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仙人事録  作者: 三神ざき
16/47

公望、人間界に降り立つ。其の八

公望と花鈴は町を散歩していた。町はにわかに活気付き始めている。仏貴が新たな皇帝となり、象の国改め文と称するようになって早数日。山のようにある仕事を桐生と斎木の手伝いのもと仏貴は必死にこなしたため、町の復興作業はすこぶる順調のようである。


「皆元気になってきたみたいですね、お師様」


「そうじゃな。国としてはまだまだじゃが、民に笑顔が見受けられるようになったのはいい傾向。この調子なら文も安泰じゃろ」


「でも、仏貴さん。あまりの仕事の量にぼやいてましたね」


 花鈴がくすくす笑う。


「あやつもな〜。それぐらい予測しておけっつうのに。本当桐生と斎木を摂政に持ってきて良かったわい。あやつひとりだったら心もとないわ。自覚が足りん。自覚が」


 やれやれと公望はため息をついた。そんな平和な会話ができるようになったこの文の国で散歩の途中、周りと打って変わって違う落ち込んだ雰囲気をかもし出した女の子が目に入った。


「ん?」


 公望は不思議に思い、近寄っていく。女の子は壁にもたれながら顔をうずめて座っていた。


「どうした、娘っ子?」


「・・・・・・」


 女の子からは返事がない。相変わらず顔をうずめたままだ。


「ん〜」


 公望は袂から飴をとりだすと、トントンと女の子を肩を叩いた。その子はようやく顔を上げる。その顔の目の前ににこっと笑いながら、飴を差し出した。


「これ・・・な〜に?」


「ん?飴というものじゃ。なめてみるといいぞ。とても甘くておいしいから。ほれ」


 女の子はおずおずと公望の手から飴を受け取ると口に入れた。


「あ!甘い。おいしいぃ」


「気に入ったか?まだいろいろあるから、食べるか?」


「うん!」


 公望が差し出した様々な種類の飴に女の子は飛びついた。少し元気が出たようである。


「で、どうしたそなた?こんな所に座って、家には帰らぬのか?両親が心配しておるのではないか?」


「あたし、家ない。おとんもおかんも死んじゃって・・・あたしひとり」


 公望の質問にせっかく元気が出てきた女の子が泣きそうになった。それを見てやさしく聞き返す。


「行くあてはないのか?」


「うん。あたしひとりぼっち」


「そうか。では、わしがしばらく面倒をみてやろう」


「えっ?」


 公望はそう言うと女の子を片手で抱きかかえ、頭をなぜる。


「ほれほれ、わしがついててやる故そんな寂しい表情をする出ない。子供はもっと無邪気に元気であらんとな。そなた名はなんと言う?」


娘娘にゃんにゃん


「娘娘か。わしは公望じゃ。こちらにいるのは花鈴という。娘娘は何歳じゃ?」


「4才」


「そうかそうか。そうじゃ、飴以外にもチョコレートと言うものもあるが食べてみるか。うまいぞ」


 袂からチョコを出す。娘娘は興味本位で手にとって口に入れた。その味にカルチャーショックを受けたような表情でびっくりする。


「おいしい!!口の中で直ぐ溶けちゃったけど。まだないのおじさん?」


「おじさんではない。これからはわしのことは公望と呼べ」


「うん。で、公望、もうないの?」


「おお、あるぞ。好きなだけ食べるといい」


「わぁ〜」


 ようやく娘娘に笑顔がこぼれた。公望はパクパクとチョコを食べている娘娘を優しく優しく撫でてやっている。その光景を見て、花鈴はちょっとムッとした。


「お〜し〜さ〜ま。面倒みるって言っても、私達もう任務果たしたんだから、仙人界に帰らなきゃならないでしょ。どうするんです。そんな軽はずみな返事して」


 少し怒った口調で言う花鈴に、公望は気にも留めず話を娘娘と続ける。


「丁度、わしら塾を開こうと思っておってな。娘娘はそこで暮らそう」


「じゅくってな〜に?」


「ん?勉強とか武芸とか、まあ、いろいろ教える所じゃよ。今からその家に行こうとしておったところなんじゃ。皇帝からは許可をもらっておるから、さあ、行くか」


「ちょ、お師様〜」


 花鈴を置いてさっさと歩いていく公望の後を必死で花鈴は追いかけた。しばし歩く事、公望と娘娘は笑いながら話をしているその後ろを、ずっとムッとした状態で花鈴がついていき、ついた先に、大きな家が建っていた。


