公望、バンド練習開始
「ほぅ、これが軽音楽というものか。良い曲じゃな」
やってきた竜吉と花鈴に泰然達は作ってきた曲を聞かせてみると中々良い反応が返って来た。竜吉はうんうんと頷いている。
「最初の曲は、わらわが歌会でやっておるような曲と似て優雅な感じじゃ。しかしどこか音の響かせ方が違うの。ふむふむ。二曲目は激しい曲なので初めて聞くとちょっと驚くが力強くて良い」
「そうですね。三曲目なんかは私の故郷の祝い事の時なんかに使われる民族曲に似た明るい曲でどれも良い感じだと思います。私はやっぱり三曲目が好きかな」
花鈴も相槌を打ち素直な感想を述べた。
「わらわは最初の曲が好きじゃな」
「良かったぁ。竜吉様に気に入ってもらえましたか。最初の曲なんかは竜吉様の歌会を模して作ってみたんで違和感は無いと思うんですけど」
泰然と奇勝は竜吉が自分たちの曲を気に入ってくれたので安堵し喜んだ。一方の公望はちょっと考え込んでいる。
「そうか、二人はそういうのが好きか・・・」
「ん?公は三曲の中でどれが一番好きなんじゃ?」
「うーん。やっぱりメタルが好きだから二曲目が一番やりやすくて聞きやすい気はするの。しかし、二人はそっち系統の曲が好きなのか。そうなるとドラムが難しくなるの。ボーカルに合わせて作りたいからな。あまりメタルっぽくはできんか?いや、三曲目はバイキングメタルっぽくするとか。しかしの、んー・・・。」
ちょっと困った表情の公望。
「わ、私も二曲目は良いと思いますよ!凄く力強くて迫力があってなんか頑張ろうって気がします!」
「わらわも二曲目と最初の曲とどちらが良いかと悩んだんじゃ。うん、二曲目は良いと思う」
公望が二曲目が好きと言ったのを聞き、竜吉も花鈴も慌てて二曲目を褒めだした。公望は、はてなと思いつつもどの曲も素晴らしかったので問題ないかと判断し特に気にしないことにしたが、しかし花鈴と竜吉の心の中では公望の好みが知ることが出来てしっかりとインプットされる。
「お師様はああいった曲が好きなんですね。良し!二曲目に想いを込めて唄おう!」
「公は激しいのが好きなのじゃな。うむ。わらわもそういうメタルとかいうジャンルに慣れなければ」
とかなんとか二人は考えていたりする。その間公望達はすぐさま練習に取り掛かっていた。スタジオ内を音が反響して結構五月蝿い。花鈴と竜吉の二人はその五月蝿さに最初耳を痛そうにしていたが、徐々に耳が慣れ心地よい音色に変わってきた。もともとが良い曲なので、ただ五月蝿いだけではなく心に響く感じなのだ。特に奇勝のベースと公望のバスドラムの音が素晴らしいほどにマッチングしていて低音が身体全体を覆い気持ちが良い。
「公望。おまえ、強弱はすげーうまいし聞かせる感じのドラムは叩いてるから一曲目はそれで良いけど、三曲目はもうちょっとおかず増えないか?」
「そうだな。もう少し、ドラムの音数が欲しい。跳ねる感じはできてるんだけど、ちょっとツインペダルにこだわりすぎてるんじゃないか?手がおろそかだぞ?」
「相分かった」
泰然と奇勝に指摘を受けながら公望は、ちょっとドラムソロっぽいリズムを所々に入れてツインペダルの音数を減らし手数を増やす。そんな感じでその日の半日ほどを練習で費やした。竜吉と花鈴はその場で出来上がっていく曲を静かに聴いている。というより、公望のドラム姿を惚れ惚れと見ているといった方が正解かもしれない。
「さてとちょっと休憩入れるか」
「そうだな」
「すまんの。わしがブランクがありすぎて思っていた以上にそなたらの足を引っ張ってしまった」
「いや、正直俺らが予想していた以上に公望はうめぇよ。こんな短時間で三曲の土台作っちまったからな。曲調も全然崩すような事もないし、むしろ安心してドラムを任せられるから俺達も好きに弾けるよ。な、奇勝」
「ああ、特に俺のベースにうまい具合にバスドラを合わせてくるのは驚いたな。かなり複雑なコード弾いてたんだが。もうこの三曲出来上がったといっても過言じゃないだろ。十分ライブで通用するぞ」
