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城の警戒っぷりは半端なかった。

明らかにレン達を救出に来た時と、空気が違う。シュレーはにわかに緊張して、城の高い壁を窺った。

「ここへ来てから見たこともない警戒っぷりですね。これでは地下牢になど忍び込めるかどうか…。」

シャデルは、そんなシュレーに顎を振って城の裏側を示した。

「こちらへ。」

三人は、兵士達に見咎められないように木々の間に身をひそめながら、シャデルに従って裏側へと回り込んだ。

「一部の者達しか入れないようにと、我が術を掛けて作った地下道ぞ。これを通れば、面倒な正面玄関から入らずとも、直接城の中の階段前ホールへと出ることが出来る。将軍の中でも、バークとギードという者達しか、これを使うことは出来なかった。もちろん、緊急時のみということにしてあったゆえ、最近ここを使ったのは、バークがエネルギーベルトの異変を報告して参った時ぐらいか。」と、芝の間に隠れた、小さな鉄の輪を掴んだ。「もっとも、今は我の術は一旦全て解除されておる状態なので、知ってさえいれば誰でも入り放題なのだがな。つくづくこの城の守りは、我の術に頼っておったことよ。」

持ち上げると、回りの芝も持ち上がって来た。そこには、細い人が一人やっと通れるような、真っ暗な階段が見えた。両脇は粗削りな岩で、ちゃんとした造りなのかと疑問もわいて来る。知っている者と一緒でなければ、決して入りたくないような風情だった。

そんな中に、シャデルは何のためらいもなくさっさと入って行く。

三人は顔を見合わせたが、マティアスが次に、そしてレン、最後にシュレーが入り、扉を閉めてゆっくりと足を進めた。

「足元に気を付けよ。」

シャデルの声がする。

「気を付けるも何も、何も見えないのですが。」

レンが答えている。

「オレにも全く見えません。すぐ前に居るはずのレンだって見えない。」

すると、マティアスが言った。

「おいシャデル、オレには見えるがもしかしたら人には全く見えないんじゃないのか。」

シャデルの声が、答えた。

「そうだったか?我には見えるのだが。では」と、ぼうっとした光が見えた。その光の中に、シャデルが見える。シャデル自身が光っているらしい。「これで。あまり明るくすると、気取られるやもしれぬし。万が一を考えての。」

やっと、おぼろげながらも道が見えるようになったので、シュレーもレンも、急いで先を行く二人を追った。


しばらく行くと、階段が通路になった。相変わらず岩で出来たゴツゴツとした裏道だ。そこを抜けて行くと、前方に細い縦線の光が見えた。シャデルは、自分の光を消して、声を潜めて言った。

「ホール前に出る扉ぞ。」

細く扉を開いて、そっと様子を見てみる。兵士は扉の脇に二人。恐らく、外に多くの兵士が配置されているのだろう。内にまで割いている、人員が今、首都には居なかった。

シュレーが、小声でレンに言った。

「オレは右を。」

レンが頷いた。

「じゃあ、オレは左。」

そして、扉を開いてすぐに飛び出すと、兵士達は慌てて剣の柄に手をやる。剣を引き抜く暇を与えないほど迅速に、二人は各々の敵へと襲い掛かり、腕を首に巻き付けて声を出す時間を与えることなく、意識を奪った。

「なかなかにやるの。」

マティアスが、シャデルと共に速足に歩いて通り過ぎながら言う。シュレーとレンは、急いでそれについて行きながら言った。

「ただの人だが、軍人でね。」

シャデルは、それにコメントを差し挟むこともなく、ホールを横切って今度は向こう側の扉へと手を掛けた。

「こっちは地下牢へと繋がる廊下ぞ。ここを突き当たると、正面に鉄の扉が出て参る。そこから地下へと降りる階段がある。地下牢にはサルーとラーキスしか入っておらなんだゆえ、今は誰も警備にはついて居らぬはず。」

