駄弁る天会
「世の中がつまらないんじゃないの。貴方がつまらない人間になったのよっ!!」
天長がいつものように大きな胸を張って何かの本の受け売りを偉そうに語っていた。
「……そう……かもしれませんね……」
俺がこの天会とやらに半ば無理やり入れられてから初会議。初っ端から俺にとってかなり痛い議題なので、俺は口を濁す。
「まぁまぁお姉ちゃん落ち着いて」
天長のコップにカルピスを原液のまま並々と注ぎながらそう宥めるのは、天会の会計担当の天王院アリフだ。ちなみに今アリフにお姉ちゃんと呼ばれた、天長ことこの人物の名は天王院アリス。
「ふっふー。夢の一つも持ってないなんて、つまらない男です」
今天長に同意したのは、天王院アリル。
名前で分かる通りこの三人の少女は姉妹で、長女がアリス、次女がアリフ、三女がアリルである。
姉妹なのだが、この三人は恐ろしいほどあまり似ていない。
長女のアリス天長の特徴は、まず何と言っても金髪ロングヘアー。たまに気まぐれでツインテールにすることがある。次に大きな胸、細い腰、長い足、白い肌、大きな目、整った鼻、ピンク色の唇、健康的な細さの脚など、一言で言えば外見完璧少女だ。
次女のアリフは、まず身長が170センチあるのが特徴。銀髪ロングヘアーで、姉アリスほどではないがそこそこ大きな胸や長い脚と白い肌、黒目が少し大きく、ファッションや嗜好がどちらかというと男寄りな、ボーイッシュ少女。
三女のアリルは、今時珍しい黒髪で、姉たちと違ってとにかく低身長、身体の起伏に乏しい。本当に高校生なのかを疑いたくなるほどの幼児体型。メイド服やゴシックロリータ等、黒くてフリフリしてる服を好むちびっ子少女。
というように、本当に同じ母親から生まれたのか心配になるほどの外見のバラつきだ。まあ俺が言えたことじゃないんだけども。
ちなみに三人の年齢は、アリスが17でアリフが16でアリルが15。好きな物はアリスがカルピスで、アリフがポテトで、アリルが黒飴だ。
「私はすごく落ち着いてるわ。落ち着きすぎて新たな宗教が開けそうよ」
カルピス(原液)を優雅に飲みながら天長は言う。
「というわけで、私達で高橋準の新しい夢を考えてあげよう!!」
「ええぇっ!」
天長の一言に、俺は某マ◯オさんみたいな声を出して驚く。
「あ、それはいいですね♪」
「えー……なんで私がこんなヤツの夢なんか考えなきゃいけないんですか……」
という、アリフとアリルの反応。
「アリルそういう露骨に嫌そうな顔しないのー。私だってホントはめんどくさいんだから」
おい。
「そういうわけだから、私達三姉妹で準の将来の新しい夢を、考えてあげまーす」
なんでもう一回言ったんだ天長。そして一回目と違って明らかにやる気なくなって棒読みだし。絶対一番最初のセリフ言いたかっただけだろこれ。
「準さんは、何か希望の職種あるんです?」
アリフが俺に聞いてくる。この子だけが健気に議題を続ける。
「んー……と言っても本当に何もないんだよねー……」
我ながら情けない回答。
「消防士になって燃え尽きるとかどうですか?」
今のはアリルだ。
「あーそれもいいかもだねー」
内容がヒドいので適当にスルーする。
「そ、それはダメ! 絶対、ダメ!!」
天長が机を両手でバンと思いっきり叩いて立ち上がる。
空気が凍った。
天長が真剣に俺の目を真っ直ぐ見つめるので、気圧される。
天長のパッチリ綺麗な目が、普段と違って少し曇っている気がする。もしかして、泣いてる……?
