26:リゾートアイランド
「ところで、報酬は何だったんだ?」
集会所に入ると、サイズがそう尋ねて来た。
「30万ルマと『リゾートアイランド利用券(永久)』3枚です」
「リゾートアイランドか。一旦、港街【シー】まで行かなければならないな」
尚、『リゾートアイランド利用券(永久)』は40万ルマだそうだ。
港町【シー】に行くには、Lv50以上推奨エリアを抜けなければならない。まあ、『空飛ぶ絨毯』に乗れば大丈夫だろう。
と言う訳で、翌日火曜日の夜、私達は『空飛ぶ絨毯』に乗って港街【シー】を目指した。
私は追って来るオーク共が怖いので振り向かない。
「捕まえてごらんなさーい」
サイズが棒読みで呟いた。……浜辺で追いかけっこだからですね。
「しかし、トレインは良くないと思うが……」
「では、爆弾を」
私はアイテムボックスから爆弾を取り出して、着火してオーク共に投げた。……爆発音が轟く。私はグロ耐性が無いので振り向かない。まあ、【初心者向け】の『ゲート』だから、大してグロくは無いかもしれないけれど。
港町【シー】に入ると、海の匂いがした。
「ねぇ! リゾートアイランド、行こうよぉ!」
「えー? あそこ、モンスターいないのに、何しに行くんだよー」
「……この、バトル馬鹿!」
そんな会話をしているカップル風の2人を横目に、波止場へ向かう。
「此処でしか売って無い食材、ありますかね?」
「あるんじゃないか?」
「鯨肉があるぞ」
クルマが教えてくれた。
「あー……この間、釣りました」
「釣れるのか……鯨が……」
「鯨と言えば……リアルではもう何年も食べて無いな」
サイズが鯨肉を見ながら呟く。
「私もです。どんな味だか忘れてしまいました」
「私も、給食で食べたのは覚えているが…」
「後で【調理】しますね」
リゾートアイランドへは船で15分で着くらしい。
因みに、北の大陸へは30分だそうだ。
「フジ、大丈夫か?」
「なんで……ふなよい……?」
私はソファにぐったりと横たわっている。
「そんな状態異常は無い筈だが……?」
そう! 無い筈なのに!
「リアルで船酔いするからじゃないか?」
「します……」
実際に揺れていると思っちゃった訳か……。
「もう直ぐ到着だぞ」
「やっとか……きたのたいりくにはいかない……」
「特殊転送石を貰ったんだろう? 1度だけの辛抱だぞ」
もう1回でも嫌です。
リゾートアイランドに着いたが、船酔いが治らない私はベンチに横たわっていた。
「ふたりは……さきにおよいでいていいですよ……」
「別に、そこまで泳ぎたい訳じゃないし」
「利用券があるから来ただけだからな」
うちのギルドは、全員テンション低いなー。
結局、良くなった頃には2人のログアウト時刻になってしまったのだった。
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翌朝。ギルドエリアからリゾートアイランドに移動した私は、スキル【行商】で露店を開き、水着・浮き輪・ビーチサンダル等を並べて放置した。
リゾートアイランドにはモンスターはいないが、採取ポイントはあった。
島の地図の看板が在ったので見ると、海水浴以外にもダイビングや釣り(勿論、スキルを使わずに釣る場所)やサーフィン等のマリンスポーツ・ゴルフ・温泉・スキー等も楽しめるようだった。
尚、ここを転移ポイントに設定出来るのは、特殊転送石と『リゾートアイランド利用券(永久)』の両方を持っている者のみらしい。
「遊園地とかも在るんだ……」
取り敢えず、この辺りは暑いのでアイスキャンディーを買って食べる事にした。
「ヴェルも食べる?」
『うん!』
暑いので、ギルドエリアに戻って食べた。
夜になったので露店に向かうと、水色の髪の女性キャラが私を待っていた。
「あのぉ。この露店の人ですよねえ?」
「はい」
「私ぃ、今度同じギルドの人と『結婚』するんですぅ」
甘ったるい喋り方だなぁ。
「それでぇ、ウエディングドレスが欲しいんですけどぉ」
「あ、はい。どのような物を」
「このデザインでぇ、よろしくぅ」
彼女は数枚の紙を押し付けて来た。
「今度の日曜なんでぇ、宜しくねぇ!」
彼女は楽しそうに走り去りながらそう言った。
「……日曜の何時取りに来るんだろう?」
「そう言えば、『結婚』システムなんてものもあったな」
私は、暫くしてログインしたクルマに先程の事を話した。
「強くなるんですか?」
「いや。特別なイベントやアイテムはあるらしいが」
「強力な武器・防具が手に入るんですか?」
「そうでもないらしいが」
「じゃあ、『結婚』する人は少なそうですね」
あの人は、何故『結婚』するんだろう?
