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仙人事録  作者: 三神ざき
17/47

公望、人間界に降り立つ。完結編

公望、花鈴、娘娘が朝食を食べていた次の日。早速生徒がぞくぞくとやってきた。


「あの、こちらで家の子の面倒を見てくれるって聞いてやってきたんですけど」


「ようこそ。ここは勉強から武芸、礼儀作法その他幅広く教え食事の世話も無償で行います」


「私の家ではまだ満足に育ててやれなくて」


「任せておきなさい」


 こうやって気がつけば集まること十数名の生徒が秀英会に訪れた。皆してよろしくお願いしますと礼儀正しくお辞儀をしていく。公望は早々に食事を片付けると、集まった生徒を大広間に招いた。用意した机に一人一人座らせる。


「さて、皆の者始めまして。わしがここの講師を務める公望というものじゃ。皆には将来文の国を支えられる存在になって欲しいと願いこの塾を始めた。至らぬ点は多々あると思うがよろしく頼む。とにかく、まずは皆仲良くするように。喧嘩は駄目じゃぞ?互いを思いやり、弱いものを助ける人間になってもらい。そのことだけはよくわかっておいてくれな」


「はーい!」


「うむうむ。元気なのは良い事じゃ。ではまず自己紹介からしてもらおうか」


 生徒達は言われるがままに一人一人自己紹介をする。一通り自己紹介も終わった頃一人の生徒が質問してきた。


「せんせーい。ここって何をしてくれるところなの?」


「ん〜?具体的に勉強じゃよ。文字を教えたり、計算を教えたり、礼儀作法を教えたり・・・。まあ、いろいろじゃ。そなたらは一応この塾の生徒になったのだからこの塾の方針に従ってくれ。そんな堅苦しい場所ではないから、とにかく一日一日学んだ事を見につけていけば良い」

 

「はーい!」


「ではまず、文字から教えるかな」


 公望は時間を区切りながら、毎日文字、計算、礼儀作法、武芸、料理、農作業などを教えはじめた。その途中途中、口癖のように言っていたのは、とにかく相手の立場に立って思いやりを持て、弱いものを助ける存在になれということである。この授業には娘娘も参加していた。花鈴は教えられる事は少なかったが、それでも公望の手助けをし共に先生をやっていた。最初花鈴は慣れなかったがそれでも一生懸命に優しく教えていたので、生徒からも慕われるようになった。公望も別に先生といっても先生先生しているわけではなく、気の良いおじさんみたいに手取り足取りのんびり教えていて、直ぐに生徒から好かれた。昼食、夕食は公望の用意した材料で自分達で作り、しばらくすると自分達で育てた作物を使って料理を行っている。肉や魚は自分達で調達できないので、公望が準備していた。こういった日々の中で一番生徒達が楽しみにしていたのは、おやつの時間である。公望がたまたま三時のおやつがてら作ってやったら大好評で、これで生徒の心をがっちり掴んだ所もあった。


