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仙人事録  作者: 三神ざき
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公望、真意とは?

「えー!お師様が罰を受ける!?」


 白桜童子から話を聞いた花鈴はその事実に衝撃を受けた。


「はい、今から蓬莱山天空広場にて公開致しますので見に来てください」


「何故、公望が罰を受けるのじゃ?」


 洗濯し終わり服を干していた竜吉もやってくる。


「掟七条、仙人は人間界に降り立ってはならないの掟を破ったからです」


「そ、それだったら私達だって罰を受けないといけないんじゃないんですか!?」


「いえ、大老君様の判断により公望様のみに罰が与えられます。とりあえず、直ぐに執り行われるので天空広場までお越しください。私は他も伝えに行かなければならないので。それでは」


 白桜童子は伝えるとさっさと飛び立っていってしまった。


「お師様が罰を受けるなんてそんな・・・」


「うむ。公は大丈夫と言っておったのに・・・。とりあえず、天空広場に行くぞ」


「はい!」


 花鈴はジュニアに乗り二人は急いで天空広場へと向かった。天空広場には大勢の仙人や道士でごった返している。正面の舞台の上には大老君が居た。


「皆集まったな?では、これより掟を破った重罪人公望の罰を執行する。執行人は普賢。第七条人間界に行ってはならないを破った罪により百叩きの刑と処す」


「なんだぁ、ただの百叩きかよ」


「それぐらいなら重罪って程じゃないんじゃないか」


 集まった仙人達から声が上がる。まぁ、日頃厳しい修行を受けている仙人、道士にしてみれば体罰などさして辛いものではない。百叩きなぞそれほど怖いものでもないのだ。


「ただし!執り行う鞭は超宝貝の禁鞭とする」


「げっ!」


 会場にどよめきが走った。それもそのはず。確かにただの百叩きならさして怖いものでもないのだが、よりにもよって超宝貝のひとつ禁鞭を用いるのはさすがに怖い。いくら日頃鍛えている仙人でも禁鞭の猛威を一太刀でも喰らえば、下手すれば命を落しかねないからだ。それほどまでに禁鞭の攻撃力は高く、だからこそ七大宝貝に名を連ねているのである。


「では、重罪人公望。こちらに来るように」


 大老君に呼ばれて舞台袖に居た公望は無言のまま舞台に上がった。そして、普賢に対して背中を向ける。


「では、普賢。やってくれ。良いか、手加減してはならんぞ」


「はい」


 普賢は禁鞭を握り締めると公望の方へ向いた。


「許せよ公望。これも十二仙の長としての役目だ」


「構わぬ」


「行くぞ」


 普賢は禁鞭を思いっきり振った。普賢の力が鞭へと伝わり鞭がしなる。バシっ!!!と物凄い音とともに公望の服は破け、背中に鞭が食い込む。


「ひとーつ!ふたーつ!」


 大老君は当たるたびに声を高らかにして数えていった。ビシッ!!!バシッ!!!と禁鞭の猛威が容赦なく公望の背中に当たり、公望の背中は肉がえぐれ血は滴りもう骨まで見えそうなほど傷ついている。さすがに公望も我慢はしているものの立っているのが辛くなってきて倒れそうになるがそれを必死にこらえる。


「うわぁ〜・・・」


「あれは痛いなんてものじゃないぞ。普通もう死んでるって」


「ううう、気持ち悪くなってきた・・・」


「よく耐えてるな、公望」


 会場からは嫌な声がところどころで流れている。ある仙人なんかはもう見ていられないとばかりに、顔を背けている者も居た。


「お師様・・・」


「公・・・」


 花鈴と竜吉は辛そうな表情を浮かべながら公望の罰を見ている。そうこうしている内にようやく最後の一振り。


「ひゃーく!」


 普賢は渾身の力を込めて禁鞭をしならせた。バシコーンッ!!!と凄い音がしてその衝撃に何とか耐えていた公望もとうとう吹っ飛んだ。ドサッ!という音をたて公望は舞台端に倒れこむ。さすがに身体に力が入らない。公望は倒れたまま。


