公望の実力?
普賢の家。普賢、妖仁、大乙、花憐、花鈴の五人は連日に渡り真剣な表情をしながら会合を開いていた。
「あいつは、無理だろ」
普賢が絶対無理という風に頭を掻きながら話しを振った。
「うーん、確かに難攻不落もいい所かも」
「そもそも興味が無いって言うのがね」
「でも、やはりあの方だって人間だったんですから持っていて当然のものでは?」
「いや、そこが問題みたい。その人間の時にね、興味を失ったとか」
妖仁、大乙、花憐も続いて話しを続ける。花鈴に花憐が尋ねる。
「花鈴はちゃんと積極的にアピールとか攻めてみたりとかはしてるの?」
「えーっと、そ、それなりに・・・」
うんうん頭を悩ませながら、花鈴はしどろもどろに姉に返事した。それを聞いて普賢がだめ出しをする。
「それなりにじゃだめだろ。あいつの場合、一発ガツンッと攻めないと気付かないんじゃないか?」
「そうだね、大老君様でも手を焼いてらっしゃるくらいだし」
妖仁がにこやかに笑いながら、大老君のぼやきを思い出していた。
「しかし、直球で言ってもだめな気がする。絶対信じないよ。やっぱり絡め手で攻めて自然と意識を芽生えさせて方が」
良く知っている大乙が攻略方法を思案する。
「そう言って、もうどれだけ経つよ。一向にそんな気配はないんだろ?花鈴」
「ええ、まぁ」
「うーん。猫姫倒そうとしてた時より遥かに難しいかもな。俺も何度かそれらしい風味をかもし出して話し振った見たけど、あいつ何にも気付いてねェみたいだし」
「僕もなんとか話しはしたんだけどね。答えはいつも一緒だった」
こうして連日に渡り普賢の家で五人は頭を悩ませていた。しかし、いつも出る答えは決まって無理なんじゃないか?という事である。それを聞いて毎日花鈴は落ち込んでいた。姉は必至に元気を出して諦めない様にと慰めている。そう、この様に毎日五人が集まって何を話し合っているかといえば、公望についてである。なんとか花鈴の想いを叶えてやろうと皆して協力しているのだ。そんな事が日々密やかに行われている事なぞ露知らず、問題の公望はいつもの様にキセルを吹かし縁側に座りながら、ボーっとしていた。猫姫騒動の報告をすべて押しつけられ、書類にまとめ大老君に提出してからというもの燃え尽きたかのようにやる気をなくし、日々のんびり過ごしていた。花鈴が話し掛けても、へーとか、ほぅ、とどこ吹く風で受け答えし、余り相手をせず会話らしい会話もしなくなった。それもあって花鈴は四人に相談を持ち掛けたのだ。
「ライブがしたくなったの・・・」
唐突に空を眺めながら公望は呟き、ようやく重い腰を上げ、連絡宝貝を取り出すとある二人に話しを持ち掛けた。二人は、快く承諾してくれたが、肝心のボーカルはどうするのか?という疑問を投げ掛けて来る。
「その辺は、わしに任せてくれまいか。思い当たる輩がおる」
「それなら分かった。任せるぜ。詳しく決まったら教えろよ」
「うむ」
公望は連絡を済ますとまたボーッとし始めた。夕暮れになり花鈴が帰って来る。
「ただいま、お師様!」
花鈴は元気よく声を掛けるが公望は何も言わず、ちらっと見て溜め息をつく。めげずと花鈴は話しを進める。
「お、お師様!今日は私手料理作ってきてみたんですけど、食べて頂けますか?」
「手料理?そういうもんは、そなたの好きな相手に食べさせてやるものじゃ」
「ですから、普段お世話になってる大好きなお師様に食べて頂こうと思って」
「いや、そうではなくてだな・・・」
「ダメですか?頑張って作ってみたんですけど・・・」
「いや、そなた好きな者がおるならそいつに持っていけば良かろうに。ふぅ、まぁ、ありがたくいただくか。せっかく作ってくれたようじゃしな」
花鈴はパッと顔が明るくなると、せっせと作ってきた料理を机に並べた。公望はちまちまと箸をのばす。