「ここじゃ」


「うわぁ〜、立派なお屋敷。ここで暮らすの、公望?」


「そうじゃよ。ここを自宅兼塾とする。どれ、そなたら二人は先に入っておれ。わしは宣伝と生活の準備を兼ねて少し出かけてくる。花鈴、娘娘の面倒を頼むぞ」


「えっ?あ、はい」


 公望は娘娘をおろすと、じゃっと言って町にまた出向いていった。屋敷の入り口で花鈴と娘娘が二人取り残される。


「おねーちゃん」


 娘娘はぼーっとしてる花鈴のすそを引っ張った。


「え?私の事?」


「そうだよ。おねーちゃん、公望行っちゃったし、家の中入ろうよ!」


「そ、そうね。じゃあ娘娘。入りましょうか」


 おねーちゃんと呼ばれることに少しくすぐったさを感じながら、花鈴は娘娘を連れて家の中に入っていった。家の中は、とても広く三人で暮らすにはもったいないほどである。家具もあらかた揃っていたし、庭も立派だ。


「ねぇ、おねーちゃん」


 家の中をきょろきょろ見ていた花鈴に娘娘は声をかけてくる。


「なーに?」


「公望言ってたけど、おねーちゃん達って仙人って言うんでしょ?それなんなのかあたしに教えてよぉ」


「ええ、いいわよ。お師様が帰ってくる間、教えてあげる」


 花鈴は仙人について話し始めた。その話が終わるか否やの時、公望が大荷物を抱えて戻ってくる。


「お師様、お帰りなさい。早かったですね」


「うむ。やる事がたくさんあるでの。とりあえず、宣伝の方は風麒麟に任せたので今後必要な分だけ揃えてきた」


 荷物をどさっと置くと、すぐにまた外に出る。二人は興味本位でついていった。公望は大きな筆を持つと、家の壁にでかでかと秀英会と書いた。


「なんて書いたの。公望?」


「ん?しゅうえいかいと書いたのじゃ。それがこの塾の名じゃよ」


「お師様、塾って具体的に何をなさるつもりですか?」


「先に言ったであろう?勉学と武芸を教える。無論無料でな。対象は4才から9才くらいのつもりじゃ」


「仙人界に帰るんじゃなかったんですか?」


「師匠からは新しい国造りの手助けをして来いと言われておる。これは、その一間。今後の文の国を支える者達を若い内から育てるのじゃよ。それに、この国もまだ子を面倒見れるほど生活は裕福でないからな。これから忙しくなるぞ」


「はぁ」


「さて、良い時間じゃな。娘娘、お腹は減っていないか?」


「うん。すいたよー!」


「よし!ご飯にしよう!!今食事を作ってやる故待っておれ」


 公望は勇んで厨房に食材を持って入っていった。二人は、机のある厨房隣の一室で座って待つ。その内部屋は凄くおいしそうな匂いで充満する。娘娘のお腹が鳴り、思わず声を上げる。


「公望!まだー!?お腹すいたぁーー!!」


「うっし!できたぞ〜!」


 公望は、机にずらーっと料理を並べた。


「こっちが、娘娘の食事な。で、こっちがわしらの」


 並べた料理を手際よく、皿に盛り二人の前に置いた。


「あれ?お師様。仙人って生臭物禁じられてるんじゃなかったでしたっけ?」


「そうじゃよ」


「じゃあ、なんで娘娘の食事は、魚とか肉料理が入ってるんです?」


「あのな〜、娘娘は人間じゃぞ?わしらと違って、ちゃんとしたものを食べなければ病気になってしまうし、成長に影響が出るであろう?わしらは、生臭ものは食さんが娘娘にはきちんとした食生活をさせねば」


