8:ファンタジーな乗り物が欲しい2
捜さなければならない子猫は、残り3匹。一体、何処に居るのだろうか?
貴族の屋敷がある街の東側に足を踏み入れた私は、嫌な視線を感じた気がして振り返った。……気の所為か? それとも、シラユキヒメ達だろうか?
「お嬢様。捕まえて参りました」
「良くやったわ。……本当に金色なのね、この猫」
金色の猫と聞こえたので振り向くと、12・3歳ぐらいの少女とメイド服の女性がある屋敷の門に向って歩いていた。
「恐れ入りますが、そちらのお嬢様がお持ちの子猫が、私が依頼で捜している子猫である可能性が……。確認させて頂けませんか?」
私はメイドの方にそう話しかけた。貴族令嬢に話しかけただけで罪になるかもしれないから、念の為にだ。
「もしそうだったとしても、あげないわよ! これは、もう私のなんだからね!」
「お嬢様……」
メイドが困った様子でそう呟く。
「……依頼人はどのような方なのですか?」
メイドは私に尋ねる。
お嬢様の父親より偉い貴族や王族の依頼なら、お嬢様の我儘は通用しないからだろう。
「私には名前しか分からないのですが、『トリコ』と言う方ですね」
「……そうですか」
知っている人間では無いらしい。
「どうしても、欲しいなら、貴方が代わりに私のペットになりなさい!」
お嬢様がとんでもない事を言い出した。
結婚前の令嬢が男をペットにするなんて、淫乱だと言う噂が立っても良いのだろうか?
「お嬢様?! いけません! そのような事をしては、まともな方と結婚出来なくなります!」
「五月蠅いわね! 結婚ならこの人とすれば良いじゃない」
「旦那様が何と仰るか……!」
そこへ、馬車が近付いて来た。
「噂をすれば……旦那様の馬車です」
メイドが私に教えてくれる。
馬車が停まり、男が降りて来た。
「こんな所で何をしている? その男は何だ?」
「見て、お父様! 珍しい金色の猫よ! 尻尾も2つあるの!」
「何だと!? まさか、危害を加えて居らんだろうな!?」
青褪めた父親が、娘を怒鳴る。
え? まさか、王族のペットとか?
「お父様……?」
お嬢様は、喜んで貰いたかったのか、不満げな表情を浮かべた。
「それは、ただの猫では無い! モンスターだ! 成猫を怒らせたら、王都とてただでは済まんのだぞ!」
え?! そんなに強いの?!
「でも……」
「どうしても飼いたいと言うなら、冒険者となる事を許そう。Lv20まで修練すれば、モンスターをペットに出来る」
「どうして、私が冒険者なんかに……!」
「では、諦めるのだな?」
しかし、お嬢様は諦めなかった。
「貴方、冒険者なのよね! 貴方が私の代わりにこの子をペットにして、私に仕えれば良いのよ!」
「それは出来ません。この子猫は、他に飼い主がいます」
「見付からなかった事にすれば良いじゃない!」
お嬢様の父親が怒りに顔を歪めているが、彼女は気付かない。
「あの、旦那様……依頼人は、『トリコ』と言うお方だそうですが、ご存知でしょうか?」
「『トリコ』……?!」
一転、蒼白になった旦那様は娘から子猫を奪い、私の持つ箱へ入れた。
「王都は終わりかもしれん……」
旦那様は呆然と呟く。
「お父様!?」
子猫を取り上げられたお嬢様は父親を責める様な声を上げたが、襟首を掴まれて屋敷へと連れ去られた。
えっと……私が代わりに謝らなければいけないのかな?
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夕日が沈みかけている。
一般人の居住区を捜していた私は、地面に伸びる屋根の影に猫の影を見付けて上に目をやった。
三毛の子猫が屋根の端で、隣の家の屋根を飛び移りたそうに見ている。私の予想では届かないと思うほど距離があるのだが……。
行けると判断したらしい子猫が飛んだが、やはり無謀だった。落下する。
体勢を変えて着地するかと思ったが、背中を下にした所で回転は止まった。
「セ、セーフ……!」
私は、何とか子猫を受け止める事が出来た。
これがリアルだったら、間に合わないどころか、それ以前に固まって動けなかっただろう。
『おちた……』
「そうだね。無理はしない方が良いよ」
『うん』
子猫達は、箱の中で仲良くしている。
「後、1匹か」
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しかし、その1匹が見付からない。
夕飯の時間になったので、おにぎりを食べながら捜している。
「誰かの家の中にいたら、どうしようもないな…」
この依頼には捜索期限があった。今日の23時。
それまでに見付からなかったら、依頼人はどうするのだろう?
