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仙人事録  作者: 三神ざき
42/47

生きる故に摂取する。其の二

「ふ〜」

 公望は連絡用宝貝を置くと深く息を吐いた。正直な話、こういう可能性も考えていなかったわけではない。新たなる生物の登場。宇宙から来た未知なる生物。そいつらに仙人たちが襲われる。

 B級映画でよくありそうな、人類の滅亡を予見する事件。人間であったとき好んで見ていたが、そういったことが起こる可能性はない、所詮作り話だという考えは一切持っていなかった。宇宙は広い。地球という小さな世界しかしらぬ人間たちが、宇宙生物の存在を否定するなど井の中の蛙も良いところだと思っていたからだ。

 事実、この世界ですら、自分からしたら作り話みたいな世界である。仙人だの道士だの宝貝だの、そんな存在がいるなんて人間だった当時にわかに信じがたかった。

 だから、隕石から生物が誕生して間接摂取を始めたことだとか、隕石そのものが生きているだとか聞いても別に、あぁやっぱりね程度にしか感じなかった。

 それなのに慌てたのは実は別の理由がある。

 隕石の欠片は虫のような姿に変貌した。それが公望を慌てさせたのだ。公望は周りから虫も殺せぬお人よし、平和主義者と言われているが、それは比喩的な意味ではないのだ。

 公望は、本当に虫を殺すことが出来ない。人間だったときから蚊ですら殺すことが出来なかった。そのため、虫は大の苦手。存在を見るのも殺されるのを見るのも身の毛がよだつほど気持ち悪いと思っている。

 だから、もしあの虫みたいな生物が一斉に大群となって襲ってきたらと思うと血の気が引いたのだ。

「うぅ、あんな気持ち悪いものがたくさんやってきたら、わしショック死しそう」

 軽く身震いすると、なんとか今回の事件で自分が関わらない様にならないものかと思案し始める。あんな気持ち悪いものの相手などしてられるかというのが本音だ。

「わしはもう十分やった。うん、警告も出したし今後起こりうる予測も伝えた。そうじゃ、わしにしては十分仕事をした。よし!後は他の者たちに任せて、ほとぼりが冷めるまでどこか避難していよう」

 公望はそう決めると早速出かけることにした。そそくさとばれない様に部屋の外に出る。外には先ほどまでいた花鈴も竜吉もいない。

 ―チャーンス―

 そのまま足音をたてないまま速やかに移動を開始した。風麒麟の元に行く。

「おや、公望様。いかがいたしましたか?」

「しー!!静かにしておくれ風麒麟」

「どうなさいました?」

「ん?いや、ちょっと出かけようと思ってな」

「分かりました。で、どちらに?」

「特に決めておらん。ちょっと旅がしたくなったのじゃ」

「旅でございますか?」

「左様。よって、すぐに出かけるぞ」

「はぁ」

 風麒麟は公望の命に従い部屋の外に出る。そして、公望がさっと風麒麟にまたがったとき後ろから声が聞こえてきた。

「あれ?お師様?」

「ひっ!」

「???どうなさったんですか?」

「な、なんでもないぞ」

「どちらかにおでかけですか?」

「うむ」

「どちらに行かれるんです?」

「む。それは・・・」

「それは?」

「まだ決めておらん」

「はい?決めておらんって散歩に行かれるって事ですか?」

「いや、その、散歩とは違う」

「?」

 不思議そうにこちらを見ている花鈴に対ししどろもどろと返事を返す。花鈴は普段と違い何か隠しているような態度の公望を余計不思議そうに見上げていた。

「あー、そのなんじゃ。うん。花鈴。達者で暮らせ!」

「え?お師様?」

 そういい残すと公望はさっさと風麒麟に声を掛け家を出て行った。

「え?え?」

 後に残された花鈴はわけが分からないと言った感じにキョトンとしていたが、公望の言葉がようやく頭に染み込んできて急に慌てだした。

 ―達者で暮らせって・・・。まるでそんな一生お別れみたいなこと仰るなんて。どうしようどうしよう―

 ワタワタと動き回るがどうして良いのかが分からない。

「どうしたのじゃ?」

 なにやら騒がしいと竜吉が部屋から声を掛けてきた。

「た、大変です!お師様が、お師様が!」

「む?どうした!公に何かあったのか!?」

 花鈴の慌てぶりを見て竜吉も何があったと花鈴の傍に駆け寄ってきた。

「お師様が行っちゃいました!」

「どこへ?」

「わかりません。今しがた出かけられたんですけど、なにやら様子がおかしくて・・・。私に達者で暮らせよってお言葉を残して。まるで、もう会わないようなそんな言葉を残して行かれてしまいました!!」

