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仙人事録  作者: 三神ざき
25/47

公望、人間界に遊びに行く(下)

「ふーむ、人間界は面白い所よの。わらわが神界の者でなければ毎日でも遊びに来たいわ」


「私も他の国でこんなに面白い所があるなんて知りませんでした!」


 早足に次なるアトラクションへと向かいながら二人は楽しそうにしゃべっている。公望は二人の後ろを歩き、満足している花鈴達をタバコを吸いながらにこやかに見ている。


「次はここか?」


「そうですね。パンフレットではここになってます」


 ある建物の前に三人は来た。もう昼を回り、人が大勢並んでいたが順番に中に入っていくスピードが速いのでそこまで待つほどでもなさそうだ。


「公、ここはどんなところなのじゃ?」


「ホーンテッドマンション。お化け屋敷だよ」


「お化け屋敷?」


 二人は声を揃えて不思議そうに聞き返した。どうやら花鈴の国でも竜吉の暮らしの中でもお化けの存在は認知されていないらしい。


「まぁ、中に入れば分かるさ」


 二人を促しつつ薄気味の悪い建物の中に入っていった。


「なにか、やたら暗くて薄気味の悪い所じゃの。あれだけの人が入っていったのに恐ろしいくらいに静かじゃ」


「そうですね」


 建物の中は薄暗く、ところどころに割れたビンが転がっていたり血の跡等がついている。このお化け屋敷は病院の廃屋をイメージして作られたもので、その廊下を三人は歩いていた。平静を保ってはいるものの若干竜吉が珍しくびくびくしてながら歩いているようだ。反面花鈴は楽しそうに辺りを見渡している。


「あ!あそこに誰か居る!」


 花鈴が指差した方は手術室と書いてある場所で、少しだけ扉が開いておりちょっとだけ中が見えるようになっていた。だが、薄暗くはっきりとは見えない。


「どこじゃ?」


「ほらあそこ」


「わらわには良く見えぬな」


「竜吉様行ってみましょう!」


 興味津々な花鈴は竜吉の手を引っ張り無理やり手術室の方へと近づいていった。近づくと確かに中に人が居る。オペ用の服を着てメスを持ち、横たわっている人の腹部を切り裂いてまさに手術をしている途中だった。しかし、何かがおかしい。その医者らしい人は切り裂いているメスを自分の口元に持っていっているのだ。後姿しか見えないので何を行っているかわからないが、辺りにはくちゃくちゃと嫌な音が響いている。


「何をしているんでしょうね?」


「さあの」


 花鈴はもっと見てみようとそっと扉を押した時、ギギギっと扉のきしむ音がした。その音に反応し手術をしていた医者が竜吉たちの方に顔を向けた。


「ひっ!」


 その顔を見て思わず竜吉は悲鳴を上げる。医者の顔は眼球が外に出てゆらゆら揺れており、口元は真っ赤に染まっている。口をいやらしそうに動かし、くちゃくちゃと音をたて手にもっているメスの先には患者の腹から切り裂いて取った内臓がくっついていた。そう、患者の内臓を喰べていたのだ。


「見たなぁ〜」


 医者はそう良いながらメスを持ち近づいて来たので、おもわず花鈴は構えた。その瞬間、医者は消える。


「あれ?」


 拍子抜けしてしまった花鈴は構えを解き、改めて中を見るが患者の姿も無い。二人は何処行ったのだろうと辺りを見渡している時、竜吉は肩を叩かれた。


「なんじゃ、公」


 てっきり公望だと思い、振り向くとそこには先程手術台で横たわり腹を切り裂かれていた人が立っていた。腹部を切り裂かれ、血は吹き出し中の内臓が垂れ下がっている。


「私の食べた内臓・・・返して・・・」


 薄気味の悪い声で無表情に青い顔をしてしゃべりかけてくる。


「キ、キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーァ!!!」


 竜吉は突然割れんばかりの叫び声を上げて一目散に逃げ出した。それを面白がるかのように患者は追いかける。


「嫌ぁ!来るでないー!!!」


 全力疾走で逃げている竜吉は足元に転がっている物に気づかず何かに蹴躓いて凄い勢いで転んでしまった。


「痛ぁ!」


 起き上がりながら蹴躓いた物を見てみる。そして、また悲鳴を上げた。蹴躓いた物、それは人の生首だったのだ。しかも血走った目だけが動いており竜吉の方を恨めしそうに見ている。気がつくと周りにはその生首の本体である身体が無惨にも切り刻まれ転がっていて、廊下の壁にどんどん手の形をした血の跡が広がっていく。