「あ〜、なるほど」


「よし!では、娘娘良いか?一日の食にありつけたこと、そしてわしらのために命をとられてしまった生き物達に感謝を込めながら、ありがたく食べるのじゃぞ。この生き物達が犠牲になっておるからこそわしらは生きておれるのだからな」


「うん!」


「うむ。じゃあ、手を合わせて・・・いただきます」


「いただきます!」


 娘娘は元気よく言うと早速料理に手を伸ばした。しかし、箸の持ち方がうまくいかず料理がつかめなくて、全然口に入らない。ようやくつかんでも、食べようとした瞬間に落ちてしまう。


「公望〜!食べられな〜い!」


「そなた、箸も使えんで今までどうやって食べていたんじゃ?」


「え〜?手でつかんで食べてた。こんなちゃんとした料理食べた事ないもん」


「そうか、しょうがないの。わしが食べさせてやるわい」


 公望は料理を箸でつかむと娘娘の口元に持っていって口を開けさせた。


「ほれ、あ〜ん」


 娘娘はぱくっと食べた。自然と笑みがこぼれる。


「おいし〜!」


「良く噛んで食べるのじゃぞ。噛む事は脳の活性に良いからな」


 コクコクと頷きながら、言われたとおり良く噛んで料理を味わっている。公望はその頃合を見て、次々と食事をつかんでは娘娘に料理を食べさせた。娘娘は一口食べる事においしいおいしいと喜んでいる。公望も口にあって良かったとニコニコしている。反面、花鈴は無言だった。


「お師様、私にだってあんなことしてくれたことないのに!」


 花鈴は内心で文句を言いながらもくもくと食事を平らげる。憂さ晴らしに公望の食事にも手をつけた。


「あっ!花鈴!それ、わしの・・・」


「お師様は、娘娘に食べさせてあげるので手一杯でしょ?そんなことしていては、せっかくのおいしい料理が冷めてしまいます。もったいないのでわたしが食べます」


 公望の有無も言わさぬ速さで食事を平らげていく。一方では娘娘はもっと〜っとねだってくる。仕方なく公望は自分の料理をあきらめて娘娘に食べさせた。


「花鈴。もったいないとおもうのはいい事じゃが、そんなに食うと太るぞ・・・」


「わたしは太らない体質だからいいんです!」


 もうやけになっている花鈴はがむしゃらに食べ続けた。そうこうしている内に、料理はあっという間になくなり、三人は手を合わせてご馳走様と言うと、公望の指示に従っててんでに自分の皿を厨房に持っていく。


「そうじゃ、花鈴」


「なんです?」


「娘娘に、箸の正しい持ち方教えてやってくれんか。箸も正しく持てんようでは、今後問題あるでな」


「わかりました」


「頼むぞ。わしは、ちょっと明日に向けての準備をしてくる」


 皿を片付けると厨房を後にし、外に出て行った。そして庭で、持ってきた材木を飛燕でスパッスパッと切っていく。あらかたの材料が出来上がると、ひとつひとつの部品を組み立てていった。作ったのは、長机である。そう、大広間に入るだけの長机を十個近く作ったのだ。それぞれ出来上がると、それを持って大広間に綺麗に並べ、机の上に紙と筆を置いた。大広間正面には、大きな黒板を取り付けた。もちろん黒板なんぞ、文にはない。わざわざ別の国に行って取ってきたのだ。


「こんなもんか」


  パンパンと手を叩いて次にやった事は裁縫である。子供用の道士服とおそろいの大きめな道士服を縫い繕った。そして、身体を拭く布と洗うための布を二枚ずつ用意し、さらに香料の入った洗髪剤と石鹸も一緒に揃え、袋につめた。そして準備が整うと花鈴達の下に向かう。花鈴は娘娘に丁寧に箸の持ち方を教えていた。


