公望、十二仙になる(上)
岩の上で目を瞑り、瞑想にふけっていたが、しばらくして、頭の中を駆け巡り答えを探していた、いくつもの思考回路がとぎれ、ふと、公望は目を開けた。
「うーむ、どう考えても、うまい答えというものは出ぬな。あれを考えれば、次が出てくるし、その問いに対してまた、答えを求めようと思考が動くでの。はて?もともとは、何を考えておったか?」
一人岩の上で、ぶつぶつと独り言を言ってみたりする。しかし、流れ落ちる滝の音で声はかき消される。公望は、オリジナルの術を作り、ある程度仙人としての実力が付いてからというもの、こうやって、ひたすら瞑想にふけり、思考をフル回転させる毎日を送っていた。まあ、大概は答えも出ず、気が付いたら寝てしまっていることのほうが多いのだが。だから、師匠にも度々怒られていた。
「しょうがないの。今日はさっさと寝て、師匠から連絡があるまで寝貯めしておくかの」
そう言って公望は、岩の上から飛び降りると、ゆったりと歩きながら、作ったばかりの家の自室に入っていく。部屋の中は、机とベッドがあるだけの、簡素な部屋だった。
ごろんとベッドに横たわると、すーっと眠りに付いた。しかし、実は公望、寝るといってもただ眠りに付いているわけではなかった。たまには、ゆっくりと本当に寝てしまうこともあったが、普段は、夢の中でも活動している。というのは、公望の作ったオリジナルの術のひとつで、人の夢の中を覗き見たり、夢そのものも操るようなことをしているのだ。何故、そんなことをしているかといえば、人は寝れば必ず夢を見る。夢というのは、非現実的な出来事が起こるものだが、中には、その人の強く望んでいることや、悩んでいることなども反映されることもあるため、その者が深層心理で何を思っているのか、新しい術の役に立つものはないかと、いろいろ考案しているのだ。最近は、別段変わったこともなく、眠った時間が他の者たちと違っていたため、ざーっと夢の中を覗き見ると、本当の睡眠に入ることにした。
さて、ゆっくり寝ること丸3日。また、白桜童子の声で目が覚めた。
「探しましたよ公望様。起きてください。大老君様が、十二仙の任命を行いますので、至急蓬莱山に向かってください。他の皆様はもういらっしゃってますよ」
「んー・・・。わしは、眠い。行くのがだるいで、師匠に休むと言っておいてくれ」
枕に顔をうずめながら、うめき声をあげた。
「そうはいきません。今回初の顔合わせの日なのですから、全員出席していただかないと困ります。このまま帰っては、私が怒られます」
白桜童子は、困ったように公望に言った。
「・・・しょうがないの〜。よっこらせっと」
無理やり体を起こすと、身支度をして、風麒麟を呼んだ。
「風麒麟、すまぬが、蓬莱山まで行ってくれ」
「わかりました」
公望は、風麒麟の背に乗ると、白桜童子と共に蓬莱山に向かった。半分寝た状態だったので、途中、背中から落ちそうになっていたが、なんとか、無事蓬莱山頂上に辿り着く。そして、いつもの通路を通り、広間に出た。そこには、楕円形をしたおおきい長机と椅子が並び、一番奥に大老君を始め、11人の仙人が座っていた。
「ようやく、来たか。ほれさっさとここに座らぬか」
大老君が促した席にどさっと倒れこむように座ると、そのまま、机に腕を乗せ、腕を枕代わりに眠りだそうとした時。
「ひさしぶりだね、望ちゃん」
隣に座っていた妖仁が、声をかけてきた。
「んー?妖仁か、ひさしいの〜。相変わらず、天才っぷりを出しておるようじゃの。噂は聞いておるぞ。あれから、そなた、腕を上げたであろう」
顔をうずめながら、妖仁の方に顔を向け、のんびりと返事をする。
「いや、僕なんてまだまだだよ。望ちゃんのほうは、相変わらずみたいだね」
「まあの、マイペースにやっておるよ。しかし、そなたでまだまだだったら、わしはどうなるのじゃ?」
お互いにこにこと笑いながら、会話をした。そこに、大老君が横槍をいれる。
「これ、全員集まったのじゃから、任命兼説明を始めるぞ。話は、終わってからにするのじゃ」
「はい」
「では、とりあえずこの集まった者12人、普賢、貴信、泰然、奇勝、有頂、養老主、薬智全、高楼人、花月喜、妖仁、大乙、公望を十二仙とする。十二仙は、わし、大老君の直属の組織とし、その役割は、わしの補佐を主とし、治安維持、治世、仙人界のまとめ役である。皆も知っての通り、仙人はスカウト以外で、人間界に関与してはならない。無論行き来も禁止しておる。その他にもいくつか法度がある故、それを他の仙人達にも徹底させるように。また、先に話していた事として、公望はおらんかったが、全員一致で普賢を十二仙の総まとめ役とし、補佐兼摂政を貴信に任す。それでよいな」