「せんせーい!そろそろおやつの時間だよ〜!」


「うん。食べたーい」


 皆てんで揃ってせがんでくる。


「おう、待っておれぃ。今作ってきてやるから、皆庭の机に行きなさーい」


「わーい!」


 生徒達は庭に出て今か今かと待ち焦がれ、公望も急いで支度する。しばらくすると甘いおいしそうな香りがしてくる。


「今日は、バームクーヘンを作ってみたぞ」


「いっただっきまーす!」


 公望の作るお菓子はどれも文の国では見た事のない物ばかりで、甘くておいしく生徒達は喜んでほうばっている。


「私、大きくなったら先生のお嫁さんになるー!」


「あー、ずるい〜。私もなる!」


「あたいも〜」


「おお、そうかそうか。うれしいこと言ってくれるの。生まれて初めてそんなこと言われたわい。しかし、そういった言葉は本当に大切な人が出来たときにとっておけ」


 女の子達を相手にニコニコとしながら一人一人頭を撫でてやる。その光景を見て花鈴はいつものようにムッとしていた。しかし、いつも男の子たちの言葉で和まされる。


「僕は、花鈴先生見たく強くなって文の国一番の武芸者になるんだ!」


「僕も強くなって皇帝様を支えられるようになりたいな。弱い人を助けたい」


「なんで花鈴先生はそんなに強いの?」


「それはね、一生懸命努力したからよ」


「僕達も強くなれる?」


「もちろんよ!努力さえすれば、誰だって強くなれるわ。でも文武両道でがんばってね」


「よーし、がんばるぞー!」


「おうー!」


 そんな感じで毎日が和気藹々と過ぎていき、季節はあっという間に夏真っ盛り。さすがの暑さに、生徒達もばてていた。


「せんせーい。暑い〜」


「こう暑いと勉強も頭に入らなーい」


「ま、もう少し我慢してくれ。今日のおやつは取って置きを用意してやるから」


「本当!?」


「うむ」


「じゃあがんばる〜!」


「午後からは、野外実習にいくから又涼しくなるわよ」


「花鈴先生どこ行くんですか?」


「川遊びに行こうと思ってるの」


「へー!楽しみ!!」


「ほれほれ、楽しみは後々にして先を続けるぞ。高尚この問いを解いてみよ」


「はい」


 一番の年長者である高尚が問題を解く。


「正解。やはりそなた頭がいいな」


「ありがとうございます」


「高尚はしっかりしてますしね」


「うむ。さすが一番の年長者。塾のリーダーにして良かったわい」


「また、先生もからかわないでくださいよ」


「いやいや本当じゃぞ。今後も周りの生徒達の手本になってやってくれ」


「がんばります」


 そんなこんなで午前の授業も終わり、昼食を食べ終え皆揃って野外研修に向かった。ついた先は近くを流れる川である。


「皆好きに遊べ。でもくれぐれも深い場所には行くなよぉ!」


「わーい!」


 皆次々に川に入っていった。キャッキャと騒いでいる。それを土手に座りながらのんびりと見ていた。


「そういえば、水泳も教えておいた方が良いのかな?」


「すいえい?なんですかそれ?」


「いや、水を泳ぐってただそれだけじゃよ」


「あ!そういえば、私も泳げません」


「そうなのか?」


「はい」


「ふーむ。では、泳ぎの練習もさせるか。おーい!皆の者集合!」


 全員がわらわらと戻ってくる。公望は袂から水着をバンっと取り出した。だから公望の袂には一体どれだけのものが入っているのか!?


「これより、皆これに着替えてくれ。泳ぎを教える故」


 花鈴ともども全員が着替えると公望は泳ぎを教え始めた。


「おーい、悶着。沈んでおるぞ・・・」


「先生、浮きません・・・」


「まあ、最初はそんなもんじゃ」


 そうして公望は夏の間毎日水泳を教える事にした。その日は簡単な水遊びをして引き上げる。帰ってから直ぐにおやつの準備に取り掛かった。


「先生。今日は取って置きとか言ってたけど何が出てくるのかな?」


「楽しみだね」


「あー、早く来ないかな」


 皆わくわくと楽しみに待っている。そこにお待たせと公望がやってきた。みんなが公望の持ってきた物に注目する。


「先生!これ何!?」


「アイスというものじゃ。やはり夏はアイスじゃろ。カキ氷も良いかなと思ったが、定番を攻めねば」


「わー、なんかいろんな色があるぅ」


「色によって味が違うから、それぞれ食べ比べてみると良い」


 皆一斉に手を伸ばした。口に入れるなり驚きの声を上げる。


「冷たーい!」


「でも、すごくおいしいよね。これ」


「あたい、この緑の好き〜」


「おっ、娘娘は抹茶が好きか。なかなか通じゃな」


「先生の食べてるのは何?」


「これはストロベリーじゃ。まあ、イチゴ味のアイスじゃな。わしはイチゴに目がなくての」


「へー」


「そういうば、花鈴にはこれじゃな」


 公望は微笑ましく眺めていた花鈴にピンク色したアイスを渡した。きょとんと花鈴は見返してくる。


「お師様、これは?」


「食べりゃわかる」


 花鈴はペロリと舐めてみた。その味にびっくりする。


「あれ!これ桃の味がします!!」


「そなた桃好きなんじゃろ?そなたように作っておいた」


「お師様、私が桃好きな事ご存知だったんですか!?」


「まあな」


「え?でも私今まで桃が好きだなんて一言も・・・」


「弟子の好き嫌いぐらい把握しておかなければな」


 公望はいたって普通に返答するとアイスをペロペロと舐める。花鈴は自分の事を気にかけてもらって凄くうれしい気分になった。塾を開講してからというもの公望には余り相手にしてもらえていなかったし、自分に興味を持ってくれないと少し落ち込み気味だったからだ。そうやって、皆に気を配りながら教えていく事早一年も経とうとした時、生徒全員を見送ってから部屋で公望は手紙を読んでいた。


