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仙人事録  作者: 三神ざき
22/47

公望、ちょっとした秘密。

 ダダダダダダダダダ!チュンッチュンッ!!!と、ある広場から銃声が聞こえ物陰に隠れている二人の横を銃弾が嵐のように通り過ぎていく。二人は壁を背にして座りながらタバコを吹かしていた。片方がパートナーに声をかける。


「なあ、リチャード。どうしてこうテロリストって言うのは無駄に弾を撃ちたがるのかねぇ〜。弾だって無料ただじゃないっていうのに」


「さあな」

 

 間延びした言葉で声をかけてきたパートナーにリチャードと呼ばれた男は笑いながら返事を返す。


「大方日ごろの鬱憤晴らしでもしてるんじゃないのか?テロリストの考えてる事なんて俺にはわからんよ。お前はどう思う?サキ」


 サキと呼ばれた男はふーっとタバコの煙を吐き上を向いた。


「俺にもわからん。知りたいとも思わん。それより俺は疲れているんだからさっさと任務を終わらして温かいベッドで横になりたいね。いくら夜生活の俺でもいい加減眠い」


 サキはあくびをしながらさも眠そうに返事を返した。


「その意見には賛成だ。やれやれさっさと終わらせるか」


「だな」


 そういうと壁際からちらりと広場を見て、人の数をリチャードが数えた。


「右に10人、左に17人、正面に5人だ。左と正面はお前に譲ってやるよ」


「あー、ずりぃー。面倒な方よこしやがったな」


「お前の腕ならたいした事ないだろ。そういうわけでゴー!」


 リチャードはサキの文句を受け流し愛銃のガバメントで一発一発パンッ!パンッ!と右に居たテロリスト達の頭を打ち抜いていく。相変わらず良い腕してるなと思いながらサキもやれやれと愛銃のマグナムに弾を込め、リチャードと違いパパンッ!と二発ずつ弾を打つ。サキの打った二発の弾は一発がテロリストの銃に当たり破壊し、もう一発が相手の太ももに当たる。


「ぐあっ!!!」


 テロリストから悲鳴が聞こえた。それから二人はお構いなしに、銃を撃っていく。


「サキよぉ。おまえ相変わらず腕が良いのに殺さないんだな。そっちの方が手っ取り早いだろうに」


「無駄な殺生は嫌いでね。俺の美学に反するんだよ。いかに無駄打ちせず相手を戦闘不能状態に陥れるか。こういうのは華麗にこなさないとね。それでこそ美しい」


「はいはい」


 あくまで戦闘でも優雅さを保とうとするサキに呆れながらリチャードは銃を打ち続ける。あっという間にリチャードの方は片付いたようだ。


「おい、俺のほうは終わったぞ」


「なら残りくれてやろうか?」


「遠慮しとく。俺はのんびりとタバコでも吹かしながらサキ先生の美学とやらを見せてもらうさ」


「ああ、しかと見とけ」


 二人は笑いながら話をしリチャードはタバコを取り出して火を点けた。サキは自分の美学にのっとり的確に二発の弾丸でテロリストどもを戦闘不能状態にする。


「さて後一人」


 空になったリボルバーに二発弾を込め、さっと構えた。パパンッ!と二発の弾は正確に真っ直ぐ飛んでいき、相手の銃を破壊すると同時に隠れてほんの数センチだけ物陰から出ていた肩に直撃する。


「ギャ!」


 テロリストの悲鳴が聞こえ、ようやく銃声がおさまり静かな夜に戻っていった。


「うーん。お見事。よくあそこに当てれたものだ」


「お前だって出来るだろうが」


「まあな。さてと後は警察の連中に任せて俺達はずらかろうぜ」


「そうだな」


 リチャードに促されて二人は立ち上がると外に出て行った。外には大勢の警官が待機している。


「終わったからもう、突入しても良いぞ」


 リチャードが警察に指示を出すと警察隊は一挙に広場へと突入していった。二人はそのまま車に乗りCIA本部に戻る。


「ご苦労だった。特殊エージェントリチャード、サキ」


「いえ」


「あれくらいなら問題ないですよ。ボス」


「うむ、しかし最近やたらテロリストが活動をしている。これからも荒れるかもしれないから二人ともそのつもりでいてくれ。報告は警察から聞くからお前達はもう下がって良いぞ」