「どういうことじゃ?」

「私にも分かりませんよぉ!」

 花鈴は泣きそうな声を出している。

「達者で暮らせとは・・・。確かにまるで今生の別れみたいな物言いじゃな」

「えぅ。私、お師様の気に触ることでもしたんでしょうか?」

「分からぬが・・・公。もうこの家に戻ってくる気はないと言う意味か?何故わらわには一言も言っていってくれぬのじゃ」

 竜吉も悲しそうに呟いた。残された二人に重い空気がのしかかる。

「うぇ・・・うぇーーん」

 とうとう花鈴は泣き出してしまう。そんな折、花鈴の泣き声を聞きつけジュニアがやってきた。

「ご主人様、どうしたのですかぁ?」

「じゅ、ジュニアぁ」

「なにかあったのですか?そういえば、父上もなにやら公望様にいきなり呼び出されてでかけられましたけど」

「ジュニアよ。そなた何か聞いておらぬか?公が何処に行ったかとか?」

「はい。話ではなにやら公望様は旅に出たくなったとか仰っておりましたが」

「旅?」

「はい」

「いつ戻るとか聞いてはおらぬか?」

「それは存じ上げませんが・・・」

「そうか」

 それを聞いて竜吉は声のトーンを落とす。いつ戻るやも分からぬ旅。達者で暮らせよと言ったのであったのだったら、やはりもう戻らぬのかもしれん。そういう思いが竜吉の中で渦を巻いた。

 ―行くなら、何故わらわも連れて行ってくれなんだのじゃ、公。あまりにも突然ではないか・・・―

「わ、私、お師様の後追いかけます!ジュニア!」

「はい」

 花鈴は直ぐにジュニアの背に乗った。それを竜吉が止める。

「ちょっと待て花鈴。追いかけるにしても何処におるのかがわからぬのじゃぞ?」

「それでも行きます!竜吉様はいかれないんですね!?」

「阿呆言う出ない。行くに決まっておろう。ただ、行くなら行くで支度くらいせねばと言うておるのじゃ。隕石の件もあるゆえに。しばし、待て」

 そう言って懐から連絡用宝貝を取り出そうとしたとき、ちょうどそこから音が鳴った。

「む?誰じゃ?」

「わしじゃ」

「大老君か。ちょうど良いときにかけてきた。わらわ達、ちょっと旅に出るゆえしばし仕事から離れるぞ」

「何を冗談抜かしておる!そんなことより公望はおらぬのか?さっきから連絡しておるのに出ようとせぬのじゃ。何をしておる?」

「公は旅に出かけたぞ」

「はぁ?この一大事にあの馬鹿弟子は何をしておるのじゃ!」

「だから、わらわ達もこれより後を追って旅に出るつもりじゃ」

「竜吉!そなた馬鹿弟子と長く付き合いだしたせいで馬鹿がうつったのではないか?何を寝ぼけたことを言っておる。今は隕石の件でレベル一戦闘態勢に移行しておる状態じゃぞ?今後、態勢はさらに強化していく。各自持ち場を動くことは許さん。旅など以ての外じゃ!」