「お師様、何を読んでらっしゃるのですか?」


「ん?生徒の親からの感謝状じゃよ。そなたも読んでみ」


 花鈴は手紙を受け取ると読んでみた。内容は、家の子が凄く立派に成長してしっかりしてきたとか自分より頭が良くて逆に困ってしまうとか子供に教えられて自分もしっかりしていきたいという様なことが書いてあった。


「なんか、こうして手紙をいただくとやった甲斐があったって気がしますね」


「まあの」


「公望ー、何してるの〜?」


「手紙を読んでるだけじゃよ。ところで娘娘。塾は楽しいか?毎日幸せか?」


「うん!凄く幸せ〜。塾でも友達たくさん出来たし、楽しい!」


「それはなにより。明日はまた違った事をするつもりだから、楽しみにしておれよ」


「何するの?」


「秘密じゃ。今日はもう遅い。娘娘はもう寝なさい」


「あれ、公望は?」


「ちょっと花鈴と話があるから、先に寝床に行ってなさい。なーに直ぐわしらも行くから」


「はーい」


 娘娘は、てってってと寝室に入っていった。その姿を見て公望はため息をつき少し困った表情をする。


「話ってなんですか、お師様?」


「うむ。そろそろわしらも仙人界に帰らねばならんと思ってな」


「もう、帰られるのですか?」


「仕方あるまい。もともとわしらと人間達では住む世界が違う。手紙を読む限りでは皆もう十分わしの意思を継いでおる。もうわしらがおらんくてもよかろう」


「でも、それでは皆が寂しがるのでは?」


「そこじゃ、わしもなんのかんのと生徒達に愛着が湧いてしまったからな。いざ離れるとなると辛い・・・」


「じゃあ、もう少し留まったら駄目なのですか?」


「一生あやつらの面倒を見てやるわけにはいくまい。このままいけば別れが辛くなる一方じゃ。それに、これ以上仙人が許可もなしに留まるのは良いことではない。元々一年が限界と予想はしておった。そろそろ潮時じゃろ」


「娘娘はどうするのです?」


「なんとかする」


「そうですか・・・」


「とりあえず、明日もまた早い。寝るとするか」


「はい」


 公望は、ベッドですやすやと寝ている娘娘を見ながら心を痛めると自分も眠りについた。あくる日、公望は集まった生徒にある指示を出した。


「今日は一風変わった授業をするぞ」


「何をするんです?」


「うむ、今日はわしがちと用があって出かける。その間、そなたらには商売をやってもらいたい」


「商売?」


「そう。わしが用意したお守りやお札といったもの、後自分達で今まで作ってきた作物などを自分達の手で売ってもらいたい」


「へー、楽しそう〜」


「正直商売とは難しいぞ。今のご時勢なかなか買ってはくれんかもしれん。しかしそれを自分達で考えて何とか完売すること。それが今日の課題じゃ。わからない事があったら花鈴先生に聞く様に」


「はーい!」


「では、わしは出かけてくる。花鈴、後の事は任したぞ」


「はい、お師様」


 公望は花鈴に生徒の事を任せると城へ向かった。仏貴の下に行く。仏貴はうず高く積まれた書類に埋もれながら必死にデスクワークをしているところだった。


「よう、久しぶりだな公望」


「うむ、そなたも頑張っておるようじゃな」


「頑張らないと桐生たちに怒られるからな」


「ところで桐生は何処におる?」


「うーん、たぶん会議室の方だと思う」


「そうか。じゃ、頑張れよ」


「ああ」


 公望は会議室の方に向かった。会議室では桐生、斎木他官僚たちが話し合いをしている。


「あら、公望様。お久しぶりです」


「朝から仕事とは大変じゃな。で、仕事の途中悪いのじゃが、ちと桐生。そなたに頼みがあってやってきた」


「私にですか?」


「うむ」


 二人は会議室を出ると、公望が今までの塾の事と娘娘の事をかくかくしかじかと説明し、娘娘をそなたが預かって、塾を引き継いでもらいたいと頼んだ。


「わしらは、そろそろ仙人界に戻らなければならん。しかし、塾の生徒達はしっかりして手が掛からなくなってきているとはいえ、娘娘は両親ともおらん。かといって仙人界には連れていけない。だから、あやつの母親代わりになって面倒を見てやってくれんか」


