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仙人事録  作者: 三神ざき
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花鈴のちょっと素直な気持ち

「公、花鈴が仙人になったぞ」


 公望の家に戻ってきた竜吉が岩の上で瞑想に耽っている公望に声を掛けてきた。しかし公望はぴくりとも動かず動じる事も無く目を瞑ったまま返事を返した。


「そうか。まぁ、あやつならなっても不思議ではない。無事龍を捕まえたか」


「いや、今回は特例として任務を遂行したと言う事を考慮してそれを仙人試験の代用としたのじゃ」


「任務?」


「うむ。人間界の文の国に降り立って暗殺事件を未然に防いだという任務じゃ」


「ほぅ。花鈴ももうそんな特例の任務を与えられる存在になったか。仙人になった事と言い特例任務を与えれられる様になった事と言い、師匠としては嬉しい限りじゃな。もうわしの手を貸さずとも十分一人でやっていけるわけじゃ。めでたいのぅ」


「どうじゃろうかな?花鈴が仙人になったのは不思議ではないが、任務についてはまだ危ういところはある気がするぞよ。誰かさんの手を借りなければまだあのような任務はできぬ。現に誰かさんに手を借りなければ任務は遂行できなかった」


 竜吉は微笑みながら意味ありげな発言をする。しかし公望が相変わらず目を瞑り微動だにしない。


「それは過程論じゃろ?結果がしかと出ているのであれば指して問題ではない。その誰かさんが手を貸したから解決できたと言うより時間さえあれば花鈴一人でも十分解決できたのではないか?今回はそなたが着いて行ったから時間に追われた所があるのであろう」


「ん?公、何故わらわが花鈴に着いて行ったと知っておるんじゃ?」


 クスクスと竜吉は笑っている。公望はそれでも知らんという感じに振舞った。


「まぁ良い。それにしても公。そちは何時までそうやって瞑想に耽っておるつもりじゃ?」


「結論が出るまでじゃ」


「何の結論じゃ?」


「分からん。分からん事が何故分からんのかを理解するために瞑想しておるのじゃ」


「やれやれ公、この世には頭ではなく感情で理解せねばならんこともあるのじゃぞ?一度素直に感情を出したらどうじゃ?」


「と言うと?」


「公にとってわらわはどういう存在じゃ?」


「ん?その答えは既に出ておる。何故その答えになったかが分からんが結論から言えばそなたはわしにとって欠かせぬ大切な存在じゃ」


「では、花鈴はどうじゃ?」


「花鈴もわしの愛弟子として欠かせぬ大切な存在じゃな」


「その結論が出ておるのなら何故、花鈴を連れ戻さぬ?」


 そこで公望は目を開けた。そうなのだ。公望にとってその花鈴の存在が自分にとってどれほど生活に影響を及ぼしているかが理解をしているのだが、自分から出て行き公望自身もまた帰ってこなくても良いと言ったものをどうして連れ戻すと言うような事ができるかと言う事を必死に考えていたのだ。


 公望の基本美学は自由意志の尊重だ。誰かの自由を縛るという事をしたくはない。もし仮にここで花鈴を連れ戻すという行動を起こせばそれは師匠として可能かもしれないが、花鈴の選んだ道をないがしろにしてしまうと思えてしまう。さらに貴信と幸せに暮らし念願の仙人にもなれたのだ。これ以上自分の下に留めて置く理由は無い。ただでさえ戻ってこなくて良いと言ってしまっているのにここで自分から連れ戻してはただのわがままではないか?