「そうだろうな。ただ、『ゲート』はVRMMOで唯一、同性キャラとも『結婚』出来るゲームなんだ」
「へー」
強くなる訳でも強力なアイテムが手に入る訳でもないのに?
「それはそうと、それ作れるのか?」
女性に押し付けられた紙を見て、クルマが尋ねる。
「まあ、多少違うくなるかもしれませんが、【アレンジ】を使えばなんとか……」
「材料は大丈夫か?」
「はい。問題ありません。それより、今日は何をしますか? 海水浴以外も出来るみたいですよ」
「では、温泉に行こう」
「温泉……」
つまり、裸になる……。
「恥ずかしいので嫌です!」
「見えないんだぞ?」
湯気で隠れるらしい。
「でも、恥ずかしいです!」
「そうか? では、水着着用の浴場は?」
「あ! ありましたね。そう言えば」
サイズのログインを待ち、スパへ行く。
「好きな水着を選んでください」
二人共、競泳用水着を選んだ。……何処行く気?
「何やら、視線を感じる様な……? 何か変ですか?」
プールサイドを歩きながら、私はクルマに尋ねた。
「イケメンだからじゃないか?」
「浮き輪が巨大なドーナツにしか見えないからじゃないか?」
サイズが呆れたように言う。
「あー、これ……面白武器、好きなんですよね」
「武器だったのか……」
「武器は要らないだろう」
この島にモンスターがいたとしても、街中にいる筈が無いからね。
「だから、浮き輪として使おうと思ったんですが……目立つようなので止めます」
私は、浮き輪型鈍器を【冒険者鞄】に仕舞った。
しかし、それでも視線を感じる。
「まだ見られている様な……?」
「だから、イケメンだからだろう」
「フジの事だから、変な奴に見られていたりして」
「サイズ、縁起でもない事を言わないでください」
彼等は知らない。その想像が当たっている事を。
「フジくんの裸体~……ハアハア」
「スパで盛るのは止めろ!」
とか。
「フジって受けよね!」
「えー?! 攻めでしょう?」
「二人共! こんな所で止めて!」
とか。
「久しぶりに泳いで疲れました……」
着替えた私は伸びをする。
「そうか? 疲れるほど泳いでいないと思うが?」
「遊んだだけだしな」
「……多分、運動嫌いだからですね」
クルマとサイズは、運動好きそうだ。
「運動嫌いが、よくVRに手を出したな」
「のんびりソロプレイで、ある程度Lvを上げたら、生産だけしようかと思って」
私は、サイズの疑問にそう答える。
「……それは、申し訳無い……」
クルマが申し訳なさそうに言った。
「気にしないでください。2人とPTを組むと私が手を出す隙が無くて、結果的に運動せずに済んで助かってます。戦わない事で、文句を言われる事も無いですし」
止めは刺すけど。レアドロップの為に。
「まあ、邪魔になられるよりは何もしないでくれる方が有難いし。フジの【運の良さ】のお陰で、レアドロップが大量だしな」
「お互いメリットがあるか……」
「そう言う事ですね」