「・・・・・!!!」


 直ぐに起き上がり、その場から逃げようとした竜吉は声にならない悲鳴を上げて腰を抜かしてしまった。今度は、逃げようとした廊下の前の一室の扉が不気味に音を立て開き、中からうめき声を上げ頭をうなだれて長い髪を垂らした人が苦しそうに出てきたのだ。挙句、細い綺麗な足も血だらけの手に掴まれて身動きが取れない。


「えーーーん!怖いよぉ、嫌ぁ!!!」


 もう、四方八方から怪奇現象だったりゾンビみたいな人に囲まれ座り込み、竜吉はとうとう泣き出す。


「竜吉さまぁー!」


「おーい。大丈夫かぁ」


 遅れて後からついてきた花鈴と公望が竜吉の下に駆け寄ってくる。


「公!わらわ、もう嫌!こんなところ早く出よう!!!」


 やってきた公望に必死にしがみつき何とか立ち上がると、早く出たいと急かす。


「ああ、後ちょっとだからとにかくそんなにしがみつくなって」


 泣きじゃくっている竜吉の頭をそっと撫でてやると、早足で出口の方へと向かっていった。その間も、驚かせ役の人や作られた怪奇現象に竜吉は悲鳴をあげて公望に抱きつく。そして、ようやく出口の光が見え竜吉はホッと肩をなでおろした時、最後の決め手の一手が来た。


「逃がさない・・・」


 辺りに声が響き渡ると後ろの天井から不気味な人形が迫ってきて、それを見た竜吉は急いで出口に走り行く。もう出口はそこだ!っと言う時にいきなり目の前が暗くなった。


「キャ!」


 上から降ってきた何かにぶつかって視界を遮られた竜吉は、それをよくよく見ると首を吊った人だった。


「く、苦しいぃ」


「嫌ぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 近くに隠してあるテープから音声が流れ竜吉はゾッ!として叫びつつ後ろに下がろうとするが後ろからは人形が迫ってきている。もう大丈夫だろうと安心した矢先に来たあまりの恐怖に神経が耐え切れずとうとう竜吉は気を失って倒れてしまった。


「あらあら。はいはい、ちょっとどいてね」


 首を吊った人形をどかすと公望は竜吉の身体を抱きかかえてさっさと出口を出る。


「お疲れ様でしたぁ!」


 にこやかな笑顔で係員が挨拶をしてくる。公望は軽く頭を下げて、竜吉を抱きかかえたまま近くにあったベンチに向かい竜吉を寝かした。


「竜吉様大丈夫ですかね?」


「ちょっと、刺激が強すぎたかな?冷やしたタオルでも貰ってくるよ」


 公望は濡れタオルを係員から貰うと竜吉の額にそっと乗せてやる。そして、隣併せのベンチに花鈴と座った。


「花鈴の方は、大丈夫そうだね?」


「はい!私ああ言うの好きです!」


「そうか、花鈴はホラー系も好きなのか・・・。俺は苦手なんだけどね。俺も最初ここに入った時はあまりにも怖くて、一人で部屋に夜居られなかったからなぁ。あの時は先輩に無理言って泊まってもらったっけ」


