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仙人事録  作者: 三神ざき
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生きる故に摂取する。其の一

 蓬莱山蓬莱島の一室、広く設けられたその部屋に十二仙達が集まっていた。

「皆に集まってもらったのは他でもない。昨夜ここより南西に六十キロほど離れた所に隕石が落ちた」

 大老君が厳かに喋りかけている。事態は思った以上に深刻のようだ。

「わしは、その隕石のもとに偵察隊を組織し派遣したのじゃが全滅した」

「全滅?」

 部屋が一気にざわめき、普賢が代表して発言をする。

「全滅ということは、その隕石。ただの隕石ではないということですか?」

「そうじゃ」

「全滅といったが、偵察隊はどのような状態になったのですか?」

 公望が珍しく意見を言う。

「うむ。全滅といったが死んだわけではない。皆精氣を抜かれたように意識を失っておるのじゃ。かろうじて息はしているものの、昏睡状態から皆目を覚まさぬ」

「ふむ」

「唯一、意識を残したまま戻ってきた者の話によると、その隕石は白っぽく発光し近づいただけで皆倒れてしまったらしい」

「では、その発光がなにかしら意識を失わせる原因と見ていいのでしょうか?」

「うむ。今妖仁が言ったとおり、その光に当てられると力が抜けるようじゃ」

「光の照射距離は?」

 またも公望が発言する。

「約百メートルほど。その隕石から百メートル以内の生物は皆精氣を抜かれるようじゃ。近くの植物も皆枯れていたらしい」

「その他に変わった点はありましたでしょうか?単なる隕石ではないという事は、他に何かしらの作用がある可能性が」

「うむ、貴信。そのとおりじゃ。実はその隕石、どうやら生きておる」

「生きている?」

 また部屋がざわついた。

「精氣を吸っているのは、その隕石が生きるための栄養としておるらしい。まぁ生きているからといって動いているわけではない。単なる石ころにしか見えぬ。今分かっている事はこれくらいじゃな」

「今、何か隕石に対して調査、対策等といったことをなさっていますか?」

「しておるぞ、大乙。第二の偵察隊を派遣し、何か変わったことがあったら直ぐに連絡をよこすようにしている。それと同時に、周りの環境への影響、精氣を取られたものに対する人体の影響等も調べておるところじゃ」

「そうですか」

「その隕石。落下地点から移動したりしておるのですか?」

「公望。何を聞いていた。隕石は動いたりせん。よって移動しておらん」

「ふむ」

「まぁ、差し迫って今すぐ何とかしなければならない問題ではないし、隕石も近づかなければどうということがないので緊迫するものではないのじゃが、知っておるものもいるように未針がその隕石は仙人に災いをもたらすと告げておる。故に、こうして集まってもらって何が起こっても対策が出来るようにと皆に警告を告げたのじゃよ」

「・・・」

「そういう事ゆえ、皆いつ何時でも動けるように気を配って普段の仕事をしていてもらいたい」

「わかりました」

「では、解散」

 大老君の言葉に呼応し皆ぞろぞろと部屋を出て行く。しかし、公望だけはしばらく腕を組みその場で眉をしかめていた。

「どうしたの?望ちゃん?」

「んー。ちとな、気になる事がある」

「何?」

「隕石は生きていると言っておったな。そのために精氣を吸っていると」

「うん」

「本来生き物で、そういった糧を必要とするものは自分の食事のために何かしらの行動を起こすものじゃ。植物とて光をより当てるために葉っぱを移動させたり他の邪魔な草花を除外したりする。しかし、隕石となると、つまりは石じゃな。自ら動くことは出来んということじゃろ?」

「そうなるね」

「もしや、その隕石がゴロゴロと転がって餌を探すかとも思うたが、落ちてから一晩以上たった今でも動いた形跡が無い。そこが腑に落ちぬ」

「その隕石が動くって言いたいの?」

「分からん。先遣隊の偵察連中をえじきにしたために、今は腹が満たされていて動かぬだけかも知れぬし。あんな大きなものが移動するとも思えん。しかし、おそらく間接的に獲物を狙って摂取行動に出る可能性はある」

