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仙人事録  作者: 三神ざき
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公望、弟子を取る!!

人間界の、とある山奥に遊牧をしながら生活をしていた、二人のそれは美しい双子の姉妹が住んでいた。二人はまだ若く、早くに両親をなくし身よりもなかったため、二人は手に手を取り合って暮らしていた。お世辞にも裕福とは言えず、とても貧しく質素な生活をしていたが、羊相手に楽しく毎日を暮らし、二人はお互いがいればそれだけで幸せだった。

 そんなある日、普段なら人など訪れることのめったにない地に、一人の若い男性が訪れた。丁度、姉がひとりで羊達の世話をしている時だった。その男の話では、なにやら自分は仙人と呼ばれる存在で、弟子を探している。そして、姉に仙人になれる仙骨というものを持っていて、よかったら自分の弟子にならないか?と言う。面倒はすべてその男が見るという話だったし、その男は仙人とはこういう存在なんだということを説明した。姉は仙人の事など知りもしなかったが、男の話を聞いている限りだと悪い話ではない。男も必死にお願いをしてきたため、その男の弟子になってみようと思った。しかし、気になったのは、最愛の妹の事である。もし自分が仙人になるため、人間界を離れては、妹は一人っきりになってしまう。人一倍さびしがり屋で、まだ、精神的に幼い妹を放っておく事はできない。しかし、優しい妹の事だから、自分の幸せを願い、きっと無理をしてでも自分は大丈夫と男の下に行かせるだろう。ただでさえ、不憫な妹をこれ以上可愛そうな思いをさせたくはなかった。

 姉は、その事を男に話した。なんとか、妹も連れて行くことはできないかと頼んでみた。しかし、男が言うには、仙人が弟子を取れるのは一人だけであり、さらに妹が仙骨を持っていない事には連れて行こうにもできないと言う。それを聞いて姉は、妹を想い、妹を連れて行けないならその話は断ると、頑として言い張った。

 男は非常に困った様で、とりあえず妹に会わせてくれと、二人して妹の元に向かった。男は妹に事情を説明すると、案の定、妹は姉が幸せになれるならと、私は一人でも大丈夫と言って仙人になる様に進めた。でも姉は、やはり妹の事を放っては置けなかった。両親をなくしてからたった一人の大切な家族。今まで辛い時も二人して何とか乗り切ってきたのだ。なにより、自分以上に、性格上不憫な生活をしてきた妹に、これ以上無理も辛い思いもさせたくない。

 姉と男は悩んだ。その時、ふと男は、妹にも仙骨らしいものがある事に気が付いた。姉ほどはっきりした状態ではなかったが、仙骨が生えかかっていたのだ。二人同時に仙骨を持っているなど珍しい事ではあったが、それに気づいた男は、どうしても弟子を必要としていたため、妹の弟子の件はなんとかするから、二人を仙人界に連れて行くことにした。姉も妹も共に行けるなら、どこでも良いと言い、喜んでその男の後に着いて行った。


 仙人界は今日も、平和だった。公望は、のんびりとちょっとした山の上で風麒麟と共に寝そべっていた。見回りも一通り終わり、時間が余ったためサボっていたのだ。ボーっと空を見上げながら、心が自然と無になっていく。


「平和じゃの〜」


「そうですね」


「報告に行くのが面倒じゃの〜」


「そうですか」


「今日ぐらい行かなくてもよい気がするわい。毎日言う事なぞ、一緒じゃからな〜」


「はぁ〜」


「このまま、のんびりここで寝てしまうか?」


「おまかせします」


 その時、ピーピーと連絡用宝貝がなった。


「なんじゃ?うるさいの」


「出なくてよろしいんですか?」


「うーん。個人的には出たくない。なにか面倒くさい事のような気がする」


「しかし、やはり出た方がよろしいのでは?」


「やれやれ、しょうがないの」


 公望は、おもむろに袂から連絡用宝貝を取り出して、ボタンをぽちっと押した。


「はーい、公望じゃ」


 だるそうに答える。相手は大老君様からだった。


「なんです、師匠?報告なら後日しますよ。いえ、この場で言いましょう。今日も至って何事もなく平和な一日でした。以上。でわ」


「こ、これ!切るのではない!今日連絡したのは、別に報告の事ではないのじゃ」


 切りにかかった公望に必死に大老君は待ったをかけた。


「じゃあ、なんですか?」


「うむ、至急大乙の所に向かってくれ。用件はすべて大乙に伝えてある故、大乙から直に詳しく聞いてくれ。ちなみ、その用件に対して、お主は拒否が認められておらぬからそのつもりでな」