「い、いかがですか、お味の方は?」
「うん?うまいと思う。初めて作ったにしては上出来じゃろ。これに一言沿えて食わせてやれれば相手もいちころじゃないかの」
食べつつ正直な感想を述べた。
「なんて言えば良いんですか?」
「それくらい自分で考えなさい」
「お師様はなんて言われたらうれしいですか!?」
「わしは、わしのために作ってくれただけでうれしい」
「でしたらこれからも私、お師様のため頑張って作ります!」
「いや、力む相手が違うじゃろぉに・・・わしの事はよいであろ」
また黙々と食べ出す。しばし気まずい空気が流れる。花鈴は何とか会話をしようとするが思うように言葉が出せず、黙りこくってしまう。食事を済ますと公望はまた溜め息をついた。そして無言のまま立ち上がって縁側に行こうとする。
「お・・・」
思わず花鈴は声を出して引き止めようとした。公望が振り向く。
「どうした?」
「あ、いえ、えーと、さ、最近お師様元気が無いようなんでどうかしたのかなと思いまして」
「そうか?わしはいつもと変わらんぞ?」
「でも、先程から溜め息ばかりついてらっしゃいますし、話し掛けても上の空の返事しかしていただけませんし・・・。何か悩みとかあるなら仰って下さい!私、微力ながら力になりますから!!!」
「あー・・・・・・弟子に気を使わせるなんて、わしもまだまだじゃな。いやなに、たいしたことではない。個人的な事じゃから気にするな」
公望は手をひらひら振る。
「でも気になりますっ!私、お師様の力になって差し上げたいんです。どうなさったんですか!?」
「話せばただの愚痴よ。聞いて楽しいものではないぞ?」
「それでも良いです!何でもおっしゃって下さい!!!」
「じゃあ遠慮なく言わしてもらうけど、あのくそじじいの事なんだけどさ」
公望が椅子に座り直し愚痴り始めた。口調も人間だったときに戻る。
「くそじじいって・・・大老君様の事ですか?」
「そう!あいつよあいつ。あいつさ、弟子の事なんだと思ってるんだよ。自分の小間使いにしか思ってねぇんじゃねーか?最高統治者だかなんだか知らねぇけど勝手過ぎだろ。何でも自分の言う事聞くと思いやがって、口答えすれば直ぐ命令じゃとかほざきやがって。俺はもう独立してんだぞ。それをよぉ。いや俺だってさ譲歩はしてるよ?一応世話になったし。ある程度の言う事は聞くさ。それにしたって限度があるだろ。人間界に行って建国の手伝いっつうのは俺も気にしてたからそれはいいとして、問題は猫姫だよ。自分でもなんとかできねぇくせに、弟子に排除しろとか言うし。おかげで死にかけただろ。で、花鈴のおかげで排除はできたけど、俺にも花鈴にも褒美の一つもくれなけりゃ褒めもせず、揚げ句疲れて仙人界に帰って来りゃ休む暇なく今度は仙人界での猫姫を何とかしろとほざきやがった。まぁ、そこまでは百歩譲っても、問題はその後だ。暴力嫌いなのにそれを圧して何とかしてやったのに、あいつ褒めるどころか、今度は猫姫はお前担当だから人間界だけでなく仙人界で猫姫が行った事や関与したこと全て書類に書いて提出しろだぁ?どれだけ膨大な量あったと思ってよ。仙人界での事なんて人間界にいたんだから知らねぇっつってんのに、全部自分で調べろだときたもんだ。おかげで十二仙含めいろんな仙人に話聴きに行きまくってよ。それだけでもやってらんねぇって。俺はよ?元々、仙人になったら好き勝手に生きて自由気ままに縛られず過ごすつもりだったんだよ。仙人はそれができるからな。だから道士の時必死になって修行して早く仙人になったんだ。それを自分はこういう立場だから弟子のおまえもそれに従えとか自分の体裁ばっかり気にしやがって。俺の自由や意志は何処に消えたよ?あいつ人を尊重するっつうこと知らねぇ。褒めも礼も言わねぇ。労いの気持ち俺にも持てよ。で、このまま永遠とあいつの弟子である以上、俺の思い描いてた仙人生活できねぇのかとか考えたら、なんで仙人やってんだと生き方について悩んでたのよ。この先も何時意志が奪われるかと思ったら、少しでも空いてる時間を好きに生きようと考えてボーッとしてた訳。でもやっぱり弟子っつう肩書は消えないし、あいつが隠居でもしねぇとずっと縛られるのかと思ったら溜め息が出ちまうんだな、これが」
