嵐の前触れ
しばらくして竜吉が帰ってきた。
「はぁ〜、ただいまぁ〜」
「おかえりなさい。竜吉様」
「おかえり。なにやら疲れておるようじゃの」
「うむ〜。わらわ疲れた〜。公、癒して〜」
急によよよと竜吉は公望に寄りかかった。
「ちょ!竜吉様!」
「癒してって、何をすれば良い?」
「良く花鈴にしてあげてる事をわらわにもやって」
「?」
公望は良く分からないといった感じの表情を浮かべた。花鈴は離れてくださいと必死に竜吉を引っ張っている。
「ほら〜、抱きついたりとか、頭撫でてあげたりとか」
「なんじゃ、そんなことか。ほれ」
ギュウーッ!
「にゃ〜」
「竜吉様!離れてください!っていうか、なんで竜吉様そんな態度取ってるんですか!?竜吉様、人格変わってますよ。にゃ〜って何です?」
「良いではないか。わらわだってたまには公に甘えたい。特に今日のような面倒な仕事がはいってくると気持ちも暗くなるというものよ。そちはいつもこうしてもらっておるではないか。わらわだってしてもらってもよかろう」
「よくありません!それは私の特権です!」
「いつからそちの特権になった?」
「最初からです!」
「これこれ、そんな事で争うでない。それで竜吉。面倒な仕事とはなんじゃ?もしやわしにも関係する事か?」
「うむ。それなんじゃが仙人界全員に関与することじゃ」
それを聞いて公望は溜め息をついた。嫌な予感がするときは大概当たる。良い予感は当たらないのにその辺が不平等だと思ったりする。
「そなたが珍しく師匠に呼ばれたと思ったらやはりな。わしの部屋に来い。話を聞こう」
公望は竜吉を促し自室に招きいれた。花鈴もついてくる。
「何が起こった?」
「隕石が降ってくる」
「何故分かる」
「未針がそう予測した」
「未針?竜吉様なんですかそれは?」
「わしも初耳じゃぞ?」
「うむ。未針とはな、大乙の師匠に当たる高碧が作った未来予測する宝貝じゃ。過去と現段階の状況の情報を集積しそれを基に起こりうる未来を予測するのじゃ。大老君はそれを参考に来るべき未来の対策や政を行っておる」
「未来なぞ完全には予測できぬであろう?いかに優れた宝貝とはいえ不可能な話」
「それはもちろん分かっておる。あくまで未針はその可能性があるというものを一番高い確率ではじき出すものでしかない。だから、大老君もあくまで参考としておるということじゃが、今までその未針が予測した未来はほとんどはずれておらん。高碧は神界の極秘書物を基に創り上げたと言っておったがわらわも詳しくは知らぬ。なにやら高碧の中でも最高傑作で膨大な量の情報から重複する未来を予測しているとか」
「ほぉ〜。それでは未来予測というより経験則と言った方が正しいかもしれぬな。しかしそんなものがあったとは。確かにじじいの千里眼とそういう予測型宝貝があれば未来は読みやすいかもしれんがな」
「うむ。でじゃ、その未針が隕石が落ちてくると予測した」
「それが、仙人全員に関係するとはどういうことじゃ?」
「そこまで詳しくは分からぬのだが、その隕石。仙人に災いをもたらすらしい」
「確率は?」
「九十パーセントを越えた高確率じゃ」
「何時何処に落ちてくる?」
「今日の夜中。ここより五十キロ西に離れた場所らしい」
そこまで聞いて公望は頭を掻いた。なにやら少し考えているようである。竜吉も花鈴も言葉を待つ。
「仙人に災いをもたらすというのは、具体的には分からぬのか?」
「うむ。そこまではわからぬ。それで大老君と二人で今まで何が起こるのかを考え話し合っておったのじゃ」
「何かが起こってからでは遅い。そこまで分かってるなら対策が欲しいが何が起こるか分からなければ対策も立てれぬ。かといって下手に情報を流せばあやふやな情報は仙人たちに無駄な不安を与え混乱をもたらす。結局結論のでないまま帰ってきたと言うところか」
「その通り」
「ふむ」
公望は眉をしかめた。大老君の取っている判断は正しい。不確定な情報の漏洩は人を混乱に陥れるだけだ。だから竜吉だけを呼び話をしたのであろう。しかし、その予測が確かならば何かが起こる前に対策はしておかなければならない。災いというならなにか被害があると言うこと。それなら被害を最小限に押さえる努力はする必要がある。災い・・・隕石その物による衝撃により物理的に仙人界が崩壊の危機に立たされる、あるいは落ちてからの別要素により何かが生じる。それとも両方か?
「竜吉。未針は隕石が災いをもたらすと予測したのじゃな?」
「うむ」
「隕石によってではないな?」
「お師様、同じ意味ではありませんか?」
不思議そうに公望の言葉を聞いていた花鈴が口を挟んだ。
「いや、同じように聞こえるが同じではない」
「未針は隕石がとしか言っておらぬ」
公望がまた考え出した。そう言う意味なら、先ほど考えていた前者の可能性は少ない。では、やはり落ちてきてから何かしら起こると言うことか。それなら、今すぐどうにか出来るものではない。落ちてきてから対処に回るしかないな。しかし落ちてから起こりえる問題とは?
「仙人界の気象が変わるという話でもないのだな」
「うむ」
「あくまで仙人に災いが訪れるという話なのだな」
「うむ」
「分かった。この話は、わしたち以外に誰か知っておるか?」
「いや、今のところ公たちと大老君以外は知らぬ」
「今はその方がよい。隕石が落ちてきて次第、動いてもさして遅くは無かろう。面倒くさいことは師匠に任せておけばよい」
「お師様は、何かなさらないのですか?」
「おそらく隕石落下と同時に十二仙の招集がかかる。そのとき師匠の判断を仰いでそこから情報を収集し動く・・・かもしれん」
「かもしれんって・・・」
「だって、面倒じゃからな」
ほっほっほと笑いながらたばこに火をつけた。
「ま、みんなが頑張ってくれればわしは動かなくて済みそうじゃし。任せる」
「公は相変わらずじゃの」
「たまには物事に流されてみるのも良きかな」
公望はそう言いつつも頭の中で起こりえるあらゆる可能性と対策をはじき出そうと思考を巡らせていた。そして、一応薬智全に連絡を入れ、あることを頼んでおく。
その日の夜、公望は空を見上げていた。ほどなくして流れ星が見え西の方に落ちていったのを確認するとその日は眠りについた。そして、予想通り次の日の朝直ぐ公望のもとに招集が入ったのであった。