「なんですか、それ?」


「とにかく、わしは今忙しいので話している暇がない。良いから直ぐに大乙の所に行け。大乙の言葉がそのまま、わしの命令だと思え。良いな?」


「はいはい、わかりました。それでは」


 ぽちっと連絡を切る。しばらくぼーっとすると、むくっと起き上がって風麒麟に大乙の家まで行ってくれと頼んだ。風麒麟は快く承諾すると、公望を背に乗せすごい速さで飛び立っていった。


 そして、大乙の家・・・・・・


「おーい!大乙!わしじゃ、公望が来たぞ!」


 家の門の前で大声で話しかけた。すると門が開かれ、大乙が現れた。


「ああ、待ってたよ。さあ、中に入って」


 大乙は、公望を家の中に招き入れた。通路を通りながら、家の中をちらりちらりと見ていく。


「相も変わらず、ごちゃごちゃした家じゃな。至る所に宝貝の失敗作やら、設計図やら放置しておいて。もう少し片付けたらどうじゃ?」 


「え?うん。もうすぐ作業場を作るつもりだから、全部そっちに移動させるよ。前々から作業場は欲しかったし、丁度弟子が来たから作業場も必要だしね」


「うん?もう弟子を取ったのか?と言う事は、候補者の方がうまく返事を出したという事か」


「うーん、実はその事で公望を呼んだんだ」


 大乙は、ちょっと悩みながら受け答えをしている。


「その事というのは、どういうことじゃ?そなたが、弟子を取って、その弟子候補者も了承したなら何の問題もないはずであろう?何故わしが出てくる???」


「詳しい事は、その弟子に実際会ってからの方がいいと思う。さあ、この部屋に入って」


 公望は疑問に抱きながら、促された部屋に入った。すると応接室の様な部屋で、机と椅子が並べられていた。そこに、二人の美しい女の子が座っていた。こちらを見て直ぐ二人は会釈をする。

 年の頃は、人間で言う15〜16歳辺りか。二人似た顔をしておるという事は、双子か何か?片方は知的な感じで落ち着いた感じの綺麗な女の子で、若干背が高い。もう片方は、まだあどけなさが残る綺麗というよりも可愛いといった感じの子じゃな。大きく真っ直ぐな澄んだ瞳をしておるのが印象的じゃな。どちらにせよ、俗世間では一級品の美女の類に入る逸材か。まあ、それはどうでもよいことじゃが。

 公望は二人をパッと見て、そういう感想が浮かんだ。


「で?大乙よ。この二人がそなたの弟子か?ん?しかし、確か仙人は一人につき一人の弟子しか取れないのが決まりではなかったかの」


「いや、だからその事で君を呼んだんだよ」


 それを聞いて公望はピンときた。


「そなた、まさか・・・この二人のうち、どちらか一人をわしの弟子にして任せようとか考えておるのではあるまいな」


「さすが、公望!話が早い。そのまさかだよ」


にこにこと、大乙は返してきたが、公望はそれを聞いて頭を抱えた。


「そなた・・・何故に掟を知っておりながら、二人連れてきたのじゃ。わしの性格を知っているそなたなら、連れて来て、ハイ良いですよとわしがすんなり許可を出す訳がない事ぐらい知っておろう。条件だって言ってあるはずじゃし」


「それはわかった上でだよ。実は二人連れて来なきゃならない事情があったんだ」


「事情?」


「うん。とりあえず、二人を紹介しておくね。こちらが花憐かれん、こちらが花鈴かりん。見てわかると思うけど、双子の姉妹なんだ。で、二人とも。この人がさっき話した公望だよ」


 二人は立ち上がると改めて自己紹介した。


「初めまして、お会いできて光栄です、公望様。姉の花憐です。そしてこちらが、妹の花鈴」


 公望が知的だと感じた方の女の子、花憐と言うそうだが、その子が挨拶をしてぺこりとお辞儀をすると、姉に紹介された花鈴と言う子も同じ様にお辞儀をした。


「うむ。こちらこそ、初めまして。仙人界にようこそ来られたの」

 