公望は一挙にまくしたてた。花鈴も何時もと違う公望のこの勢いにさすがに「はぁ」と言うことしかできず、何と言えば良いかオロオロしだした。
「ったく、振り回すのは女だけで十分だっつうの!な!花鈴!!!」
そんな花鈴に同意を求められ、「あ、はい!そうですね!!!」と言う。しかしこの返答がさらに公望の引き金になった。愚痴の矛先が女性にいってしまったのだ。
「大体よ。女も女だよ。人間の時散々俺を利用して弄んで自由奪って苦しめて。わがまま言いたい放題な上に口答えの一つもしようものなら、直ぐに怒り出してよ。明らかに自分が悪いのに俺のせいにしてさ。で、なにかにつけて女は感情で生きる人間なんだとか何とか言って思うが侭にすべてやりやがって。その辺くそじじいと似てるんだよな。それでこっちがちょっと相手せず面倒もみなくなったら急に態度変えやがってお世辞言い出して俺の事持ち上げてよ。その時出てくる言葉なんて全部上っ面。ざけんな!!!って感じだよ。あー、思い出しただけで腹立ってきた。だから女は嫌いなんだ。ぜってぇ女は信じねぇ。今まで何されても何言われても信じ続けて自分がやっぱり悪いのだろうと思い、自分を改め相手の気持ち少しでも解って、そうすればいつか報われるかと努力してきて全部裏切ってきやがったからな。あの生き物から出てくる言葉も態度も全部嘘。仮の姿。腹ん中じゃ黒いもん渦巻いてるぞ絶対。もう騙されるのはこりごり。もし誰かが俺の事好きだとかぬかしてきても、気持ちには応えられんわ。その好きっつう言葉が一番信用できねえんだよな。俺のどこに惚れる要素があるっつうの。微塵もねえんだから明らかに利用目的で近づいてくるだけとしか考えられないから。女は怖ー。裏表有り過ぎなんだよ。とりあえず、あのくそじじいと女っつう生き物は俺の一生の敵だな」
公望はうんうんと自分の言葉に頷くと改めて自分の意思を強固なものにした。はっきり言ってこの公望の発言は世の女性全員を敵に回す問題発言である。普通の一般女性が聞いたらさぞ怒ることだろう。さすがの花鈴もあまりに言い過ぎとムッ!と思ってはいたが花鈴はせっかく話ができるきっかけを作って、なんとか仲を進展させようとしていたつもりだったので素直に聞くしかない。
「で、でもお師様。あの女性全部が全部そんな酷い人じゃないと思うんですけど・・・」
「あ?そりゃそうだろ。女だって多種多様いろんな感情や思考もってんだから。中には良い人だって数多くいる。というか本来普通の女だったらやっぱり人間なんだし思いやりとか優しさとかあって別に酷い生き物だとは言わないよ。ただ、俺女難の相があるらしくてよ。少なくとも俺が人間だった25年間そこらに出会った女は全部そうだった。まずお袋、姉貴に始まり、幼稚園、学校、大学、会社で出会った女連中。皆して俺を苦しめてよ。女に精神的に虐められて自殺考えた時もあったし。酷い酷い。中には巧み話術に話し振ってくるやつもいて、気がついたら出会い系に引きずり込まれて破産寸前まで追い込まれたからな。あの時は借金に追われて本気で死ぬかと思ったぞ。親にも殴られるし縁切られそうになったしな。まあ、俺としては切って貰っても良かったけど。あのお袋の子供やってるのは辛かったからな。だから、くそじじいが仙人スカウトに来たときは、もう人間界から逃げ出したくてよ。詳しく話も聞かず速攻返事したよ。俺の時代の人間界には未練なんか何一つなかった。むしろあったのは憎しみだけだったな。俺の時代の社会は一見平和だったけど中身は狂って理不尽極まりないと思ってたし」