シュレーは、自分の腕輪の時計をちらと確認した。もう、マティアスの部屋を出てから二時間も経ってしまっている。少し、急いだ方がいいようだ。

「陛下、日暮れから三時間です。そろそろ、お時間が迫って来たように思うのですが。」

シャデルは、シュレーに頷いて駆け出しながら、答えた。

「では急ごうぞ。それから、我は王ではないというのに。」

シュレーは、同じように走り出しながら苦笑した。

「申し訳ありません、どうしても癖が抜けなくて。」

「どっちでもいいわ。呼び方などにこだわる必要などあるのか。」

マティアスが、いつの間にかまた50代の姿に戻って走ってついて来ながら言う。シャデルは言った。

「大ありぞ。意識を変えるとは、そういうことであるからな。」

正面に、鉄の扉が見える。シャデルが言った通り、そこには誰も居なかった。その扉を開いて下へと降りて行くと、向かって右側にまた何かの扉があったが、シャデルはそれには見向きもせずに、まだ真っ直ぐに降りて、そして横へと歩いた。左側に、また同じような扉があった。

水の匂いがする…もしかして、ここか。

シュレーが思っていると、シャデルがそこを開けて、中へと入った。


そこには、横向きに長い水路があった。真っ暗で先は見えないが、それでも結構な高さがある水路だった。

「ケイゴ達が川へ向かったのだとしたら、こちらへ行ったはず。」と、右の方を指さす。「だが、海へ出るならこちらぞ。10メートルほどこのまま向こうへ進み、直角に折れて海へと向きを変える。そこから50メートルで幅が狭くなり、海までは800メートル。そこからミラ・ボンテまで、今の我に気を全開にして進んで30分の道のりだ。」

レンが、自分のカバンから縄を出して大きくした。そして、自分の腕と腰にしっかりと巻き付けた。

「さ、お前も、シュレー。マティアスはオレが。」

マティアスは、気が進まないようで、渋々腕を上げて縄を巻かれた。

「う!きつい!オレはそんな趣味はない、苦しくするな。」

レンは厳しい顔で言った。

「命にかかわるんだぞ。ちょっとは辛抱しろ。」

シュレーが、シャデルに自分の縄の端を渡している。

「では、シャデル様、よろしくお願いします。」

シャデルは、それを受け取って自分の腰へとしっかりと巻き付けて、術を掛けた。

「よし。他の二人の分もこちらへ。」

マティアスは、前に×印に巻かれた上に腕や腰まで巻かれた縄の端をシャデルに放って寄越した。

「なんだってこんな目に。」

シュレーが、たしなめた。

「関わってしまったんだから、我慢しろ。」

しっかりと巻き付けたのち、シャデルは水路へと降りて、水へと入って行った。皆もそれに倣い、冷たい水へと入る。

すると、シャデルが進んで行きながら言った。

「空気の玉は、水路が細くなっている所で作ろうぞ。ここではもったいない。まだ息が出来るゆえ。」

緩やかに流れる水流に逆らうようにして、水の中を進みだした。


出発してすぐに、見た目行き止まりの場所へと着いた。そこから直角に水路は向きを変え、シャデルが言った通りに50メートルほどで、いきなりに水路は細くなっていた。

「さあ、ここで体全体を覆う、なるべく大きな空気の玉を作るのだ。我はスピードを出すため、小さめの玉にしておくがの。」

シュレーが、驚いたようにシャデルを見た。

「え、シャデル様は息をせずとも一時間平気であったのでは?」

シャデルは、術を唱えて空気の玉を手にしながら、言った。

「以前の我ならの。今の我では、動いておったらせいぜい30分よ。」

レンとシュレーは、驚いて顔を見合わせた。

「シャデル様こそ、ぎりぎりではないですか!」

シャデルは、険しい顔をした。

「それでも、やる価値はある。さっきも言ったように、島へ近づきさえすれば水面へ上がっても大丈夫なはずだ。主らも覚悟せよ。さあ、玉をまとうのだ。」

シャデルは、自分も玉に顔を入れた。マティアスも、黙って自分で作った空気の玉の中へと入る。シュレーもレンも、そうやって覚悟を決めて、玉の中へと入った。

「よし、参る!」

少しくぐもったようなシャデルの声が聴こえ、途端に物凄いスピードでシュレー達三人は引っ張られて水中を進みだした。

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