「へー、お師様でも怖いとか思うんですね」


「当たり前だって。俺こう見えてかなり繊細よ?二度目だから慣れてたけどさ」


 公望はタバコを取り出し口にくわえるとライターでタバコに火を点けた。


「・・・うーん」


 タバコを二回程ふかした時、竜吉が気がついて起き上がる。


「大丈夫か?」


「・・・なんとか・・・」


「二人はちょっと待ってな。俺アイスでも買ってくるわ」


「はーい」


 公望はベンチから立ち上がると、アイス売り場へと向かう。


「大丈夫ですか?竜吉様」


「う、うむ。人間とは恐ろしい生き物じゃな。なんというものを作るのじゃ。その思考が信じられん。あのような所の何処が面白いのか」


「そうですか?私面白かったですよ」


「ううう、信じられんわ」


 竜吉は思いだすと身震いした。花鈴はそんな竜吉を見て笑っている。そんな二人にある若い男性二人組みが声を掛けてきた。


「君達、今暇かい?」


「良かったら俺達と一緒に遊ばねぇ?」


「え?えーっと、竜吉様。この人たちなんて言っているんですかね?」


 異国の言葉が分からず、声を掛けられた花鈴は戸惑い竜吉に助けを求める。


「どうやら、わらわ達と遊びたいといっておるようじゃ」 


「竜吉様、言葉分かるんですか?」


「うむ。昔人間の文化に興味を持っての。少し勉強した事がある。しゃべったり、速い言葉は聞き取れぬが。どうやらわらわ達は人間界で言うナンパを受けているらしい」


「なんぱですか?」


「おそらくの」


「どうよ?俺達も二人だけでよ、暇しているんだ。遊ぼうぜ」


 声を掛けてきた二人のうちちょっとガラの悪そうな男が竜吉の肩に手をかけた。竜吉はその手をバシっ!と払いのける。


「そちの様な小物が気安く触れるな」


「おお、おお!なんだよなんだよ!つれねぇじゃねぇか?」


 叩かれた男はムッとしたらしく、少し強めに声を出す。もちろんこの会話はお互いに通じていない。


「生憎とわらわ達は待ち人がおる。ゆえにさっさとこの場から立ち去れ」


 言葉が伝わらないと分かっていながら竜吉はツンっとした態度で言い返した。その態度にますます男は頭にきたらしい。なにやら英語で大声でまくしたてている。しかし竜吉は全て無視を決め込み、花鈴もそれに習って放っておくことにした。その内、その大声になんだなんだと周りの人が興味を示し、人だかりが出来る。


「何だ一体?」


 アイスを買って戻ってきた公望は、なにやら人だかりが出来ている竜吉達の方に早々と向かう。人を押しのけて現場に辿り着いた。


「どうしたよ?」


「あ、公。何かこの者達がナンパをしてきているようなんじゃ」


「ナンパだぁ?ははは、そりゃそうだ。こんなに美しい女性が二人並んでりゃ否が応でも声を掛けてくる男は居るだろ。あ、花鈴は桃味のアイスで良かったよね?竜吉は何が好みか分からなかったのでオーソドックスにミルクココア味にしてみたんだけど」