 このように考えているとそこに自分の意思というのも考えてしまう。相手ばかりを尊重してはいるが、では自分の意思としてはどうなのか。そもそも何故そこまでに悩むほど花鈴がいなくなった事を考えているのか。自分は師匠として弟子の幸せを願っているはず。それなのにそれを覆すような思考が生まれるのだ。花鈴を自分の手元に置いておきたい、そういう思考だ。初めて取った弟子であるが故に感情の移入が強く出すぎたのか?それとも単に親馬鹿ならぬ師匠馬鹿なのか?しかし、それは竜吉の場合にも当てはまる。その想いが理解できずにずっと悩んでいるのである。


「分からぬ。わしも正直どうして良いのかが分からぬのじゃ。花鈴は貴信と共に居て幸せだと言っておった。さらにこの度仙人に昇格したのであれば万々歳でもうわしの関与する所ではないはず。しかし、安堵している自分に対しどこかもやもやっとした気分になってすっきりしない気持ちも有るのじゃよ。わしは・・・わし自身が分からぬ」


 少し暗い表情で語る公望に対し竜吉はとても嬉しそうだった。


「公もようやく少しは愚鈍さから進歩したかの」


「?どういうことじゃ?」


「いやなに、そういう風に考えられてそういう想いが生まれたのはわらわ達からすればいい傾向じゃと思ったまでじゃ」


「何故、わしの心とそなたらが関係する?」


「そこまではおしえな〜い」


 ちょっと意地悪そうに竜吉は後ろを向いてまるで子供のように振舞った。こういう態度を見せる竜吉も生まれて初めてかもしれない。竜吉の竜吉らしく無い態度と発言にさらに困惑する公望だったが、次の竜吉の発言にさらに困惑させられた。


「そういえば公。今日これから花鈴の仙人昇格を祝って祝賀会を貴信の家でやるそうじゃ。わらわはそれにお呼ばれしている。無論、普賢、花憐といった花鈴と親しい者達も是非来てくれと呼ばれている。故に今からわらわはまた出かけるぞ」


「そうか。では、師匠としてわしも行かなければならんのじゃな」


「と思うじゃろ?しかし生憎とそちは呼ばれていないのじゃ。花鈴の方から指名をうけておらん」


「ん?そうなのか?」


「うむ。その祝賀会に行くか行かないかはそちの判断に任せるだそうじゃ。花鈴もそちに似て自由意志を尊重するように育ったではないか。で、どうする?」


「んん〜・・・」


「時間が無い故にさっさと決めるのじゃ」


「花鈴は別にわしに是非来てくれとは言わなかったのか?」


「うむ」


 そこでちょっと公望の表情が暗くなる。ちょっとすねたようだ。


「・・・なら良い。特段呼ばれてもおらん存在が行ってもあちらに迷惑が掛かるだけであろう」


「本当に行かんのか?」


「呼ばれていないなら行くことも有るまい。花鈴におめでとう。これからも幸せに暮らせと伝えておいてくれ」


「はぁ〜、ぜんごん撤回じゃ。進歩したかと思ったが花鈴の気持ちの分からんようならそちは一生瞑想に耽っている事になるぞ。そんなのだからわらわも不安になるのじゃ。せっかく花鈴がこの家から居なくなったというのにわらわは全然嬉しく無いぞ。こんなことならまだ花鈴が居た時の方が競い合えて良かったと言うのに」