人通りの無い裏路地に足を踏み入れる。
突然、前方に3人・後方に3人の不審人物が現れた。
「その箱の中身、渡して貰おうか?」
全員、武器を手にしている。
「……中身が何か、知っているんですか?」
「勿論。こいつと同じモンスターだろ?」
そいつは、赤い子猫を掴んだ手を掲げて言った。
「珍しいモンスターは、高く売れるからな」
「命が惜しけりゃ、大人しく言う通りにしな!」
対人戦はしたくないし、勝つ自信も無い。
仕方ない。大人しく言う通りに……したら、王都が終わる!
距離は2・3mだろう……私は子猫を掴んだ男に駆け寄った。
自分で思ったよりも速かった所為か、男達は動かない。
手首に剣の柄頭を振るい、痛みに落とした子猫をキャッチする。
漸く動いた男達が一斉に武器を振り上げ斬りかかって来たが、私の装備品の防御力の前では、大したダメージにはならなかった。……凄いな。流石、品質が『最高』なだけはある。
鑑定していないから判らないが、恐らく【防御】以外もかなり強化されるのだろう。【すばやさ】とか。
因みに、ゲームなので、装備品に守られていない部分も防御力は高くなっている。
尚、所持金が多いのに鑑定していない理由だが、鑑定用アイテムは【イッチ】と【ニー】では売っていなかった事と、【サン】に来てからは、自分が死んでると聞いたり・スキルレベル上げに夢中になったりで忘れていたのだ。
さて、私の防御力は高くても、子猫が入った箱の方はそうもいかない。さっさと、どうにかしなければ。
装備で強化された【筋力】と【すばやさ】で囲みを抜け、【冒険者鞄】から【調合】で作った催涙弾を使う。
私は奴等をそのままにして立ち去り、見回りの衛兵に伝えた。
暫くして、奴等は連行されて行った。
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6匹全て保護したので、依頼人の元へ向かうか。
依頼人は何故か王都の外で渡して欲しいらしい。先程の男達の様な悪人で無いと良いのだが……。
「こんな時間に外へ?」
「済みません。依頼で」
王都の出入り口である門は、夕方になると閉ざされるらしい。
門番から危険だからと止められたが、『至急』の依頼なので通して貰えた。
『ままー!』
街から少し離れた所で、子猫達がそう声を上げた。
私の視線の先……王都の東に山があるのだが、巨大な猫がそれを跨いで現れた。
……うん。これは、確かに、怒らせたら王都が終わるかもしれない。
「子供達を無事に連れて来て貰い、感謝する」
巨大な猫は、驚いた事に人の言葉でそう言った。
「……貴方が『トリコ』さんですか?」
「そうだ」
『おさー!』
飼い主どころか人でも無かったなんて……。
『ままは?』
『島に居る。連れて帰るから少し待ちなさい』
『うん』
「さて、報酬の件だが、何色が好きか?」
「え? ……緑ですかね?」
「そうか」
すると、何時の間にやって来たのか、トリコの陰から緑色の馬サイズの猫が現れた。
「では、こやつを仕えさせよう」
「あの……この猫が報酬の『乗り物』ですか?」
「そうだ」
確かに、ファンタジーな乗り物だし・猫は好きだけど……乗り心地はどうなんだろう?
「重く無いですか?」
「ここまで成長したジャイアント・キャット族に、人の重さなど大したものでは無い」
「そうですか。では、ありがたく」
<フジさんが、ジャイアント・キャット族の王都【サン】襲撃フラグ立てを阻止しました。それに伴い、期間限定『猫の日は猫島へ行こう』イベントフラグが立ちました。詳細は、明日公式HPをご覧下さい>
私は見れないんですけど……。