 公望も挨拶をする。そして直ぐに、大乙に向き直った。


「で、事情と言うのはなんじゃ?」


「うん、実はね。最初、花憐を僕の弟子にするつもりだったんだ。で、スカウトしに人間界に降り立ったんだけどね。実際話をしてみると、花憐も物作り、まあ創作だよね。が好きでさ。仙人の存在は知らなかったんだけど、ちゃんと説明したら僕の弟子になることには全然抵抗がないんだって。でも、ひとつだけ弟子になるのに条件があってさ。妹を一人にはしておけないから、妹も一緒に仙人界に連れて行けって言うんだ。二人は早くに両親をなくしてね。親族もいない、二人きりの家族だから、妹を放っては置けないって。その条件が飲めないなら、断るって言うんだよ。僕は、他に候補者がいなかったし、話をしてみて花憐は、僕の弟子の適任者だと思ったしさ。十二仙として弟子は絶対取らなきゃだめだって、大老君様からも言われてるし、困ってたんだ。そこでとりあえず、花鈴に会ったらさ。僕も驚いたんだけど、花鈴もまだちゃんとした仙骨じゃないけど、生えてきてる事に気が付いたんだ。だから、それだったら、二人とも連れて来ようと思った訳。やっぱり、二人を引き離すのは可哀想じゃない。後の流れは、公望だったら理解できるでしょ?」


「で、わしも条件を言ってはいるものの、立場上絶対弟子を取らなければならない。二人を引き離せず、自分の弟子の適任者が他にいないし、丁度わしも、弟子がいないから二人連れて来れば、花鈴の方をわしに無理やり預けちゃえと言う事か。どうせ、そなた、連れて来てしまえば、わしとてなんとでもなると思ったのであろうな」


「そう言う事」


「まーた、そなたは行き当たりばったりな行動をしおって」


 は〜っと公望はため息をついた。大乙は、計算高く知的な仙人であるが、たまに計算外の事が起こると、対処に困って、結局何も考えず何とかなるさ的な行動を取る事があるのだ。それで、過去何度か悩まされた事が公望にはあった。


「でも、あながち無理やりって訳じゃないよ。今回はちゃんと僕なりに考えたつもりさ。ほら見てごらんよ。見ての通り、花鈴も可愛い子じゃない?この子だったら、公望も気に入ると思ってさ。だから連れて来たんだよ」


「あのな、わしが言っておる条件は、ただ可愛ければ良いと言う問題ではないのだぞ?むしろ内面的な面を重視しておるのじゃから。つまりじゃ、可愛い上に中身も良い子ではないと、わしは嫌だと言っておるのじゃ。何度もそなたには言ったであろう?」


「知ってるけど、それは、あくまで公望が弟子を取る気が全くないから、あえて理想を高くする事で、現実的なことを非現実的にしているだけでしょ?でもさ、現にこうして可愛い子が現れたし、僕が話した限りでは、性格も良い子だと思うけど」


「それは、そなたの見解じゃろ。人それぞれ美的感覚も価値観も違うのだぞ」


「じゃあ公望は、花鈴の事、可愛いって思わないの?」


「そりゃ、可愛いとは思うがの。確かにこれほどの逸材はめったにおらぬ。外見は申し分ないと思うが、問題は中身じゃ。実際わし自身が話をしてみん事には、わからん。第一、花鈴の意思はどうなのじゃ?そもそも、仙人の弟子になる事には抵抗はないのか?二人とも仙人、道士というものを何も知らぬのだろう?」


「それは、問題ないよ。さっき、二人には仙人、道士って言う存在についてみっちり説明したから。それを聞いて、花鈴も弟子になれるならなりたいって言ってたよ。ね?花鈴」


 急に話を振られて、花鈴はびっくりしたが、真っ直ぐな瞳で元気よく返事をした。


「はい!お姉様も弟子になるのなら、私もなりたいと思いますし、道士になるということがどんなにすごいことなのか、大乙様から教えられましたので、自分にそんなチャンスがあるのなら、ますます弟子入りしたいと思いました!そして、ゆくゆくは立派な仙人になりたいです!!」


「ほらね」


「んんんんんー」


 公望は唸った。


「公望。こんなチャンス滅多にないよ?公望が十二仙である以上、弟子は取らなきゃならないんだし、特に公望の条件に合った女の道士なんてまず見つからないよ。公望にとっても悪い話じゃないと思うけど。このままいったら、大老君様から無理やり変な人を弟子にさせられるかもしれないんだよ?それこそ、公望の条件なんて無視しかねないんじゃない?あの方は」


「くぅー、そうじゃの〜。あのくそじじいの事じゃからな」


「それだったら、花鈴を弟子にした方がいいと思うけどね」


 公望は、少し考えた。花鈴を見て思う事が、ひとつだけあったのだ。自分の見立てでいったのなら、あの澄んだ真っ直ぐな瞳からいっておそらく、純粋で良い子なのだろうと予測はしてみた。推測だが、あながち外れてはいないだろう。自分とも気が合いそうだ。だがしかし、やはり話をしてみない事には始まらない。なにより、今、花鈴が発言していた言葉で気にかかる事もある。公望は、唸るのを止めて言葉を発した。