 竜吉は呆れて頭を振るとさっさと出て行ってしまった。残された公望は何か胸の辺りでつっかえたようなもやもやを持ったまま、それを消すためにまた瞑想を始めたのだった。


「本当に公は恋愛には疎いの。これではわらわの気持ちも花鈴の気持ちも伝わって受け止めてもらえるのは何時になる事やら・・・」


 空を飛びつつ溜め息混じりに貴信の家へと竜吉は向かった。貴信の家では既に面子が揃っている。普賢、花憐、大乙、妖仁が祝賀会に来ていた。


「竜吉様良く来てくださいました。で、あの〜、お師様は?」


「呼ばれもしない人が来ても迷惑になるだけじゃと言って来ないそうじゃ」


「・・・そうですか」


 残念そうな花鈴に竜吉は公望からの伝言を伝える事にした。


「公から伝言じゃ」  


 その言葉を聞いて一瞬花鈴の瞳が期待に満ちた瞳になる。


「なんです!」


「花鈴おめでとう。これからも幸せに暮らせだそうじゃ」


「・・・・・・」


 期待はずれの言葉に肩を落とし無言になる花鈴に竜吉はまた溜め息をついた。


「そちもはっきりと言わぬからこういうことになるのじゃ。何時までも維持を張らずに素直になれば良いものを」


「い、意地なんて張ってません!」


「では、そちは今本当に幸せだというのじゃな?」


「はい!」


「ほぅ、それならわらわが公を貰っても良いと、そちから身を引いたと受け取って良いのじゃな」


「そ、それは!」


「それはなんじゃ?」


「・・・それは、駄目です」


 小さな言葉でうつむきながらぼそぼそと花鈴は言った。


「そちも態度をはっきりさせぬか。そうでないとわらわが困る。今のままではそちに遠慮して公に迫る事もできん」


「・・・・・・」


 竜吉とのやり取りをしているもとに貴信がやってきた。


「どうかしたかい?折角花鈴ちゃんのために竜吉様まで来てくださったんだ。全員揃ったんだしそんな暗い顔して無いで、ほら主役はこっちにこないとね」


「あ、はい」


 貴信に促されてテーブルの上座に座らされる。


「えっと、じゃあ皆さん。今日はわざわざ花鈴ちゃんの仙人試験合格の祝いに来てくださってありがとうございます。ささやかながら宴の準備をしてありますので心行くまで楽しんでいってください。ほら、花鈴ちゃんも一言」