「うー、難しいよ〜おねーちゃん」


「娘娘ならできるわよ。ほら、もう一度この豆をつまんでみて」


「う〜」


 娘娘は教えられた通りの箸の持ち方で机に置いてある豆を真剣な面持ちでつまもうとしていた。そーっと豆がつままれ、持ち上がる。


「やったー!!出来たよおねーちゃん!!」 


「うんうん。えらいえらい」


 花鈴は優しく撫でてやった。


「おー!娘娘!できるようになったかー!!」


 公望はひょいっと抱っこした。


「出来たよ、公望!」


「これで、明日からは自分で食べられるな?」


「うん!」


「良し良し。では、二人とも出かけるからぞ」


「どこ行くの〜?」


「どちらに行かれるのです?」


「ん?風呂じゃ風呂。先ほど出かけたときに近くに風呂屋があったでな」


「お風呂?」


「風呂ってな〜に?公望」


「なんじゃ?二人とも風呂を知らんのか?水浴びをお湯にしたようなものなのじゃが」


「へー、水浴びをお湯でですか」


「そんなの知らないよぉ」


 それもそうかもしれない。花鈴は山奥で育って、風呂というものを経験した事がないだろうし仙人は風呂に入る必要性がないから仙人界でも入ったことはない。娘娘は、象の時代では風呂といえば高級階級の極少数の人間しか入れず、一般の人間が利用する事はまずできないからだ。


「とにかく、気持ちの良い疲れの取れるものだから行くぞ」


「はーい」


 三人は家を出て、風呂屋に向かった。公望は娘娘をおろし、娘娘は走って先に行く。その姿を見て転ぶ出ないぞと注意を促しながら、そっと後ろからついてきていた花鈴の横に並んだ。


「なあ、花鈴?」


「なんです?」


「そなた、なんか今日機嫌悪くないか?」


「べーつーにー」


「いや、絶対機嫌悪いじゃろ。何があった?」


「お師様は愚鈍すぎるんですぅ」


 知らん顔しながら、先に行った娘娘の後を花鈴も走って追っかけた。


「なんなんじゃ。わし、なにか悪い事したかぁ?」


 首をかしげながら、ゆっくりと二人の後を歩いていった。歩く事10分少々、風呂屋に到着。お台に座っている人間に顔を見せると、すんなり通してくれた。一応公望はまだ仏貴の参謀の立場にいるからである。この辺は顔パスができるのだ。


「こっちが女湯。ほれ、着替え一式。中に染料と布が入っているからそれで頭と身体洗っておいで」


「あれ、公望は一緒に入らないの?」


「わしは男湯」


「別々なんですか?」


「当たり前じゃろ!それじゃあな。上がり終わったら、入り口でお互い待っている事」


 公望はさっさと中に入っていった。花鈴達も女湯の方に入っていく。


「風呂なんて久しぶりじゃ。ふぃ〜極楽極楽。そういえば、家に何か足らんと思っておったら風呂がないんじゃったわ。仙人界に戻ったら作るか」


 のんびりと湯につかりながら疲れを癒していた。一方、花鈴達は始めてみるお風呂というものにビクついていた。


「おねーちゃん。これ、中入ればいいのかな?」


「だと思うけど、なんか湯気たってるね・・・」


 花鈴はそっと足を入れる。水が熱いのにびっくりして思わず足を引っ込めた。


「どうしたらいいんだろ・・・?」


 周りは誰もいない。風呂の入り方がわからず二人は立ち尽くしていた。そこに公望の鼻歌が聞こえてくる。どうやら隣がすぐ男湯で繋がっているようだ。


「お師様ぁー!」


「ん〜、なんじゃ!」


「お風呂ってどうすればいいんですか!?」


「阿呆!ただ中に入ればいいんじゃ!」


「だって、水が熱いですよ!?」


「風呂とはそんなものじゃ!熱いって言っても適温じゃぞ!気持ちいいから入ってみろ!!」


「だって、おねーちゃん」


「うーん」


 花鈴はまだ戸惑いがあるようだ。そこに意を決して娘娘が飛び込んだ。


「えいっ!」


 ドッボーン!!!


