旧知の友
ユリアンも中へ残っていたので、シュレー達はどこへ行ったらいいのかも分からず、ひとまず克樹達が入っている部屋へと戻ることにした。
あてがわれたその部屋へと帰って来て、扉を開けると、じっと窓際の椅子へと腰かけて何かを考えているようだった玲樹が顔を上げた。
「…ああ。終わったのか?」
そして、背後から入って来るシュレーとショーン、圭悟を見て、椅子から飛び上がった。
「…圭悟!圭悟じゃねぇか!!」
前に居た克樹など見向きもせずに、玲樹は飛んで来ると圭悟の腕を掴んだ。そして、見る見る涙ぐむと、言った。
「やっぱり…生きていたのか。オレは、お前が絶対にこっちへ生きて流れ着いてると思って、陛下に懇願して今度の任務にあててもらったんだ。だが、命の気が強くて、行き倒れちまってよ…ほんとに、良かった。オレ、せっかくあっちへ戻って生きてたお前にこっちへ帰って来いって言っちまって、だからお前が異世界へ来たって、だからこんなことになったって、そりゃあ気になって…。」
圭悟は、同じように涙ぐんで言った。
「そんな風に考えてたのか。オレはオレの意思でこっちへ来たんだよ。何があっても、お前のせいなんかじゃない。それに結構楽しんでたんだぞ?それにしても、よく無事だったな、玲樹。」
玲樹は、まだ涙ぐみながら、肩をすくめて見せた。
「ま、それなりに。ラウタート達に見つけてもらって助けてられた。あいつらは、悪い奴らじゃねぇ。オレらを見殺しにだって出来たのに、そうしなかったんだからな。」
圭悟は、何度も頷いた。
「ああ。でも、無事に会えてよかった。オレ達も、今来たばっかりで。シュレー達が使者として来たから、ディンメルクへ行くと聞いて、一緒に連れて来てもらったんだよ。」
シュレーも、目頭を拭っている。ショーンが、最後尾で扉を閉めて言った。
「涙の再会はいいが、これからのことを決めなきゃならねぇぞ。誰がディンダシェリア大陸へ帰るか、決めろと言われてる。」
メレグロスが、頷いた。
「そうだったな。石の設置へ向かう組と、リーディス陛下へ報告に帰る組とに分けたら良いか。」
シュレーが、側の長椅子に座りながら言った。
「いや、オレ達はシャデル陛下の所へ一度戻らねばならない。あそこに、まだレンとスタン、マーラが居る。」
「サルーもな。」
ショーンが言う。シュレーは頷いた。
「サルーもだ。サルーは、命の気にやられて変化してしまっている。レンとスタンとマーラは、もうディンメルクに襲われることもないだろうから、帰った方がいいだろう。サルーは、オレがこっちへ連れて来るつもりでいる。」
克樹が言った。
「じゃあ、デンシアへ帰る組と、リーディス陛下へ報告に帰る組と、石の設置の組ってことでいい?」
シュレーは、答えた。
「そうだな。」
メレグロスが言った。
「ならば、デンシアへ行ったらラーキスがどうしておるか見て来てはくれぬか。もしも捕らえられておるなら、逃がしてやって欲しい。シャデル王がどこまで信用出来るのか、我らには分からぬからの。」
シュレーは、顔をしかめた。
「シャデル陛下はそんな理不尽な王ではないんだ。こっちでは鬼のように言われているが、実際に会えば分かる。嘘さえ言わなければ、いろいろと気遣ってくれる王だ。」
メレグロスは、側の克樹と視線を合わせた。
「それならば良いが…。」
圭悟が、苦笑した。
「アーティアス王と一緒に旅して来たなら、シャデル陛下を信用できないのも分かるよ。それにしてもよくあれと旅が出来たな。結構な癇癪持ちじゃないか。」
しかし、克樹は首を傾げた。
「そうかな…確かに気は短かったけど、それほどでもなかったよ?まあ、何でも先々決めてさっさと行っちゃうこととかあったけどね。それでも結構言うこと聞いてくれたし。」
メレグロスが、それには頷いた。
「我慢しておったのやもな。王だとバレてはいけないので。何でもずけずけ言う使者であるなとは、思っておったがの。」
「もうバレたからうるさいかもよ?」ダニエラが、リリアナと一緒に咲希の眠っているベッドの座って言った。「何しろ言うこと聞いて当たり前、の王なんだもの。」
ショーンが、息をついた。