「花鈴。そなたに聞きたい事がある」


「なんでしょう?」


「一つ、弟子になると言う事は、たった一人の家族である姉と離れることになるのだぞ?同じ仙人界におるとはいえ、弟子になれば修行で忙しく、なかなか自由に会う暇もなくなる。それでもよいのか?」


「はい!お姉様が幸せに暮らしているなら、私は大丈夫です。離れていても我慢できます。元々、道士になる話が来た時点で、私一人、人間界に残る事は覚悟してましたから。」


「二つ、そなた、大乙から誰の弟子になるか聞いておるか?」


「もちろんです!公望様の弟子になると聞いています」


「では三つ、大乙からわしがどの様な仙人か聞いておるか?」


「はい!」


 元気の良い答えに、ふーっとまた、ため息をついた。やはり、この子はわかっていない様だった。もしわかっていたら、先ほどの様な発言は出てくるはずがない。


「結論じゃ。そなたやはり、わしの弟子にはできぬ」


「何故だい、公望?」


 不思議そうに大乙が聞いてきた。


「大乙。そなた、花鈴にどの様な説明をしたのじゃ。わしの弟子になって、立派な仙人になれるはずないことぐらいわかっておろう?わしは、仙人界一のぐーたら仙人。立派な仙人になりたいという、この子の望みは叶えてやれぬ。他を当たった方が良い」


「ははははは、それなら大丈夫だよ。公望の性格は、散々僕の知る限りの事を花鈴には伝えてあるし。それを聞いてなお、花鈴は、公望の弟子になるって言ったんだよ。しかも、どんな仙人の弟子になろうとも、自分さえしっかりしてて、本質的な信念を貫きさえすれば、何の問題もないって、それは自分の想い次第だって、きちんとしたまともな返事を返してきてるから」


「そうなのか?花鈴?」


「はい!」


「大乙がどの様にわしの事を言ったか知らぬが、こやつが言ったこと以上にわしは、だめ仙人じゃぞ?それでもよいのか?」


「もちろんです!私は私なりにがんばるだけですから!」


「ふーむ」


「公望、ここまで言ってるんだから、良いじゃない?花鈴の好きにさせてあげなよ。公望、自由意志尊重するんでしょ?」


「そうじゃが・・・。わしの自由意志も尊重してもらわねば困るでの」


「ほら、いつまでも悩んでないで、気持ちに応えてあげなよ」


 大乙が急かして来た。公望も腹をくくる。


「あー、もう!しょうがないの〜。師匠からも大乙の言う事聞けと言われておるしな。あいわかった!わしも、覚悟を決めよう」


「それじゃあ、弟子にしていただけるのですか!?」


「いや、あくまで形式上という形を取らせてもらう。二人で今後、話をして、さらにテストを受けてもらい、それに合格したら正式に弟子にするというのにしよう。テストに合格及びその間、わしに嫌気がさしたら、いつでも弟子の件は白紙にする。それでよければ、わしの元に来るが良い。大乙もそれでよいな?文句は言わせぬぞ!」


 ここは、公望も譲れなかった。強い口調で二人に言い放つ。しかし、大乙も花鈴も気にも留めず返事を返してきた。


「良いよ。公望の性格と花鈴の想いなら何の問題もなく、師弟関係になるはずだしね。花鈴は良いよね?」


「はい!」


 その言葉を聞いて納得した公望は、のんびりとあくびをすると花鈴と大乙に言った。


「ではとりあえず、わしの家に向かうか。じゃあ、大乙、花鈴は預かるぞ。他の弟子にできる仙人の候補でも上げておいてくれ。さあ、花鈴。姉と離れる事になるのじゃ。わしは外で待っておる故、心行くまで名残惜しむが良い」


「はい!ありがとうございます!」


「花鈴、しっかりがんばるのよ」


「うん!お姉様も修行がんばってね!」


「じゃあ、公望。またね」


 大乙に別れを告げ、離れるのを名残惜しんでいる花鈴達を外で待つ事にして、公望は一人出て行く。


「はあ〜、やはり面倒なことになったの・・・」


 外でポツリと呟くと、入り口の草むらにごろんと横になった。外で待っていた風麒麟は、公望の態度が少し違う事に気が付くと、近づいてきて尋ねてきた。


「どうかなされたのですか?」


「いやなに、大乙に頼まれてな。今回弟子を取る事になりそうじゃ。その事で考え事をしておった」


「左様ですか。公望様も弟子を取られると言う事は、大変良い事だと思います。それに、公望様に認められた人であるなら、さぞかしすばらしい方なのでしょう」


「これ待たぬか風麒麟。わしはまだ、弟子を取る事になりそうといっただけであって、実際取ると決めたわけでもないし、その者、花鈴というんじゃが、わしが認めたわけでもない。と言うか、話もろくにしておらぬで、花鈴がどういった人であるかは、現段階で判断はできん」