「あ、大丈夫!?娘娘!?」


「うわ〜、気持ち良い〜。おねーちゃん入ってみてよ。気持ちいいよ」


「そ、そう?」


 花鈴は恐る恐るゆっくり浸かってみた。最初は水の温かさに戸惑いがあったが直ぐに慣れて心地よさに代わる。


「本当だ。気持ち良い〜」


 二人は、ん〜〜と背を伸ばした。そして娘娘が花鈴にお湯を掛けたところから、やったなーっと二人して笑いながらパシャパシャとお湯の掛け合いを始めた。


「そなたらー!楽しむのはいいが、あまり入っていると湯辺りして倒れるから、程々にして頭と身体洗って出て来いよー!わしもそろそろ上がるからな!」


「はーい!」


「じゃあ、娘娘。後50数えたら、上がって頭とか洗おうか」


「うん」


「い〜ち、に〜、さ〜ん・・・・・・」


 二人は声を揃えて数を数える。50数え終わった所で、風呂から上がると頭と身体を洗い始めた。


「おねーちゃん。洗って〜」


「ちょっと待ってね。私先洗っちゃうから」


「じゃあ、あたし、おねーちゃんの背中洗ったげる」


「あ、ありがとう」


「おねーちゃんて、髪も肌も綺麗だよね」


「そう?」


「うん。羨ましいな〜」


「娘娘だって、綺麗じゃない?」


「そうかな?」


「そうよ」


 お互いに流し合いをしながら、そんな他愛のない話をしてキャッキャと笑う。


「ほーら、動かないで」


 花鈴は娘娘を洗い終わると二人して、脱衣所に戻って着替えをした。


「あれ?この服おねーちゃんと同じじゃない?」


「あ!本当だ」


「わ〜い!おねーちゃんとお揃いお揃いっ!!」


 娘娘は喜びながらその場をくるくる回る。その光景を微笑ましく見ながら花鈴はこの服どうしたんだろう?と疑問に思っていた。二人は外に出ると、キセルを吹かし夜空を見上げている公望と合流する。


「どうじゃ、初めての風呂は。気持ち良いもんじゃろ?」


「うん!」


「はい。ところでお師様。この服どうしたんですか?」


「ん?わしが縫ったんじゃ。寸法は丁度良かったみたいじゃな。何より何より」


「ええ!お師様が縫ってくれたんですか?」


「何を今更驚いておる?そなたが今まで来ていた道士服だって全部わしが繕ったものじゃぞ?」


「公望〜、ありがとう!」


「良し良し」


 抱きよってくる娘娘の頭をポンポンと叩いてやった。


「あ、お師様。ありがとうございます!」


「ほっほっほっ。良きかな良きかな。さて帰るか」


 三人はのんびりと家路に着いた。すると風麒麟とジュニアが入り口で待っていた。


「公望様、チラシの方はすべて張り終わりました」


「うむ。すまんな、面倒事を頼んでしまって。本来ならわしがやらねばならなかったのじゃが」


「いえ、構いません」


「とりあえず、そなたらも疲れたろ。これを食べてゆっくり休め」


 仙丹を風麒麟親子にやると、全員揃って中に入っていった。風麒麟親子は別室に入っていき、公望はベッドの置いてある一室に入る。


「さ、わしらも寝るか。明日から忙しくなるやもしれんからな」


 公望はベッドにゴロンと横になる。花鈴はいつもの様に横に入り込んできた。それを見て娘娘は困った。


「公望〜、あたしどこで寝ればいいの?」


「お、そうじゃったな。他にベッドのある部屋あったかな?」


「おねーちゃんは公望と一緒に寝るの?」


「そうよ」


「だったら、あたしも公望と一緒に寝たーい!」


「そうか?だったらそなたも入ればよかろう」


「あたし、公望の隣が良い〜」


「それはだめ!お師様の隣は私って決まってるの!」


「え〜!ずるい〜!」


「だめなものはだめ!」


「これ、そんな事で言い争うな。だったらわしを真ん中にして左右でそなたらが寝ればいいじゃろ。ほれ、花鈴ちょっと詰めてくれ。さ、娘娘こっちにおいで」


「やったー!」


 喜びながら、娘娘は公望の隣に寝転んだ。花鈴は物言い足そうであったが二人は直ぐに眠りに入り、すやすやと寝息を立てだす。


「ふ〜、わしとしては川の字に憧れてたんじゃがな〜。ま、良いか。寝よ寝よ」


 ポツリと呟き、自分が父親っぽくなってきたかな?とか思いながらゆっくりと眠りにつくことにした。

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