「言われなくても帰ります」


 サキはのんびりとあくびをするとさっさと部屋を後にした。後ろからリチャードも着いてくる。


「さてサキ、仕事も終わったし、どうよ、これから一杯?」


「いや今日は遠慮しとくわ。すこぶる眠いからベッドが恋しくて」


「そうか、じゃあまたの機会にな」


「おう、悪いな」


「良いって」


 二人は本部から出てリチャードは自分の車に乗ると、手を上げてさっさと帰っていった。


「ふむ。わしも帰るかな」


 サキはその場から瞬時に消えた。


「師匠、入りますよ」


 大老君の部屋の前に現れたサキはトントンとノックして中に入っていった。


「お、戻ったか、公望」


「ええ、只今戻りました」


「どうじゃった?人間界の方は?」


「そんなことご存知でしょ?アメリカはまだまだ荒れてますよ。おかげでここしばらくずーっと任務任務。いい加減疲れます」


 はぁ〜と溜め息をつき、サキこと公望は大老君の部屋の椅子によっこらしょと腰掛けた。


「確かに最近は人間界も荒れておるの。まあ、おぬしもここ連日の任務で疲れておるじゃろうが、今後も頼むぞ」


「はいはい。その代わり例によって例の如く、報告及びデータは師匠の方で処理してくださいね。わしは報告書なぞ書く気はありませんから」


「分かっておる」


「じゃあ、わしは眠いのでさっさと退散します。それでは」


「うむ、ゆっくり休め」


 珍しく大老君からねぎらいの言葉をもらいちょっと違和感を感じたが眠気の方が強く直ぐに部屋を出て待たせていた風麒麟に乗った。


「いつもすまんの、風麒麟。夜遅くまで付き合わせる。というかもう朝方か」


「いえ、構いません。では家に帰りますので落ちないようにしていてくださいませ」


「うむ」


 公望は風麒麟の背中でうずくまると仮眠を取り始めた。しかしそこは風麒麟。公望を落さないように最善の注意を払いながらも最速で家まで飛んでいく。


「着きましたよ、公望様」


「う、うーん。ありがとう」


 公望は風麒麟から降りるとふらふらと自室に戻っていった。ベッドには花鈴がすやすやと気持ち良さそうに寝ている。それを見て公望もパタンとベッドに寝転がった。直ぐに睡魔が襲ってきて夢の中にまどろんでいく。そして次の日の朝、何時ものように花鈴に口付けされて目が覚めた。公望は何事も無かったかのようにおはようと花鈴に挨拶すると早速縁側に出てぼーっとし出す。花鈴は隣にちょこんと座っていた。


「最近お師様、眠そうですね」


「うん?」


「あくびばかりされてますよ」


「そうか〜?それはきっと花鈴の可愛い寝顔に見とれてて時間の経つのを忘れてしまい、ねつけんからじゃろ」


「またぁ〜、お師様ったら」


 公望の冗談に花鈴はくすくすと笑う。こういった会話が花鈴にはとても嬉しく感じられた。冗談と分かっていても可愛いと言われると自然と心がうきうきしてくるのだ。そこに竜吉も起きてきたらしく、二人の下にやってきた。


「おはよう。公、花鈴」


「うむ、おはよう」


「おはようございます、竜吉様」


 竜吉は公望の隣に座るため花鈴の反対側に行きゆっくりと腰掛ける。


「今日も仙人界は平和じゃの〜」


 公望はうーんっと背を伸ばしまたあくびをした。


「公、そちまだ寝足りんようじゃな。というか最近よく眠そうにしておるぞ」


「竜吉、そなたも花鈴と同じ質問をするのじゃな。そんなにわし眠そうにしておるか?」


「うむ」


「はい」


 二人は声を揃えて返事をした。そこに竜吉が付け加える。


「のぉ、公。そちは一体夜何をしておるのじゃ?頻繁に出かけておるようじゃが?今日も朝方帰ってきたであろう」


「え?そうなんですか、お師様?」


「うん?竜吉は気づいておったのか?」


「うむ。この家に来てまだ2〜3日じゃが、その毎日で夜になると公はどこかに出かけているのには気づいておった」


「へ〜、私全然気がつきませんでした」


 公望は二人の頭をポンポンと叩くと、またあくびをして返事を返した。


「仕事じゃよ仕事。別にそなたらが気にするような事ではない。仕事と言ってもたいしたことではないし、あの阿呆くそじじいにこき使われておるだけ。しかし、気づかれていたとはの。二人を起こさないように細心の注意を払って出かけておると言うのに」


