表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/30

1:gate to parallel universe(異世界への入り口)

<ようこそ、『gate to parallel universe(異世界への入り口)』へ!>


 聞き覚えのあるその声に目を覚ますと、地面に寝転んでいる事に気付いた。


 『gate to parallel universe(異世界への入り口)』(通称:ゲート)とは、数あるヴァーチャルリアリティMMORPGの中で【初心者向け】と名高いゲームである。

 私の名は、作良藤(さくらふじ)。最近このゲームを始め、昨夜漸くLv20となったばかりだ。

 LV20で解放されるスキルを覚えるのは明日にしようと、宿屋のベッドでログアウトした筈なのだが?


 因みに、このゲームではログアウト中は寝ている設定なので、ログインするまでアバターはその場で横になっている。フィールドでログアウトすれば、場所によっては魔物に殺されるし、街中でログアウトすれば、NPCの泥棒にアイテムやルマ(ゲーム内のお金)をほぼ確実に盗まれるらしい。運が悪ければ、殺されるとか。



<自分に何が起きたか判りますか?>


 身を起こし、声の主を捜して辺りを見渡す。


<ああ、自己紹介がまだでしたね。私は、この世界の神です>


 神? 何かのイベントだろうか?


<念の為に言っておきますが、イベントではありません>


 まるで、心を読まれた様なタイミングだ。


<貴女は、お気の毒ですが亡くなりました。アバターでは無く、現実の貴女が>


 え? 死んだ? 私が?


<そして、この世界にNPCとして転生したのです>


 ゲーム内に転生って……。


<サービスが終了するまでの短い間ですが、新たな生を楽しんで下さい>


「終了が決まったんですか?!」

 私は驚いて尋ねた。


<そうではありませんが、色々と物足りないらしくユーザーが減少傾向にあるので、終了はそう遠く無い未来でしょう>


 特に生産が自動だしねぇ。何処がリアルだって盛大に突っ込まれている部分だ。

 不器用で知識も無い私は、それ目当てで始めたんだけど。


<さて、此処は貴女専用エリアです。外へ出る時はポータルから、戻る時は戻ろうと思えば戻れますので>


「ポータルの先は、固定ですか?」


<いいえ。貴女が戻る前に居た場所です。今回は、ログアウトした場所ですね。但し、ダンジョン内から戻って来た場合は、ダンジョンの外に出ます>


 開放時間制限のダンジョンがあるからだろう。

「でも、それだと自由に動けるようですが、NPCなら何か役割があるんじゃ……?」


<貴女の役割は冒険者です。ですから、これまでと変わりません>


「死亡したら終わりですよね?」


<いいえ。貴女の身体は、貴女が作成したアバターですから>


「それは、転生じゃなくて憑依と言いませんか?」


<いいえ。この世界では、『憑依』は悪い存在がするものとされていますので>


「なるほど」


<他に何か質問は?>


「……ありません」

 思い浮かばないので、そう答えた。


<それでは、これで。楽しんで下さいね>



「死んだって、本当かなぁ?」

 静かになった野原で、私はポツリと呟いた。

 死にそうになった記憶が無いので、実感が無い。

 でも、ログアウトアイコンは無いし、それ以外にも幾つか消えている。例えば、プレイヤー同士で戦える闘技場エリアへ行く為のアイコン。…まあ、それは、利用する気が無かったから良いんだけど。


 後ろを振り返ると、コテージ風の家が在った。

 中に入り、先ずは壁に掛けられていた鏡で外見を確認する。


 『ゲート』は、国産VRMMORPGで唯一性別を選べるゲームなので、ネカマとネナベが多いらしい。斯く言う私もネナベだ。尤も、特に男だとアピールした事も男らしく演じた事も無いので、厳密にはネナベとは違うのだろうが。


 イケメンに作った顔を見て、このゲームを始めたばかりの頃の出来事を思い出す。


-------------------------------------------------


 あれは、チュートリアルを終え、初めてクエストを受けようとした時の事だった。

 プレイヤーは冒険者ギルドに登録している冒険者と言う設定なので、最初の町【イッチ】の冒険者ギルドの建物に入る。

 壁に張り出された依頼が書かれた紙を見ていると、何か落ち着かない感じになった。

 振り向くと、10人ぐらいの女性キャラが私を囲むように立っていた。彼女達の視線を感じたと言う事だろうか?