「二人にそう言ってもらえると助かるわい」
ドラムの椅子から立ち上がり、休息に入った二人の下に近寄ってさらにどんな感じにしていくかを入念に話し合う。そんな中、ふと思い出したかのように公望は花鈴達に話を振った。
「で、二人ともどうじゃ?」
「え?何がですか?」
「いやだから、さっきから聴いていてなんか思ったこととかあるじゃろ?ここをこうして欲しいとか、もっと抑えるとか激しくするとかそういう意見が出てきても良いと思うんじゃが」
「わらわとしては、今の所特に気になったところはない」
「えーと、私は三曲目をもうちょっと軽やかな感じにしてくださるともっと雰囲気がでるんじゃないかと・・・」
「となると、もうちょっと音質変えるか?」
「いや、下手に変えるとイメージが逆に壊れる気がする。ここは公望のドラム次第だろ」
「うーむ。ドラムねぇ。これ以上アップテンポにするとおかずが入れ難くなって、ツーペダに頼らざる得なくなるが。二人はそれが嫌なんじゃろ?」
「できれば三曲目は、あまりバスドラを表に出して欲しくないんだよな。奇勝のベースも抑えてるしよ」
「んん・・・」
泰然の言葉に公望は腕を組み真剣に考える。人間の時、メタルオンリーで聴いていたため他のジャンルの事をよく知らない公望としてはやはりツインペダルに頼りたくなってしまうのだが、それではせっかくの曲調が壊れてしまう。確かに実際練習してみて、三曲目にツインペダルを入れるのは正直違和感を感じる。しかし、かといって単発打ちや変則打ちだけではせっかくの曲を生かしきれない気もするのだ。公望は必死に唸る。それを見て花鈴はしまった!と思った。
「あ、あの、すみません!軽音楽を知らない私が勝手に口出しちゃって。お師様そんなに悩まなくても良いですよ。今のままで十分良いと思いますから」
唸る公望に花鈴はなんとかフォローを入れたが、公望は納得いっていない様だ。
「いや、そういう素人の率直な意見が欲しいのじゃ。実際聴く客たちは素人が多いからの。それになにより、唄うのはそなたらじゃ。そなたらが気持ちよく唄えなければ意味が無い。ボーカルを引き立たせるのもドラマーの腕の見せ所じゃからな。うーん・・・」
「いや、本当にお師様。今のままで十分素敵な曲ですから。私の言った事は気にしないでください」
「駄目じゃ。やはりバンドとして活動する以上、全員の意見を反映させなければ。じゃから花鈴も竜吉ももっとそういった意見をバンバン出してくれ」
「は、はぁ」
自分の言った言葉で公望に迷惑をかけてしまったと思ったが、公望がそれで良いと言ってくれたのでとりあえず花鈴はほっとした。
「なぁ、泰然。わしちょっと思っていることがあるのじゃが」
「なんだ?」
「ほれ、最初に言ったと思うが仙人ならではの新しいジャンルを開拓しようと言っておったじゃろ?」
「ああ、俺もそのつもりで曲を作ってきたつもりだが」
「そこでなんじゃが、ちょっと変わったやり方をわしなりに取り入れたいと思うのじゃが良いか?」
「変わったやり方?」
「うむ。ドラムに弦楽器を取り入れようと思う」
「ん?つまり、おまえがドラムをやりつつギターを弾くという事か?」
「簡単に言うとそうじゃが、ただギターではない。わしの故郷の民族曲で使われる三味線という弦楽器を曲の中に入れたいと思うのじゃ。聴いてる限りだと、おそらく合うと思うのじゃよ」
「ふーん、おもしろそうじゃねぇか。ちょっとやってみるか」
「うむ。では、ちょっと取ってくる故しばし待っていてくれ」
公望は部屋を出て物置においてある三味線を取りに行った。その間四人の間でまた話し合いが行われる。花鈴は気を利かせて皆にお茶を用意した。しばし場が和む。
「三味線ねぇ。聴いた事ねぇな。どんな楽器でどんな音が出るのか楽しみだ」
「そうだな。公望の奴感性は自分で言っていた通りすこぶる良いから、あいつが合うというならおそらく良い感じになるんじゃないか」
「ああ、ところで竜吉様」
「なんぞや?」
