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脱出2

圭悟達三人は、水路へと到着していた。

まだ牢の中まで、騒がしさは入って来ていなかったが、それでも玲樹のあの様子では、恐らく城の中では大騒ぎになっているはず。

しかし、玲樹は結界が揺らいでいるようなことを言っていた。何が起こっているのかも判断がつかなかったが、今はとにかくここを出ることが先だった。

暗い水路を見て、ラーキスが顔をしかめた。

「…困ったもの。アトラスはもう川へ行っておるのだろう。しかしこれは、向こうへ行くと水しかない状態になる。幅が狭まるのだ。どうやって息をする?いくらオレでも、そんなに長く続く空気の玉は作れぬが。」

圭悟は、息をついた。

「見えるのか?この暗さで。」

サルーが、水路へと降りて水へ浸かりながら頷いた。

『オレにも見えるな。暗視カメラで見ているようだ。そうか、こんな特性があったとは。』

自分に感心している。そして、自分の体からブクブクと泡が出て、水面を音を立てて去って行くのを見て、居心地悪げに身をくねらせた。

『これはその…尻から出ておるのではないぞ?どうも体から出ておるようで。皮膚呼吸が激しいのかもしれん。』

しかしラーキスは、大真面目な顔をしてそれをじっと観察した。

「これは…主、もしかして植物の魔物なのではないか?」

サルーが、驚いたように体をこわばらせた。

『え、植物?』

ラーキスは、腕輪をサルーの出す気泡へ近づけて、画面を見つめた。

「…やはり。普通植物はこれほど激しくはないが、二酸化炭素を吸収して酸素へ変える。主は、どっちも生産するのだ、生きておるだけで。」と、自分も水へと入った。「試してみようぞ。時がないのだ、一緒に潜ってくれ。」

サルーはためらいがちにラーキスと共に水中へと潜った。ブクブクと気泡が上がっていたが、やがてそれが収まり、シンと水面は静まり返る。圭悟は不安になって、背後を気にしながら、水面に向かって言った。

「ラーキス?サルー大使?もしもし?」

すると、ザバアッと音を立てて、二人が立ち上がった。圭悟はびっくりして、尻餅をついた。

「いける。ケイゴ、こっちへ。」

圭悟は何が行けるのか分からなかったが、自分も水へと入って行きながら言った。

「行けるって、何が?」

何やら、牢の中が騒がしい。

気取られたか。

ラーキスは、急いで圭悟を掴んだ。

「潜れば分かる。」

途端に、圭悟は水の中へと引き込まれた。

「○▽※□×△~!!」

圭悟が声にならない声を上げていると、しばらくして顔が水から出て、息が出来るのを感じた。

顔が水面に出たのだと思って目を開くと、ラーキスが伏せていて、間近でこっちを見ているのと目が合った。

「え?」

圭悟が、回りを見ると、自分はうつ伏せに倒れた状態で、サルーの体にぴったりと腹をつけていた。

サルーの体の回りには、大きな気泡が包んでいて、段々と大きくなるそれは、時に端がちぎれるようになって離れ、その空気の玉はどこかへと流れて行った。

当のサルーは、水路をすいすいと泳いで進んでいる最中で、真っ暗で見えない中、迷わずにスムーズな動きだった。

「サルーが変化したのは、こういう特性のあるものだったのだ。空気を生み出しておるから、幾らでも回りに補充できる。大きくなりすぎると泳ぎづらいので、ああして足の部分まで来ると切り離して調節している。陸に居ると分からぬが、水中では良い機能よな。」

圭悟は、全く息が苦しくないのに驚いていた。今も、きっとサルーからは空気が生み出されているのだろう。常に新しい空気と入れ替わっているのだから、苦しくなりようもなかった。

