1:gate to parallel universe(異世界への入り口)
<ようこそ、『gate to parallel universe(異世界への入り口)』へ!>
聞き覚えのあるその声に目を覚ますと、地面に寝転んでいる事に気付いた。
『gate to parallel universe(異世界への入り口)』(通称:ゲート)とは、数あるヴァーチャルリアリティMMORPGの中で【初心者向け】と名高いゲームである。
私の名は、作良藤。最近このゲームを始め、昨夜漸くLv20となったばかりだ。
LV20で解放されるスキルを覚えるのは明日にしようと、宿屋のベッドでログアウトした筈なのだが?
因みに、このゲームではログアウト中は寝ている設定なので、ログインするまでアバターはその場で横になっている。フィールドでログアウトすれば、場所によっては魔物に殺されるし、街中でログアウトすれば、NPCの泥棒にアイテムやルマ(ゲーム内のお金)をほぼ確実に盗まれるらしい。運が悪ければ、殺されるとか。
<自分に何が起きたか判りますか?>
身を起こし、声の主を捜して辺りを見渡す。
<ああ、自己紹介がまだでしたね。私は、この世界の神です>
神? 何かのイベントだろうか?
<念の為に言っておきますが、イベントではありません>
まるで、心を読まれた様なタイミングだ。
<貴女は、お気の毒ですが亡くなりました。アバターでは無く、現実の貴女が>
え? 死んだ? 私が?
<そして、この世界にNPCとして転生したのです>
ゲーム内に転生って……。
<サービスが終了するまでの短い間ですが、新たな生を楽しんで下さい>
「終了が決まったんですか?!」
私は驚いて尋ねた。
<そうではありませんが、色々と物足りないらしくユーザーが減少傾向にあるので、終了はそう遠く無い未来でしょう>
特に生産が自動だしねぇ。何処がリアルだって盛大に突っ込まれている部分だ。
不器用で知識も無い私は、それ目当てで始めたんだけど。
<さて、此処は貴女専用エリアです。外へ出る時はポータルから、戻る時は戻ろうと思えば戻れますので>
「ポータルの先は、固定ですか?」
<いいえ。貴女が戻る前に居た場所です。今回は、ログアウトした場所ですね。但し、ダンジョン内から戻って来た場合は、ダンジョンの外に出ます>
開放時間制限のダンジョンがあるからだろう。
「でも、それだと自由に動けるようですが、NPCなら何か役割があるんじゃ……?」
<貴女の役割は冒険者です。ですから、これまでと変わりません>
「死亡したら終わりですよね?」
<いいえ。貴女の身体は、貴女が作成したアバターですから>
「それは、転生じゃなくて憑依と言いませんか?」
<いいえ。この世界では、『憑依』は悪い存在がするものとされていますので>
「なるほど」
<他に何か質問は?>
「……ありません」
思い浮かばないので、そう答えた。
<それでは、これで。楽しんで下さいね>
「死んだって、本当かなぁ?」
静かになった野原で、私はポツリと呟いた。
死にそうになった記憶が無いので、実感が無い。
でも、ログアウトアイコンは無いし、それ以外にも幾つか消えている。例えば、プレイヤー同士で戦える闘技場エリアへ行く為のアイコン。…まあ、それは、利用する気が無かったから良いんだけど。
後ろを振り返ると、コテージ風の家が在った。
中に入り、先ずは壁に掛けられていた鏡で外見を確認する。
『ゲート』は、国産VRMMORPGで唯一性別を選べるゲームなので、ネカマとネナベが多いらしい。斯く言う私もネナベだ。尤も、特に男だとアピールした事も男らしく演じた事も無いので、厳密にはネナベとは違うのだろうが。
イケメンに作った顔を見て、このゲームを始めたばかりの頃の出来事を思い出す。
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あれは、チュートリアルを終え、初めてクエストを受けようとした時の事だった。
プレイヤーは冒険者ギルドに登録している冒険者と言う設定なので、最初の町【イッチ】の冒険者ギルドの建物に入る。
壁に張り出された依頼が書かれた紙を見ていると、何か落ち着かない感じになった。
振り向くと、10人ぐらいの女性キャラが私を囲むように立っていた。彼女達の視線を感じたと言う事だろうか?