「私とPT組みませんか?」

 1人が声を上げたのを皮切りに、口々にPTのお誘い。

「済みませんが、私は」

「止めなさい! 嫌がってるでしょ!」

 断ろうと口を開いた時、そう言って1人の女性キャラが割って入った。

 かなりの美女で胸が巨乳……いや、爆乳? で人目を惹く。

「それに、Lv差が大きい人と組んでもメリットは無いのよ」


 『ゲート』では、モンスターを倒して得られる経験値は固定では無く、楽勝出来るようになるとそのモンスターからは得られる経験値は減って行き、最低1しか得られなくなる。

 そして、PTを組んでモンスターを倒した際に貰える経験値は、【最もLvが高い者が基準】となるらしい。与えたダメージに応じて経験値が分配されるのだが、もし、PTに高Lvのプレイヤーがいれば、Lv1のプレイヤーのみでモンスターを倒したとしても、経験値は1しか得られないと言う事が起きてしまう。こういう所が、『ゲート』の人気を下げている。


「仕方ないから、私が組んであげても良いわ」

 私を振り向いて、彼女はそう言った。

「貴女がこの人と組みたいだけじゃないの!?」

「貴女達と一緒にしないで! どうせ、顔目当てなんでしょう? 私は、彼の為に言っているの。貴女達に迷惑しているみたいだから」

 これが必ずPTを組まなければならないゲームなら、助け舟なのかもしれないけれど。

「済みませんが、私はソロでしたいので」

 私はそう言って断った。

「!? 私が組んであげるって言っているのに、そんな理由で断るなんて許されると思うの!」

 顔を真っ赤にし掴みかかりそうな剣幕で、女性が怒鳴る。その剣幕に、周りの人々はドン引きした様子だった。


<警告! シラユキヒメの規約違反を確認しました。迷惑行為を止めなかった場合、1ヶ月間ゲームから追放します>


「え? 迷惑行為?! 何の事!?」

 目の前の女性が困惑した様子で、声がした方(上)を見上げた。つまり、彼女が『シラユキヒメ』か。

「PT勧誘を断ったぐらいで、異常に怒ったからじゃないの?」

 囲んでいる1人が言う。

「どうしてよ! 私が親切で言った事を断るなんて、失礼にも程があるのに!」

 彼女は、リアルでもこんな感じなのだろうか?

「じゃあ、そんな失礼な人は放っておいて、俺とPT組んでよ」

 シラユキヒメに声をかけて来たのは、私と同じ【初心者セット】を身に着けたメタボなオジサンキャラだった。

「みっともない人はお断りよ!」

「あんたの方が失礼でしょう!」

 複数人が同時に同じ事を怒鳴った。

「酷い! 私は事実を言っただけなのに!」

 シラユキヒメは被害者ぶると、私を睨んだ。

「貴方が断るから、こんな事になったのよ!」


<シラユキヒメの迷惑行為続行を確認。追放します>


 次の瞬間、シラユキヒメはバタンと倒れた。

 ギルドの職員が2人で彼女を運び出す。後で知ったが、ギルド職員だけは、ログアウト中のアバターを移動出来るらしい。

「邪魔なんで、隣の空き地に捨てて来たよ」

 帰って来た彼等はそう言って、持ち場に戻った。

「1ヶ月って…厳し過ぎないか?」

 誰かが呟く。

「でも、規約にちゃんと書いてある事だし。『強引な勧誘は、厳しく処分します』って」

 振り返ると1組の男女が目に入った。彼等か。

「それじゃ、仕方ないな」

 2人は話しながらギルドを出て行き、私は依頼書に目を戻した。



 翌日。掲示板を確認すると、シラユキヒメと思しき人が運営への恨み事を書き連ね、窘めるレスにまで噛み付き荒らし認定されていた。私の所為だとも主張していた。

 ログインして、空き地に捨てられたシラユキヒメを確認すると、彼女が身に着けていた【初心者セット】が無くなっていた。プレイヤーは奪えない仕様なので、NPCに奪われたのは確実だった。

 数日後に確認した時には、誰がやったのか変なポーズを取らされていた。


-------------------------------------------------


 あれば強烈だった。今思えば、断り方が悪かったのかもしれない。……でも、まさか、彼女が私を殺したなんて事は無いよね?


 シラユキヒメは、恐らく、アバターを作り直しただろう。それには5千円――2度目からは1万円――必要だが、あの変なポーズのSS(スクリーンショット)が晒されたのだから。

 この国では、VRゲームは法律で20歳からとされているので、充分払える筈。

 でも、まあ、こちらは引退したかもしれない。そう祈っておこう。もう遭いたくない。


 さて、スキルを覚えるか。

名前:フジ(本名から)

性別:男

髪色:銀

目の色:銀

年代:大人

身長:普通(170cmぐらい)

特徴:イケメン



名前:シラユキヒメ(『世界で一番美しい女は?』『白雪姫です』)

性別:女

髪色:黒

目の色:黒

年代:大人

身長:普通(160cmぐらい)

特徴:爆乳



2014/08/11 サブタイトルとゲーム名を訂正

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