公望、暗いんです・・・
「貴方、一体何を考えてるの?」
「え、何って?」
「公望の事だよ」
「・・・・・・」
普賢邸に呼ばれ椅子に腰掛けた花鈴は早速普賢と花憐に囲まれ尋問を受けた。
「なんでまた貴信なんかと付き合うことになったんだ?あれだけお師様お師様と公望の事しか考えていなかったお前がどうして突然心変わりなんてしたんだって聞いてんだ」
「・・・・・・」
「花鈴、貴方そんな簡単に自分の想いを変える子じゃないでしょ?決めたことは絶対何があっても遣り通すって子だったのになんでまた・・・」
「・・・・・・」
だんまりを決め込んでいる花鈴に浴びせるがの如く普賢と花憐は質問をしていく。しかしその質問に対し、花鈴は機嫌を悪くしているようである。公望の事を触れられるとどうも気に喰わないらしく顔がきつくなっていっていった。
「私、正直ショックよ。貴方がそんな子だったなんて思いもしなかったわ。貴方の勝手な想いにいったいどれだけの人が相談に乗って協力したと思っているの?ここにいる普賢様だってずっと貴方の事を気にかけて何とか想いを叶えてやろうと十二仙の仕事が忙しいにもかかわらず、合間を見て尽力してくださっていたというのに・・・。私申し訳なくて申し訳なくて、姉として恥ずかしいやら悲しいやらなんとお詫びして良いか分からないくらいなのよ。そのこと分かっているの?」
「貴信様と付き合ったら悪いの!?」
花憐の説教じみた発言に花鈴はとうとう怒り出した。
「いや、悪いとは言って無いけど何で心変わりしたかって聞いてるんだ」
「別に良いじゃないですか!私が誰と付き合おうと!それは確かに普賢様方にはご迷惑をかけたかもしれないけど、恋愛はどうしようと私の自由でしょ!」
「それはもちろんの事よ。別に貴方が貴信様や他の誰かと付き合ってもそれは誰も文句は言えないわ。でも、今回は例外よ。私達の中で貴方に対する価値観というものが分からなくなってきているし、あれだけ公望様の事では相談していたのにいきなり何の話も無く貴信様に移るなんて信じられないと言っているの。一体何があったのかまず話してくれないかしら?」
怒った花鈴に対しあくまで平然と対応する花憐。やはり双子といっても花憐の方が大人びている。普賢と付き合うようになってからその大人びた感じがよりいっそう引き立てられた感じがあった。しかしそんな花憐の言葉も今の花鈴には逆効果である。花鈴の中では公望の話は禁句になっていたところもあったが、元々負けず嫌いな花鈴は今の状況に意固地になってしまっているようである。
「そんなことまでお姉様達に話すことじゃないじゃない!私が決めたんだからそれはそれでいいの!とにかくもうお師様の話するの止めてくれない!!!」
「なんだなんだ?焼けに熱くなってるな。そんなに公望は花鈴に対して悪い事でもしたのか?それならそれで良いんだけどよ。俺の方からしっかり説教しとくから。でも、さすがに公望が花鈴に対して何をしたのかが分からない事には俺からも何にもいえないぞ?あいつも別にお前に何か悪い事したとか思ってないみたいだし」
「それならそれでお師様にとって私はその程度の存在だったって事なんです!もぅ!ほっといてください!!!」
花鈴は立ち上がって出て行こうとする。そこに普賢と花憐がそれぞれ最後の言葉をかけた。
「花鈴、貴方今貴信様と付き合って幸せ?」
「幸せよ!すっごくね!」
「それなら別に良いぞ。あ〜、全然関係ない話だけどそういえば公望の奴落ち込んでたな。口には出しては無いけど態度であいつ直ぐ分かる。あいつ仕事も最近してないし元気も無いしずっと瞑想にふけっててよ。何が原因でそうなったのかね?花憐分かるか?」
「さあ、公望様のお考えは私には分かりませんわ」
「おっと悪いな。全然関係ない話しちまって引き止めちまった。お前が今幸せだって言うならそれで俺達は満足だ。今後も貴信と幸せになってくれ。わざわざ呼び出してすまなかった」