「しかし、公望様は大乙殿に返事をなされたのでしょう?面倒見が良く、人の良いあなた様なら、ほぼ間違いない話とお見受けしましたが。大乙殿も公望様に見合った人を選んできたと思いますが、違うのですか?」


「んー、まあ、まだわからぬとだけ言っておこう。とりあえず、花鈴をしばらく引き取る故、そなたもそのつもりでおってくれ」


「わかりました」


 なんやかんやと公望と風麒麟が話をしている間に、時間は過ぎていき、大乙の家の門が開いて、花鈴が出てきた。


「公望様、お待たせしました」


「ん?もう良いのか?もっとゆっくり話をしていても良かったのじゃぞ」


「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございました。さあ、参りましょう」


「うむ。では、まずその前に紹介しておこう。ここにおるのが、わしのパートナーである風麒麟じゃ。今後一応共に暮らすのだから、お互い仲良くするように」


「初めまして、風麒麟さん。花鈴と言います。よろしくお願いします」


「はい、花鈴殿」


「それでは、花鈴。風麒麟の背の後ろに乗れ」


 公望が促すと、花鈴はひょいっと風麒麟の背に乗った。公望も前に乗る。


「風麒麟。二人相手では重いかもしれぬが、我慢して家までやってくれ」


「お任せください」


 風麒麟は、二人を背に乗せたまま宙に浮くと、公望の家へと向かった。帰り際、花鈴が公望に、姉からの手紙ですと言って手渡した。なんじゃなんじゃと公望は手紙を読んでみる。手紙の内容は、おおまか花鈴の性格の事が書かれており、そういう妹だからよろしくお願いしますという事だった。最後に、公望様とて妹に辛い想いさせたら許しません!と書かれているのが目に写り、本当に仲の良い姉妹なのじゃなと思ったと同時に、そんな事言われたら余計神経使って、どう教えていいかわからぬであろうと複雑な気持ちになった。大体まだ、弟子にすると決まったわけでもないと言うのにと、一人ぶつぶつと唸っている。


「どうかしましたか?公望様?」


 ぶつぶつ言っている公望に後ろから花鈴が声をかけてきた。公望は、いやなんでもない、と返事をすると、手紙を袂にしまい、今後どうするかについて思考をめぐらした。テストを受けさせると言ったが、正直どういったテストにするか決めていなかったのだ。後、自分の中で矛盾的な葛藤が生じていた。

 実は公望、普段面倒くさがりで何にもしないタイプのようだが、その本質は風麒麟の言ったように、馬鹿見たくお人よしで、人の面倒を見るのが大好きだったりするのだ。だから、弟子を持つというのにも本当は、結構憧れていたりもするし、いろいろ教えてあげたいと言う想いがあった。しかし、それと同時に、その性格がたたって、昔人間だった頃、何度も精神的にも肉体的にもかなり痛い目をあっていたために、人間不信に入り、本能的にその本質を出す事ができない状態なのだ。面倒みたいけど、裏切られたら嫌だな、また疲れる事は避けたいなと頭の中で思考がぶつかる。こういう状況になる事が目に見えていたから、憧れてはいたものの弟子を取らないでおこうと、普段から何もしなければ、辛い事も大変な事も何も起こらないから、一人前の仙人になって独立したら、ぐーたらすることにしたのである。

 とにもかくにも、こういう状況に追い込まれてしまったのなら、なんとかせねばと公望はひたすら考え続けていた。一方花鈴は、後ろでちょこんと座りながら、始めて見る仙人界の風景を楽しんでいる。そうこうしている内に、公望の家に到着。二人と一匹は中に入ると、風麒麟は静かに自分の部屋に戻り、公望は、花鈴を自室に招きいれ椅子に座らせると、二人で話をする事にした。


「そなたの性格については、そなたの姉の手紙に事細かに書いてあったので大方把握したが、やはり、実際話をし合うのが一番良かろう。まず、そなたの人間界での生活等を教えてくれ」


 花鈴は、人間界での生活、両親を早くになくし、ずっと姉と二人で手に手を取り合って暮らしてきた事、羊の世話をしながら大変で貧しかったけど幸せだった事、自分の事等を真剣に公望に話をした。そして話を聞き終わった公望は、自分の中で世話好き心が強く突き動かされるのを感じた。