 公望は深々と頭を下げた。


「そんな、公望様。頭を上げてください。公望様のお頼みなら喜んでお引き受けしましょう」


「本当にすまん。そなたにはそなたの仕事があるというのに」


「いえ、人一人面倒見て、塾を引き継ぐ事など仕事の片手間で出来ますよ。幸い、仏貴様の下、優秀な部下も揃って任せられるようになりましたし、私はお目付け役みたいなものですから。斎木殿もおられますし。今は斎木殿が仏貴様の片腕となって働いていますので、丁度手も掛からなくなってきたし私は大丈夫です」


「そうか、では頼む」


「あ、その代わり今日の仕事手伝っていただけます。ちょっと問題を抱えてまして知恵を貸していただきたいのです」


「わかった」


 そして二人はまた会議室の中に入っていった。夕暮れ時になり公望は秀英会に戻っていく。皆が出迎えてくれた。


「お帰りなさーい!先生!」


「うむ、ただいま。どうじゃった、商売はうまくいったか?」


「うん!」


「先生ー!みーんな売ったよ!!」


「すごい?すごい?」


「うむうむ、すごい!皆偉いぞ」


 一人一人の頭を撫ぜてやる。


「花鈴、ご苦労じゃったな」


「いえ」


「さて、皆大広間に集まってくれ。これより大事な話がある」


「はーい!」


 わらわらと生徒達は大広間に集まりそれぞれの机の後ろに座る。


「そなたらにわしらの存在について教えておかねばならん。しかと聞いてくれ」


 公望は自分達が仙人と呼ばれる存在であり、人間とは違っていて人間界に居る事が許されない事、もう仙人界に帰って先生を辞めなければならないことを話した。それを聞いて皆が泣き出す。


「せんせ〜ぃ。いなくなっちゃのぉ」


「行っちゃやだよぉ」


「皆泣くな。しょうがないことなのじゃ。わしとてそなたらと別れるのは寂しい。しかし人生は出会いがあれば別れも必然なのじゃ。そなたらはもう十分にわしの教えを受け継ぎ意思をしっかり持っておる。わしはそなたらを信頼し別れるのじゃ。わしの後任の先生は、桐生という宮廷の女性に任せた。これからは、その桐生をわしらだと思いしっかりと勉学に励んでくれ。そして高尚」


「はい」


「そなたはこの塾で最年長のリーダーじゃ。桐生と共に皆を支え引っ張っていってやってくれ」


「わかり・・・ました」


「これにてわしらの授業は終わりじゃ。わしらは明日の朝旅立つ。皆わしの教えをしっかり守って健やかに幸せに生きよ。これがわしからの最後の言葉じゃ」


「うぅっ、うぇーーーん!」


 皆が落ち着いた頃、一人一人に言葉を投げかけ見送った。最後の一人を見送った後、娘娘が公望の袖をぎゅっと掴んだ。


「公望〜、やっぱり行っちゃうの?」


「うむ。すまんな」


「あたし・・・またひとりぼっちになるの?」


「いや、そなたのことは桐生に任せてある。これからは桐生を母と思い暮らすが良い。それにそなたはもう一人ではない。大勢の友達が出来たではないか?それはかけがえのないものじゃぞ」


「・・・おねーちゃんも行っちゃうの?」


「ごめんね」


「・・・・・・」


「良いか、娘娘。わしらは離れていても心はそなたの中にあり、一緒に生きておる。わしらは決してそなたらを忘れはせん」


「あたしも公望とおねーちゃんの事、ぜーったい忘れない!」


「うむ。わしはさよならは言わん。いつか何かの縁でまた逢えるかもしれんからな。別れはまた新たな出会いをもたらす。次会うときがあったら、元気な姿を見せてくれな」


「うん!」


「じゃあ、お師様、娘娘。今日は最後の夜。三人でゆっくり寝ましょう」


 そうして三人は寝床に向かった。今日は花鈴が気を使ってか、公望と花鈴の間に娘娘を寝かした。二人の温もりに包まれて、娘娘は寂しくもゆっくり眠りについていった。次の日の朝、早々に桐生がやってきて、娘娘と塾を託し公望達は風麒麟に跨った。


