16:異世界からの侵略者
ギルドエリアに移動すると、インフォメーションが入った。
<本日からのイベント『異世界からの侵略者』の1体目が猫島に出現しました。日付が変わるまでに討伐を完了出来なかった場合、全プレイヤーの全てのLvが1DOWNします。侵略者のHPは回復しませんので、頑張って下さい>
スキルレベルもDOWNするという事らしい。
<尚、与えたダメージによって翌日にメールで褒賞をお送りします。褒賞は、最低でも強化素材低級・上位報酬は強化成功100%の『完全保護石』となっております>
「2人はこれから夕食ですか?」
「そうだな。猫島には行けないし」
「じゃあ、その前に、現在のLvをお願いします」
私は、伝言板の前に立って聞いた。
「私はLv30になった」
『サイズ Lv30』と書く。
「私は27だ」
『クルマ Lv27』と書く。
「私は、Lv26です」
最後に『フジ Lv26』と書く。
「それじゃあ、私は猫島に行って来ます」
2人は、私が取り出した転送石を興味深げに覗き込んだ。
「この小さな珠は?」
「ジャイアント・キャット襲撃を阻止した褒賞の猫島行き転送石です」
「なるほど。羨ましいな」
これが無いと、毎回ダンジョンを越えて行かなきゃいけないからね。
「じゃあ、行きますね」
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猫島に着くと、巨大なドラゴンの姿が見えた。……トリコよりは小さいな。
近付くと6人のプレイヤーが攻撃を仕掛けていた。武器スキルで攻撃する人・魔法スキルで攻撃する人が半々ぐらいでいる。
「闘技場上位連中だ」
近くに居た男性キャラが呟いた。つまり、Lv100前後の皆さんか。スキルの威力以外は、サイズやクルマの方が凄い気がするのは何故だろう?
異世界のドラゴンのHPバーは、まだ1割も減っていない。
その時、ヌッとトリコが姿を現した。
「あ……」
誰かが呆然とした声を漏らす。ドラゴンのHPバーが、トリコの猫パンチで大きく削られたからだ。……あれはドラゴンじゃないのかもしれない。ジャイアント・リザードとかなんじゃないだろうか?
ドラゴン? はトリコにではなく、Lv100前後のPT? の方に炎のブレスを吐いた。彼等は即死する。
トリコが止めを差そうとしたので、私は急いで矢を射た。1mmも無かったHPはそれで0になった。
油揚げさらった(ドロップアイテムは、止めを刺した私が総取りである)けど、私悪くないよね? 皆で倒すイベントだし。
「ちょっ! 並んでたのに!」
近くに居た男から怒られた。
「え?! 並んでた?! 何の為に??」
意味が解らない。
「何の為って……横殴りしないのがマナーだろ!」
「でも、普通の狩りじゃ無くて、皆で協力して倒すイベントじゃないですか。順番じゃ、先に攻撃したPTは損ですよ。全員で協力して誰かが止め刺した方が納得いくと思いますけど。それに、順番に戦ってたら、トリコの乱入が無かった場合、日付が変わるまでに倒せなかったと思いますよ?」
「……まあ、確かに、倒せなかったかもな……」
Lv100でも即死するブレスを思い出したのか、男はそれについては同意した。
「お前達は、これが出現したのが人間の街でも、順番を守って攻撃するのか? お前達だけを攻撃する訳では無いのに」
トリコが不思議そうに尋ねる。
「それは……」
「お前達はここでは死んでも生き返る。だから、見殺しにする戦い方をするのか?」
トリコの言葉に、誰もが視線を逸らして何も言えなかった。
その後、こういうイベントでは順番待ちをしないで皆で協力して戦う事に決まった。
トリコが私の【冒険者鞄】に顔を近付ける。
「……侵略者の肉ですか?」
「くれるか?」
【冒険者鞄】の中を確認すると、『異世界のドラゴンの肉』が有った。……そうか。やっぱりドラゴンか……。ドラゴンの防御力を物ともしないって、トリコ強過ぎだろ。
それにしても、現在の【解体】レベルではドラゴンは解体出来ない筈だが、イベントだからだろうか?