「そなた、相当苦労してきたのじゃな・・・・・・」


「いえでも、お姉様もいましたし、私は幸せでした。本当にお姉様には、迷惑をかけてばかりで」


「そうかそうか、うむうむ」


「あの、公望様。お聞きしたいんですけど、大乙様は良い方なのですか?」


「うむ、あやつは良い仙人じゃぞ。性格も穏やかだし、わしが認める数少ない親友のひとりじゃ」


「それを聞いて安心しました。私、お姉様には今まで苦労をかけた分、幸せになって欲しくて」


「それなら大丈夫じゃ。あやつはちゃんと花憐の事をしっかり面倒見るぞ。まず、不幸になることはあるまい。わしが保障する」


「よかったー」


 花鈴は、心底安心したようにため息を付いて、可愛い笑顔向けた。 


「さて、そなたも疲れておると言うのに、無理に話をさせて悪かったの。今日はもうゆっくり休むが良い。部屋は・・・そうじゃな、隣でもどこでも好きな所を使え。いくつも空いておる故」


「良いんですか?」


「うむ。そなたはまだ、慣れない土地に来て疲れておるはずじゃし、人間界では、もう寝る時間じゃろ?しばらくは、こちらの生活に慣れるまで、ここを自分の家だと思いゆっくりするがよい」


「え、でも、テストの事は?」


「それは、まだ考え中じゃ。近いうちに決める故、とにかくそなたは、もう休め。今は平気かもしれぬが、気づかぬうちに疲労は溜まっていくものじゃ。無理をするものではない。明日からは、しばらくのんびりし、この家を好きに使う事。曲がりなりにもわしの弟子になるつもりなら、わしの言う通りにしてくれぬか」


「あ、はい!わかりました。では、お言葉に甘えて先に休ませていただきます。ありがとうございました」


 花鈴は、元気よく返事をすると、ぺこりとお辞儀をして部屋を出て行った。どうやら、隣の部屋を使う事にしたようで、隣の部屋の襖の開く音がした。公望もベッドに横になる。テストの件をどうしようかと悩んでいたが、天井を見上げていてふと良い案が浮かんだ。これなら、花鈴に無理をかける事なく弟子にするかどうか決める事ができる。そう思うと公望も休む事にした。もしかすると、弟子にするかどうかは、このテストの内容を決めた時点で決まっていたのかもしれない。


次の日、公望はいつものように惰眠をむさぼった後、ゆっくりと体を起こした。半分寝ぼけた状態で、部屋を出て行く。そして、縁側に座り空を見上げた。洞穴の天井部は広く開いており空が見えるのだ。ぼーっと今日と言う一日のありがたさを感じ取る。と同時にいつもと変わらない生活にふと物悲しさも感じる。袂からキセルを取り出すと、火をつけ口にくわえた。ほーっと一息つく。空は何も語らず、雲だけが流れる。本当にいつもと変わらない朝だ。正確には昼だったが。その時・・・。


「公望様、おはようございます!」


 庭の右手、滝のある方から元気な声が聞こえた。びっくりして、そちらに顔を向ける。そこには、満面の笑顔を向けて走りよってくる花鈴の姿が見て取れた。

 

 「そうじゃった。昨日から花鈴を引き取ったのじゃった」


 いつもと違う朝に戸惑いつつも公望は、花鈴に挨拶をした。


「どうじゃ?よく休めたか?」


「はい!ぐっすり眠れました!!」


「それはなによりじゃ」


「公望様は、朝遅いのですね」


「うん?特にすることがないからの。早くに起きる必要がない」


「あの、それで、弟子のテストの件はどうなりましたか!?」


 花鈴は、早く弟子になりたい様子で、公望を急かした。


「うーん?昨日言ったであろう。まずは、仙人界の生活に慣れることじゃ。テストはそれからじゃな。内容は昨日、決めたで故」


「それなら、直ぐにでもテストを受けさしてください!」


「じゃーから、そなたはまず、生活リズムと言うものをじゃな・・・」


「いえ!私なら大丈夫です!!早く、正式な弟子になりたいんです!」


「ふーむ」


 公望は、目を輝かせて訴えてくる花鈴の言葉に少したじろいた。基本的に、自由意志を尊重する公望としては、そこまで言うなら、受けさせようかとも考える。実際、生活リズムを慣らしながら、受ける事はできる内容にはしてあるから大丈夫か?

