公望、いざセッション
朝目が覚めてみて公望はふと思った。今の生活はちょっと問題があるのでは?
「のう、花鈴」
「なんですか?お師様?」
「時にそなた、何時までわしと一緒に寝るのじゃ?」
「え?」
「いや、最近ちと忘れておったがそなたには好きな相手がおるのであろう?わしと一緒に寝ていてはいくら師弟関係とはいえ、相手方にしてみれば気分の良いものではない。確か転移の術の失敗で怖くなったからという事で共に寝てはいたが何時の間にかそれが当たり前になっておる。ティファニーランではバンジージャンプとか高い所から落ちるのに楽しそうにしておった所を見ると、もう怖いという想いは無いのであろう?なら共にもう寝る必要は無い」
「そ、それは・・・」
戸惑う花鈴。
「今後は自室があるのだから自室で寝なさい。わしを起こしに来る必要も無い。良いな?」
「で、でも竜吉様だって一緒に寝てるじゃないですか」
「わらわ、まだあのお化け屋敷の事が怖い」
竜吉は思いだして身震いし、びくびくしている。
「あー!ずるいですよ竜吉様!本当はもう怖いとか思ってないくせに!」
その姿に食って掛かる花鈴に対し竜吉は明後日の方向を見ながら何食わぬ顔をしている。
「いや、わらわは怖い。怖くて怖くて一人でおれん」
「まあ、わしもその気持ちは分かるからの。ああいったホラー関係の恐怖は早々には治らんよ。じゃが、花鈴はもう大丈夫であろう?」
「むー」
ほっぺたを膨らまして花鈴ちょっとすねる。
「まぁ、竜吉も正直一緒に寝るというのはどうかと思うが」
「何故じゃ?」
「十歳過ぎたら男女同衾せず。同じ部屋にいるのは良いが、別に恋人でも妻でもないのなら同じベッドで寝るのはおかしい。竜吉用のベッドも部屋に用意するからそこで怖いのがおさまるまでおることじゃな」
「えー」
竜吉もごね始めた。二人して良いじゃないかと言って来るが公望はあくまで男女同衾せずと言い張った。
「花鈴はもう怖い気持ちは無いし、竜吉は共に寝るということ自体おかしかろう?一人で居るのが怖いというだけなら別に、同じベッドで寝る必要はない」
「そんなぁー」
「公、どうして突然その様な事を言い出したのじゃ?」
「いや、前々からおかしいとは思っておったのじゃがわしは甘くての。二人がトラウマを持っているならそれが落ち着くまでと思って許可していたが、さすがに今の状態は風紀的に良くないと思ってな。甘やかすときは甘やかすが、厳しいときは厳しくせねばならん気がした。まあ、なんとなくじゃが。このことを周りに知られて変に誤解されても困るし、特に花鈴に関しては好きな相手との結ばれる確立がより少なくなってしまう。それは由々しき問題じゃ」
「わ、私の事は大丈夫ですよ!」
花鈴が何とか説得を試みるが話題がすり返られる。
「そういえば花鈴。その好きな相手との事はどうなっておるのじゃ?最近話を聞かぬが?気持ちは伝えたのか?自分からアプローチしておるか?」
「え、えーと」
「なんじゃ、うまい具合に進んでないのか?駄目じゃの。何時までもわしなんかにくっついておるから優柔不断になるのじゃ。やはり無理を言ってでもあの時仙人試験を受けさせ独立させるべきじゃったか」
うーんっと公望は唸りだした。真剣に花鈴の事を考えているのである。愛弟子には幸せになってもらわないと。最近になっていくら自由主義を尊重するとはいえ、今のままでは絶対に良くない、自分の様に駄目仙人になってしまうと公望は思案する。
「よし。では近いうちに仙人試験を受けれるよう師匠に進言しておこう」
「だ、駄目です!」
花鈴は手をバン!っとベッドに叩きつけ、ズイ!っと公望に顔を近づけた。
「何故じゃ?」
「だって!だって!・・・お師様は私が仙人になって独立してこの家から居なくなっちゃうことをなんとも思わないんですか?」
「そりゃあ、寂しくはなるとは思うが花鈴にとっては今よりも断然幸せになれると思う。そもそもその好きな男とうまくいかないのもわしが足枷になっておるからではないのか?」
「そんなことありません!」
「では、何故花鈴程純粋で可愛い娘が男一人も落せんのじゃ?何か相手に問題があるのか?というよりもそろそろ誰が好きなのか教えてくれぬか?このままではわしはそなたを不幸にしたままになってしまう。協力せねば」
真剣に公望は花鈴を見つめた。心の底から協力したいと思っているからだ。
「あ、相手の名前はまだ言えません」
「どうしてじゃ?」
「・・・・・・」
花鈴は黙り込んでしまった。困って公望は竜吉に話を振る。