目を逸らして周りを見てみると、アリフは俺ら二人を交互に見てショボくれた顔をしているし、アリルは黒飴を口の中でコロコロしながら不機嫌そうに俺ら二人をチラチラと見てくる。
俺は視線を戻し、恥ずかしいが天長の目をまっすぐ見る。
「あー……えっとー……、冗談、ですよ? 暑いの嫌いだし。あははは……」
「……なら、いいけど」
天長は椅子にまた座り、授業中に寝るときによくやるあのうつ伏せ状態になってしまった。
「……あ、消防士はともかく、公務員はいいですね。お給料も安定してますし」
アリフが取り繕うように空気を変える。
「公務員ねー。役所とかだよね? 留年持ちの低学歴だけど、なれるのかなー」
せっかく考えてくれたのにこのネガティブ発言。俺の悪い癖だ、改善したい。
「資格さえあれば、いいんじゃないですかね。私もよくわからないですけど……えへっ」
頭を掻いてチラッと舌を出すアリフ。かわいい。
「なに鼻の下伸ばしてるんですかだらしない」
アリルがまるで心を読んだかのように鋭いちょっかいを入れてくる。
「伸ばしてないぞ」
「ふんっ」
えー……初っ端の会議から何このやりづらい空気……。
アリフばかりに構ってもらうのも迷惑だろうから、俺は部屋にいるもう一人の男に話しかける。最終手段として。
「タクスはどう思うよ? なんか俺に向いてそうなのあるかねー」
「……そうだな、貴様みたいなゴミには、雑巾になって床を掃除するとかが向いてるんじゃないのか」
「雑巾……」
だから話しかけたくなかったんだ。マトモな返答来ないことわかってたし。
天王院タクス。天長アリスの専属執事だ。天長のどんな命令も完璧にこなす優秀な人だが、今見たようになぜか俺にだけ態度が冷たい、俺にだけ。
ちなみに俺は次女アリフの専属執事である。俺がアリフにタメで話すのは、主であるアリフの命令もといお願いなので、俺がすごく失礼千万な野郎だとは勘違いしないでいただきたい。
執事と言っても、タクスと違い俺のはほとんど名ばかりであって、天長が俺を家に置いておくための大義名分みたいなものだ。
だから俺は従者らしいことはほとんどしていないし、その代わりに給料も頂いていない。この契約は俺が大学を卒業すると切れるので、将来の夢は別に考えなきゃならなくて今回の議題、というわけだ。
「タクスー、ダメでしょマジメに考えなきゃー」
天長がうつ伏せのまま言う。
「にゃあ」
変な返事だが、天長の趣味でタクスにそう言わせているらしい。
タクスがこっちを見る。
「……だめだ……、真剣に考えれば考えるほど思いつかない……こんな雑巾に何の仕事が出来るんだ……」
「ひでえなっ!」
よっぽど俺は駄目な子なようです。
高橋準20歳。無能なのは自分が一番知ってますが、他人に言われるとさすがにヘコみます。
「……ま、夢なくてもいいじゃない」
天長が伏せてた頭を起こしながら言う。
「私がそばにいる限り、準の人生はつまらなくなんてならないわよ」
「……天長。それって……」
「……い、言わないでっ! 自分でも今すごく悲しいこと言ったと思うわ! あーやだやだ!」
……そういう意味じゃ、なかったんだけどな。まあいいか。
「と、とにかく、私が準の人生の花になるから!!」
「では俺は、しっかりとした土になります」
今日一番の笑顔を天長に向ける。
「わ、私も! 主として立派になりますから!」
突然アリフが負けないぐらいの大声で俺に言う。
「お、おう……。てか、今でも十分立派な主だけど……」
「もっとです!!」
こういう時の我が主の顔は、天長にそっくりになる。やっぱり姉妹だ。
「……なれますよ、絶対。俺も主に恥じない従者になるよう頑張ります」
「……へへっ」
「やれやれ、それなら、俺も仕方なく協力してやろう」
タクスだ。
「貴様はまだ執事のSの字も分かってないほどの新米だからな。俺が一流に育て上げてやる。家に戻ったら覚悟しておけ」
「あ、ありがとう……」
「勘違いするな。仕事をこなし過ぎて逆に暇を持て余してたところだ」
「そういうの、すげえと思うよ。見習いたい」
「存分に見習うがいい」
「アリルは何かあるー?」
天長がアリルに話を振る。
「ふえっ!? わ、私ですか!」