 ちらりと、花鈴の方を見る。あいも変わらず綺麗な目をこちらに向けている。その視線に公望は耐えられなかった。


「しょうがないの。では、今日より弟子選考テストを開始する」


「はい!おねがいします!!」


「ただし、条件がある」


「条件?」


 花鈴はきょとんとした。


「うむ。テストを受ける代わりに、決して無理はしない事。休む時は休む。これをしっかり守れ。よいな?」


「わかりました!それで、テスト内容は?」


「ん?至極簡単じゃ。わしに会いにくる事。ただそれだけ」


「公望様に会いに行く?」


「そうじゃ」


「では、公望様は、どちらかに行かれるのですか?」


「いや、わしはいつも通り生活し、ここにおる」


「???」


 花鈴は訳がわからないといった感じで、首をかしげた。


「会いに行くっておっしゃられても、今現に会ってるじゃないですか?」


「いや、わしの言っておるのは、違う次元のことじゃ。まあ、そなたにいきなりそれをしろと言っても、術の使えぬそなたには土台無理な話。そこでじゃ」


 公望はそう言うと、花鈴の額をトンと突いた。


「今、そなたに一つ術を授けた。それを用いてわしに会いに来い」


「術ですか?それは、どういったものなんです?」


「それは、自分で導き出すが良い。既にテストは始まっておる。とにかく、わしの授けた術を用いて、今いるわしではないわしに、会いに来ること。ただそれだけじゃ」


「は、はぁ〜」


「さてと、では、仕事にでも行くかの。そなたも仙人界の事を知っておかねばならぬから、わしと共に来るが良い」


「え!十二仙たる公望様のお仕事に、私がですか!?」


「そうじゃ。仕事と言っても、ただの見回りじゃから、仙人界を見て回るにはうってつけじゃろ。じゃから、そなたは、これから共に見回りしつつ、テストの答えを導き出すのじゃ」


「あ、はい!わかりました!」


「では、参るぞ」


 二人は、風麒麟の元に行き、風麒麟に頼むと背に乗せてもらって、家を後にした。

 

 さてそれから、公望は、見回りと称して仙人界のいろいろな所に行き、仙人、道士に会わせて行った。花鈴は仙人界に感激したり、会う人会う人に丁寧に挨拶しながら、公望に着いていく。しかし、公望から与えられたテストの答えについては、全くわからないままだった。公望は何も言わない。普段話す事と言っても、世間話ぐらいだった。そんな状態が続く事、一ヶ月過ぎた辺りだっただろうか、見回りが終わり、一人庭にある池の前に座りながら、テストの事を考えていた時、風麒麟が近寄ってきた。公望はもう寝ている。


「いかがなされた?花鈴殿?」


「え?あ、風麒麟さん」


「なにやら後姿から、いかにも悩んでますという雰囲気が出ていましたが?」


「はい・・・。公望様に言われたテストの答えがわからなくて・・・。あれから、一ヶ月も経つのに、何一つ進歩がないんです。術授けてもらっても、その使い方もわからないし。やはり、私は公望様の弟子には向いてないんでしょうか?」


 自然と花鈴は風麒麟に相談してしまっていた。風麒麟はやさしく受け答えする。


「そんな事はないと思いますよ。少なくとも私には、公望様が、あなたの事を気に入っているように思いますが」


「そうなんですか?」


「ええ。あなたが来てから、公望様は何かと機嫌がよろしくなっている様に感じますので。公望様もあなたに期待しているのではないのですかね」


「それなら尚の事、公望様の期待に応えるためにもテストに合格したいんですけど・・・。どんなに考えてもわからないんです。公望様に聞く訳にもいかないし」


「一体どんな内容のテストなのですか?」


「公望様がいうには、与えられた術を用いて公望様に会いに行くというものなのですけど」


「それはそれは。やはり公望様はお優しい方ですね。そんな簡単な問題にするとは。私はてっきり、そんなに悩んでいるから、もっと無理難題を吹っかけられたのかと思いましたよ」


 風麒麟はテストの内容を聞いて笑った。


「え?やっぱり簡単なものなのですか?」


「ええ、至極簡単な問題ですよ。とても、十二仙たる公望様の弟子になるための試験ではない内容ですね」


「じゃあ、風麒麟さんは、もう答えをわかってるんですか?」


「はい」


「そうなんですか・・・」


 それを聞いて花鈴は落ち込んだ。自分が一ヶ月もかかってすら何一つわからないものを、風麒麟は、たった今聞いた所で、答えがわかってしまったのだ。やっぱり、お姉様みたく、最初から弟子になるために選ばれた人ではない自分には、弟子になるための資格、センスがないのだろうかと気持ちが暗くなった。

 その姿を見ていた風麒麟は、しょうがないと言った感じで、ヒントを与える事にした。それぐらいなら、公望様もお許しになるだろう。


「いいですか、花鈴殿。あなたは既に術授かっている。悩んだときは、何も考えずに自然体になってみなさい。何にもとらわれることなく。そして、公望様に会いたいと、ごく自然に思うことです。そうすれば、自ずと答えは導かれますよ。いいですか?基本は自然体になることです」


