18:王子様はキスしない
シラユキヒメ達が怒りの形相で近付いてくる。
「何か?」
「惚けないで! カグヤヒメがアカウント削除されたのは、貴方の仕業でしょう!」
シラユキヒメが怒鳴った。
「知りません」
「嘘仰い! 貴方以外の誰がそんな酷い嘘を運営に吹き込むのです!」
今度は、金髪ロングヘアの女性キャラが怒鳴る。
「運営は証拠が無ければ動きません」
私の言葉に、一瞬彼等は言葉を詰まらせた。
「だ、だから、合成とか」
「提出されたSSだけで判断していると思っているんですか?」
どんな言動を取ったかログが有り、それを調査するらしいけれど。
「貴方は優遇されているようですし、そう言う事もあるでしょう」
そう言ったのは、いかにも魔法使いという格好をした男性キャラ。
「優遇って何の事ですか?」
「貴方の方が悪いのに、こちらが罰せられる事ですよ」
……日本語が通じる気がしない。
彼等以外の人々は、黙って視線を逸らしている。……何か言ったり・彼等を見る事で因縁付けられる事を防ごうと言う事か。店を出ないのは、それすらも彼等に目を付けられるかもしれないと恐れての事だろう。
「ちょっと、聞いているの!?」
私がサイズを巻き込んで申し訳ないとチラリと見た直後、シラユキヒメが爆乳を私の前に突き出した。
「失礼します。お客様にご迷惑ですので、お帰り下さい」
何時の間にか私の後ろにやって来たウエイターが、シラユキヒメ達にそう言った。
「何だ、その態度は! 俺達は客だぞ!」
ボサボサした髪の男性キャラが怒鳴る。
「当店は、飲食店です。喧嘩を売り買いする店ではありません。これ以上業務妨害を続けるようでしたら、通報します」
それでも、シラユキヒメ達は退かなかった。
「関係の無い貴方は引っ込んでいて!」
ウエイターは、困ったように黙り込んだ。
<警告! シラユキヒメとシンデレラとギンガとレックウの規約違反を確認。迷惑行為を止めなかった場合、警告数度目のシラユキヒメはアカウント削除・それ以外の三人は1ヶ月ゲームから追放します>
「通報しました」
そっちにか!
「悪いのはこいつだろ!?」
ボサボサ髪が、私を指差して天井に怒鳴る。
<自分の言動と他人の言動の区別が付かないようですので、病院に行く事をお勧めします>
誰かが噴き出した。
「失礼にも程が有ります! 訴えますわ!」
シンデレラ(多分)が、顔を真っ赤にして怒鳴る。
「どうして、誰も彼も邪魔するのよ! しかも、フジの味方ばかりして!」
シラユキヒメが、ブンッと肘を振ってウエイターを睨んだ。
「駄々を捏ねれば誰しも機嫌を取ってくれるとは思わない事だ」
サイズの言葉に、シラユキヒメは怒りの形相を向けた。
「何なの、貴女! 私達は駄々を捏ねてなんか無いし! それに、どうして、フジと一緒に居るの!? どうせ、下品な誘惑でもしたんでしょうけど!」
「お前が下品な誘惑をするからと言って、私もするとは決め付けないでくれ」
「わ、私はそんな事しないわ! 彼が勝手にジロジロ見るだけよ!」
「見られたくないなら、わざと目の前に出すのは止めるんだな」
シラユキヒメの顔が赤に染まる。
「わ、わざとだなんて! そ、そんな訳無いじゃない!」
「何の騒ぎだ?」
何時の間に店内に入って来たのか、クルマが私に囁いて来たので驚いた。
「言いがかりを付けられてます」
「……そうか」
クルマも間の悪い時に来たなぁ。……【運の良さ】1桁だからだろうか? いや、関係無いのは解っているけどね。
「ちょっと! シラユキヒメと言う者が有りながら、何を男同士でいちゃついてますの!」
シンデレラが指を突き付け、妙な邪推を口にした。
「これがいちゃついて見えるとか、お前は腐女子か?」