「ありがとうございます」


「公、これはなんという食べ物じゃ?」


「アイスだよ。牛のお乳をシャーベット状に固めて添加物を加えたもの。甘くておいしいから食べてごらんよ」


「うむ」


 竜吉は花鈴の食べ方を見てそれに習い食べてみた。その味にカルチャーショックを受けたような表情をする。


「冷たくて甘いの!若干苦味があるのが良い」


「良かった気に入ってくれたか。竜吉の好みがわからなかったからさ、どうしようかと悩んでたら時間食っちゃって」


「大丈夫じゃ。これおいしいぞ。わらわ気に入った」


「それはなにより」


「おい!さっきから無視してんじゃねぇ!!!」


 声を掛けてきたガラの悪そうな男がとうとう怒鳴り散らしてきた。竜吉達同様無視をしていた公望は面倒臭そうに返事を返す。


「なんだよ?」


「なんだよじゃねぇ!今、こいつらと話しているのは俺達なんだよ!なに無視決め込んで勝手に話し進めてるんだ!?」


「悪いけど、この二人は俺の連れでね。ナンパなら他を当たってくれよ」


「あぁん?さっきから見てりゃ調子に乗りやがって。お前こそ邪魔なんだよ!」


 男は急に殴りかけてきたが、ひょいっと公望はかわす。


「ったく。怒りの矛先がなんで俺に来るんだよ」


「うるせー!とにかくお前は邪魔なんだよ!」


「お前が邪魔だ」


 公望はストロベリーアイスを食べつつ凄い速さで一発男の鳩尾みぞおちに蹴りを入れた


「うげっ!」


 男は痛みで気を失い倒れ、もう一方の男はまずい相手を敵に回したと直感的に分かったらしくすみませんと謝ると倒れた男を抱きかかえて去っていった。


「わー、お師様が人に手を上げた所初めて見ました」


「わらわもじゃ」


「あれは正当防衛。仕掛けてきたのはあっちが先なんだから自分の身を守るためにちょっとだけね。この程度なら俺の美学には反さない」


 公望はベンチに座りなおすとアイスをほうばった。


「さてと、二人とも凄い勢いで回るものだから予定よりも早く全部回っちゃったね。どうするこれから?」


「え?もう全部回っちゃったんですか?このパンフレットにはまだ残ってるアトラクションあるみたいですけど」


「ん?ああ、それは今建て直し中で工事してるから今日は行けないんだ」


「そうなんですかぁ」


「残念じゃのぉ」


 二人はがっかりした感じで溜め息を付いた。


「ま、良いじゃない。俺前来たときそこの場所行ってみたけどはっきり言って面白くは無かったしさ。二人ともティファニーランドの主要で人気なアトラクションには全部回ったんだし、最後にそこのアトラクションを行くと楽しい想いが消えちゃうかもしれないから、ルート的に十分だと思う。後は夕方から始まるパレードくらいじゃないかな?」


「そうか」


「でも、私は一応全部回ってみたかったです」


「また今度来れば良いじゃない。さて、パレードまで時間あるしその間買い物するなり気に入ったアトラクションをもう一度行くなりしようか。どっちが良い?」


「もう一度回るつもりじゃったが、わらわはその買い物とか言うものをしてみたいの」


「あ、私もしてみたいです。この国でどんなものが売られているのか見てみたい」


「良し!じゃ、ショッピング街に行こうか」


 そして三人はショッピング区域に向かっていった。そこにはいろいろなグッズやお菓子など様々なお土産が売られているだけでなく、極普通の服屋、雑貨屋等も立ち並んでいる。二人は興味津々で品物を見ていた。