普賢の最後の言葉に立ち去るのを止めて耳を傾けていた花鈴に普賢はもう良いといった感じに手を振り帰る様に促した。しかし花鈴は、帰ろうとしない。
「あの、普賢様。お師様が落ち込んでらっしゃるって本当ですか?」
「ん?本当だ。落ち込んで仕事もしないから書類の整理がつかん!と大老君様も怒鳴ってらしたし、定期会議にも初めて出席しなかったしな。ま、今の花鈴にはどうでも良い話だろ?公望が落ち込んで様が病気になろうが死のうがお前には関係の無い話だ。その事は十二仙のまとめ役である俺の仕事だからな」
「・・・・・・」
「あら、何をしているの?さっさと帰りなさいよ。貴信様が待ってらっしゃるわ。私達の用件は済んだし貴方の結論も聞けたし、何より貴方が幸せだって言うなら私達は貴方の言うとおり文句も何も言えないんだから。ま、私としてもとりあえず花鈴が誰かと付き合って落ち着いてくれたのは安心したわ。しかも相手が貴信様ならなおの事。公望様には悪いけど、公望様なんかより数倍、いえ数百倍貴信様は素敵な方ですもの。公望様と比べるだけ貴信様には失礼だわ」
花憐は珍しく公望に対するけなしを始めた。それに併せて普賢も公望をけなし始める。
「確かにそれは言えてるな。公望は仙人の中でも屑の分類に入るからよ。俺も実は思ってたんだよな。なんであいつみたいな駄目!仙人で、屑!な奴が十二仙なんかに選ばれたのか不思議たと思ってたんだ。いや、そもそも仙人になれたこと事態が不思議でしょうがない。所詮たまたま仙骨を持っていて、偶然に運が良く大老君様の弟子になれただけの男。実力も無ければ、仕事も出来ない馬鹿だ。落ちこぼれも良いところ。そんなあいつが弟子を持つこと自体おかしい事だったんだよ。その点貴信は仕事はできるしまじめだし優しいし、まぁちょっと女癖が悪いけどそれを抜かせば正に十二仙の摂政に選ばれて当然の男だしな。本当になんで公望なんかが十二仙にいるのやら。あいつの存在自体が仙人界を駄目にするぞ。いっそのこと仙人界から排除するよう大老君様に進言するか?」
「それは良いかもしれませんわ。公望様が居ては仙人界の威厳に関わる問題になりますものね。はぁ〜、今思えばなんで私の大切な妹をあんな人の弟子にしたのか悔やんでも悔やみきれません。あの人は他人に悪影響しか与えない正にゴミですわ。あんな人が仙人になっていたらこれから先仙人を目指す者達も駄目になってしまいますね。そもそも公望様は・・・」
「そ、そんなことないよ!!!」
黙って二人の公望の悪口を聞いていた花鈴は突然大声で叫んで話を遮った。
「お師様は凄い方なんだから!お師様の事何も知らないのに悪口を言わないでよ!!!」
「あ〜ん?何をむきになってんだ?花鈴には関係の無い話だろ?おまえだってそう思っているからあいつの元を去ったんだろうが。所詮あいつはその程度の男だって事だよ。師が弟子を破門するのは聞いたことあるけど弟子が師に愛想尽かすなんて聞いたことないな。それだけあいつは器の小さい奴だったのさ」
「違います!お師様の心は海よりも深く空よりも広くて誰よりも器の大きい方なんです!」
「でも、おまえは愛想尽かしたんだろ?」
「そ、それは・・・」
「論より証拠ってな。お前の行動で全部分かるんだよ。ま、おまえもあいつの事見限って正解だった。貴信と幸せにな」
「ええ、心から貴方の幸せを願っているわ」
花鈴はそれ以上は何も言えないまま二人に追い出され家を出ると、ムカムカ!としながらジュニアの背中に乗った。そんな事があってから間もなく二回目のバンド練習日がやってきて泰然、奇勝の二人と律儀にも花鈴も参加して公望の家に行く。
「あれ?竜吉様、公望の奴居ないんですか?」
「うむ。このニ、三日家におらんようじゃ。何処に行ったのやら、せっかく花鈴と二人で詞を考えたというのに」
「バンドリーダーがそんなのでは困るな」
「ったくあいつ何やってんだよ!ちょっと連絡してみるわ」
泰然は宝貝を取り出すと公望に連絡を入れる。