「達者でな、娘娘」


「元気でね」


「またいつか会おうね!公望、おねーちゃん!!」


「うむ。では桐生、後の事は任せたぞ」


「任せて置いてください。しっかりと面倒みますから」


「じゃ、行くか、花鈴」


「はい」


 公望達はふわっと宙に浮くと、空に向かって一直線に飛んでいった。


「名残惜しいですね」


「こうなる事はわかってはおったが、割り切れぬものじゃな。わしもまだまだ修行が足りん」


「公望様、どちらに行かれますか?」


「ああ、蓬莱山に向かってくれ。師匠に報告せねば」


 二人は蓬莱山へと向かい、大老君に報告しに行った。


「戻ったか」


「はい」


「千里眼で大方見ておったが、おぬしやっておることが太公望と似ておるな。やはり太公望から名を取って授けたのは良かったかもしれん」


「誰ですそれ?」


「先代の大老君の弟子じゃよ。公譚軍の倒し方とか食料問題の解決とかやり方がそっくりじゃ」


「あんなものは、兵法の基本中の基本。私はそれにのっとったまでのこと。食料の事だって誰だって思いつきますよ。私は極々当たり前の事をしたまで。ところで、なにやら戻ってきて感じたのですが仙人界が殺伐としてませんか?」


「気づいたか。実はそなたらが人間界に行っている間にとうとう妖怪仙人達と争いになってな。引き金は猫姫なんじゃが」


「あやつか・・・また、阿呆なことを」


「それでわしらは、十二仙や竜吉の働きもあってなんとか他の妖怪仙人達の鎮圧には成功したんじゃが、肝心の猫姫を抑えられずにいる。猫姫は防全布を羽織っておるから、攻撃が効かんのじゃ。こちらも妖仁の変化術で対策を取り、なんとか被害は出ておらんが一向に進展がなくてな。にらみ合いがここ数ヶ月続いておる」


「へー、ところで人間界についての報告ですが」


 他人事の様に話を受け流すと、人間界での事を報告しようとする公望に大老君が呆れた。  

「おぬし、何を他人事の様に受け止めておる。そなたも十二仙の端くれなら何とかしようとか思わんのか?人間界の事は後で報告書を出せばよい」


「だって、師匠からの命は人間界から猫姫を排除し、新たな建国の手伝いをしろでしょ?仙人界の事は師匠達でなんとかしてくださいよ。それより、今回の働きで花鈴は大いに活躍してくれたのですから、褒美の一つでもやったらどうです?な、花鈴」


「えっ?わ、私は別に・・・。ただお師様の役に立ちたくて付いて行っただけですから、褒美だなんてそんな」


「遠慮することはないぞ。この人使いの荒いくそったれじじいになんでも請求すればいい」


「おう、その人使いの荒いくそったれじじいからもう一つそなたに命を下す」


「なんです?」


「猫姫を何とかして来い」


「はぁ?耄碌もうろくしたか???師匠達がなんとも出来んものを私がなんとかできる訳ないでしょ」


「おぬし、いい加減猫をかぶるのはよせ。今はどちらにせよ猫姫をなんとかせねば仙人界に平和ない。花鈴を人間界に連れて行くことを許可したのだから、今度はそなたが折れろ」


「ちっ!面倒な。私には何のことやらさっぱり」


「四の五を言わずさっさと行け!猫姫のいる場所は、ここより東北に位置する妖怪仙人の住まう高尊妖峰じゃ」


 大老君に強制的に押し付けられ、公望は嫌々高尊妖峰に向かった。行く途中途中、ずっと愚痴をもらしている。


「なんでわしがせねばならんのじゃ。大体わしに出来る分けなかろう。虫も殺せん軟弱者だというのに・・・」


「まあまあ、お師様。お師様が嫌でしたら、私が何とかしますから」


「花鈴、優しいのぉ。公望うれしぃ!」


 公望は花鈴の言葉を聞いて両手をガシっと握りポーズをとった。花鈴は、はははと呆れ笑いをしている。そんな事をしている内に高尊妖峰に辿り着いた。中に入ると千里眼を用いて猫姫の居る場所を探す。見つけるとそこに向かって一直線に歩いていった。


