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無礼講化作戦  ~特別編~

俺と天長は今、天川あまがわにいる。


天川は、西暦2300年以前は多摩川って呼ばれてたらしい。


山梨県・東京都・神奈川県を流れる天川水系本流の一級河川で、岸の開発が未だに進んでないため、川辺の野草や野鳥が数多く見られる自然豊かな河川だ。


まあとにかく、俺達が住んでる空ヶ谷区(そらがやく)の住民にとって一番馴染み深い川。


その川の畔に俺らは、23時半を過ぎている深夜だというのに二人きりでレジャーシートを敷いて座っている。


ちなみにノリさんが造ったルトガーは使わないで、電車でここまで来た。


しかしそろそろ帰らないと終電が……。




「寒いね」


「え、……あ、はい。 もう秋ですからね」


関東の10月10日の深夜といえば、さすがにもう半袖では出歩けないぐらいの気温だ。しかもここは河原。何の障害もなく吹く風が、格別に身に染みる。


「天長はこれ着てください。俺は大丈夫ですから」


「ん……ありがと」


天長が俺の上着を着る。


俺は昔から寒さにはそれなりに強い体質なので、上着を渡した今半袖になってしまったがまだまだ大丈夫だ。


「……敬語、外していいよ、今ぐらいは。なんか気になる」


天長が珍しい発言をする。


「え、はぁ……。 でも……難しいです」


「……ふふっ。 だって、準のほうが年上じゃないの」


天長がクスクス笑いながら言う。


「それはそうですけど。 今は天長が上司ですし……」


「出会った頃みたいな話し方、よ」


「あー……、そういえばあの時はそうだったかも」


「うん。 時が経つのは早いわねー」


「天長は……」


「こーら。 呼び方も」


「え? でもなんて呼べば……」


「アリスでいいよ」


「……アリ……ス……」


……女の子を呼び捨てで呼ぶことがこんなに難しいなんて!!


いや、アリフとアリルのことは普段から呼び捨てしてるけど、天長は大人びてることが多いせいか、妙に緊張する。


「そう、アリス。 ア・リ・ス」


天長……アリスが、まるで子供に発音の仕方を教えるかのように優しく言う。


「……アリスちゃん」


「それは馴れ馴れしすぎ」


頬をつねられる。


「すひひゃひぇんひぇしひゃ(すみませんでした)」


「……ま、そう呼びたいならそれでもいいけど」


「冗談だけどな」


アリスがくれた頬のヒリヒリ……じゃなくて温もりが、妙に気持ちいい。やっぱり寒いのだろうか。




「今日は……、本の整理手伝ってくれて、ありがと」


「いやいや全然気にすることねえよ。アリスの面白い趣味も見れたし」


「むっ、その話は禁止って言ったでしょー」


「あの後大変だったよなー、必死に隠すの」


「だって、あんな趣味、アリフ達にはまだ見せられないもん」


「まあ、特にアリルにはまだ有害かも?」


「有害言うなー!!」


「ははははは」


「ふふっ……うふふふふふ」


俺達は笑い合う。つい今日の事だというのに、もう昔の良い思い出みたいだ。




「呼び方も、ありがと」


「全然こんなの」


本当は緊張で心臓バクバクだけど。


「私、準に呼び捨てにされてる妹たちが羨ましかったんだよねー。 それに私を呼び捨てにするの、お母様ぐらいなものだからさ?」


「あぁー……」


そうか。確かに天長を名前で呼ぶ人を、俺は直接見たことがない。


『天長』が姉や上司という目上の立場にあるからなのか、それとも『アリス』自身の雰囲気がそうさせるのか。


「だからさ……私、嬉しい♪」


「……アリスが良ければ俺はいつでも……」


「そっ、それはダメ!! ま、まだ、恥ずかしいし……み、みんなの前でそう呼んだりしたら、ダメだからね!?」


「わかったわかった」


「むー……ホントにダメだからね!!」


「はいはい」


「ホントにわかってるのかなぁ……」


「でもなんで急に無礼講?」


「……二人っきりの時ぐらい、いいかなって」


「……二人っきりだねえ」


深夜の綺麗な河原で、若い男女が二人きり。


シチュエーションやムードなら完璧なのだろうが、俺はこの手の経験が皆無だから気の利いた一言すら言えないでいる。


「……星が綺麗ね」


「……綺麗だね」


あーもう!! もうちょっとまともな返事はできないのかよ俺!! 「君のほうが綺麗だよ」とか……いや、さすがにそれは臭いか。それにそんな仲じゃ……。




「……私ね、星を見に来たの」


「お、おう」


「秋の四辺形って知ってる?」


「名前ぐらいなら」


「あれと……あれと、あれと、あれ。 結んでみて?」


「……うわ本当だ!! 四角形だ!!」


「でね、あそことあそこと、あれとあれとあれと、下の方のあれとあれとあれを結ぶと、ペガスス座」


アリスが空を指差し線を書きながら説明してくれるので、俺も必死に追う。


「でも線だけで動物とか人物とか物を想像できるって、昔の人はすごいよなー」


「そうねー」


空を見上げるアリスの瞳には、空の星が映っていた。それがアリスの目をキラキラ輝かせていて、普段より更に綺麗な目をしている。


「ちなみに今日の0時ちょうどに流星群が来るわ。それを見るのが今日の最大の目的」


「流れ星が来るのか?」


そんなニュースはテレビで聞いてないんだが。


「…………という設定。今私が決めた」


「なんじゃそりゃ」


俺はズッコケるようなリアクションを取る。


「あと1分ね」


「うわもうこんな時間か」


携帯で時刻を確認すると23時59分。とっくに終電は無くなってしまっていた。


「ここまで来たんだから、最後まで付き合いなさいよね」


「もちろんそのつもりだが」


「ふふっ♪ あっ!!ホントに流れ星来た!!」


「え、うわ本当だ!! やべえこれ!!」


「あ、そうだお願い事!!」


「何をお願いするんだ?」


「ふふふー、教えなーい♪ ……ますように、……ますように、……ますように」


聞き取ろうかなとも思ったが、なんかプライバシー的なアレコレでやめといたほうがいい気がした。


「準はお願いしないの?」


「ん、そうだなー。せっかくだしするか。 うーん…………、……アリスが幸せになりますように、アリスが幸せになりますように、アリスが幸せになりますように」


「…………」


「……な、なんだよ」


「べーつにっ♪」


「こ、これしか思いつかなかったんだよ!! やっぱりPS8にすればよかったかな」


「ばーか♪」


「んでどうするよ。もう終電無くなっちゃったぞ」


「歩いて帰れない距離じゃないでしょう?」


「そ、そうだけど……2時間ぐらいかかるぞ?」


「いいじゃん、歩いて帰ろ♪ ほらっ」


アリスが先に立ち上がり、俺に手を差し出してくる。


俺はその手を取り立ち上がる。と、アリスが俺の左腕に自分の両腕を絡ませてきた。


「わわっ、な、なんだよ」


「ふふっ♪ だってこの方が準も暖かいでしょ?」


「そ、そうだけど」


「ぶれーこーだよ、ぶれーこー♪」


「なんじゃそりゃ。 …………アリス」


「はぁい?」


「誕生日おめでとう」


「……ふふっ♪♪」




アリスは更に俺の腕にしがみついた。

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