「なぁ、竜吉は花鈴が誰を好きなのか知っておるのではないか?教えてくれぬか?」
「それは、わらわの口からは言えぬ」
「そなたもかぁ。うーん困ったの。では、花鈴はその者とうまくいっておるのか?」
「あまり良い状態ではないといった方が良い。しかし花鈴は今のままで満足はしておるようじゃ」
「満足はしてません!」
「ほら、花鈴もこう言っておるじゃないか。ならやはりなんとかせねば」
「その前に公。そちがなんとかならなければならんとわらわは思うぞ」
「?」
「もう少し、乙女心を理解しろというか、いい加減女性不信をなんとかしろと言っておるのじゃよ」
「わしがそれをなんとかすると解決する問題なのか?」
「そうじゃ」
「?」
良く分からないといった感じに公望は首をかしげた。何故自分の女性不信が関係してくるのかがさっぱり分からない。それを治したところで花鈴とその好きな相手とうまくいく理屈がいまいち掴めなかった。そんな折。
「公望!居るかー!!!」
外から泰然の大声が聞こえてきた。公望は部屋を出てやってきた泰然と奇勝を迎え入れる。今日バンドの練習をする約束だったのだ。
「なにやら朝早くからやってきたな」
「当然!俺の音楽魂が燃えさくっててよ!俺の愛器が早く鳴らしてくれとせがんでいるんだよ」
「早く練習がしたかった」
熱血な泰然と裏腹に奇勝はいつものようにクールに言っている。
「お前の方はどうよ?昨日罰喰らって相当深手だったじゃないか。もう大丈夫なのか?」
「まぁ、まだちと痛むが練習は出来る状態にある。問題はない。待たせてすまなかったな」
「そうか。なら良し!早速お前が用意したスタジオ見せてくれよ」
「こっちじゃ」
公望は家のある部屋に二人を促した。広い空間にちゃんとしたドラムセットが置かれ、大きなスピーカーが二台ありマイクも準備されマイクスタンドにささっている。端っこに置かれた発電用宝貝にはコンセントがいくつも付いていた。
「おお!なんかスタジオっぽいじゃん!かぁー燃えてくるぜ!」
「ああ、いい感じだ。早速持ってきたベーアン繋がせて貰うぞ。チューニングしたいからな」
「あ、俺もマーシャル繋ごっと!」
二人は持ってきた楽器をスタンドに置き、アンプをセットし始めた。セットが終わると直ぐに音出しが始まりチューニングをしだす。
「いいねぇ、なんかいい感じに反響してるじゃないか」
「スタジオって言うより、ライブ会場っぽいな」
「そっちの方が雰囲気が出ると思っての」
「でかしたぞ、公望!さて、俺はチューニング終わったけど奇勝は?」
「俺も終わった」
「じゃ、公望。ちょっと肩慣らしにジャムでもすっか?」
「良いぞ」
公望はドラムセットの元に行き椅子に腰掛ける。スティックを持ってスネアやクラッシュシンバルなどを叩いてウォーミングアップの変わりにルーディメントを叩き始めた。それに併せて泰然と奇勝も弾き始める。二人ともかなりの腕前だ。このジャムだけで一曲できそうな感じである。最初はハイハットを抑え目に叩き、スネアも音を下げメロディックに叩いていた公望は二人の実力を見て測りいけると思って半拍おいていきなりスネアをリムショットでパカーン!!!と叩き付けた。凄く大きく良い音が部屋に響く。そこから急にエイトビートだったのをフォービートに変え、ツインペダルでドコドコと十六分を刻み始める。曲調ががらりと変わりメタル風味になった。泰然はエフェクターで音色を変え鳴きの音から反転歪ませる。奇勝も指引きでベースの音を強くした。おもわず心から叫びたくなるようなそんなメタルの曲調。この時三人は心が一つになって自分達の音楽に酔いしれた。
「やべー!楽しい!」
「ああ、やるな公望」
「そなたらもさすがじゃな。ああ、これにキーボードが居てくれたらと思わず願わずにはいられないの」
ジャムを止め三人は満足げにお互いの演奏力を確かめた。
「さてと、腕ならしもお互いの演奏力も分かって音楽性は一致しているみたいだし、後は竜吉様達か」
「そういえばそなたら曲を作ってきたのであったな」
「おうよ!」
「では、竜吉達を呼んでくる故ちょっと待っておってくれ」
公望はスタジオを出て花鈴と竜吉を呼びに行く。
「竜吉様、俺達の曲好きになってくれるかな?」
「さあな。音楽性があってればいいんだが」
「三人は良い感じだからよ。本当、このバンドで竜吉様には唄って欲しいよな」
「そうだな」
そんな感じで二人は待ちつつ、自分達の作った曲を再度弾き始めた。