「え、あの、皆さん今日は私のために集まってくださってありがとうございます。これからも仙人として恥じぬよう頑張って精進したいと思いますのでよろしくお願いします」


 パチパチパチ


「では、花鈴ちゃんが仙人になったのを祝ってかんぱーい!」


「かんぱーい!」


 こうして祝賀会が始まった。皆ワイのワイのと騒ぎ出し酒がどんどん進み直ぐにほろ酔いになっていった。そして普賢、妖仁、大乙、花憐が花鈴を囲みに入る。


「花鈴、貴方ようやく念願の仙人になれたのね。おめでとう」


「良かったじゃないか。これで夢が叶ったんだ。これからも頑張れよ」


「ありがとうございます。お姉様、普賢様」


「まぁ、花鈴なら仙人になれて当然の実力は持っていたからね」


「そうだね。まず望ちゃんの弟子をやってるくらいだもん。望ちゃんでなれたなら望ちゃんより優秀な花鈴がなれないはず無いよ」


「そ、そんな妖仁様。私お師様より優秀じゃないですよ」


「えー、優秀だよ。ねぇ大乙」


「そうだね。公望は落ちこぼれ仙人だからね」


「つうかよ。なんで宴好きの公望が来てねぇんだよ。しかも弟子の祝いの席だって言うのに。本当駄目な奴だな」


「全くだね」


 皆して公望を酒の肴にして笑い出す。しかし反面花鈴は不愉快になっているようで言葉数が少なくなってムスッとなってくる。


「いや〜でも、あの公望の弟子でよくちゃんとした仙人になれたよな」


「そうそう。良く人格が持ったよね」


「そこが花鈴の凄い所だよ。あの公望の元で修行して仙人になるんだから」


「やっぱあれか?反面教師とかいうやつか?」


「かもね〜」


「公望の弟子が花鈴で良かったよな。これがもし他の弟子だったら一生仙人なんかになれずにぐて〜とした日々を過ごす事になってたぜ」


「望ちゃん。本当やる気無い人だからね」


「あんな人に私の妹を預けておいたかと思うと今思えばとても不安な事でしたわ」


「ま、なんにせよ花鈴も立派に独り立ちしたし、いい加減公望はお役ごめんだろ?あの話進めるか?」


「普賢様、あの話ってなんですか?」


「いや、前言わなかったっけ?公望を仙人界から排除するっていう話。あれを大老君様に進言して公望を人間に戻すってこと」


「え!?あれ本気だったんですか!?」


「もちろん」


「だ、駄目ですよ!」


「何故だ?おまえにはもうどうでも良い話だろ?仙人になって独立するんだからよ」


「で、でも」


「ま、なんにせよ弟子に愛想つかされるような仙人は仙人としてなってないよな。お前らもそう思うだろ?」


「うん」


「望ちゃんも仙人になったらしっかりするかと思ったんだけどね。やっぱり駄目だよね。あれじゃ」


 その後も寄ってたかって公望の事をけなし始めた。酒の勢いもあり皆して公望をぼろくそに言いまくる。花鈴はもうその言葉に耐え切れなかったらしくその場を立ち上がった。


「ん?花鈴何処に行くの?」


「ちょっと一人になりたいの!皆さんは皆さんで楽しんでください!」


 花鈴はジュニアの下に駆け寄るとサッと飛び乗り何処かに飛んでいってしまった。


「ふ〜やれやれ。世話の焼けるこって」


「でもこれだけ言えば、いい加減素直になるんじゃないの?」


「あの子も意固地すぎるんだから。すみません。皆様にまでご面倒をおかけして」


「良いよ。望ちゃんと花鈴のことだもん。僕達も好きでやってる事だから。でも嘘だとは言えさすがに望ちゃんの悪口を言うのはちょっと辛いね。ね、大乙」


「うん。でも公望ならこれだけ言われても、その通りとか言って笑うと思うから許してくれるよ」 


「そうだね。後は花鈴と望ちゃん次第か」


「なんとかなるといいけどな」


「あれ、花鈴ちゃんは何処に行ったんだい?」


「ああ、わりー貴信。花鈴の奴、なんか急用があるとかで出かけたわ」


「ふーん」


 貴信は特に気にもしたわけでなく、その輪の中に入り話を始めた。そっと聞き耳を立てて話を聞いていた竜吉は優雅に酒を飲みつつ花鈴は仲間に恵まれているな、やはり恋敵に回すと厄介だなどと思っていた。


 さて一人飛んでいった花鈴は特にあてもなくただむしゃくしゃしていたので、とりあえず公望が良く連れて来てくれていた龍穴のある岩場に向かった。岩場に座り込むとボーっと流れる川を眺める。


「・・・なんかせっかく仙人になれて皆に祝ってもらっても全然嬉しく無い・・・」


 川は何も答えずたださらさらと静かな音を鳴らしていた。そんな折、突然コツンと頭に固いものが当たった。上を見ると酒のビンが頭上にある。


「なんじゃ、こんなところで一人どうした?」


「お、お師様!」


「隣良いか?」


「あ、はい!」


「よっこらしょっと」


「・・・・・・」


 しばし花鈴にとって気まずい雰囲気が流れる。そこに公望が酒を入れた杯を目の前に出してきた。


「え、これは?」


「飲め。今日はそなたが仙人になってめでたい日じゃ。わしは祝賀会に呼ばれなかったが、個人的に祝う分には問題なかろう」


「あ、ありがとうございます!」


「本当におめでとうな、花鈴。わしは心から嬉しいぞ。よく今までわしなんかの弟子を務めただけではなく立派に成長したものじゃ」


 公望はポンポンと花鈴の頭を優しく叩いてやった。 


「ん?なんじゃ、そなた泣いておるのか?」


「い、いえ、つい嬉しくて。皆に祝ってもらうより、こうしてお師様に祝っていただいた方が全然嬉しくて・・・」


「そうか・・・」


 花鈴は涙を浮かべながら注がれる酒を飲んだ。その後は特に二人は話をしなかったが、ただゆっくりと流れるこの時間がとても大切で嬉しいものなのだと花鈴は実感していた。 

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