花鈴は公望の時代の社会を知らないので何の事だか良く分からなかったが、とりあえず自殺だとか死ぬ思いをしたとか聞いて公望が人間だった時に辛い思いをしたということだけは理解した。それでも、やっぱり公望の女性に対する見方には凄く偏見があるようである。
「っと、ちょっと愚痴りすぎたな。すまんすまん、わしは一度語り出すと止まらなくての。まあ、そんなことを考えておったんじゃよ。気にせんでくれ。しかし、久しぶりに愚痴ったら少しは楽になった。ありがとう。花鈴」
「え、いえ、とんでもありません。私で良ければ何時でも愚痴聞きますので」
「そなたは本当に良い子じゃなぁ。」
久しぶりに公望の笑顔が見れた。そこで少しホッとした花鈴は、疑問に思ってた事を聞いてみた。
「あの、お師様。今の話じゃ女性を凄く酷い相手として思ってらして信じないとか言ってましたけど、私の場合もそうなんですか?私も女性なんですけど・・・」
「うん?そなたはとーくーべーつ。稀に見る良い子じゃし、わしの可愛い弟子じゃから他の女性とは見る目は違う。共に今まで暮らしてきて少なくとも信用はしておるし頼りにもしている。わしが認めれる女性といえば、そなたと竜吉ぐらいかの。まあ、それでもやはり何を考えているのか分からんところは多々あるが」
「そ、そうですかぁ。良かった〜」
花鈴は自分が特別だと言われてうれしくなった。最初愚痴を聞いた時はどうしようかと思ったが少なくとも自分には悪い印象は持っていない様で心が軽くなる。そこでもう一つの疑問を投げかけてみた。
「そういえばお師様。ずっと気になっていたことがあるのですが」
「なんじゃ?」
「猫姫の事なんですけど、あの防全布。すべての攻撃を防ぐ絶対防御だと仰ってましたよね?実際私も相手してみてありとあらゆる攻撃が防がれて傷一つつけられませんでした。十二仙様方や大老君様さえも手が出せなかったのに、お師様あっという間に斬り刻んで防全布破壊されましたけど、どうしてそんな事ができたのですか?」
「さぁ?何故かの?」
「お師様、惚けないで下さいよ。大老君様も猫被るの止めろとかおっしゃってましたし。そういえば今更ですけどお師様の実力、私知らないんですよね。お師様が仙術扱ってるのもそれを用いて戦ってられるところも見た事がありません」
「見なくとも知っておろう?わしは噂通りの落ちこぼれ仙人。最弱じゃ最弱」
ほっほっほと笑う公望に対し花鈴はしばし考えた。
「お師様、私と本気で戦ってくれませんか?剣術についてはお師様に教わっているんで実力は知っています。だから次は仙術で戦って下さい」
「え〜」
すこぶる嫌な顔をして公望はぼやいた。剣術は昔から好きだったから相手をするのは楽しいのだが、仙術は気を消耗して疲れるのであまり使いたくないのだ。
「私、立派な仙人に成りたいって言ってたでしょ?そのためにも自分の力量を知っておきたいんです!」
「そなたはもう十分強い。猫姫も言っておったではないか。実力ならくそじじいと同じだって。そんなそなたが相手では、わしはひとたまりもない。戦わなくたって力量なんぞわかるじゃろ」
力説する花鈴を諭す様に言うが、それで納得する花鈴ではない。
「私はお師様の弟子です。弟子なら師の本当の実力を知りたい。だから本気のお師様と戦ってみたいんです!」
強く言う花鈴に公望は困った。大概の道士は、確かに自分の師匠の実力を知りたいと思うし、それを知る事で師匠を超える仙人になりたいと考えるのは自然な事である。実際師匠になった者も弟子に対し最初に自分の力を見せ付け尊敬させたり、修行に発破をかけたりする。まあ中には、ただ自分の凄さを知らしめたいと考えるだけの仙人もいるが、公望の時も仙人になるちょっと前に大老君の真の実力を見せ付けられた。しかし、公望は今まで花鈴に実力らしい実力を見せていない。見せたのは剣術くらい。仙術はまったく見せてないのだ。弟子としては当然の返答である。