「うん」
「わ、私は、お姉さまのお嫁さんになります! 今日改めて決めました!!」
『えっ、えええぇぇぇ!?』
俺と天長とアリフがハモる。
タクスは「やれやれ……」といった感じに額に手を当てている。
ウラヌスグループ天会。
ここでは、今日も平和な会話が繰り広げられている。
メインキャラクタープロファイリング①
高橋準 真名:ルーク=レイブリット
生年月日:11月1日 身長:171cm 体重:66kg 血液型:AB型
好きな食べ物:ラーメン 好きなもの:逃避 趣味:散歩
嫌いな食べ物:魚料理 嫌いなもの:現実 特技:昼寝
知識:7 行動力:5 社交性:5 人情:9 運:8 戦闘力:7
・大学での成績不振が原因で親から勘当されたところを天王院アリスに拾われた青年。それ以降はアリスが保護責任者となり天王院宅に居候、次女アリフの執事として仕える。
・一見根暗オタクっぽい風貌だが、実際は特別にアニメやマンガが好きというわけでもなく、趣味が散歩やテニス、ラーメン屋訪問などアウトドアな一面もある。
・様々なことが原因でコンプレックスが非常に強く、自分は社会に必要ない存在だと考えている。諦めが早い放棄主義なところがある。
・元々は指定校推薦で大学に進学したほどの優れた勉学資質を持っているが、その自分の力を過信して努力を怠った結果、大学3年生にして既に留年が確定してしまった。
・中学時にクラスの女子とトラブルがあってから女性が苦手になり、なるべく女性との接点を避けるようになる。現在でも苦手意識は克服されていないが、天会に入ったことで徐々に治りつつある。
天王院アリス 真名:アリス・サンナイト=ウラナス
生年月日:10月11日 身長:160cm 体重:45kg 血液型:AB型 B90(F)/W55/H79
好きな食べ物:カルピス(原液) 好きなもの:妹たち 趣味:空想
嫌いな食べ物:キノコ 嫌いなもの:流行 特技:発案
知識:9 行動力:10 社交性:10 人情:8 運:10 戦闘力:9
・世界的大企業ウラヌスグループの跡取り娘の長女。母エリスに代わりウラヌスグループを運営する。ケガの介助要請に訪れた準を保護し、次女アリフの執事として雇うことで正式に保護者となる。
・地毛の金髪ロングストレートに、女性の憧れを具現化したかのようなスタイル。しかしアリス自身は身長がもう少し欲しいと密かに悩んでいる。髪の色は特殊条件下で変わることがある。
・極度の自信家。男子中学生にありがちな厨二的発言や卑猥な妄想をする反面、髪のシャンプーに時間を掛けたりレースの付いた服を好むなど女性らしい一面もある。
・文武両道、容姿端麗、完全無欠という圧倒的ハイスペックに奢ること無く、常に高みを目指して努力することに余念がない。またその高いカリスマ性から交友関係が広く、目上同僚部下友人問わず信頼が厚い。
・中学校からの帰宅中に誘拐された過去を持ち、それがキッカケで一時期人間不信に陥っていたが、現在はほとんど克服済み。
天王院タクス 真名:タクス・ゼクシーズ=アビス
生年月日:11月22日 身長:178cm 体重:59kg 血液型:B型
好きな食べ物:ミルク 好きなもの:プラモデル 趣味:読書
嫌いな食べ物:トマト 嫌いなもの:喧騒 特技:迷子
知識:8 行動力:9 社交性:3 人情:6 運:5 戦闘力:8
・幼き頃から天王院三姉妹に仕えている執事。準が雇われてからは次女アリフの世話を準に任せ、タクスはアリスとアリルの世話をすることになった。準の先輩に当たる直属の上司。
・長身細身に少し長めの黒髪。メガネとコンタクトレンズを使い分ける。外に出る際も必ず執事服。
・アリスには甘えた態度をとることもあるが、準には辛口で接する。基本的には口数が少なめで、派手さを一切持たない寡黙なタイプ。
・執事の仕事に誇りを持っており、迅速且つ実直にこなす。アリスが遊んでいる間のウラヌスグループの仕事をすることもしばしばある縁の下の力持ち。手先が非常に器用なため、どんな難しいことでもやり遂げる。また語学能力も高く、アリスの元で通訳をすることもある。
・執事修行として1年間イギリスへの留学経験有り。