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10:ユーザーがゲートを選ぶ理由

「そう言えば、『ゲート』ってLv幾つまで上げられるんですか?」

 露店にモンスターからドロップした装備品を並べた私は、シノブにそう尋ねた。

「640だな。闘技場の上位メンバーは、100前後だけど」

「え? どうして、そんな事に?」

 それ以上の人間が全てPvPに興味が無いとは思えない。

「このゲームが【初心者向け】と言われているのは知っているだろう? だから、ある程度慣れたら他のMMOに移るユーザーが多いんだ」

「なるほど」

「でも、『ゲート』には『ゲート』の売りがある。それが、アバターの自由度の高さ」

「ああ。唯一異性を選べるからですよね」

「それ以外にも、顔のパーツとか体型とか年齢とかな。種族は選べないが。……『永遠の黄昏』って知っているか?」

「1番人気でしたっけ?」

「そう」

 『永遠の黄昏』(通称ダスク)は【上級者向け】と言われていて、プレイヤーとNPCを殺す事が可能でギルド同士の戦争も出来るのが特色らしい。

「クエストも悲劇に終わる事が多いと聞いています」

「その通りだ。俺もこの間までやっていたんだが……」

 シノブは溜息を吐いた。

「アンデット系がグロ過ぎて耐えられなかった」

「そんなに?」

「匂いも凄くてな。『ゲート』のアンデットは見た目もマシだし、殆ど臭わないから良いよな」

 良かった。『ゲート』のアンデットが『ダスク』並みじゃなくて。何処に出るんだろう? なるべく行かないようにしよう。

「『ゲート』のアンデットって、どの辺りに居ますか?」

「【サン】の東の大雪山」

 寒い所も苦手だし。うん。行かないな。

 因みに、トリコが跨いだのはもっと低い山だ。

「……まあ、そんな風に、他で挫折した人間が戻って来たりする。アンデット以外にも虫系モンスターとかな」

「ゲートは、初っ端から虫ですけど……?」

「他に比べれば可愛いもんさ。小さいし」

 私は、【イッチ】の虫退治クエストの依頼人を思い出した。


-------------------------------------------------


 そんな風にシノブと話していると、シラユキヒメとカグヤヒメが現れた。

 カグヤヒメをブラックリストに入れていない事に気付き、急いで入れる。

「あら、貴方も露店を出しているのね。どうせ売れてないんでしょう?」

 シラユキヒメは、露店がLvUPしているのが見て判らないのだろうか?

「ちゃんと謝るんなら、買ってあげても良いけど。勿論、安くしてくれるよね?」

 カグヤヒメが、ニヤニヤした笑みを浮かべてそう言った。

「私と組まなかった事、後悔したでしょう? 好い加減謝らないと、立場が悪くなる一方よ?」

「あんたの所為で猫島に行けなくなったんだから、土下座ぐらいして貰わないとね~」

「済みません。並んでいる人がいるので、避けて貰えますか?」

「買う人なんている訳……」

 2人が振り向くと、先頭の女性キャラが彼女達の間を掻き分けて強引に通った。

「ちょっと、何す」

「退いてくれて、ありがとうー!」

 彼女は文句をかき消すように大声で言うと、さっさと買い物を終えて立ち去る。

 お客さんが次々買って行くのを、二人はポカンと口を開けて見ていた。

「ど、どうして?! こんなに売れる筈……!」

「な、何で、こんな奴の露店が売れるの!?」

「品質『最高』なら、私だって売ってるのに!」

「バカ高いんだよ」

 シノブが私に囁く。

「どれぐらい?」

「相場の10倍」

 幾らなんでも……。

「多分、表示される相場を『標準』の価格だと思ってるな」

 小人達は、教えて上げないのだろうか? それとも、全員同じ勘違いをしているのだろうか?


 そこへ、男性客がやって来た。

「そこで買わない方が良いですよ!」

「は?」

「その人、酷い人なんですから!」

 カグヤヒメが私を指差して言う。

「具体的にどう酷いんだ?」

「女の子に酷い事言ったり・危険だって解ってて注意してくれなかったりです! その事全然謝らないんですよ!」

「それは酷いな。……で、反論は?」

 私の言い分も聞いてくれるようだ。

「PTに誘われてソロでしたいと断ったら、怒られました。それを謝るよう言われていた時に、彼女達のペットが空腹を訴えていたのですが、0になる直前であげるつもりでいるのだと思ったので、言いませんでした」

「信じちゃダメですよ!」


<警告! カグヤヒメの規約違反を確認。迷惑行為を止めなかった場合、1ヶ月間ゲームから追放します>


「また……! 何なの、こいつばっかり、贔屓して!」

「贔屓じゃ無くて、お前の規約違反だろ」

 シノブが呆れたようにそう言った。

「何言ってるの? 誰が聞いたって、こいつを守る為のでっち上げ以外の何物でも無いでしょう! ねえ?」

 同意を求められた他の露店のお客さん達は、一斉に視線を逸らした。

「ほら! 皆、私の方が正しいって!」

 どうやら、『否定しない=同意』と言う事らしい。

「贔屓が気に入らないなら、『ゲート』止めたら?」

 シノブが言う。

「『ゲート』が一番安いんだから、止める訳無いでしょう!」


 2人が不満げに去り、【市場】は元の雰囲気に戻って行く。

「あんたがちょっと大人になって機嫌を取ってやったら、大人しくなると思うよ」

 私は、先程の男性客からそんなアドバイスを受けた。

「あいつ等、魔物の王都襲撃フラグを立てそうになってペナルティ受けたからって、襲撃を阻止したこいつに土下座して謝罪しろと言ったんだが、土下座して機嫌を取れと?」

 シノブの言葉に、男性客は頬を引き攣らせた。そこまで酷い要求をしているとは思わなかったらしい。

「いや、そこまでしなくても……」

「そこまでしても、更にそれ以上の謝罪を要求すると思うぜ」

 するだろうなぁ。

「で、でも、まあ、ちょっと機嫌取っただけで満足するかもしれないし……」

「ありがとうございます。考えてみます」


-------------------------------------------------


 猫島に戻り採取を再開しようとフィールドに出た時、1人の男が、普通の猫サイズのジャイアント・キャットを斬って捨てた場面を目撃した。ジャイアント・キャットは、エネミーでは無いのに。

 直後、地響きと共に何十頭ものジャイアント・キャットが男に襲いかかった。直ぐにHPが0になっただろうに、アバターは消えず攻撃を受け続けている。100倍返しだ! 王都襲撃イベントを阻止出来て、本当に良かった!

『混ざって良い?』

「どうぞ」

 私はヴェルに許可を出した。敵に回したくない。

 最後にトリコが天高く打ち上げ、男は星になった。


<規約違反により、モモタロウのアカウントを削除しました>


 私は、近くで呆然としている3人組に気付いた。

「もしかして、彼とPT組んでいたとかですか?」

「……ああ。同じギルドのメンバーでもある」

「あいつ……猫嫌いだって言ってたんだけど……」

「最低!」

 女性キャラが吐き捨てる。


<モモタロウがジャイアント・キャットを殺害した為、イベント『猫の日は猫島へ行こう』を終了します>


 折角の経験値2倍が…。


<更に、猫島で買える物が無期限40%割増になります>


 【行商】で開く露店での相場は、影響あるのだろうか?



 この時、ログインしているほぼ全てのプレイヤーから、モモタロウへの怨嗟の声が上がったと言う。

名前:モモタロウ(きび団子が大好物だから)

性別:男

髪色:黒

目の色:黒

年代:大人

身長:普通

特徴:チャラ男的見た目

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