「本気と言うてもな。そう出せるものではないし、わしの本気の争いは生きるか死ぬかのどちらかじゃ。よってそなたもわしを殺すつもりで立ち向かって来なければならん。そなたはわしを殺せるか?」
公望は自分の美学に基づき到底無理な質問を投げかけた。
「それは・・・」
花鈴が口をつぐみ黙る。
「その意志がないなら無理じゃ。わしを本気にさせることなどできん。仮になったとして、わしが死ぬのは良いがそなたを死なせたくないぞ。お互い覚悟が必要じゃ」
「・・・分かりました」
「うむ!では戦わなくて良いな?わし、争い嫌いじゃし」
理解してくれたと思い安心した公望だったが、真逆の返答が来た。
「いえ、私も本気になります。本気でお師様を殺すつもりでいきます!」
真顔で真剣な眼をまっすぐ向けて花鈴ははっきり言う。
「そっちかい!え〜〜〜、わし死んじゃう〜」
「そんなことないですよ。私、お師様にはどんなに殺すつもりでかかっていっても絶対敵わないって信じてますから!!!」
花鈴は笑顔で自分の素直な思いを伝える。公望はこの純粋で素直というか率直な花鈴の態度には弱かった。諦めて覚悟を決めた。
「過大評価も良いところじゃなぁ・・・ま、やる気が出てるなら大切にしてやらねばならん。しょうがない。相手をしてやろう。死んだら死んだでよいわ」
やれやれと腰に手を当て花鈴と距離を置く。花鈴は構えた。
「やる前に言っておくが、まずはわしを本気にさせてみよ。わしは自分から本気にはなれん。本当の実力知りたかったら、それ相応の覚悟と力を見せる事」
「はい!では、いきます!」
花鈴は印を組みそれと同じに公望も印を組んだ。公望の方が組むスピードは速く複雑な印である。
「経絡発氣外壁の陣」
公望の周りに蒼白い色をした氣が現れ包む。高位仙術の防御結界だ。それに遅れて花鈴が印を組み終わる。
「風覇撃砕乱舞!」
氣の流れに沿って風が集束し激しい渦巻きになって公望に突っ込んでいく。しかし、公望の結界の前に弾かれた。
「殺す気でいくと言ってなかったかの?まだ甘い。猫姫と戦ってたときの方がよほど強かったがな」
「わかってます!」
続けざまに印を組む。
「覇王鉄槌拳!」
拳に気を集め一直線に放つ。さっきの術よりランクは高い攻撃だ。それでも公望の結界は破れない。花鈴はさらに高位ランクの印を組み連続して攻撃する。
「冥破武焼!・・・破斬!・・・獣咆哮撃!・・・烈波斬岩爆砕掌!!!・・・はぁ、はぁ、静清流華繚乱っ!!!・・・・・・」
花鈴がありったけの氣を込めて公望の経絡発氣外壁の陣よりランクの高い術を使っているのにすべて弾かれどうしても結界を破れない。公望は暇そうに地面に肘をたて寝転がっている。
「そんなものでは、わしを本気にはさせれんの」
「はぁ、はぁ、はぁ。じゃあ、これなら!」
花鈴は物凄く複雑な印を組み始めた。それを見てさすがに公望も起き上がる。胡坐をかきながら花鈴同様複雑な印を花鈴より速く組む。花鈴の組み始めた印は仙術の中で最強の術であり禁じ手の術だったからだ。さすがに今の結界では防ぎきれない。一寸速く花鈴が発動する。
「焔縛惨殺焦焼連刃!!!」
花鈴の全身から大量の氣が放たれ公望を包み込もうとする。その瞬間に公望も術を発動した。
「絶氣神戯授防陣」
花鈴の術が公望を完全に包む。氣は激しくうねりこすれぶつかり合いその摩擦により高温になってやがて炎が生じる。その炎がいくつもの刃となり焼き斬ろうと公望の四方八方から襲い掛かってくる。公望は発動のきっかけとなった印の後さらに継続の印を高速で組み続け最高防御結界を持続させる。炎の刃は結界に触れ相殺されるが消えるとまた次の刃が現れ襲い来る。相殺しては現れ相殺しては現れ、永遠と刃の猛威が消える事はない。
