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更生する天会

「人生やり直すのに、遅すぎることなんてないのよっ!!」


天長がいつものように大きな胸を張って何かの本の受け売りを偉そうに語っていた。


「あー……俺人生やり直したい……」


俺は机にうなだれる。


「大丈夫♪ 準の人生は、私が変えてあげるから!!」


天長が俺の頭をポンポンしながら言う。


「それはどういう……?」


「な、なんでもないわよっ!! 勘違いしないでよねッ!!」


「お姉さまがそうやってそいつを甘やかすから、そいつはどんどんダメになっていくんだと私は思います。 いっそ死んだらいいのに……」


アリルが黒飴を舐めながら相変わらず不機嫌に言う。


「アリス姫。濡れ雑巾とのお戯れもほどほどに。御手が穢れてしまいます」


タクスが天長のカップに紅茶を注ぎ、天長の手をナプキンで拭きながらサラッと言う。


「今の雑巾って俺のこと!?」


「この雑巾……喋るぞ!!」


「俺は雑巾じゃなああああい!!」


「まぁまぁ落ち着いて」


アリフが殺伐としてるこの空気を中和してくれた。


「そう。私は今日は準のことじゃなくて、天会全員のことを議題にしたいの。ハッキリ言ってこの天会……変人だらけだわ!! 更生の余地あり!!」


天長が机をバンと叩く。


「更生、ですか」


俺は周りを見回す。


イスに相変わらず正座で座りながら、コーヒーに砂糖……いや、砂糖にコーヒーを入れているカ◯オ君のお面をした謎の男、メア。それでも甘みが足りないらしく、更に板チョコを割って付け足していた。


アリルとタクスの人によって(てか俺に対してだけだけど)態度を変える口の悪さも、更生したほうがいいかもしれない。


俺自身も悪い所はかなりあるし、天長も……何かを変えたほうがいいだろう、きっと、うん、何かを。


アリフは何ら問題がない気がする。


となるともう一人……。


俺はそいつを見る。


そいつはさっきからずっと床に頭を付けて逆立ちしてヘッドスピンをしている。ヘルメットしてないし……禿げるんじゃないか?




こいつの名前はTM(ティーエム)。本名は星馬で苗字はわからない。見ての通り暇な時はずっとヘッドスピンをしてたり、曲も流れてないのにリズムを刻んでたりと、とにかく落ち着きが無いやつだ。


身長は俺より少し高めの175弱といったところで、常に動いてるせいなのかやや細めの身体。




「天長。前も聞いたんですが、なんであんな人が居るんです……?」


俺は視線でTMを指す。


「だからなんとなくよなんとなく。なんか会議室のBGM……じゃなくて人間だから、BGH(バックグラウンドヒューマン)みたいに、『とりあえず居た方がいい人』みたいな?」


「ああいう人が一番地球の酸素を無駄にしてる気がしますです……」


アリルの切れ味抜群のナイフツッコミ。


「とにかく!! この部屋は変人だらけ!! 特にアリフ!!」


『えっ!?』


俺とアリフの声が重なる。アリフが一番マトモだと思うんだが……。


当のアリフ本人もよくわかってないようだ。


「わ、私普通だよ?お姉ちゃん」


「いいえ。一見アリフは普通に見えるわ……でもそれが盲点!!」


「!!」


天長がアリフを指差し、アリフが少しビビる。


「この変人が集う部屋で、アリフという普通の人が居ることは、『普通』じゃない!! 普通だということは、普通じゃないということなのよ!!」


『!!!!』


なんとうい説得力と迫力……じゃなくて!!