男同士の恋愛が好きな婦女子を腐女子と言う。
「ち、違います!」
サイズの問いかけに、シンデレラは慌てて否定した。
「フン! シラユキヒメの誘いを断るなんざ、ホモだろ!」
ボサボサ髪が言う。
「でなければ、ロリコンでしょうね」
「……ギンガ……」
嫌そうなクルマの呟きで、魔法使い風の方がギンガだと判った。
あ、そうだ。これ以上、お店に迷惑をかけるのもアレだし、外に出ようか。……そう思って立ち上がる。
「図星を差されて逃げるんですか?」
料金を支払う私を、ギンガが挑発した。
「何処へ行く気?! 話はまだ終わって無いのよ!」
シラユキヒメが私を引き留めようとする。
「シラユキヒメ」
私が名を呼ぶと、シラユキヒメは目を輝かせたように見えた。
「私は貴女が嫌いだ。2度と私の前に姿を現すな」
静まり返った店内に、私達が出て行く音だけが響いた。
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<シラユキヒメとシンデレラとギンガとレックウの迷惑行為続行を確認。シラユキヒメのアカウントを削除。シンデレラとギンガとレックウを1ヶ月ゲームから追放します>
これで平和になるかな。
「済みません、サイズ。巻き込んでしまって……。【危険察知】忘れてました」
「気にするな。しかし……アレで実はフジを好きとか……」
サイズが呆れたように呟いた。
「私も驚きました。多分、一目惚れされたんだと思います」
私は2人に、シラユキヒメとの出会いを語った。
「それは、確かに、一目惚れ以外は考えられないな」
「だが、あんな態度でフジが自分に惚れると良く思えるものだな?」
クルマが疑問を口にする。
「何なんでしょうね? アバターの見た目さえ良ければモテモテだとでも思っているんでしょうかね?」
或いは、リアルの自分に余程自信があるのかもしれない。
「リアルのフジも同じ顔だと思っていそうだな」
「あー……ありそう……」
「おーい、フジ!」
暫く歩いて聞こえたその声に振り向くと、シノブがいた。2人に、【市場】で知り合った人だと紹介する。
「災難だったな」
「あの店に居たんですか?」
「いや。掲示板の書き込みで知った」
誰か実況してたとか?
「さっき、シラユキヒメもレスしてさ、『私がフジを好きなんじゃ無く、フジが私を好きなの。だから、仕方なくギルドに入れて上げようとしてただけ。それなのに、私が惚れていると勘違いして振られて迷惑だわ』だと。因みに、コレ一部ね」
何で好きな人を振るんだよ。
「突っ込みは無かったんですか?」
「あるある。例えば、『フジは女性プレイヤーかもしれないだろう』とか『醜男かもよ』とか。何て返して来たと思う?」
「『有り得ない』とか?」
私は首を傾げた。
「『アバターは、誰だって自分そっくりに作るに決まってるじゃない』」
沈黙が流れる。
「本当に、リアルのフジも同じ顔だと思ってたんだな……」
「あー……つまり、『リアルの私も美人で爆乳なのよ』と言う意味か」
クルマと同時にサイズが呟いた。
「あたまいたい……」
該当スレに目を通したクルマは、『フジに冷たい目で見られたい』と言う感じの流れに、無言でウインドウを閉じたのだった。
名前:ギンガ(本名から)
性別:男
髪色:金
目の色:青
年代:大人
身長:高い
特徴:いかにも魔法使いな装備
名前:レックウ(強そうなイメージ)
性別:男
髪色:赤
目の色:青
年代:大人
身長:高い(リアルでは低いので)
特徴:髪がボサボサ
名前:シンデレラ(玉の輿に乗りたい)
性別:女
髪色:金
目の色:青
年代:大人
身長:高い
特徴:ロングヘア。お嬢様に憧れているので「ですわ」口調。