「どうやら、他の妖怪仙人達は大人しくしておる様じゃな。良かった。途中争いにでもなったら面倒だしの」


「さすが十二仙様達ですね。しっかり鎮圧されてらっしゃるようで」


「このままあやつらに任せとけば自然と解決するんじゃないか?」


「でも、猫姫、防全布を羽織ってますから、やっぱりどうしようもないんじゃ」


「それだったらわしにだってどうしようもできんとか思わんのか?」


「いえ、きっとお師様なら何か良い知恵を持って解決してくれるのではと」


「今回は知恵でなんとかならんわい。力でなんとかせねばならんじゃろ。嫌じゃな〜。暴力はんたーい!」


 公望は叫びながら歩いていく。やっとのことで猫姫の居る場所に到着。そこには猫姫と対峙する妖仁と他の十二仙が集まっていた。


「おっ!公望じゃねぇか。何処行ってたんだ」


 普賢が公望に気がつくと近寄ってきた。


「阿呆師匠にこき使われておってな。さてと、なにやら猫姫で問題になってるとか」 


「見ての通りよ。こっちの攻撃は効かねぇし、猫姫の変な術は妖仁が同じ防全布に変化して何とか中和してくれてるけどよ。ずっとにらみ合い状態なんだよ」


「公望も手伝っておくんなさいましな」


「おまえの悪知恵働かせてなんとかするっちよ」 


 有頂と花月喜も近寄ってきて公望を急かした。やれやれと公望は妖仁の方に行きしゃべりかける。


「だいぶ苦労しておるようじゃな。そなたでもなんとかならんのか?」


「あ、望ちゃん。うん、攻撃は防げるんだけどこっちの攻撃も効かないんだよね」


「つまり、防全布さえ何とかすれば良いということか?」


「うん」


「うむ」


 公望は猫姫に歩み寄る。


「あら〜ん、公望ちゃんじゃない。人間界ではやってくれたじゃないのん」


「やかましい。相も変わらずくねくねしおって、しかもやっと人間界からいなくなったと思ったら次は仙人界か。どれだけ世話を焼かせれば気が済むのじゃ」


「言ったじゃなぁ〜い。わらわの望みは人間界仙人界すべてを自分のものにすることよん」


「一度灸をすえてやらねばならん様じゃな」


「あらん?最弱の公望ちゃんにできるかしらん」


 公望は何も言わず、飛燕を持ち居合いの構えを取った。しばし後、キーンっと音が辺りに響く。公望はそのままやはり何も言わずに後ろを向くと、十二仙達に告げた。


「後は任せた」


「公望ちゃん。何かしたのかしらん?灸をすえると言いながら、ポーズを取っただけじゃなーい」


 猫姫は余裕な表情でまたくねくねしだした。しかし、その動きによって猫姫を包んでいた防全布がバサバサっと斬り落ちていく。


「あ・・・あら・・・」


 さすがの猫姫もこれには焦った。それを見ていた十二仙達はにやりと笑うと手に宝貝を持ちじりじりと迫ってくる。普賢なんか今までの鬱憤晴らしといわんばかりに禁鞭をブンブン振り回す。


「さぁて、どうしてくれようか」


 皆していじめっ子モードに入った。


「え、え・・・っと」


 たじたじになって猫姫は困りだす。公望がボソっと呟く。


「自業自得じゃわい」


 その時、十二仙達の気迫に押されて、今まで余裕綽々としていた猫姫がいきなり泣き出した。そして、ぽんっと猫耳と尻尾の付いた子供の姿になる。その場にいた全員がきょとんとした。


「えーん、えーん。ごめんなさーい。わらわ、ちょっとわがまましてみたかっただけなのぉ」


「泣いても無駄だ。己の犯した罪、その身体で味わってもらう」


 クールな奇勝が宝貝をもって攻撃をしようとしたのを公望が慌てて止めた。


「ちょ、ちょい待ち。なんじゃなんじゃ、猫姫。それがそなたの本来の姿か?」


「うん・・・」


「なんで、このようなことをした?」


「わらわ、元々猫だったんだけど、ひっく、猫のとき悠々自適に生活してて、えぐっ、気がついたら仙人になってたの。その時、うぐっ、空からこの防全布が振ってきて、強くなった気がして、ひくっ、猫のときの習性で自由気ままに暮らしたい、楽しく生きたいって思って。世界の頂点に立てば、好きに生きられるって、っう、それで・・・ごめんなさーい!」