「禁じ手を使いおったな。どうやら本気でわしを殺すというのは本当じゃったのようだの」
「えぇ!当然です!!!」
「しかし、正気か?この術はそなたの氣と連動しておる。そなたの氣が消えるか相手が死なぬ限り襲い続ける。わしがこのまま防御術を使い防ぎ続ければやがてそなたの氣がなくなり、そなたが死ぬぞ?これは、自分の命を代償とする相打ち狙いの術。だから禁じ手の術なんじゃ」
「それはお師様だって同じでしょ?はぁ、術を使い続ければお師様の氣だってなくなる。根競べ・・・です。ふぅ、はぁ・・・」
「阿呆!今までずっと高位ランクの術を連発して唯でさえ氣がかなり消耗しておるそなたと一回しか術を使っていないわしを一緒にするな。もともと持っている氣の量だってわしの方が多いんじゃぞ。根競べになったらわしが勝つに決まっておろうに!」
「や、やってみな・・・いと、ふぅ、ふぅ、わからないじゃ・・・ないですか。はぁ」
花鈴はもうしゃべるのも辛そうである。それだけ氣が消耗しているのだ。
「愚か者!焼けになって冷静な判断を失う奴は、どれだけ強かろうと勝てはせん。こんなの唯の自殺行為じゃ!戦いでもなんでもない。自ら死のうとしているだけ。この術は勝算があるか、打つ手なしで死ぬ事以外待ち受けていないときに初めて使う術。このタイミングで使うものではない。そなたは、教えた仙術以外で氷属性のオリジナル術があるじゃろ。何故そっちを使わぬ?そちらの方が仙術より強力なはずじゃ」
「はぁはぁ、わ、忘れ・・・てま・・・、はぁ、した」
「本当に阿呆め」
公望は印を組み続けながら周りの氣を消すイメージを膨らませた。思い浮かべるのはいつもの庭の風景と氣を放出していない花鈴の姿。するとどうだろう、公望の周りに渦巻いていた炎は消え、花鈴から放出されていた氣もぴたりとやんだ。
「あれ?」
「あまり世話を焼かせる事をするな」
疲れ果てすとんと座り込み氣が消えたことにきょとんとしている花鈴に公望は近づいていくと、頭をポンポンと優しく叩いた。
「なんで?あれ?術が消えちゃった。私の氣はまだ残ってるのに・・・」
「わしが消した。あんな無意味な争いは修行でも稽古でもまして殺し合いでもない。そなたの自殺行為。無駄な勝負じゃ」
「お師様が、はぁはぁ、消したんですか?でも、どうやって・・・」
「わしの空間術じゃ」
「そ、そうなんですか。ふぅ〜〜〜っ」
花鈴は呼吸を整えなんとか立ち上がった。
「あ〜あ、結局お師様を本気にさせれなかったし、相手にもされなかったなぁ」
「そうぼやくな。少なくともそなたの覚悟はしかと受け止めた。それに免じて少しだけわしの力見せてやろう」
「本当ですか!?」
「うむ」
そう言って公望は自分の額を花鈴の額に当てた。二人の意識が消えその場に倒れる。ふと気がつくと、小さな闘技場の様な場所に花鈴は立っていた。
「ここは?」
「わしの作った仮想現実の世界じゃ。二人の脳の中。まあ、簡単に言えば夢。意識と意識を繋げたものと思えば良い。ここなら、死ぬということはない。感覚はあってもすぐに再生する」
「へー」
「さて、わしの力見せてやろう。その前に花鈴一つ約束じゃ」
「なんですか?」
「わしがこれから見せる術は決して他言してはならん。何故ならわしは開発したが一生使うまいと決めていた術じゃからじゃ。秘密主義者としては秘密にしておきたいし。世の中には知らぬ事も良い事もあるからな。良いか?約束できぬなら見せぬ」
「大丈夫です!約束は守ります!」
「では花鈴、自分で思う絶対破れない最高位の防御術を発動して身を護ってみよ」
「はい」