「戦闘態勢?そんなに隕石は危険なのか?」

「そうじゃ。そなたには先に話を持ちかけておるであろう。なのに何を勝手なことをしようとしておる」

「いや、しかし公が・・・」

「馬鹿弟子のことなぞ放っておけ!とにかく、今は持ち場を動くことはまかならん!本来なら蓬莱島にそなたに戻ってきてもらいたいくらい切羽詰ってきておるのじゃぞ?」

「じゃが」

「じゃがもいももない!とにかくそこで待機じゃ!」

 ブチっ!と連絡が途絶えた。

「・・・」

「私、行きますよ?」

「駄目じゃ!」

「なんでですか!?」

「大老君の話では、レベル一戦闘態勢に移行しているらしい。今動くことは出来ん」

「そんな!って、レベル一戦闘態勢ってなんですか?」

「うむ。仙人界に危難が迫っている際に発動される警戒状態じゃ。レベルは三段階で分けれており、そのまえに臨時態勢、待機態勢とあっての。レベル一戦闘態勢は、臨戦態勢のままで危険と判断したら即座に状況に関わらず攻撃してかまわぬと言う状態をさす。本来臨時態勢か待機態勢があってそれから戦闘態勢に移行するのじゃが・・・。いきなり戦闘態勢とは。さすがに動けぬな」

「でも!だからって・・・」

「仕方ない。わらわだって直ぐにでも旅立ちたいが。今はさっさと事件が解決するのを待つしかない」

「そんなぁ」

「まったく、こんなときに公は何処に行こうというのじゃ」

 出かけたいけど出かけられないというもどかしさに駆られながら花鈴と竜吉はぐっと耐えていた。

 その日の夜。あるひとりの仙人が仲間と酒を飲み意気揚々としていた。

「戦闘態勢が〜あ〜ぁ〜、なんぼのもんじゃ〜ぃーうぃ〜。タラリラ〜ラ〜」

 陽気に歌いながら霊獣に乗り夜空をのんびり渡る。夜風が気持ち良い。気分が良くなってさらに歌を歌う。

「あ〜よいよいっとぉ!」

 そんな折、目の前に黒い物体が浮かんでいた。大きさは三メートル程か?なにやら横に長い翼のようなものがあるが暗くて全長までは分からない。ただ物凄く大きなものだった。

「ん〜?なんだありゃ」

 仙人が目を凝らしてみようとした瞬間、その物体は凄い勢いでこちらに向かってきた。

「おわっ!」

 とっさに体をひねり避ける。しかし、肩に何か違和感を感じた。熱い感触だ。触りながら見てみると、ざっくり爪で引き裂かれたかのように傷が深く付いている。それと同時に急に痛みが体を駆け巡る。

「ってぇ!やりやがったなぁ」

 幸い、傷は仙人にとって致命的ではない程度だった。そしてすぐさま持っていた宝貝を手に持ち、戦おうとしたが・・・。

「ん?な、なんだ・・・世界が・・・ゆが・・・」

 最後まで言葉を発しないうちに仙人は力なく体を傾け、そのまま霊獣から真っ逆さまに地上に落ちていった。

 その黒い物体は、しばしその場に浮かんでいたが、どこかに飛び去っていってしまった。

 それからさして時間が経たぬうちに蓬莱山に普賢がやってきていた。

「大老君様!大変です」

 大老君の部屋に普賢が慌てて入っていく。

「おぉ。普賢。どうした?」   

「最初の犠牲者が出ました!」

「なんと!」

 大老君は見ていた書類を机に放り投げると、立ち上がった。

「して、どういう状況じゃ?」

「はい。負傷者は一名、千角という仙人です。千角の霊獣の話によりますと、なにやら黒い物体が襲い掛かってきて戦おうとしたらしいのですが、意識を失い地上に落下したとのことです」

「容態は?」

「左肩に鋭い刃物でえぐられたような傷がありましたが、大した傷ではありません。仙丹レベルで傷自体は回復をいたしました。しかし、意識は一向に戻る気配はなく、体中から精氣が感じられません。落下時、下の川に落ちたことにより一命は取り留めた模様です」

「むぅ」

「詳しくは、霊獣からお聞きになると良いでしょう。おい、入って来い」

 普賢に言われ、狐のような姿をした霊獣が入ってきた。

「は、はじめまして大老君様。私、狐魔と言います」

「うむ。どういうことか説明してくれ」

「はい。主人と邸宅に戻る途中、大きな黒い塊が目の前にいまして、と、突然襲い掛かってきたのです。主人はなんとか交戦を試みましたが、なにやら世界が歪むとか言った直後私から落ちてしまったのです。その物体はその後その場から立ち去りました。私は直ぐに主人を川から引き上げ近くの普賢様宅に助けを求めた次第です」