 わーんと大声で泣き出した猫姫を見て、今度は公望が焦りだした。まさか猫姫の正体がこの様な子供だとは思っても見なかったからだ。


「騙されるな、公望。こいつはずるがしこい。この姿も俺達を油断させるためかも知れん」


 奇勝は気を抜かず宝貝を構えている。公望は改めて猫姫に聞いた。


「そなた、嘘は言っておらんよな。もし嘘をついてわしらを騙していたら、速攻封神するぞ?」


「わらわ、嘘ついてない」


「じゃあ、もう二度と変な考えは起こさん。平和に皆と暮らせると約束できるか?」


「・・・うん」


「ならよかろう。他の者達。すまんが許してやってくれんか?猫姫も反省してるようだし」


「甘いぞ、公望。おまえはお人よし過ぎる。だから騙されるんだ。」


「ま、ま、奇勝。そう言わんと。もしこの先猫姫がへんな真似しようとしたらわしが責任もってなんとかするから」


「でもよぅ、公望。こいつの言ってる事信用して大丈夫か?」


「普賢。その辺は大丈夫だと思うよ。僕、防全布に変化してみてわかったけど、この宝貝、所有者の気持ちを高ぶらせて、若干所有者の強い気持ちや本能的な部分を操る所あるみたいだし。猫姫が危険というより、防全布自体が危険な宝貝だと思う」


「そういえば、僕の持ってる宝貝全書にもそんな事書いてあったな。危険度ナンバー1の宝貝だとか」


 妖仁と大乙がフォローを入れた。


「ほら、そういう訳じゃし。こんな泣きじゃくってる子供をよってたかって責めては、単なるいじめじゃぞ。な、な。そんな殺気だたんと。わしに免じてな。頼む」


 公望は手を合わせて皆に頼んだ。皆は公望がそう言うならしょうがないと、宝貝を納めた。公望は改めて猫姫のところに行くと頭を撫でてやる。


「ま、今回の事は多めに見てやるから、もう二度と悪さするんじゃないぞ」


「うん・・・ありがとう」


「そなた、行くあてはあるのか?」


「ない」


「困ったのぉ」


「あ、それだったら望ちゃん。僕が面倒みるよ。僕だったら、何かあっても直ぐ対処できるし」


「そうか?妖仁に任せておけば安心じゃな。皆もそうであろう?」


「あ、ああそうだな。妖仁に任せておけば問題はないだろう」


「うん」


「じゃあ、満場一致ということで。猫姫、妖仁の言う事ちゃんと聞くんじゃぞ。ほれほれ何時までも泣いてないで、どうじゃ、鰹節食べるか?」


 公望は袂から鰹節を取り出すと猫姫に与えた。猫姫は受け取ると泣き止んでうれしそうに食べてだした。それを見てようやく公望もホッとする。


「ところで、そなた何歳じゃ」


「うーんと、2000歳!」


「子供じゃねーじゃん!!!」


 全員から突込みを受け、公望も片方の肩をカクンと落すと苦笑いをした。花鈴はくすくすと笑っている。こうして、人間界を巻き込んだ猫姫の人騒動は幕を閉じたのであった。

 

あとがきだよ〜ん。ようやく、第一部が完結いたしました。当初書き出したときは、封神演技を題材にしてその続きを好き勝手に書いてやろうと思っていたのですが、書いているうちにキャラクター達が勝手に動いてくれるもんだから、封神演技の続きなのか完全オリジナルの小説なのかわからない中途半端な第一部となりました。封神演技の好きな方には真すみません。

さて、一応この作品のコンセプトとしてハートフルラブコメ、でもシリアスで深ーいところがある小説にしようと思ってたんですけど、なかなかうまくいかないものですね。第二部からはどうなるかわかりませんが、今後もキャラクター達に振り回されながら書いていきたいと思います。果たして、花鈴の恋の行方は!?そして竜吉の想いは!?超愚鈍で何かと秘密主義の主人公、公望の行く末を温かくこれからも見守ってやってください。

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