「間接的に?」

「うむ。師匠の言うように本当に生きておるのだとしたらな。もしやすると、思った以上に厄介ごとになるやもしれんぞ」

「ふーん。まぁ何かあっても僕たちは僕たちの仕事をするだけだよ」

「ふむ。相変わらず妖仁はマイペースじゃな。まぁそこが良いところかも知れぬが」

「なんとかなるって。さ、行こう」

 妖仁に肩を叩かれ公望もようやく腰を上げた。

「公望様。会議お疲れ様です」

 外で控えていた風麒麟が公望を見るなり頭を下げる。

「なーに、大した用件ではなかった故にさして疲れたわけではない。風麒麟のほうこそ外で待たせてしまっていつもすまんな」

「もったいないお言葉です」

「では、我が家に帰るとするかの」

「はい」

 公望は風麒麟の背に乗り、さくさくと家に帰った。家では、花鈴と竜吉がなにやら揉めていた。

「帰ったぞ。これこれ、何を揉めておる?」

「あ、お師様お帰りなさい」

「公、お帰り」

「うむ。で、今度は何で揉めておったのじゃ?」

「お師様って甘いの好きですよね!?」

「なんじゃ突然」

「公は、辛いものの方が好きじゃよの?」

「はん?」

「実は、お師様の好物の話をしてまして、どちらがお好きなのかというので竜吉様と言い争っていたのです」

「どっちがより公のことを知っておるかということを話しておったのじゃ」

「はぁ?」

「で、公!辛いものの方が好きじゃろ?」

「だから、お師様は甘いものがお好きなんです!」

「あのなお主たち。別にわしの好物がなんであろうとよいではないか?」

「よくありません!」

「よくない」

 二人はまたも声を揃えて言い切った。

「・・・わしは、甘いものも辛いものも両方好きじゃ。そのどちらかに決めることはできぬ」

 ため息混じりに公望は肩を落とした。

「じゃあ、寝るときはどちらを向いて寝られますか?」

「そんなこと考えたこともないわい」

「じゃあじゃあ」

 そういって、公望は二人から好みだとかなんだとかの質問攻めを受ける。しかしどれもはっきりとした答えを出せるような質問ではなく、頭を抱えた。

「もう良いではないか。すまぬが、いささか疲れておる故にわしはもう部屋に戻るぞ」

「あ、お師様」

「公」

 公望は逃げるように部屋へと入っていった。扉を閉めふーっと息を吐く。それから、キセルを取り出すと火をつけ机に向かうと腰掛けた。

 ―どうも、隕石のことが気になる。当初、どうでもいいし、他の十二仙に任せればよいと思っておったが、生きているというのが気がかりじゃな。一度見に行った方がよいか?いや、迂闊に近づいたり刺激を与えたら逆効果かもしれん。ならば―

 公望は鉢巻を取ると、瞳を閉じ意識を額に集中した。額にある瞳が目を見開く。同時に公望の脳内にさまざまな風景が浮かび上がってきた。さらに意識を集中する。世界は飛ぶように動き回り、ある景色でピタリと止まった。

 ―ふむ。確かに白く発光しておるな。周りにいるのは偵察隊の連中か。もう少し良く見てみるか―

 公望は視点をズームさせ隕石の表面を嘗め回すかのように見てみる。生きているとは言っても脈動しているわけではない。動いている形跡は一切見られない。こうして見ていても発光する以外ただの石のように思える。

