17:異世界からの侵略者2
「ありがとう、ヴェル」
離れた所で私を下ろしたヴェルにそう言って、撫でる。普通のペットだったら、【魔物使い】を使って頼まなければこんな事はしてくれない。
『フジ様、危険好き?』
「それは、絶対に、無い! 逃げる事を思い付かなかっただけだよ」
『そっか~』
「ヴェルは怖く無かったの?」
トリコの大きさなら兎も角、強いモンスターは怖い筈だと思って尋ねた。
『頑張れば、倒せると思う』
「……ヴェルのLvは幾つ?」
『100』
「そんなに強かったんだ……」
この大きさでLv100なら、トリコは……1000ぐらい? もっとかな?
「そう言えば、アレでどれぐらいHP減ったんだろう?」
少ししか減って無かったら嫌だなぁ。
巨大なスケルトンに近付くと、昨日のLv100前後のPTと兵士達が攻撃していた。
スケルトンには右足が無く、HPは半分以下になっていた。片足立ちで戦えるなんて、モンスターは凄いな!
スケルトンは恐慌の状態異常攻撃をするようだったので、それを回復する薬と予防する薬を兵士達に譲った。プレイヤー達は持っているだろうから、彼等には渡す必要は無いだろう。
兵士達の中には、犠牲者が出ていた。私は外傷の無い遺体すら見たくないので、なるべく視界に入れないようにする。地面には、剣で斬られた様な裂け目が出来ていた。スケルトンが彼等を斬った際に斬れたのだろう。
「ヴェル、剣を持った手首に攻撃して!」
『うん!』
ヴェルの数度の攻撃で、スケルトンの手首が砕けて剣が落ちる。同時に、プレイヤーの攻撃で左足が砕けた。HPは残り3分の1。
その時、スケルトンが吠えた。
「そんな…」
誰かが愕然と呟いた。殺された兵士達がアンデットにされたのだ。
「チッ! 流石、『ダスク』のモンスターだな……!」
プレイヤーの1人の言葉で、私は、このイベントが『ダスク』とのコラボイベントだと知った。
「私が【浄化】する!」
神官系スキル【浄化】を持っているらしい女性プレイヤーが、前線から下がる。
「ヴェル、首を砕いて!」
『うん!』
座って攻撃を続けるスケルトンの首を、ヴェルが破壊した。HPが0になる。
「仲間を召喚する奴じゃ無くて良かったな……」
フルアーマーの男性が、疲れたように呟いた。
確かに、そんな絶望的な戦いは嫌だ。『ダスク』のプレイヤーは、良く続けられるな……。
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夕方。ギルドエリアに入ると、私専用エリアにある筈の家が此処に移動されていた。
伝言板に書かれた私のLvを28に変更する。
「夕飯は何にしようかな?」
『ネズミ!』
私は食べたくないです。
猫島に移動し、ヴェルにネズミ型モンスターを狩らせてやる。
私はその間ジャイアント・キャットの村を散策していたが、【農業】ポイントが在る事に初めて気付いた。
「久しぶり」
声をかけられたので振り向くと、ギルド『猫好き友の会』の4人がいた。
少し話したが、彼等はあれからずっと猫島に居るらしい。
「昨日、イベントボスが猫島に現れたんだって? 残業じゃなかったら、ジャイアント・キャット族を守る戦いに参加出来たのに」
「トリコ、強かったですよ」
「『ゲート』の制作スタッフ、絶対、猫好きだよね」
眼鏡をかけた男性の言葉に、全員頷く。
『ただいまー。お腹一杯』
「お帰り。じゃあ、私はこれで」
「うん。またね」
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ギルドエリアに戻ると、クルマとサイズが来ていた。2人は水槽を眺めていた。
「お帰り。追い抜かれてしまったな」
クルマにそう言われる。
「お疲れ様です。今日も侵略者と戦いましたからね」
「もう倒されたのか?」
サイズの質問に頷く。
「そうか。それは残念だ」
「仕方ありませんよ。……今日はどうしますか?」