「わらわはそんなに睡眠を必要としないのでな。自ずと気づいてしまうのじゃ。しかし仕事とは・・・。やはり十二仙の関係している仕事なのか?」


「いや、至って個人的な事じゃよ」


「ねぇねぇお師様。一体何をなされているのですか?」


 花鈴は興味深げに聞いてくるが公望はさらりと受け流す。


「ほっほっほ、花鈴。世の中には知る必要の無い事もあるのじゃ。深くは追求せんでくれ」


「え〜、教えてくださいよぉ」


「そうじゃぞ。わらわも知りたい」


 二人は必死に公望が何をしているのか気になって教えてくれと頼むが公望は秘密とだけ言って、キセルを吹かす。


「もう、本当にお師様は秘密主義なんだから」


「秘密が人を引き立たせるスパイスじゃよ」


「でも、わらわたちには教えてくれても良いのではないか?」


「ま、いずれじゃいずれ」


 公望は立ち上がると逃げるように風麒麟の部屋へと向かった。


「竜吉様。お師様、一体何をなさってらっしゃるんでしょうね」


「さあの。十二仙の仕事ではないと言う事は、本当に至って個人的な事なのじゃろ。特にあの大老君が関与しておると言う事は、どうせろくな事ではなかろう」


「お師様、余りご無理をしてお身体を壊さなければ良いんですけど」


「そうじゃな。とりあえず、公が秘密と言っているなら深く追求しないでおいてやろう。疲れているのにさらに追い討ちをかけてはいけないからの。公が何時か自分から教えてくれる事を待つとしよう」


「うーん。そうですね。でもやっぱり気になるなぁ」


 花鈴は公望が何を隠しているのか気になってしょうがないようだった。それは竜吉とて同じ想いである。しかし、やはり公望にあまり負担をかけさせたくなかったので竜吉はあえて何も聞かないことにした。しばらくして風麒麟に仙丹をやりつつちゃっかり逃げていた公望が戻ってくる。


「うーむ。珍しくちと腹がすいたの」


「お師様お腹すいてるんですか!?」


 花鈴がここぞとばかりに食いついてくる。


「え、ああ、ちょっとだけ・・・」


 公望は言ってみただけなのに花鈴の勢いに気圧されちょっと後ろに退いた。花鈴はその言葉を待っていたかの如く、目を輝かせて張り切っている。


「でしたら、私何か作ります!」


「い、いや、別に良いよ。自分で作るゆえに」


「いえ!是非作らせてください。お師様ちょっと待っててくださいね!」


 花鈴は公望の言葉を無視してさっと立ち上がると調理場へ走っていった。それを見ていた竜吉もピンッ!と来たらしく、負けじと行動を起こす。


「あ、わらわも作ってきてやろう」


「いや、良いって本当に。第一竜吉は料理できるのか?」


「あなどるでない。わらわの料理も中々のものじゃぞ。花鈴には負けん腕はしておるぞ。公はちょっと待っておれ」


 そう言って竜吉も調理場にいそいそと向かっていった。


「えーと」


 一人取り残され立ち尽くしていた公望だったが、とりあえず部屋で待つことにした。一方調理場では・・・。


「何で竜吉様まで来てるんですか?」


 料理の準備をしていた花鈴がやってきた竜吉に食って掛かった。


「公がお腹をすかしているからじゃ」


 竜吉はさも当たり前のように受け答えする。


「お師様のご飯は私が作りますから竜吉様は下がっていてください」


「何を言う。手料理で公を釣ろうなぞ、そんな良い機会逃す訳なかろう。そち一人おいしい想いをさせる気はない」


「むむ。では、早速勝負といきますか。どっちの料理がお師様の口に合うか、気に入られるか。勝負です!」


「無論じゃ。負けるつもりは無いぞ」


「私だって!」


 二人は睨み合うとお互い競い合いながら凄い量の料理を作り出した。調理場からはとても良い匂いが漂ってくる。その匂いに公望のお腹が呼応して鳴った。


「なにやら良い匂いがしておるな。これなら期待できそうじゃ」


 公望は早くご飯が食べたいと思っていたが、いつまで経っても二人がやってくる気配が無い。


「?」


 不思議に思い立ち上がって様子を見に行こうかとした時に、公望の部屋の戸が開いた。花鈴と竜吉の二人は持ち抱えられないほどの料理を何とか運んでくる。


「お待たせしました!お師様!!!」


「待たせたの。公」


 二人は机の上にずらーーーーっと皿を並べた。しかし余りの量の多さに置ききれず、床にまで皿を置いている。それを見て思わず公望は一変して胸焼けが起こってきた。自分はちょっとだけお腹がすいていて、酒のつまみ程度の料理が出てくるのかと思っていたからだ。