そう言われて花鈴は、先ほど公望の使った絶氣神戯授防陣を張り、さらに宝貝で水を集めれるだけ集め最大超圧縮して周りを包みその周りに今度は絶対零度まで下げ固めた厚さ何十メートルにもわたる氷の壁で囲んだ。これが今の花鈴の能力の限界のようだ。
「それが最高の防御方法か?」
「はい。これなら防全布並の防御力が出ると思います」
「どんな攻撃も防げる自信はあるか?」
「もちろんです!絶対防げます!かなり時間が掛かりましたがこれなら誰も大老君様でも絶対破る事は無理です!!!」
「よかろう。ではわしの秘奥義見せてやる」
花鈴はどんな術が来るのかと待ち構えた。例えどんな術が来ようとも防げる自信はある。花鈴は自信と共に始めて見せてもらえる公望の術にわくわくしていた。しかし公望は微動だにせず何か術を発動するような素振りを見せない。しかし、突然周りの風景が一変し見渡す限りの草原が広がる。そして公望は一言だけ言葉を発した。
「完殺陣秘義、空間の断裂網」
その言葉を耳にした花鈴は身体を何かが通り過ぎていった感触を受けた。公望は言葉を言った他は何もしていない。数秒経って「あれ?」と不思議に思い構えを解こうとした花鈴だったが身体を一ミリでも動かした瞬間、首より下の身体全部がバラバラに斬り刻まれ首がドサッと地面に落ちた。花鈴は何が起きたのかさっぱりわからない。ただ自分の目と鼻の先に地面がある。何が起こったのだろうと考えようとしたが直ぐに意識が遠退いていった。
「はっ!?」
気がつくと草原の上に自分は立っている。身体に変な感触があり自分の身体をぺたぺた触る。最初夢かと思ったが、目の前に自分が施した大量の水の膜が破けて辺りが水浸しになっていることと氷の壁が無惨にもバラバラに斬り刻まれ地面に無数に転がっているのを見て夢でない事を確信した。そう、確かに自分も目の前の光景のようにバラバラに斬られたのだ。
「これがわしの秘奥義の完殺陣の術じゃ。もしこれが仮想現実の場でなかったらそなたは既にこの世に存在せん」
「え?え?何がどうなったんですか?」
「さあの」
景色が元の闘技場に戻る。
「完殺陣の術は他にもいろいろできるんじゃが、ま、あの攻撃が一番最強じゃろ。回避絶対不可能じゃからな。さて現実に戻るか」
二人は家の庭で目を覚ますとゆっくり起き上がった。のんびり背筋を伸ばす公望に対して花鈴は納得がいかないような顔をしている。
「どうした?」
「お師様、あの術って私たちの頭の中だからできたんじゃないですか?あれじゃ夢と同じですよ。夢だったら自分の好きなようにできるじゃないですか」
「しょうがないのぉ」
公望は証明するかの如く現実世界でちゃんと完殺陣の空間を作り上げた。
「なんだったら、本当に一回死んで見るか?」
「い、いえ!遠慮しときます!!!すみません、疑ってしまって」
「さもありなん。そもそも完殺陣は本当夢みたいな術じゃからな。おかげで開発には道士の修行期間より長い年月を費やした」
術を解きやれやれと縁側に行き座るとキセルを取り出し吹かす。花鈴は凄い!といった風に感激したキラキラした目をこちらに向けながら立ち尽くしていた。
「ま、開発したのは良いがこの術を人前で使う事は金輪際二度となかろう。そなただから見せたのじゃぞ?絶対、誰にも言ってはならんからな?」
「はい!」
元気欲く返事をしこちらに走り寄ってくると、ちょこんと隣に座った。ちらりと公望を見る。公望は至って普通にいつもと同じように空を見上げていた。
「本当に大老君様のおっしゃったとおり、お師様は猫被りだ。凄い!一体、後どれ程の秘密を持ってらっしゃるのかな?いつか全部教えてもらえたらうれしいな。ううん!絶対に教えてもらうんだから!お師様、丸裸にしちゃうぞっ」
花鈴はくすくす笑いながらそんな事を思い、公望に対する想いがまた強くなるのを感じていた。