「自然体?」


「左様。後は、頃合だけですね。特に今はその答えを見つけるのにうってつけですね。私が言えるのはここまでです。後は、ご自分で」


 そう言うと風麒麟は、部屋に戻っていった。花鈴は、風麒麟から言われた自然体と言う言葉を繰り返し口にする。そして、しばし考えた後、その場に寝そべった。


「自然体。公望様に会いたい」


 ゆっくりと目を閉じ、体中の力を抜いた。頭の中も無にする。想いは公望に会うことのみ。花鈴はそのまま、眠りに付いた。


 夢の中、だだっ広い草原に花鈴は佇んでいた。


「ここは?」


 辺りを見渡す。すると小さな岩の上に、一人の男が後ろを向いて座っているのが見えた。花鈴にはその姿に見覚えがあった。一直線に向かっていく。


「公望様!」


 花鈴は後ろから、その男に声をかけた。するとその男はゆっくり顔を向けると、にこっと笑った。


「合格〜!」


 公望は、花鈴の頭をなぜてやる。花鈴はくすぐったそうにしながら満面の笑顔を向けた。


「やっと会えました!!」


「うむ。思ったよりも早くここに来たな」


「はい!風麒麟さんから自然体になれって言われまして、そしたらここに辿り着きました」


「そうかそうか」


 公望は相変わらずにこにこしている。花鈴は疑問に思ったことを口にした。


「公望様、ここは一体どこなんですか?まるで、夢の中のようですが」


「まさしく、夢の中じゃ」


「そうなんですか?」


「そうじゃ。わしが授けた術は、人の夢の中に入り込める術でな。わしが開発したオリジナルの術じゃ。本来オリジナルの術は人に授けることはできないのじゃが、そなたは、まだ真っ白な状態じゃし、この術自体も属性が関係ない故、授ける事ができるのじゃ。まあ、オリジナルの術の事は、おいおい話をしてやろう。まあなんにしても、これで晴れてそなたは、正式なわしの弟子じゃ。それでよいか?」


「はい!もちろんです!!」


「わしの弟子になる以上、様々な事をこれから教えてゆく。術然り、勉学然り。今までとは対応も違ってくるが、ちゃんと付いて来れる自信はあるか?」


「当たり前です!その自信がなければ、弟子になろうなんて思いません!」


「そうか。良い返事じゃ。なんにせよ、そなたの人権を侵害するような事は決してせぬから、そこまで、気負うこともないのじゃがな。とりあえず、これからよろしく頼むぞ。師弟関係を結ぶと言う事は、家族になるようなものじゃからな。そなたもそのつもりでおってくれ。下手に遠慮なぞするでないぞ。わしの教え方に付いて来ればいいだけで、後は自由じゃからな。とにかく仲良くやっていこう」


「わかりました!不束者ですけど、よろしくお願いします!」


「うむ。あ、後、わしからの頼みじゃが、これからはわしの事を公望様なぞと呼ぶでない」


「では、なんと呼びましょう?」


「んー?好きに呼べばよかろう。先にも言ったが、師弟というものは家族でもあり、友でもあり、特別な関係じゃ。そなたの好きに呼べ」


「じゃあ!公望ちゃん!とかでもいいんですか!?」


 それを聞いて公望はがくんと肩を落とした。苦笑しながら言う。


「あ、あのなー、そなた。一応わしは、そなたの師匠になるんだし、年も上なんだからそれはどうかと思うぞ。まあ、そなたがそう呼びたいならそれでもよいがな。好きにせい」


「いえ、冗談ですよ、冗談」


 花鈴は笑った。その内、辺りが暗くなってくる。


「おや?そろそろ、わしもノンレム睡眠に入ってきたの。では、また明日現実世界で会おう。明日から、直ぐに教育を始めるからそのつもりでな」


「わかりました。あ、それとノンレム睡眠ってなんですか?」


「それも明日おし・・・え・・・る・・・」


 声が遠くなり、辺りは完全に暗闇に包まれた。同時に花鈴は目を覚ます。そして、自分が弟子になれたことに大いに喜んだ。


「やったー!!」


 花鈴の大きな声を聞き、部屋にいた風麒麟もよかったよかったと感慨にふけって、眠りに付いた。

 こうして、公望はとうとう弟子を取る事になったのである。花鈴も楽しみにしていたし、公望も内心うれしがっていた。今日も今日とて平和な仙人界。ここにまた一人、仙人界をしょって立つ人物が現れたのである。



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