「ちょ、ちょっと二人共。作りすぎではないのか?わしはちょっと小腹が好いただけなんじゃが・・・」


「いえ、お師様のためにちょっと頑張りすぎちゃいました。で、お師様!竜吉様の料理と私の料理のどっちがおいしいか食べ比べてください!」


「これだけの量を一人で食べろと?」


「そうじゃ」


「・・・」 


 余りの量の多さに呆然としている公望に対し、さも当たり前のように竜吉は受け答えする。二人はじっと公望を見て目を輝かせながら早く食べて審査しろといわんばかりに急かしてくる。


「そ、それじゃ、いただくとしようか」


 公望は焦りながら箸を伸ばし料理を一品一品平らげていく。一口食べるごとに二人は味はどうかとかどちらの料理がおいしいかとか尋ねてくる。それに一々受け答えしつつ、公望は半分ほど平らげた辺りでお腹が一杯になり本当に胸焼けが起こってきた。


「あの・・・まだ食べなきゃならんかの?」


「もちろんです!」


「どっちの料理がおいしいか決着をつけたいのじゃ。ほれ公、これなんかどうじゃ。わらわの自信作じゃぞ」


「あ、お師様。私もこの料理には自信が有るんです!」


 二人はずずずぃっと料理を勧めてくる。公望はさすがに冷や汗が出てきた。しかし折角自分のために作ってくれた料理。残すわけにはいかない。というより、どちらかの料理を残そうものなら恨まれそうな勢いが二人から感じられた。公望は覚悟を決め、必死の思いで料理に手をつける。そして何とかすべての料理を平らげた。余りの量の多さに公望のお腹は悲鳴を上げ、もうパンクしそうである。


「で、お師様!どちらの料理がおいしかったですか!?」


「どうじゃ?公?」


「あー・・・」


 公望は食べる事で精一杯になり途中から味なぞ気にしている余裕がなくなっていたのでなんて答えればよいかわからなかった。とりあえず、最初に食べた料理の感想を述べた。


「どちらもうまいと思う。花鈴はわしの料理の腕を受け継いでおるし、竜吉の方は今まで食べた事のない味付けじゃった。総合して言うなら、若干竜吉の方がうまいかの」


「ええ〜!」


「ふっ!勝った・・・」


「ま、まあ、二人とも料理は甲乙付け難いほどにおいしくはあった。ただ、花鈴の方はわしの味付けと似ているのでいささか食べ飽きておる節があるというだけじゃ。これがわしではなく他の者に食べさしていたら結果はどうなっておったかわからん。そう落ち込む出ない花鈴」


「むむむぅ〜」


 悔しそうにしている花鈴を慰めつつ、公望はベッドに横になった。


「とりあえず、二人ともありがとう。十分すぎるほどに満足した。悪いのじゃが皿を片付けてもらえるか」


「うむ」


「は〜い」


 二人はせっせと皿を片付け始める。


「今回はわらわの勝ちじゃの」


 皿を片付けながら竜吉は勝ち誇ったかのようにニヤリと花鈴に笑った。花鈴は、むっときて言い返す。


「まぁ、今回は竜吉様に譲って差し上げたんですよ。私の料理は以前お師様に召し上がっていただいてますし。でも次は手を抜きませんよ」


 負けず嫌いの花鈴はあくまで勝ちを譲ってあげたと言い張った。それを聞いて竜吉は呆れる。


「素直に負けを認めぬか。花鈴」


「負けてません!お師様はどちらの料理も甲乙付け難いと仰ってらしたではないですか!」


「しかし、わらわの料理の方が若干上だとも言っておったぞ?」


「それはまだ食べた事の無い味で物珍しさがあったからです!次は勝てます!」


 自信満々で答えた花鈴に竜吉もカチンっと来て言い返した。


「言ったな〜!。では、また次。改めて勝負じゃ!」


「勝負です!」


 また、二人の間に火花が散った。一方の公望はうんうん唸っている。


「・・・今度から二人の前で腹がすいたなぞ絶対に言わんでおこう・・・」


 公望は自分のちょっとした発言に後悔しつつ、パンパンに膨れ上がった腹をさすった。



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