「これにて、重罪人公望の刑を終了とする。良いか皆の者、掟を破るとどうなるかしかと目に焼きつけ、今後も掟はしっかりと守るように!では、解散」


 大老君が言い終わると、皆が辛そうな顔をしながら各自邸宅へと戻っていった。普賢、大乙、妖仁、奇勝、泰然、花鈴、竜吉は直ぐに公望の元に駆け寄る。


「大丈夫か公!?」


「お師様!」


「うぅ・・・い、痛い」


「そりゃあ、痛いでしょ望ちゃん。禁鞭で叩かれたんだもん。命があっただけマシだよ」


「俺も一応ばれないように手加減はしたんだけどよ。わりーな。これも役目でよ」


「ねぇ公望、なんでまた人間界に行ったりしたの?こうなるの分かってたでしょ?」


「おい!公望!今日バンドの練習日だっていうのに、お前がこれじゃ練習できないだろ?せっかく曲作ってきたって言うのに」


「・・・す、すまぬ」


 息も絶え絶え、公望は何とか一声出して泰然に謝った。


「お師様!とりあえず、直ぐに手当てしないと!家に戻りましょう!」


「うむ。風麒麟、公望を運ぶのじゃ」


「はい!」


 皆してそっと公望を持ち上げると風麒麟の背中に乗せた。その間も公望はうめき声を上げている。


「よし、では花鈴戻るぞ」


「分かってます!」


 公望を乗せた風麒麟は凄い勢いで家へと向かう。その後を竜吉と花鈴も追った。そして、公望の家。風麒麟は公望の部屋に行くと花鈴達に手伝ってもらって公望をベッドにうつぶせに寝かせた。その公望の背中を花鈴は改めて見て気持ちが悪くなる。あまりにも酷い傷。いや、傷と呼べる範囲を超えている。肉は完全に削ぎ落とされ骨が露骨にむき出している。溢れ出る血によってベッドは徐々に真っ赤に染まった。


「どど、どうしましょう竜吉様!」


「うむ、これほどの傷。しかも受けたのが禁鞭によるものとすると、普通の治療では回復せぬ。仙丹でも回復できぬしここは仙魂丹が必要じゃな」


「仙魂丹って何処にあるんですか!?」


「わからぬ。仙魂丹は貴重な物故、数が少ない。しかも確か、今悪い具合に仙魂丹はどこもきらしておるのではなかったかな」


「そ、そんな。というか、竜吉様!なんで竜吉様はそんな落ち着いているんですか!お師様がこんな状態になってなんとも思わないんですか!?」


「そんなことあるわけなかろう!わらわだってどうすれば良いか動揺しておるわ!今にも泣き出しそうなのを必死に堪えておるのじゃぞ!!!」


「だったら、なんとかしないと!」


「くぅ・・・、せ、仙魂丹なら、わしの薬箱の中に確か一つだけ、あったはずじゃ・・・」


「そうなんですか!?だったら直ぐ持ってきます!」


 花鈴は急いで薬箱を持ってきた。しかしどれが仙魂丹か分からない。


「竜吉様どれですか!?」


「えーっと、あ、これじゃ!」


 竜吉は拳よりちょっと小さいくらいの大きさの丸く黒い玉を取り出した。


「これをどうすれば良いんですか!?」


「普通は食せば良いんじゃが・・・」


「き、禁鞭の傷は、食べるだけでは、回復、しない。直に、塗りこまないと・・・」


「分かりました!お師様!じゃあ、塗りこみますよ」


 花鈴は竜吉から仙魂丹を奪い取ると直ぐに公望の背中に塗りこみ始めた。


「ぐぅ!し、しみるぅ・・・」


「我慢してくれ、公。わらわはなんとか術で止血はしておるゆえに」


 そう、実は竜吉。さっきから平静を装っていたのは、術で公望の背中の止血をするためにそれに集中していたからだ。竜吉は水を操る。血液中にも水分が含まれるためそれを操作してなんとか止血しようとしていたのだ。もしそれがなかったら、今頃既に出血多量で公望は死んでいる。


