23:Cランク昇格試験
土曜日の夜10時。
Cランク昇格試験用ダンジョン前に移動すると、試験官の説明が始まった。
「ダンジョンには5つのスタンプがあります。それを見付け出し、スタンプカードに押してください。4つ以上で合格です。回復アイテムは、中級限定・各30個までしか使用を認めません。また、ステータス上昇系アイテム・ペット等のサポートキャラ・乗り物の使用は禁止です。制限時間は3時間。それと、入口と出口は別です。何か質問はありますか?」
誰も質問は無いようだった。
「それでは、試験を開始します」
ダンジョン内に入ると、青い空と白い砂浜が広がっていた。
暫く呆然としていたが魔物に襲われなかったのは、幸運だった。
辺りを見渡すと、ヤシの木付きの貝を背負ったヤドカリ型モンスターに囲まれた宝箱が見えた。……あの中にスタンプが入っているのだろうか?
開けてみなければ判らないので、ヤドカリに向かって毒矢を撃つ。1体にクリティカルヒットすると、他のヤドカリは皆、貝の中に引っ込んだ。……それで良いのか、モンスター?
ヤドカリを倒して宝箱を調べる。鍵はかかっていないが、毒針が仕掛けられていた。
【細工】で毒針の仕掛けを外して蓋を開けると、スタンプが入っていた。……随分、楽な試験だなぁ。いや、まさか。1つ目だからだろう。
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「そちらはどうですか?」
水晶玉で試験の様子を見ている試験官が、仲間に尋ねる。
「【歩行の助け】を覚えていない為に、苦戦していますね」
「へぇ。覚えていないなんて珍しいですね」
攻略サイトには、砂浜エリアや砂漠エリアの情報が有り・Cランク昇格試験の注意点も掲載されている。それなのに【歩行の助け】を覚えていないと言う事は、攻略サイトを見ない人なのだろう。
「フジは、1つ目の宝箱でスタンプが出現しましたよ。流石【運の良さ】92ですね」
スタンプがどの宝箱に入っているかは、ランダムである。何れクルマがこの試験を受けたら、恐らく1番最後に開けた宝箱に入っている事だろう。
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「宝箱が無い……」
辺りを見渡して、私はそう呟いた。何処かに埋まっているのだろうか?
そこへ、カニ型モンスターが数体此方へ向かって来た。距離が有るので慌てずに毒矢を射る。
HPが0になったモンスターが消滅すると、『スタンプを手に入れた』と目の前の空中に表示された。
【冒険者鞄】からスタンプを出して押す。……もしかしなくても、【運の良さ】92のお陰であっさりとドロップしたんだろうな。
残り3つ、どうやって入手するのやら?
奥に進むと、建物の基礎部分が一部だけ残った遺跡のような物が在り、掘れと言わんばかりにスコップだかシャベルだかが有った。
ここかな!? ……私は、シャベル(で良いか)を手に取り適当に突き刺し足で押し込んだ。
何か固い物に当たった手応えに期待して掘り出すと、スタンプ入りの宝箱。……スタンプ以外が入った宝箱は無いのかな?
「あ」
そう考えながらシャベルを手から離した時、シャベルの持ち手が取れた。
「何で取れて……」
持ち手を拾い上げると、スタンプが転がり落ちた。……思わず、ヴェルを仕舞い忘れていないか確認する。
「……これで、後はダンジョンから出れば合格か」
ポータルで移動した先には、身長3m以上ありそうな全身鎧の大男――女である可能性も無いとは言えないが――がいた。どう考えても、ダンジョンボスだろう。
出口は見当たらない。ボスを倒さないと出られないのだろう。戻る為のポータルも閉じている。
振り向いて私に気付いたボスが走り寄って来る。
私は弓を引き絞ったが、このボスのプレートアーマーは口も鼻も覆われ、目の部分すら細い隙間しか開いて無い。効くとは思えなかったが矢を放つと、自動的に右腕の鎧に覆われていない部分を貫いた。
「グッ!」
距離を取りつつHPバーを確認する。どうやら、毒耐性があるらしく、徐々に減ったりはしていない。それでも、2割近く減っている。品質『最高』装備でのクリティカルヒットは良く効くな。
しかし、はっきり言って私自身の運動能力は低い。果たして、毒無しで勝てるのだろうか?
距離を詰められたので、装備を剣に変更する。【冒険者鞄】には、雷属性・毒属性・火属性・属性無しの4本の剣を入れていた。どの属性にしようか考えている暇も無い中でとっさに選んだのは、雷属性だった。
斬られながらこちらも斬る。リアルでは無いからこそ出来る事だ。VRなので痛みは弱く、品質『最高』装備の防御力で更に弱くなっている。その為、平手でバンバンと軽く叩かれている程度の痛みしかない。……クルマとサイズなら、この距離でも華麗に避け・1撃も受けずに勝ちそうな気がする。
「ウッ!」
斬るだけじゃ無く、殴って来た!
「でも……避けないのがお前の敗因だ!」
6連続目のクリティカルヒットで、ボスは光となって消滅した。
ボスが消えた場所に宝箱が現れ、ポータルが開いた。
宝箱に近付くと【危険察知】が罠が在る事を知らせる。
【細工】で大爆発の罠を解除すると、中にはスタンプだけが入っていた。
「ボスを倒して安心した所で、大爆発か……。酷いけど……Cランクならそれぐらい回避か・耐えるか出来ないと駄目って事かな?」
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「おめでとうございます! 試験突破最短記録です! 何も上げませんが!」
ダンジョンから出ると、試験官からこんな出迎えを受けた。
「でも、スタンプを5つ集めましたので、この特殊転送石を差し上げます。これで、大陸間の行き気が出来るようになります」
普通の転送石だけでは、大陸間の移動は出来ないらしい。
「使い方はお分かりですね?」
私は頷いて転送石を取り出すと、赤い特殊転送石を触れさせた。すると、黄色の特殊転送石と同じように、転送石の周りを衛星のように回り始めた。
「お疲れ様でした。合格者の皆さんには、北の大陸への渡航許可証をお渡しします」
試験を受けた20人の内、合格者は半数だった。
不合格者の多くは、時間切れか・宝箱を掘らなければならない事に気付かずボスの所へ移動してしまい、戻れずにスタンプを集められなかったかだそうだ。ボスを倒せなかった人は1人もいなかったけれど、宝箱前の罠で死亡した人は3人もいるらしい。
「それにしても、攻略サイトに載っていた罠は毒針と石化だけだったのに、まさか大爆発だなんてね」
「爆発じゃ無くて大爆発って所が意地悪だよね。本当、回復しておいて良かった~。毒耐性と石化耐性は付けられるけど、爆発耐性なんて無いし」
「まあ、私達は合格したから良いけどね」
罠に耐えられなかった3人は、耐性があるからと油断して回復しなかったのか・アイテムを使いきったのか・攻略サイトを見ていなかったのか……?
ギルドエリアに戻ると、クルマとサイズは既にログアウトしていた。
私は集会所の伝言板に『フジ LV41』と書いて、眠った。