「どうぞ」
私は、10kgぐらいのブロック肉を1つ取り出した。
いきなりバクッとトリコが喰い付いたので、私まで食べられるかと思った! 私が猫だったら全身の毛がブワッと立った事だろう。
「もっと欲しい」
「……そうですね。殆どトリコさんのお陰ですし」
もう1固まり出すと、トリコは美味しそうに食べた。……プレイヤー以外になら手渡し出来るんだな。
そうして何回か食べさせると、トリコは満足して去って行った。
他のジャイアント・キャット達にもドラゴンの肉を少しずつ食べさせ、露店にドロップアイテムの半分を置き、家に戻った。
「はい。ヴェル」
『ありがとう』
ヴェルにもドラゴンの肉を食べさせ、私もステーキにして食べてみた。……鶏肉のような味だった。
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翌日。私は、ギルドエリアの集会所の金魚入りの水槽の隣にメダカ入りの水槽を置き、倉庫にドラゴンの肉のステーキ・唐揚げ・照り焼き・カツ等を置いた。
集会所に戻ると、伝言板の『フジ Lv26』を『フジ Lv27』に変更する。ドラゴンに攻撃したのでLvUPしたのだ。
スキルレベルが上がったのは……。
解体……Lv15。
調理……Lv13。
運転……Lv5。
通訳……Lv9。
魔物使い……Lv4。
アレンジ……Lv13。
見破る……Lv11。中級。プレイヤー等の能力も見破れるようになった。
解錠……Lv12。中級。銅の宝箱が高確率で解錠出来るようになった。
忍び足……Lv11。中級。声も消せるようになった。
細工……Lv11。中級。加工系スキルの製作物の品質がUPするようになった。
危険察知……Lv11。中級。ブラックリストに入れたプレイヤーも察知出来るようになった。
暗視……Lv6。
【忍び足】は最早足関係無いな……。上級で姿まで消せたりして……。
【細工】が加工に関係あるとは! 後、【危険察知】! あいつ等との遭遇が回避出来るんだ! サイズ達に教えよう!
さて、SPは17在る。Lv25で覚えられるようになったスキルもあるし、どれを選ぶか考えた。
芸術系スキル
絵画(5SP)……塗り絵。
加工系スキル
陶芸(5SP)……土器等を作れる。
これで、ヴェルサイズの土鍋が造れる……! あ、でも、窯が小さい……。
残りは7SPか……取っておこうかな?
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【絵画】と【陶芸】をLv5まで上げ、昼食を摂ってから猫島に出した露店を確認した。売り切れていたので露店を仕舞い、【ニー】へ移動する。
【農業】をLv15に上げ、ヴェルに乗って【サン】の北エリアに移動した。
それから暫くして、【伐採】をLv15に上げた時、私は物凄い悪寒に襲われた。
辺りを見回すと、斜め上空の空間が歪んでいた。巨大な人骨の手が現れ、空間の歪みを広げようとする。……異世界からの侵略者か!
このままここに居れば、踏み潰されてしまうだろう。しかし、愕然としてへたり込みそれを見ていた私は、せっせと【細工】で罠を仕掛け始めた。途中で見上げると、上半身が全て出ていた。更に罠を増やす。
突然何かに捕まって横向きにされた視界に、緑色の獣の足が見えた。ヴェルが私を銜えたのだと気付いた時には、ヴェルは魔物の前から走り去っていた。巨大な人骨モンスターに目をやると、片足が地面に下ろされる所だった。
エリアに数度爆音が轟く。侵略者が、私が仕掛けた大地雷群を踏んだのだ。バランスを崩して倒れるのが見えた。
<イベント『異世界からの侵略者』の2体目が王都【サン】北エリアに出現しました。日付が変わるまでに討伐を完了出来なかった場合、全プレイヤーの全てのLvが1DOWNします。侵略者のHPは回復しませんので、頑張って下さい>