「うーむ」

「あ、あの、なんでしたら、話を聞くより直にそのときの映像をご覧になりますか?」

「うん?そのようなことができるのか?」

「はい。私の能力で、見たものを投影することができます」

「では、頼む」

「はい」

 そう言って狐魔は、目を見開くと目から光を発した。光に照らされた壁に状況が映し出される。

 大老君と普賢はしばし無言でその映像を眺めていた。

「以上です」

 言葉と共に、狐魔は目を閉じ光を消す。

「ふーむ。見た限りじゃと、かなりの大きさじゃな。全長は分からぬが身の丈だけで三メートルはあろうか?」

「ええ。そうですね。しかも大きさの割りに動きがかなり速い」

「傷はそんなに深くなかったのじゃったな?」

「はい。道士ならいざ知らず仙人にとってあの程度の傷は大したものではないかと」

「となると、どんな些細な傷であれひとたび攻撃を受ければ、たちまち精氣を喰われるということか。やっかいじゃの」

「千角もかなり修行年数を積んだベテランの仙人。こうもやすやすとやられたとなると、レベル一では、まかないきれないかもしれませんね」

「うーむむ。あい分かった!普賢。レベル二に移行させるぞ。あと、普賢邸の近く半径十キロを特に重点的に警戒に当たらせよ。そこから波紋上に五キロ間隔で捜索を行ってくれ。直ちに見つけ出すのじゃ」

「かしこまりました」

 普賢は頭を下げると部屋を出て行った。

 一方その頃、公望は・・・。

「さてと、しばしここでゆるりと過ごすか。ここなら見つかるまい」

 ある山の崖に開いた洞穴の入り口に風麒麟と共に座っていた。

「公望様、何故旅に出るなどと仰ったんですか?」

「うーん?そうじゃの。風麒麟には言っておいた方が良いかもしれん」

「はい」

「今、隕石が落ちてきておる。で、そこから生物が生まれて生き物の精氣を奪っておる」

「はい」

「わしは、それが怖くてな。係わり合いになりたくないので逃げてきたのじゃよ」

「さ、左様ですか?」

「左様」

「公望様ともあろうお方がおびえてられるのですか?」

「そうじゃ。わしだって怖いものはある。いや、世の中怖い物だらけじゃ。なのでそういったものとはなるべく係わり合いを持たんようにしたいのじゃ。なので、ほとぼりが冷めるまで身を潜めておることにした」

「はぁ」

「ほぉっほぉっほぉ」

 キセルをふかしつつ、のんびりと笑う。そんな折、遠くでなにやら飛んでいるものが目に入った。

「ん?なんじゃあれは?」

 よくよく目を凝らすと、頭に角を生やし口からは鋭い牙と舌をむき出し、上半身は蝉のような昆虫に似た体つき、下半身は獣っぽい姿をした不気味な生き物が大きな羽を広げて羽ばたいているのが分かった。

「うげっ!キモっ!」

 公望は言うが早いか、風麒麟を引っ張って直ぐに洞穴の奥に姿を隠した。

 その異形なる者はこちらに気づくことなく去っていく。 

 そっと外を見て、ほーっとため息を付いた。

 ―あれが、生まれ出でし者か・・・うわぁ、キモい!―

 ぶるっと身震いをすると、ゆっくりと壁にもたれかかったのだった。


あとがっきーん!です。

なんか、仙事の方はあまり更新ペースを上げないつもりだったんですが、書き始めたら止まらなくなってきた作者です。

今回は、ちょっと公望の駄目ッぷりを発揮せねばと書き上げたつもりなんでですが、読み返してみると、まだ甘いなぁと思ったりしてます。一応駄目仙人設定の癖に、結構機転利かせたりなんだりとお役目を果たしてるのでそんな公望は公望じゃない!と思っているわけでございますよ。できれば、もっと駄目にしてやりたいと思っております。

あと最近、ラブコメの割りに萌要素が足りないとか思ったりもしてるんですが、萌要素を入れるってむずかしいです。もっと花鈴と竜吉を動かさないと駄目かなぁなんて。

今後どうなっていくか分かりませんが、楽しんでいただければ幸いです。

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