「で?どうするんだよ。まず、石を設置に行くのはサキと、それから?」
「オレも行く!」克樹が手を上げた。「オレ、あっちの世界のことが分かるし、咲希の話し相手になるから!」
玲樹が、顔をしかめた。
「お前な、そんな決め方ねぇだろう。普通戦力だからってついて行くんだよ。お前はもうディンダシェリアへ帰りな。なんも役に立たねぇくせに。」
「心配ないわ、こっちはラウタートさえ居れば問題ない土地だもの。」リリアナがベッドの上から口をはさんだ。「私もサキと行くわ。」
ショーンが、それには首を振った。
「お前はオレとデンシアへ行くんだ。オレはシャデル陛下に会って、話を聞いて確認しなきゃならねぇからな。それから、やりたいことがある。」
リリアナは、ショーンを睨んで首を振った。
「何を言ってるのよ。じゃああなた、デンシアへ行けばいいじゃないの。私はサキと一緒にここまで来たのよ。これからも最後まで一緒に行くわ。」
ショーンは、眉を寄せた。これまで、口答えなどしたことが無かったのに。
「うるさいな。オレが決めたことだ。」
「そっちこそ、何様のつもり?私は私の責任があるの。何でも勝手に決めないで。」
ショーンは、リリアナに食ってかかった。
「お前は誰のお陰で生きてると思ってるんでぇ!ついて来るって言えばいいんだよ!」
「私はシャルディークの石のお陰で生きてるのよ。あなたはそのきっかけを作っただけよ。いつまでも付きまとわないでくれる?まるでストーカーね。」
ショーンは、真っ赤になった。
「お前…!」
「待て!」メレグロスが、大きな体で前へと出てショーンを防いだ。「いい加減にせぬか、ショーン。主には主の使命があろう。リリアナにはリリアナの、リーディス陛下から下された命があるのだ。勝手に変えるわけには行かぬ。此度のリリアナのことは、主が決めれる立場ではない。」
「リーディス陛下の…?!」
ショーンが言うと、メレグロスは頷いた。
「そうだ。」と、回りを見た。「では、サラデーナから来たシュレーと圭悟、ショーンはデンシアへ戻るのだろう。他に、デンシアへ行きたいものは居らぬか?」
アトラスが、手を上げた。
「オレが。ラーキスが、気に掛かる。捕らえられておるのなら、グーラは二体居った方が狩りには強いのだ。」
メレグロスは、頷いた。
「他には?」
玲樹が、手を上げた。
「オレも行く。その二人はオレの戦友だからな。一緒に行く。」
メレグロスは、ダニエラを見た。
「そうなると…」ダニエラは、メレグロスに頷きかける。メレグロスも、それに応えて頷いた。「オレとダニエラが、陛下にご報告にディンダシェリア大陸へ戻ろう。ここには優秀な術者は大勢居るし、オレは巨体で飛ぶ生き物には負担になる。ここで戻った方が、この先の旅のためになろう。」と、克樹を振り返った。「それから、アーティアス達が居るゆえそう大変なことも起こらぬだろうし、リリアナと、カツキも石の設置へ向かうが良いわ。それで良いの。」
皆が頷いたが、ショーンだけは頷かなかった。メレグロスは、顔をしかめた。
「何ぞ?リリアナのことなら、リーディス陛下にご意見申し上げて、命令を撤回してもらってからにしてはどうか。」
ショーンは、首を振った。
「オレのことだ。」と、顔を上げた。「オレも、石の設置へ向かう。」
皆が、驚いた顔をした。
「おい、シャデル陛下と話すんじゃなかったのか。」
蘇りの術を教えてもらうために。
いや、しかし本で知ったのか。それをシャデルと話して確かめてから、リリアナに術を掛けてリリアを復活させたいと思っているのではなかったのか。
しかし、ショーンは首を振った。
「後でもいい。終わったらどうせ、またデンシアに行くさ。その時でいい。」
リリアナは、横を向いた。恐らくストーカーだと思っているのだろう。
そして咲希を見て、咲希が何やらうなされているのを見て取って、表情を変えた。
「サキが何かうなされてるわ。起こした方がいいのかしら。」
ダニエラが、それを聞いて咲希の方へと目をやった。
「まあ本当…サキ?サキ、大丈夫?」
咲希は、しばらく苦し気にしていたが、ハッと何かに気付いたように目を開いた。