「凄いですよ、サルー大使!こんな特性、見たことない!」

サルーは、苦笑出来たらしただろうが、皮肉な口調で言った。

『役に立ててうれしいと言えばいいのだろうが、こんな姿ではの。まあ脱出の役に立ったのだから、どうせならこれで良かったのかもしれんな。』

圭悟は、ハッハと笑った。

「絶対にこれは良い特性ですよ!人型になったらなくなるのかなあ。」

ラーキスが、息をついた。

「恐らくは。我らが人型で飛べぬのと同じだろうの。しかし、これはもったいない。これまでこんな特性を持つ魔物など見たことはないのに。」

サルーの声が、呆れたように言った。

『魔物のままで居ろと?すまないが、戻れるのなら戻りたい。』

圭悟は、言った。

「戻るというか…ラーキス達のように、魔物でありながら人型になる方法を見つけたのですよ。」圭悟は、恐る恐る言った。サルーが、どんな反応を見せるか分からなかったからだ。「シャデル陛下にも、元へ戻る方法がないと言われた。それで、シュレーは危険を承知でディンメルクへ、ラウタート達が使う術を調べに渡ったのです。ラウタートは、術を教えることは出来ないが、掛けることは出来ると言って、連れて行くことを承知してくれました。もしもあなたが狂っていても、ラーキスに足で掴んでもらって無理やり行くつもりでした。」

しばらく、サルーは黙った。ラーキスも、黙っている。圭悟はハラハラしながら、答えを待った。

すると、しばらくしてから、サルーが言った。

『…そんな無茶なことをして。オレ一人のことなど、放って置いたら良かったのに。オレならそうした。人質にされたら、国が不利益を被るからだ。』

圭悟は、必死に弁明した。

「確かにそうですが、シュレーはこれは私情だからと言っていました。それに、軍人は人質にはならないと。リーディス陛下が、軍人一人と国民なら国民を取るからだと言っておりました。」

また、サルーは黙った。先の方に、圭悟でも出口らしき場所が見えて来た。もうそこへ到達するか、と言ったところで、やっとサルーは言った。

『あやつは、馬鹿な奴よな。』

そうして、水路から川へと滑り出た。

「では、水上の様子を見て参るから、このままここで。サルー大使、水泡は今は、切り離さずに。誰か居たら気取られる。」

サルーは、頷いた。上の方が何度か折れ曲がったので、頷いたのだと判断した。

ラーキスが、気泡から出てそっと上へと泳いで行くのが、下から見える。そうして、しばらく上で漂っていたが、また潜ってこちらへ向かって来た。そして、手で来い来いと合図した。

『上がるぞ。』

サルーが言って、圭悟を乗せたまま上昇して行く。

二人がそっと水面へと顔を出すと、そこには何も無く、船すら浮いては居なかった。

「こっちへ。」対岸で、アトラスが手招きしていた。「城が騒がしい。直に捜索は城外になるだろう。さっさと飛び立とう。」

ラーキスが先に上がり、圭悟がその後に続く。サルーは長い腕を上げて何とかしようとするのだが、何しろ、指がない。何も掴めなくて、ただもがいているだけだった。結局、アトラスとラーキス、圭悟が必死に引っ張って引っ張り上げた。

『どうやら水の中が得意なだけで、後は不自由らしい。』

サルーが普通に話すのに、アトラスは片眉を上げたが、何も言わなかった。ラーキスが、グーラへと変化しながら言った。

『ここからは我らグーラの仕事。だが背に乗るのでは落ちるかもしれぬから、オレが足で掴んで参ろうか。』

サルーは、くねくねと体をよじらせながらラーキスに近づいて、答えた。

『そうしてくれ。指もないのに冒険は出来ぬ。』

圭悟が、アトラスによじ登る。ラーキスは大きく羽ばたくと、軽く浮き上がって横からサルーを足で掴んだ。

『おお!何やら捕食されるような気分だ!』

サルーはそのまま山へ向かって飛びながら、そんなことを言った。

『我らは植物は食わぬ…ま、他に何も無かったら分からぬが。』

そうして、アトラスとラーキスは、月明かりの中リツへ向けて一直線に飛んだのだった。

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