「竜吉様、この三曲のメロディに詞は入れられますか?ちょっと花鈴と二人で良い詞を考えて欲しいんですけど」
「わらわ達が考えるのか?」
「ええ、やはり詞はボーカルの人に作ってもらいたいんです。歌い手が想いを伝えられるような詞はやはり、ボーカルの手で作った方が良いと思うので」
「うむ。わらわは大丈夫だと思うが。花鈴はどうじゃ?」
「私も大丈夫です。ちょっと今聴いていて伝えたい言葉が思い浮かんだんで」
「では、お二人でちょっと考えていてください。今後も作詞はお二人に任せるのでお願いします」
「分かった」
こうして竜吉と花鈴はどんな詞が良いか話を始めた。まぁ内容としては、やはりラブソング系を主に考えているようである。
さて、そのラブソングのテーマになっているとは露知らずの公望は物置をがさごそと探し回り、どこに閉まったかと手を拱いていた。
「おかしいの。確かこの辺に置いたはずなんじゃが・・・、これじゃなくて、あー、お!あったぞあったぞ」
物置の奥から黒のソフトケースを取り出す。中を開けると新品同様の三味線が入っていた。
「懐かしいな。昔沖縄で買ったんだっけ。当時ははまってたのぉ。腕が落ちてなければ良いが」
三味線を中から取り出しちょっと軽く琉球曲を弾いてみたりする。
「ん〜。やっぱり本皮は良い音がするのぉ。早速持っていくか」
ちょっと懐かしい気持ちを思い出し、軽い足取りでスタジオに戻っていった。
「おっまたっせさん!」
「お、それが三味線とか言う楽器か?」
「うむ」
「ほぅ、弦が三本しかないんだな。ベースよりも少ないなんて初めて見た」
全員が興味津々と言った感じで見に来る。
「お師様、弾けるんですか?」
「うむ。弦楽器は苦手なんじゃが、これだけは練習しての。ちょっとは弾ける」
そう言って軽く音を鳴らしてみた。全員がその独特の音色に聞き惚れる。
「わ〜、良い音ですね」
「うむ、民族っぽい音じゃの」
「これを三曲目に入れるのか。うんうん、確かに合いそうだ。よっしゃぁ!休憩もそろそろにして練習再開するか!竜吉様達は良い詞作ってくださいね」
「任せておけ」
「はい!」
そうして再び練習が始まった。三曲目のイントロをギターではなく公望の三味線から入ることにしてみると、これまた凄く民族的な感じになる。しかも、ただ三味線の音が響くのではなく途中からバスドラのツーバスも入ってきて独特な曲調ができてきた。泰然も奇勝もそれに合わせて途中から楽器を弾き始める。そんな感じで公望は、ギターソロだったり途中のおかず部分に足はツインペダルで手は三味線を弾くという荒業をやっていく。しかし、一見むちゃくちゃなように見えても曲としては怖いくらいにマッチングしていた。こうして一日の最初の練習は終了。
「最初にしては上出来だな」
「ああ」
「うむ。もう完成と言っても良いかもしれぬの」
「そうだな。じゃあよ、来週までにまた次の曲頑張って作ってくるからよ。この調子でいけば一ヶ月も掛からないうちに、ライブできそうだな。まぁ実際、ボーカルが入ってみないと分かんないけど」
「大丈夫じゃ。次回の練習までには詞を完成させて、しかと唄ってみせるゆえ」
「任せといてください」
「ええ、期待してますよ。じゃ、お疲れ様でした」
「お疲れ様、また来週な」
「じゃあな、公望」
そう言って泰然と奇勝は帰っていった。
「そなたらが、作詞をするのか?」
公望はいつもの縁側に向かい腰掛け付いてきた花鈴と竜吉に話しかける。
「はい!」
「うむ。任せられての」
「ふーん。確かに歌い手が作った方がより気持ちは伝わるからの。良い判断じゃ。最初わしが作ろうかとも思っておったが、そなたらが作れるならそれに越したことは無い。なにより面倒臭いでの。ほっほっほ、で、どんな詞にするつもりじゃ?」
「それは出来てからのお楽しみです」
「うむ」
竜吉と花鈴は意味有り気にお互い顔を見合わせてにっこりと微笑んだ。
「ま、期待させてもらおうかの」
公望はゆっくりとタバコに火をつけて、ふけていく夜の空を見上げた。