、マティアス王が連れて来るなんてことになったのかって。」と、咲希を見た。「で、ずっと黙ってるけど、咲希はどう思うんだい?」

咲希は、ハッとして克樹を見た。そして、困ったように微笑んだ。

「私に分かるはずなんてないわ。ただ、会えば分かると思うの…今、私は結構な確率で相手の思考の色が見えるの。例えば、克樹は心配しているんじゃなくて、好奇心で話しているでしょう。本気で自分で解決しようとはしていないみたい。」

克樹は、言い当てられて、パッと顔を赤くした。そして、すねたように言った。

「なんだよ…確かにそうだけど。」

リリアナは、咲希を見た。

「じゃあ、あなたはマティアスがもしも洗脳されていたりしたら、それが分かるってことなの?シャデル王の方も?」

咲希は、苦笑して首を傾げた。

「多分。シャデル王は力が強いから、私の力で通用するのかまだ分からないけど、マティアス王の方はきっと分かるわね。驚くほどよく見えるの…自分でも、戸惑うぐらい。」

ラーキスが、心配そうに咲希を見た。

「サキ…無理をするでない。」

咲希は、ラーキスに微笑みかけた。

「大丈夫。無理に力を使ってるんじゃなくて、勝手に分かることだから。」

「ならば主も同席せよ。」急に声がしたかと思うと、部屋の扉が勢いよく開いた。「我に父上の言葉の真実を知らせるのだ。」

そこに居た五人は、驚いてそちらを見た。アーティアスが、入って来るところだった。

「アーティアス、入る時はノックぐらいしろよ。いくら王だからって。」

克樹が言うのに、アーティアスは鼻を鳴らした。

「うるさいわ。我の城で何の遠慮が要る。どうせ我の結界の中、何をしておっても見えておる。」と、咲希を見た。「今主らが話しておったこと、我も真っ先に懸念したことぞ。だが、確かに父上は捕らえられるぐらいなら死を選んだであろうし、洗脳など考えられぬ。だが、万が一のことがある。我には、この国とラウタート、それに人を守る義務があるのだ。父といえど、簡単には信用することは出来ぬ。」

咲希は、年上とはいえまだ若い王であるアーティアスの苦悩をそこに見た。アーティアスは、王として君臨し、必死にこの国を統治して来たのだ。戦の後でごたごたとする中、小競り合いを制し、人の面倒を見、この広い国を何とか平穏に治めることを成して来た。ここで、父王が帰って来たからと、普通の子供のように手放しで喜んでいられないのだ。

王として、父も疑わねばならぬのだ。

咲希は、進み出てアーティアスの手を取った。

「アーティアス、一人で背負わなくてもいいのよ。みんなで考えて、みんなで答えを出して行きましょう。お父様のお話、私も聞かせてもらうわ。でも、仲間のみんなにも聞いてもらいましょう。最後に決めるのはあなただけれど、みんなで考えてもいいと思うの。これはもう、国の問題だけじゃなく、私達みんなの問題でもあるの…だって、命を懸けて命の気の流れを正そうとしている仲間なんだもの。」

アーティアスは、少し戸惑うような顔をした。今まで、一族で一番力を持つ自分が、王として何とかしなければならないと、気を張っていたのを咲希に知られてしまったのを、悟ったからだ。

しばらくじっと咲希の目を見つめ返していたアーティアスだったが、薄く笑って一瞬ぐっと咲希の手を握り返してから、すっとその手を放した。

「…仕方のない。そう申すのなら、皆に聞かせても良い。だが、主は父上の言葉の誠を我に知らせよ。それで良いか。」

咲希は、微笑んで頷いた。

「ええ。」

アーティアスは、踵を返しながら、ラーキスをふと、見た。そして、ふふんと笑った。

「主、己のつがいはしっかり管理せぬか。他の男の手を握っておっても、見ておるだけか。」

ラーキスは、眉を上げる。

アーティアスは、それを見て笑いながらそこを出て行った。

扉が閉まってから、茫然とそれを見送っていた克樹が呟くように言った。

「あれって…」

リリアナが、うんうんと頷いた。

「アーティアスも、サキに興味がある感じなのかしらね。」

咲希は、ええ?!とたじろいた。すると、ラーキスが表情も変えずに言った。

「もしかして、アーティアスも相手にと考えておるのか?」

咲希は、慌てて手を首を振った。

「え、どうしてそうなるの?!相手って、一人でしょう。あの、お互い一人でしょう?!違うの?!」

アトラスが、言いにくそうに言った。

「いや、だから力のある王には数人相手が居ることもあると前にも申したことがあったよの。」

咲希は仰天してアトラスを見た。

「ちょっと待ってアトラス、私は王じゃないし、女だし!」

だが、ラーキスも大真面目にアトラスの言葉に頷いて見せた。

「女王も居る。アトラスの母は、今の父と婚姻する前は女王であった。今はその座を退いて、己の夫に譲ったので王妃であるがな。主は女王ではないが、力があるゆえ条件は同じ。そうであってもおかしくはない。」

咲希はそれこそ首がもげるのではないかというぐらい首を振った。

「あり得ないわ!私はあっちの世界でも一般人だったし、みんな一人に一人って感覚で育ってるのよ!一夫多妻も、一妻多夫も、あり得ません!」

咲希が言い切ると、克樹が我に返ったように表情を緩めた。

「そうだよね。父さんだってあっちの世界から来たから、それは言ってたよ。」

しかし、リリアナがそれに水を差した。

「あら、あなたのお父様って確か、あっちこっちに女の人を囲ってたんじゃなかったかしら。」

克樹は表情を凍らせる。ラーキスとアトラスがそれを見て、咲希に視線を移した。咲希は、必死に言った。

「あのね、私は違うわ!私が結婚するなら、一人だけを選んでするわ!そんな何人も、愛情分けられるはずなんてないでしょう!そんなに器用じゃないわ!」

それには、リリアナも納得したように頷いた。

「確かに咲希は器用じゃないわね。でも、ま、いいんじゃない?一人だろうが二人だろうが、相手がいいって言うなら選べば。」

ラーキスは、本気で考え込むような顔をした。咲希は、慌ててリリアナを見た。

「ちょっとリリアナ、ややこしくなるようなことを言わないで!」と、ラーキスを見た。「ラーキスも、真面目に取らないで!私はあっちもこっちも結婚しようなんて絶対に思わないし!」

ラーキスは頷いたが、あまり納得していないようだ。アトラスも、咲希と目を合わせないようにしている…明らかに、火の粉が掛からないようにしているようだった。

咲希は、肩を落とした。せっかくどっちでもいい、の件が解決したかと思ったのに。次は冤罪でごたごたするのだろうか。

つくづく、種族の違う恋愛は大変なのだと、咲希は思ってその日は説得するのをあきらめたのだった。

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