「お師様ぁ!これ見て見て!可愛いですよっ」


「公、わらわにこの服は似合うかの?」


 花鈴はティファニーランドメインキャラクターのティファキャラットの大きなぬいぐるみを抱え、竜吉は青色のカジュアルドレスを持ってきた。


「うんうん、可愛いよね。竜吉もその服凄く似合うと思う。試着してきたら?」


「試着?」


「試しに着させてもらう事。あそこに試着室があるから着替えてみなよ。他にも気に入った服があったら着てみたら?」


「うむ、分かった」


 竜吉が試着室に行き着替えている間、公望と花鈴は持ってきたぬいぐるみの手とかをいじり遊んでいる。


「ティファキャラは本当可愛いよね。俺も好きなんだ」


「へー、これてぃふぁきゃらって言うんですか」


「正式にはティファキャラットだけど」


「良いなぁ、欲しいなこれ」


「じゃあ、買えば良いじゃない?そのために来たんだから」


「あの、その買うってどういうことなんですか?売るのと違うんですか?」


「あー、そっか。花鈴は売った事があっても買った事がないのか。それは竜吉が着替え終わったら一緒に説明してあげる」


「公、どうじゃ似合うか?」


 試着室の扉を開けて物凄い綺麗な格好をした竜吉が出てきた。元々持っている気品さを上品に保ちつつ服がよりそれを引き立てている。


「ほぉ〜〜〜」


 公望は思わず声をあげて見とれてしまった。周りに居た客達も買い物を止めて一斉に竜吉の方を見ている。


「な、なんじゃ、どこか変か?」


「いや、凄く似合ってる。こんなに綺麗に服を着こなした人初めて見た。竜吉は服のセンスも良いんだな」


「竜吉様凄く綺麗ですよ!」


「そうか、ありがとう。わらわも着てみてこの服が気に入った。欲しいの」


「じゃあ、是非とも買わないとね」


「公、その買うということじゃがなんなんじゃ?」


「今、その事を花鈴とも話をしていたんだけど説明してあげる」


 公望は、人間社会における貨幣制度について説明した。


「なるほど。つまりそのお金とやらを払って代価として品物を手に入れるわけか」


「そう」


「じゃ、お師様。買うにはお金が必要なんですよね?」


「そう」


「しかし、わらわ達はこの国のお金どころかお金と言うものすら持っておらんぞ?お金がなければ欲しくても手に入れられぬのじゃろ?」


「その辺は大丈夫。俺持ってるから」


「そうなんですか?」


「当たり前だろ。持ってなかったらどうやってここに入れたんだよ?ここだってお金無しで入れる場所じゃないんだぞ」


「それもそうじゃな」


「じゃあ、説明もしたところで初めてのお使いじゃないけど二人にお金渡しておくよ。それで自分の好きなの買えば良いさ」


 公望は財布を取り出すと二人に手持ちで持っていた紙幣数十枚渡した。ここで買い物するには十分すぎる程の額である。二人はお金を受け取ると竜吉は服を中心に見て周り、花鈴はグッズを中心に見て回った。


「で、欲しいものが決まったらあそこのレジって言う所で品物渡してお金を払って買い物は終了」


 見て回っている二人に声を掛け、公望は喫煙コーナーに向かうと一人タバコを吸っている。しばらくボーっとしているうちに外は暗くなり始め、そろそろパレードの始まる時間だ。


「そろそろ行かないとな」


 そんな事を考えている時、丁度二人がたくさんの紙袋を抱えてやってきた。


「・・・あ、あのさ、ちょっと買いすぎじゃない?」


「えへへ、見てたら全部欲しくなっちゃって」


「うむ、どれもこれも良い物ばかりでな」


 二人はにっこりと満足気に笑っている。 


「で、お釣りは?」


「はい」


 二人から渡されたものはコイン数枚だった。それを見つめ公望は呆れる。


「な、何?これだけしか無いの?もう少しさ、考えて買い物はしようよ」


「えー、だってお師様。中々来れない所を折角来たのに買わないのは損でしょ?」


「そうじゃ、今度は何時来れるかわからぬのだからな。買えるときに買っておかねば」


「・・・人間だったら、二人とも生活できないな・・・」


 寂しくなった財布の中に受け取った小銭を入れ、そんな事をふと思ってしまう。この二人が本当に仙人でよかったとつくづく思うものだ。まぁ、女性と言う生き物は買い物が好きだという頭があったからある程度は覚悟をしていたものの、直で経験してみると予想外の凄さ。


「じゃ、そろそろ行こうか。パレードが始まっちゃう」


 二人から荷物を受け取ってパレードが見えるティファニー城前へと案内していった。ティファニー城は夜になり綺麗にライトアップされ、噴水が様々な形状で飛び交っている。周りには観光客だけでなくそれ以上にカップルが多かった。


「わー!綺麗な場所ですね!ここですよ、飛んできた紙に描かれてた場所!実際見てみると紙に描かれていたのより全然綺麗ですね!!!」


「うむ。見事じゃ」


 二人はうっとりと城を見つめた。そんな時何処からか陽気な音楽が流れてくる。三人は音楽の聞こえる方に向き直ると、様々なキャラクターの着ぐるみが踊りながら手を振ってやってきた。続いてライトアップされたパレード車もゆっくりとやってくる。車の上にはメインキャラのティファキャラが観客達に大きく手を振っていた。


「わー!」


「綺麗・・・」


 二人は思わずパレードの方に歩み寄って行った。その二人に気づいたリサキャラットというティファキャラットの妹の着ぐるみが近づいてきて手を握る。


「わわ!」


 花鈴は手を握られて嬉しそうに竜吉の方を見た。竜吉も握手をしてもらう。


「おーい、丁度良い機会だから写真撮ってあげる」


「しゃしん?」


「とにかく二人とも並んで」


 公望に言われてリサキャラットを真ん中にして二人が並んだ。


「はい、笑って。いくよー」


 満面の笑顔を向ける二人と手を前に振っているリサキャラットに向かってフラッシュが二回たかれた。ポラノイドカメラから写真が出てくる。


「はい、二人とも」


「なんですかこれ?」


「見てれば分かる」


 最初黒かった写真が徐々に光景を映し出し、二人が映し出された。


「あー、これ私です!」


「うむ、わらわも居るな」


「これが写真っていうもの。その場の風景をそのままそのフィルムっていうものに写し取るんだ」


「へー!」


「人間の文化とは凄いの」


「じゃあ、お師様。今度は三人でお城を後ろにして写しましょうよ!」


「そうじゃそうじゃ。三人で写そう」


「ああ良いよ」


 公望は近くに居た人を捕まえてすみませんと言って写真を撮ってもらうように頼んだ。その人は快く返事をしてくれ、三人は公望を真ん中にして城を背に写真を三回撮ってもらった。