「お師様、塗り終わりましたよ!」


「うー、さっきよりかは楽になったが、さすが禁鞭。仙魂丹の力でもそう簡単に完治せぬか」


「とりあえず、血も止まった。これで何とか大丈夫じゃろ」


「よ、良かったぁ」


 花鈴は力尽きたかのようにその場に座り込んだ。竜吉も安堵の溜め息を出す。


「すまぬな二人とも。迷惑をかけた」


「いえ、そんなことないです。私の方こそごめんなさい。私が人間界に行きたいだなんて言ったせいで・・・」


「すまぬ公。そち一人に罪をかぶらせてしまった」


 二人はすまなそうに悲しい表情をして謝った。公望は気にせずとも良いという感じに手をひらひら振っている。


「で、でも、なんでお師様が罰を受けなきゃならないんですか!あの時お師様、大丈夫だって、大老君様が何か言ってきても問題ないって仰っていたのに!」


「それに、何故そちだけが罰を受ける?わらわ達も同罪じゃろ?」


 二人は納得いかないという感じで公望に迫った。しばし考えた後に公望は真意を伝える事にする。二人には知っておいて貰いたかった。


「・・・理由があるのじゃよ」


「理由?」


「うむ。実はな、最近仙人界の掟に対する遵守の念が薄れておったのじゃ。わしが自分の美学にのっとって行動しておるとはいえ、度重なる掟破りにより周りの仙人達が掟を破っても問題ないと勘違いを初め仙人界の風紀が乱れつつあった。ほんの些細な事ではあるが、その歪みはいずれ大きくなり仙人社会に大きな影響を及ぼしかねん。だから改めて掟を破るとどうなるか皆が再確認する必要があったのじゃ」


「だからといって、何故お師様一人が背負わなきゃならないんですか?」


「その小さな歪みを巻き起こしたのがわしじゃからじゃ。これは自分でまいた種。今後もわしの美学にのっとって行動するためには、一度こういう状態にならなければならないということは元々考えておったのじゃよ。それが、たまたま花鈴達が人間界に興味を持ったのを機会に良い頃合だと思って行動したんじゃ。だからそなたらが罪を背負う必要がなかった。遅かれ早かれ何時かは罰を受けねばと考えておったからな」


「公、そちは何処まで思慮深いんじゃ。その考えには敬意を払うぞ」


「いや、ただわしは自分の美学に基づいて行動したいだけ。このまま行けば、その美学も崩さなきゃならなくなり、住み難くなることは必然じゃ。わしは誰かのために罰を受けたのではない。自分の生き方を守るために罰を受けたのじゃ。ただそれだけ」


「お師様の美学は難しすぎるんですよ」 


 花鈴と竜吉は改めて公望の考えが自分達には到底及ぶ範囲ではないんだなという事を理解して凄いなぁとつくづく感心した。公望はそんな花鈴の言葉を聞いて人間だったときの事を思い出す。


「ははは、昔親にもそう言われたな。あんたの考えは難しすぎるっての。よく意見が合わなくて喧嘩してたっけ。・・・はぁ〜、ようやく痛みが引いてきた。死ぬかと思ったわ。そういえば、今日はバンドの練習日だったの。泰然の奴怒っておったなぁ。今からでも練習するか?」


「だ、駄目ですよ。そんな身体で動いたら。せめて身体が治るまで安静にしていてください」


「そうじゃ」


 二人に引き止められて公望は仕方なく安静にしている事にした。泰然には一応連絡をして明日に練習しようと言っておく。


「さて、まあなんにせよ今回は事情が事情だったがゆえにあえて罰は受けたが、今度はもう罰を受けるつもりは無いぞ。また人間界に遊びに行こうな、花鈴、竜吉」


「はい」


「うむ」


「あ、その代わり罰をもし受けるときはお師様だけじゃなくて私もちゃんと受けますからね」


「わらわもじゃ。そち一人背負わせたくない」


「その気持ちだけでわしは救われる。そなたら本当に良い人じゃな。しかし、次は罰を受ける様なへまはせぬゆえ大丈夫じゃよ」


 公望は、ほっほっほと笑った。その笑顔を見て二人も自然と笑みがこぼれる。


「そういえば、今日の洗濯問題は結局どうなったんじゃ?」


「え、あ、今回は二人で洗う事にしました」


「うむ。あのまま言い争っていたらいつまで経っても決着がつかなさそうだったのでな」


「そうか。最初からそうすれば良いものを・・・。まったく、今度からそういったことは当番制にでもしないと駄目かの」


「いえ、競って勝ち取るから意味があるんです」


「その通り」


「はぁ〜、まあそなたらが良いならわしは何も言わぬよ」


 何故競っているかが未だにわからないまま公望は溜め息をついてとりあえず仲良くするようになと言うと、まだ痛みが完全に引かない背中をさすった。

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