 そんなおり、隕石の表面から小さな小さな小石みたいなものが風か何かに煽られて地面に落ちた。公望は何気なしにその石に気が付き、落下していくその小石をじっと見つめる。

 別に深い意味などなかった。ただ、小さな動きでも見落とさないようにしていたら自然と意識がそちらに向いただけだったのだが、それが思わぬ収穫を与えた。

 落下した小石。地面に落ちて転がった最初は単なる隕石の破片かと思ったが、なんと、地面に落ちて止まった途端、カタカタと動き出したのだ。

 公望はその小石から目を離さない。

 するとどうだろう。その破片は形をぐにゃぐにゃと変え、異形な虫のような生物になったではないか。そして、その虫はカサカサと地面を這いずり移動し始めた。

 この光景を見た公望は一挙に血の気が引いた。他の部分もよくよく見てみると、他にも点でに破片が転げ落ち、いたるところで異形な生物が生まれていた。

 この状態に偵察隊は気づいていない。

 公望は、すぐさま瞳を開け千里眼を閉じると慌てて連絡用宝貝を手にした。

「もしもし!師匠!」

「なんじゃ公望。うるさい声を上げおって」

「すぐに偵察隊を引き上げさせてください!」

「何故じゃ?」

「何ででもです!先遣隊の二の舞が起こります!」

「ちょっと待て、どういうことじゃ?」

「説明は後でしますからすぐに引き上げさせてください!」

「う、うむ」

 大老君が公望の声に威圧されて返事を返したとき、大老君の偵察隊と繋がっている連絡用宝貝が音を鳴らした。

「あいや、ちょっと待て」

 すぐさま大老君は、その宝貝を手にした。そして、報告を聞くと同時にすぐさま引き返すように言い放つ。言い終えると再び公望の宝貝を手に取った。

「何故分かったのじゃ?」

「ということは、やっぱり犠牲者がでたんですね?」

「うむ。光も浴びておらんのに急に倒れる者が現れだしたんじゃそうじゃ」

「遅かったかぁ。あ!でしたら、偵察隊にもう一度連絡して、衣服等々を調べさせてください。そして、何も付いていない、何処にも何も入っていないことを確認してから戻ってくるようにと。もちろん、ある程度隕石から離れてから調べるようにですよ。すぐにその場を立ち去らせる必要があるので」

「う、うむ。わかった」

 大老君はまた偵察隊に連絡を取り、公望の言われたとおりに指示を出した。

「それで、公望よ。何故分かったのか。何が起こったのか。説明してくれぬか?」

「間接摂取が行われ始めたんですよ」

 公望は、千里眼で見たことと自分の考えを大老君に述べた。

「つまり、隕石から生物が生まれて栄養を摂取するということか?」

「はい。今は小石程度の破片が変化した程度ですが、もし隕石の欠片すべてがそういう変化をするのなら、大きさによっては恐ろしい大きさの生物が誕生することになります」

「隕石そのものの大きさの生物が動き出すということか」

「いえ、それはないでしょう」

「どういうことじゃ?」

「隕石そのものが生き物に変化したら効率が悪いということです。小さく分離して数で攻めた方がより効率的に広い範囲にいきわたるでしょう?人海戦術ですよ」

「なるほど」

「今は、さしてエネルギーを必要としていないせいか、それとも単に破片程度しか割れてないからかはわかりませんが、虫程度の大きさで済んでますが、私の予感が正しければそのうち人間並みまで大きい生物が大量に生み出される可能性があります」

「そうなったら・・・」

「まさに仙人の災いですよ」

「いかんの」

「とりあえず、十二仙踏まえ仙人、道士たちにレベル一戦闘配備に入ることを勧告するようにお勧めしますが?」

「うむ。そうしよう」

 そうして、大老君はすぐさま十二仙に連絡を取り付け、仙人界にもふれを出したのだった。

 

あとがきみゅーん。

凄くお久しぶりです!もしや、一年以上も放置することになろうとは。作者も設定等々忘れてましたよ(汗


いやいや、皆さん本当お久しぶりです。もう一つの作品を連載再開すると同時にまた書き始めましたわけですが、みなさんもうお忘れですよねぇ。

そりゃあ、一年以上も放置されてたら忘れますよね。すみません。

とりあえず、今後は最低でも一ヶ月に二話くらい書き上げるペースでやっていきたいと思いますので、またよろしくお願いいたします。

不肖な作者ではありますが、なにとぞお付き合いのほどをよろしく申し上げます。

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