「ありがとうございました」


 丁寧にお礼を言うと写真を受け取り、二人に渡す。


「これ一生の宝物にします!」


「わらわもじゃ」


「はいはい」

 

 喜ぶ二人に公望はにっこり笑うと三人はまたパレードを見ることにした。それから一時間程してパレードも終了し、これにてティファニーランドの楽しむところは全て楽しんだ事になる。


「さてと、これで全部だしもう遅い時間だから帰ろうか?」


「えー、もう帰るんですか?」


「もう少し居たいの」


「じゃあ、もう少しだけ」


 二人のブーイングにより少しだけその場で夜景を楽しむ事にし、三人に良い雰囲気が流れる。しかし公望はこういう雰囲気に慣れておらず頃合を見計らって帰ろうとするのだがもう少しだけもう少しだけと二人は言い、結局閉園の時間まで居たのだった。


「さ、もうここも閉まるから帰るよ」


「むー、もっと居たかったなぁ」


「うむ。この様な良い場所は仙人界には無いからの。残念じゃ」


「また、連れて来て上げるから」


 二人をなだめつつ、さあ帰ろうと公望は術を発動させた。その場から三人の姿が消え公望の家の庭に光景が変わる。


「ふぃー、さすがに一日居ると疲れるね。まぁ、心地の良い疲れだけど。二人とも楽しかったかな?」


「はい!すっごく楽しかったです!!!」


「うむ!」


「それはなにより」


「お師様は楽しかったですか?」


「ん?うん、楽しかったよ」


「良かったー!!!本当誘って良かったです」


「ありがとう花鈴、竜吉」


「いえ、こちらこそありがとうございました」


「ありがとう、公」


「うん。さ、もう疲れちゃったから寝ようか」


「はーい」


 公望は、荷物を花鈴と竜吉の部屋に置くとさっさと自室に行き着替えてベッドに横になる。花鈴も着替えてやってきたがさすがに疲れていたらしく、話も満足にしないうちに自然と寝てしまった。それを見て公望も目を瞑り寝ようとすると、しばらくして部屋の扉が開きそこに竜吉が立っていた。


「どうした?」


 目を開けて竜吉の方を見ると竜吉は枕を抱き抱えつつうつむいている。公望は言葉を待った。


「あ、あの公。わらわも一緒に寝ても良い?」


「何故?」


「・・・一人で部屋に居ると、ホーンテッドマンションの時の事を思い出して怖い・・・」


「あー、そっか。じゃあおいで」


 公望は術でベッドを広げ隣にスペースを空けると、ポンポンとそこを叩いた。竜吉はいそいそとベッドの中にもぐりこんでくる。


「竜吉にもあんな一面があったんだ。意外だわ」


「うむ。わらわ、あんなに怖い想いしたのは生まれて初めてじゃ。思い出すとドキドキする」


「ははは。俺、竜吉が寝るまで起きていて上げるから安心して良いよ」


「でも、わらわ別に寝る習慣はないのじゃが・・・」


「それじゃあ、ゆっくり休めるようにちょっとしたおまじない」


 公望はそういうと竜吉の頭を自分の胸元に抱き寄せた。


「こ、公」


「こうすると安心するでしょ?」


 公望は何気なくしたつもりだったが、竜吉は恐怖でドキドキする鼓動と別のドキドキを感じた。そのうち、公望の温かい身体の温もりが心地よくなりようやく安堵感が広がると竜吉も自然と眠くなってきた。


「温かくて気持ち良い・・・」


 竜吉はさらに顔を胸にうずめるとあまりの心地よさに珍しく眠りについていった。


「やれやれ」


 竜吉が寝たのを確認すると、やっと公望も眠りにつくことができ疲労と朝が早かった事により公望も直ぐに寝息を立て始める。今日は久しぶりに楽しい一日だった。


 


      


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