「私とPT組みませんか?」
1人が声を上げたのを皮切りに、口々にPTのお誘い。
「済みませんが、私は」
「止めなさい! 嫌がってるでしょ!」
断ろうと口を開いた時、そう言って1人の女性キャラが割って入った。
かなりの美女で胸が巨乳……いや、爆乳? で人目を惹く。
「それに、Lv差が大きい人と組んでもメリットは無いのよ」
『ゲート』では、モンスターを倒して得られる経験値は固定では無く、楽勝出来るようになるとそのモンスターからは得られる経験値は減って行き、最低1しか得られなくなる。
そして、PTを組んでモンスターを倒した際に貰える経験値は、【最もLvが高い者が基準】となるらしい。与えたダメージに応じて経験値が分配されるのだが、もし、PTに高Lvのプレイヤーがいれば、Lv1のプレイヤーのみでモンスターを倒したとしても、経験値は1しか得られないと言う事が起きてしまう。こういう所が、『ゲート』の人気を下げている。
「仕方ないから、私が組んであげても良いわ」
私を振り向いて、彼女はそう言った。
「貴女がこの人と組みたいだけじゃないの!?」
「貴女達と一緒にしないで! どうせ、顔目当てなんでしょう? 私は、彼の為に言っているの。貴女達に迷惑しているみたいだから」
これが必ずPTを組まなければならないゲームなら、助け舟なのかもしれないけれど。
「済みませんが、私はソロでしたいので」
私はそう言って断った。
「!? 私が組んであげるって言っているのに、そんな理由で断るなんて許されると思うの!」
顔を真っ赤にし掴みかかりそうな剣幕で、女性が怒鳴る。その剣幕に、周りの人々はドン引きした様子だった。
<警告! シラユキヒメの規約違反を確認しました。迷惑行為を止めなかった場合、1ヶ月間ゲームから追放します>
「え? 迷惑行為?! 何の事!?」
目の前の女性が困惑した様子で、声がした方(上)を見上げた。つまり、彼女が『シラユキヒメ』か。
「PT勧誘を断ったぐらいで、異常に怒ったからじゃないの?」
囲んでいる1人が言う。
「どうしてよ! 私が親切で言った事を断るなんて、失礼にも程があるのに!」
彼女は、リアルでもこんな感じなのだろうか?
「じゃあ、そんな失礼な人は放っておいて、俺とPT組んでよ」
シラユキヒメに声をかけて来たのは、私と同じ【初心者セット】を身に着けたメタボなオジサンキャラだった。
「みっともない人はお断りよ!」
「あんたの方が失礼でしょう!」
複数人が同時に同じ事を怒鳴った。
「酷い! 私は事実を言っただけなのに!」
シラユキヒメは被害者ぶると、私を睨んだ。
「貴方が断るから、こんな事になったのよ!」
<シラユキヒメの迷惑行為続行を確認。追放します>
次の瞬間、シラユキヒメはバタンと倒れた。
ギルドの職員が2人で彼女を運び出す。後で知ったが、ギルド職員だけは、ログアウト中のアバターを移動出来るらしい。
「邪魔なんで、隣の空き地に捨てて来たよ」
帰って来た彼等はそう言って、持ち場に戻った。
「1ヶ月って…厳し過ぎないか?」
誰かが呟く。
「でも、規約にちゃんと書いてある事だし。『強引な勧誘は、厳しく処分します』って」
振り返ると1組の男女が目に入った。彼等か。
「それじゃ、仕方ないな」
2人は話しながらギルドを出て行き、私は依頼書に目を戻した。
翌日。掲示板を確認すると、シラユキヒメと思しき人が運営への恨み事を書き連ね、窘めるレスにまで噛み付き荒らし認定されていた。私の所為だとも主張していた。
ログインして、空き地に捨てられたシラユキヒメを確認すると、彼女が身に着けていた【初心者セット】が無くなっていた。プレイヤーは奪えない仕様なので、NPCに奪われたのは確実だった。
数日後に確認した時には、誰がやったのか変なポーズを取らされていた。
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あれば強烈だった。今思えば、断り方が悪かったのかもしれない。……でも、まさか、彼女が私を殺したなんて事は無いよね?
シラユキヒメは、恐らく、アバターを作り直しただろう。それには5千円――2度目からは1万円――必要だが、あの変なポーズのSSが晒されたのだから。
この国では、VRゲームは法律で20歳からとされているので、充分払える筈。
でも、まあ、こちらは引退したかもしれない。そう祈っておこう。もう遭いたくない。
さて、スキルを覚えるか。
名前:フジ(本名から)
性別:男
髪色:銀
目の色:銀
年代:大人
身長:普通(170cmぐらい)
特徴:イケメン
名前:シラユキヒメ(『世界で一番美しい女は?』『白雪姫です』)
性別:女
髪色:黒
目の色:黒
年代:大人
身長:普通(160cmぐらい)
特徴:爆乳
2014/08/11 サブタイトルとゲーム名を訂正