「大老君様がそうおっしゃって、皆も納得しているのなら、私はかまいませんが、ひとつだけ気になることがあります」
普賢が口を挟んだ。
「なんじゃ、普賢?」
「妖仁、大乙が、十二仙に選ばれたというのは、まだ納得がいきます。妖仁は、仙人界でも有名な天才仙人。大乙も宝貝作りにおいて、右に出るものはいません。二人ともまだ若いとはいえ、十分な能力、資格を持っていると思いますが、何故に公望が入っているのですか?いくら、大老君様の弟子とはいえ、聞いた噂によれば、仙人になってから、ろくに修行もせず、弟子を取るわけでもなく、好き勝手に生きて、寝てばかり。仙人になってからもまだ日が浅い若輩者。何を考えているのかわからない、仙人界一の問題児というか、変わり者と聞いておりますが。現に今も、大切な会議の途中だというのに、寝ているではありませんか。私には、仙人として実力、態度、資格共に十二仙にはふさわしくないと思います」
「うーむ、まあ、そうなんじゃが」
「十二仙といえば、仙人の中でも大老君様の次に最高位に立つ存在。責任も重大です。もっと他の適任者を探した方がいいのではありませんか?」
「ま、まあ、そういうでない。これは、わしとて悩んだことなのじゃ。しかし、わしの弟子としてもう少し自覚を持ってもらいたいと思っての。一応形式上任命するだけじゃ。十二仙ともなれば、こやつも少しは、仙人として自覚をもつであろう。普賢、いや、皆のもの。不満はあるかと思うが、わしに免じて、公望を入れてやってくれ」
「・・・。わかりました。そういうことにしておきましょう」
「すまぬな」
こんなやり取りが行われてるとは露知らず、公望は、寝息をたてていた。妖仁、大乙は笑っている。
「とりあえず、以上をもって、十二仙任命会議を終了する。皆のもの、それぞれ、慣れぬこともあるじゃろうが、各自自覚を持ち、責務を全うしてくれ」
「はい」
「では、そなたらには、連絡用宝貝を渡しておく。何かあったら宝貝を使ってくれ。受け取り次第解散じゃ」
皆は立ち上がると、各自連絡用宝貝を手に持って出て行く。公望は、まだ寝ていた。大乙が起こしにかかった。
「おい!公望!起きろ!!」
「ん?んー、終わったか?」
「終わったぞ。ほら、連絡用宝貝」
「なんじゃこれは?」
「相変わらずだなー、話ぐらい聞いてなよ。これで、いろいろ連絡し合うんだ。他のみんなは、もうこれ持って帰って行ったぞ」
「そうか、じゃ、わしも帰るかの。お、そうじゃ、せっかく久しぶりに三人集まったんだから、宴会でもせぬか?」
「望ちゃん、本当宴会好きだね」
「そうしたいのは、山々だけど、僕はやらなきゃならないことがあるからさ。また今度にしよう」
「うーむ、そうか。残念じゃの。妖仁も空いておらぬのか?」
「うん、僕もまだ変化の術の修行中だから、今日は無理かな」
「なんじゃ、そなたもか。つまらぬの〜」
公望は、心底がっかりした。二人は、まあ、また今度と言って、帰っていった。しょうがなく公望も帰ることにした。その時入り口で、一人の仙人が待ち構えていた。普賢である。
「おい、公望!」
「ん?そなたは、確か・・・普賢じゃったか?」
「そうだ。今回十二仙の総まとめ役を仰せつかった」
「おお、そりゃ大変じゃの。がんばるのじゃぞ」
「お前に言われるまでもない。それより、俺は、どうも腑に落ちん」
「なにがじゃ?」
公望はきょとんとした顔で聞き返した。
「何故お前のようなやつが、十二仙に選ばれている?お前のような奴がいては、十二仙の威厳が損なわれてしまう。俺としても、総まとめ役として、お前を認めることはできん」
「なら、わしのことは放っておけ」
そんなことどうでもいい様に、返事をする。普賢は、少し機嫌を害したようだ。
「そうもいかないだろ!形式上とはいえ、十二仙に選ばれているのだから、それなりのことはしてもらわなければ。なんにせよ、俺は噂でしか、お前の事は聞いていない。だから、俺が認めるためにも、お前が、本当に大老君様が選んだとおり、十二仙にふさわしいかどうか、テストさせてもらう」
「テスト?具体的に何をしろというのじゃ?」
「俺と模擬試合をしろ」
「そなたと?」
「そうだ。それで、お前の実力を見て、十二仙にふさわしいか、俺が直に確かめてやる」
普賢は、齢500歳をゆうに超え、七大宝貝のひとつ、禁鞭を用いる凄腕の仙人だ。模擬試合とはいえ、そんな仙人とやりあえば、ただではすまない。それになにより公望は面倒くさいと思い、断ったが、普賢は半ば強制的に、模擬試合場まで、連れて行った。
「やれやれ」
公望はため息をついた。