「『ビッグ・アントの巣』でLv上げをしたいんだが」
「賛成」
「じゃあ、倉庫からドラゴン肉料理を取って来ますね」
私がそう言うと、2人は驚いた。
「ドラゴン肉?!」
「昨日の侵略者がドラゴンで、運良く止めを差せたんですよ。ジャイアント・キャット達に食べさせたりしたので、そんなに無いですけど」
「こってりした味かと想像していたが、そうでも無かったな」
『空飛ぶ絨毯』で【サン】の北エリアを飛んでいると、クルマがそう感想を述べた。
「ああ。……何だ?」
同意したサイズが、地面の異変に気付く。
「あれが、今日の侵略の爪痕ですよ」
「どんなモンスターだったんだ?」
「剣と盾を持ったスケルトンです。大きさがアレでしたけど」
そして、ヴェルが強かった事を話した。
「……そう言えば、プレイヤーのLvが低くて行けないエリアに侵略者が出現したら、どうなるんだ?」
クルマが疑問を口にした。
「猫島でジャイアント・キャットのトリコが攻撃したように、誰かが自分達を守る為に戦うと思いますよ」
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「ところで、サイズは時間大丈夫なんですか?」
ダンジョンに入った所で、サイズが平日は1時間しか出来ないと言っていた事を思い出して尋ねた。
「ああ。今日は残業が無かったからな」
「そうですか。では、行きましょう」
「そうだ!」
金の宝箱を開けながら、私は声を上げた。
「私、強化しないんですけど、強化素材要りますか?」
「今の所、要らないな」
サイズが言う。
「私もだ。ギルド倉庫に入れておいてくれ」
「分かりました。じゃあ、早い者勝ちで」
「何か忘れていると思ったら!」
今度は、ボス部屋近くで思い出した。
「【危険察知】が中級になったんですけど、ブラックリストに入れたプレイヤーも察知出来るようになったんです」
「そうなのか!? じゃあ、覚えた方が良いかな?」
「私もギンガに会いたくないし…覚えるか?」
2人は迷っているようだ。
「あ、でも、迷うのは一旦後にして、ボスを倒しましょう」
「そうだな」
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土曜日になった。
あれから毎日、侵略者は私のLvでは行けない所に出現したので、特に何事も無かった。
今日はクルマが、Dランク昇格試験を受ける為に冒険者ギルドへ行っている。【運の良さ】1桁の所為で失格なんてならないと良いのだが……。
私とサイズは、【サン】で昼食を摂っていた。
「この間さ、ツイッターでリア中が『ゲート』の愚痴? つーか、悪口呟いててさ」
食後にお茶を飲んでいると、近くのテーブルからそんな話が聞こえた、
「地元の中学校の生徒だって分かったから、通報してやった」
「子供に何買い与えてんだか」
未成年者にVRゲーム……特に、RPG等の攻撃されるゲームをやらせるのは虐待とされる。
「受験生だったらしくって、推薦取り消しになったとか」
「当然ね。飲酒や喫煙と同じで非行と思われるんだから」
親は知っていて止めさせなかったなら、前科が付くだろう。
「……VRゲーム禁止運動が盛り上がりそうだな」
サイズがそう呟いた。
「そんな運動が?」
「知らないのか? 先日、強制終了で死者が出たのは知っているだろう? 被害者は確か……お前と同じ名だったな」
心臓がドキッとした。本名でやってるなんて思わないだろうけれど。それ以前に、死んだ人間がやっているとは思わないか。
「……被害者一人で、そんな運動が……?」
「被害者が出た事には違いない」
「でも、例えば、ジェットコースターで死者が出ても、ジェットコースターを全面禁止にはしませんよね?」
「……確かに、そうなんだが」
「見付けたわ!」
聞き覚えのある声に、【危険察知】を使うのを忘れていた事に気付いた。