「あ、もしもし?今何処にいるんだよ?何?そんなところにいねぇでさっさと来い。今日バンド練習日だろうが・・・はぁっ!?やる気しねぇだ!?馬鹿かお前!皆待ってんだぞ!おまえが誘ったバンドだろうが!・・・ああ、ああ居るぞ・・・・・・おう、とにかく直ぐ来い馬鹿!」
「どうじゃった?」
「ええ、なにやら気分が乗る気がしないとか馬鹿なこと言ってましたけどとにかく来るそうですので、私達はスタジオで準備していましょう」
四人はそのままスタジオに入り準備を始め、公望が来るまでとりあえずメロディ合わせと詞を聞くために練習を始めた。それから小一時間程して公望が入ってくる。
「すまぬ遅くなった」
「遅いぞ!ほらさっさと叩いてくれよ!ボーカルが入って良い感じなんだから。それに新しい曲も作ってきたんだぞ」
泰然に急かされ直ぐに公望はドラムセットの椅子に座って練習に参加したがその間一切花鈴の方を見ていない。その後も練習は進むが公望は一度足りとも花鈴を見ようとせず、ドラムだけに専念した。しかし前の練習と少し違っている。
「おい公望」
奇勝が曲を止め公望に話しかけた。
「おまえ、今日どうした?全然身が入っていないって言うか、音が単調で前みたいなぞくぞくする様なドラム叩いて無いぞ。俺のベースにもあって無いし何より心に響かない」
「ん?そうか?わしはいつも通りに叩いているつもりじゃが・・・」
「いや確かにおかしい。練習していても楽しくも無ければ違和感ばかりがあるそんなドラムだ。そんなドラム叩かれたらこっちがやる気を無くしてしまう。ドラムはバンドで柱となる存在。お前がしっかりしてくれなかったら曲になら無いだろ?」
「すまぬ。もう一度頼む」
トーンの低い声の公望の頼みに奇勝は険しい顔をしながら公望のリズムに合わせて一曲を弾き始めるが、奇勝はやはり途中でベースを弾くのを止めアンプからシールドを抜くとベースを片付け始めた。
「どうした奇勝?」
「泰然、悪いが今日の練習は俺止める。公望がこんな音のドラム叩いてるようだったら練習するだけ無駄だ」
「そうか・・・」
「公望、お前何を悩んでいるか知らないが音楽をやるときはちゃんと割り切れ。音は正直だ。自分の心を素直に投影する。もし割り切れないなら悩みを解決しろ。それが出来ないでずっとこの調子なら俺はこのバンドから抜けるからな。やっていてもおもしろくない」
「・・・・・・」
奇勝は片づけを終わるとさっさとスタジオを出て帰っていってしまう。泰然もどうしようかと思ったが、確かに奇勝の言うとおりやっていて違和感を感じていたので仕方なく帰ることにした。
「せっかく竜吉様と花鈴のボーカルが入って良い感じだったのにな。あ〜あ、公望が入ってから変になっちまった。奇勝は音楽に関してはずば抜けて感性が高いから、心に靄があると一発で分かっちまうぞ?奇勝の言うように何を悩んでるのか知らねぇけど、来週までにさっさと片つけろ。頼むぜ公望」
「・・・すまぬ」
泰然もスタジオを出て行き、公望も立ち上がるとスタジオを出て行った。竜吉と花鈴も続けて出て行き先に外に出ていた公望はただぼーっと池を見つめている。その後ろを花鈴も帰ろうと通り過ぎようとした時、公望が一声かけた。
「のぅ花鈴」
「はい!」
花鈴は何かを期待した感じで返事をする。
「そなた、今貴信と居て幸せか?」
「え?・・・・・・はい」
「・・・・・・そうか。なら・・・良い」
公望はそのまま花鈴を一度も見ないまま自室へと向かい入っていった。その後姿を竜吉と花鈴が見つめる。
「花鈴」
「何です竜吉様?」
「そちは素直になった方が良いと思うぞ。わらわはあれからずっとそちの所に行き作詞作業をしていたため、公の状態は分からぬかったがそちが出て行ってから公はずっとあんな感じじゃ。わらわが居なくなってもあんな風になってくれるのかの。正直そちが羨ましい」
「・・・・・・」
花鈴は無言のまま寂しそうな、でも何処か嬉しそうな表情を浮かべるとジュニアの背に乗り公望の家を出て行った。