「いやいや天長、アリフはこのままでいいと思いますよ。アリフまでアリルみたいに悪口を覚えられたりしたら、たまったもんじゃないです」


「ちょ!!それはどういう意味ですか!! まるで私がいつも口が悪いみたいじゃないですか!!死ね!!」


アリルが突っかかってきた。毎度毎度うるさいヤツめ。少しはスルースキルをだな。


「そういうところだっての!!」


しょうがないから相手をする。


「Shine!!」


「流暢に言っても何も変わらないから!! そしてそれは読み方シャイン!!」


俺とアリルがギャーギャーしてる間にアリフが天長に聞く。


「じゃあ私、どうしたらいいの?」


「そうねー。 とりあえず敬語をやめなさい? ぶっちゃけアリルと被ってるし」


「ふぇっ!? 私を普段から敬語を使うように育てたのはお姉ちゃんなのに……」


「そ、そうだったかしら? ゼンゼンオボエテナイワー」


「それに私、そんなに敬語使ってないよ……? 準さん相手ぐらいじゃないかなぁ?」


「そこよ!!その『さん』付け!! まずはそれを外しなさい」


「ふぇっ!? 主だからって威張ったりせずに、使用人にも礼儀を持って接するっていうのがお姉ちゃんの流儀じゃ……」


「その『ふぇっ!?』も禁止!! 次からは『はうっ!?』にしなさい」


「ふぇ……じゃなくて、はうっ!?」


「良い感じね。んで語尾にはそうねー……ZE☆をつけなさい」


「お姉ちゃんは私に何を求めてるの!? ……求めてるのZE☆!?」


そこにアリルが割り込む。


「お姉さまお姉さま!! 私も更生という名のお姉さまの愛を受け取りたいです!!」


「アリルも? んー……じゃあ全部カタカナぽく喋るとか」


天長がほとんど投げやりに指示するが、アリルはそれを喜んで受け取る。


「コウデスカ!!」


「うんうん」


「お姉ちゃん、これいつまで続ければいいのZE☆?」


「とりあえず今日はずっとそうしてて」


「リョウカイデス!!」


「天長、俺は?」


この流れだとどうせ俺にも何か定められるのだろうから、先に聞く。


「準はー……使う言葉の意味を逆転させてて」


「? どういうことですか?」


「た、例えばよっ? 例えば……例えばだけどっ!! その……『俺はお前が好きだ』って言いたかったら、『俺はお前が嫌いだ』って言わなくちゃいけないってこと!! 主格は変えなくていいわ。ややこしくなるから」


「は、はぁ」


結構難しい縛りが設定されてしまった。


「と、とにかく頑張ってみま……あー、じゃなくて、頑張りません」


「うんうん。よし、じゃあ一旦三人で話してみて? 私は傍観してるから。ではスタート!!」




「な、何話そうかZE☆?」


「ナンデモイイデスー」


「俺もなんでも良……くない」


「話題ないと困るよーZE☆」


「デハクロアメニツイテ」


「なんで黒飴……じゃなくて白飴について話さなきゃ……話そう」


「じゃあ黒飴についてでいいZE☆?」


「ワタシハネー」


「と言っても俺黒飴……白飴のこと全て知ってるんだが」


「では準さん……じ、じじじじ、準……に語ってもらいましょうZE☆」


「オテナミハイケンデス」


「いや、だから、俺は白飴のこと全部知ってるって!!」


「知ってるなら話しましょうよZE☆」


「みんな天長の話聞いてなかったよね!? 俺は反対で喋ってないわけで!!」


「ハンタイジャナイナラ、ソノママノイミッテコトジャナイデスカー」


「や、だからこれはねっ!?」


「はい終わりー」


天長がパンパンと手を叩く。




「想像以上に疲れた……」


机に突っ伏す俺。


「高橋君お疲れ様です」


メアが俺にコーヒーを差し出してくれた。


「ありがとう。 ……ってもはや角砂糖しか入ってない!!」


「美味しいですよ。コーヒー『風味』の角砂糖」


「主役交代してるうううう!! しかも代役が『食べ物』ですらない!! 調味料!!」


「メア様の『コーヒー』は特製ですからね」


タクスが言う。


「これを『コーヒー』と呼んでいいのか……。タクス、俺に普通のコーヒーを……」


「濡れ雑巾には淹れない」


「……」


即答だった。まあ、わかってはいたんだけどさ。


「ヘイ!! キルユー!!」


いきなりTMが俺の首に腕を絡ませ話しかけてきた。


てかいきなり殺されること予告されてる!?


「あっついから離れろって。それに俺を軽いノリで殺すな」


「ここはいつ来ても楽しいネー。 アイラブディスルーム!!」


見ての通りTMはこんな感じで、会話の端々に英語が混ざる。さっきのキルユーみたいに、使い方が間違ってる時とかもあるが、いちいちツッコんでたらキリがない。


「まあ確かに楽しいがな」


三姉妹の方に視線を向けると、何やら紙をパラパラめくって盛り上がっていた。アリフとアリルはまだ天長の指定した口調だ。


「ということは楽しくないと?」


メアが俺に聞く。


「ん? 今楽しいって言っただろ?」


「つまり楽しくないと」


「???」


「意味が反対なんですよね」


「……あー、今は意味反対にしてないぞ俺は」


「なるほど。では楽しいと」


「そうだ」


俺は疲れきって普段の素に戻ってたのに、メアは天長ルールで俺の言葉を解釈していたらしい。律儀なやつだ。


「ややこしいルール!! ワールドハードルール!!」


「意味がわからんぞTM」


「ここのみんなはフレンズ!! 美味しいのはプリ◯ツ!!」


「ポ◯キー派だがな」


「ポッ◯ーはピストル!! バキュンバキュンバキューン!!」


「なんで!?」


「プ◯ッツをご用意致しました」


タクスが俺たちに差し入れてくれた。


「……タクスいつの間に用意したんだ」


「先を見越すことなど、俺ほどの世界レベルの執事になれば当然だ」


「マジか……先が思いやられるぜ」


「貴様には到底追いつけない領域だろうな」


「でも俺頑張るから。主や天長、……ちょっと癪だがアリルのためにも」


「……ふん」


タクスは三姉妹の方に行った。少し笑みに近い表情が見えたのは気のせいだろうか。


一方三姉妹はといえば、まだ盛り上がっていた。


10月に入ってからというもの、議題が終わるとよく3人で集まって何かを相談したりしているみたいだ。ああしてるとやっぱり、この三姉妹はすごく仲良しなんだなあと思う。


俺はその光景を見ながら思った。




…………今度こそ、な。




ウラヌスグループ天会。


ここでは、今日も更生の必要なんてない会話が繰り広げられている。

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