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ラッキージンクス

ラッキープレース

作者: 潮路

数学に対して嫌悪・苦手意識を抱いていらっしゃる方は注意が必要。

制限時間60分の数学のテストは、残り20分で終わる。

つまりは、全体の3分の2が経過していることになる。


しかしボクの答案はまだ3分の1しか出来ていない。

厳密に言えば、全6題構成の内、2題しか終わっていないというべきか。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


60分で6題の問題を解く。つまりは10分で1題が妥当なペース。

なのに40分で2題の問題しか解けていない。20分に1題の間隔。

この状況で20分で4題。5分で1題の速度で解いていく必要がある。


それ、つまりどういうことか。

2倍の速度で解いていけばイイジャンとか言っている人は、数学が苦手だろう。

仮に全問題がすべて均等な難易度で設定されているとすれば、

おそらく残りの4題も20分で1題解くのが限界…だということだ。


このままの速度で行けば、40分で解いた2題と合わせ、合計3題しか埋まらない。

仮に全問題が全て均等な点数配分で設定されているとすれば、

最大でも50点しか取れないということを指している。


テストは50点未満が不合格。つまり、1点もロスできない。

この期末試験が成績の全てを決定しているのだから、このテストがダメなら弁解の余地はない。

テストを受けた人なら分かってくれるだろうが、99点以下と100点では隔たりが存在する。

本当にどうしようもないところで減点されてしまうことが、往々にしてあるからだ。

ボクはそんな分の悪い賭けに乗るつもりはない。


閑話休題。話がそれてしまった。

10分で1題が妥当ペースなら、2倍速でとけばイイジャン…ではない。

今までが20分に1題の速度なのだから、5分で1題のためには、さらに2倍の4倍速で解く必要がある。

しかも今からそれをする必要がある。自分で言うのも難だが無茶ではある。


そんなものはアレだ、どうせ後半で毎日2倍のページ数「夏休みの友」をやればいいのだからと、

夏休みの前半を浪費するという馬鹿げた例となんら変わりない。しかもこれはさらに2倍なのだ。


そもそも数学の試験で、4倍速を実行する際に必ず問題になるのは、計算過程を書く時間である。

答えが仮に浮かんだとして、そんなに高速でカリカリ書けるわけがない。


期末試験というのは当然だが、テスト範囲をちゃんと勉強したことを前提にして出されている。

つまり、比較的すんなりと答えのビジョンが浮かんでくるようでなければ、時間内に全題解くのは厳しい。


1題10分であるため、見直しが1分と考えると実質9分。思考時間はおそらく、記入時間とは別に設けてあると仮定すると、

思考時間:記入時間=1:2として、記入時間は6分はかかるだろう。

記入時間がオーバーしている時点で、5分で1題解答は不可能ではないのか。


いくら中年の先生と違って、若さの力で5分間で記入できたと考えてもだ。

ノーシンキングでなおかつ見直しもない。どちらにせよ非常に厳しい現実が待っているではないか。


テスト問題が教科書からそのまま出される系列ならまだいい。

計算過程そのものを若さの記憶力で覚えていれば、スラスラ書けるだろう。

答えの値を参考に、計算式を編み出すというテクニックもできなくはない。


だが、先生はその1歩手前を行く。値をチェンジする。更に、文章すらも改変する。

これは絶望的としか言いようがない。

前者はまだ計算過程の値を変更すれば問題がない。計算をする分の時間をロスするものの、致命的ではない。

しかし後者に至っては、値をどこに入れればいいかさえ分からなくなる。

解答は暗記していても、問題文までは流石に覚えていない。


…テスト勉強を暗記に頼った者は、基本ここで撃沈する。

ボクはまっとうに勉強してきたものの、4倍速解答を強いられてきたこの状態では、まずい状況である。


だが、勝機はある。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


残り20分。

みんなの記入音をききながら、第3問に取り掛かる。

…計算過程を完全に書く余裕などない。要所の答えがあっていれば部分点は狙える。


この問題は微分積分である。

計算の文量が多い部分などは書かず、そのまま答えの値へとイコールを結び合わせる。

これはシンキングタイムを手に入れるための策である。

全題解いたあとに時間が余っていたら、こっそり足してやるつもりだ。



残り15分。

第4問は選択肢から正解を選ぶ形式である。

立方体の辺上の2点PQ間の距離を求める問題。

勉強をした覚えはあるのだが、証明や定理の利用をしていかなくてはならない。

そのまま解いてもよかったが、ここは絶対の安心を手に入れるために定規を使用する。


暗記対策をキッチリする我らが先生は、説明図の描写もキッチリしていた。

AB:BD=1:2なら、説明図上でもちゃんと1:2の比率で線が引かれているわけである。

これを利用すれば、定規上の1cmが説明図上で何cmになっているかを求めることで、

擬似的にPQの距離を知ることができる。選択式ならそれに近い値を答えとして入力すればいい。

あとは、あたかもちゃんとした計算で求めましたよと偽装工作の計算過程。


答えから過程を導く、ちゃんとテスト勉強したからこそなせる動きである。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


そもそもなぜ、20分で1題しか解けないなどというヘマをやらかしたのか。

言うなれば、誤読というのが正しいだろう。


1題目は確実に満点を取りに行くため、必要以上に答案に計算過程をぎっちりと書き、

「4つの辺で構成された」を「4つの点で構成された」と読み違えていたために、計算過程を全部消した点。


2題目は、解法のど忘れ。よりにもよってあまり重視しなかった部分から出されたため、不意をつかれた。

(ちなみに本腰を入れて勉強したところは全6題の中にはなかった)

本来なら次の問題に移るべきだったのだろう。

しかし、なまじ問題が「確率」の問題だったのがボクにとっての不幸だった。


なんたって、何か解けそうな気がする。

要はパターンを全部書き、その中から該当するパターンを抜き出して書けばいいわけなのだから。

樹形図を書きながら、僕は思っていた。

(ここで時間をかけたとしても2倍速で4題を片付ければ問題ない!!)


…とまあ、そうやって時間を費やしていった結果、本当にまずい状態になってしまったわけである。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

残り10分。

第5問。

行列とベクトルの問題か。いくつかの小問から構成されている。

例にもよって、小問1の答えが違うと、全部の問題が崩れるという凶悪なオマケ付きである。

小問毎に明確に区切られている分、ちゃんと得点が手に入れられるのは利点で


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


…突然、猛烈な違和感が襲う。

脳内のデータベースがまさかを告げる。


404  Not Found...

(ボクは、この問題をやったことがない)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


シャープペンシルが止まった。

小問1さえ突破できる気がしない。

ベクトルや数式に関する公式はわかる。じっくり当てはめれば解けるかもしれない。

しかし残り10分で2題を残した。それでは間に合わない。


…次の問題に飛ぶしかないか。


残り時間は8分。最終問題は命題であった。

ベン図を書いて、必死に応戦する。

証明を記述していく形式のこの問題では、如何に文章を短くまとめるかが重要になる。

合計3題の命題推理を、ほぼノーシンキングで進める。


「残り3分!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


先生の宣告とともに、最終問題は終わった。

残すは第5問であるが、わからない問題をほじくり返しても仕方ないことを、ボクは経験上知っている。


…まあ、不合格は免れただろう。

あとは第3問の計算過程を適当に書き加えておけばOKだろう。


そんな気持ちでペラペラと計算用紙をめくる。


チャイムが鳴り、先生は声をかける。



「やめ。筆記用具を速やかに置きなさい。解答用紙を後ろから前に渡していってください。」

「計算用紙と問題用紙は持って帰ってください。」

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