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仙人事録  作者: 三神ざき
15/47

公望、人間界に降り立つ。其の七

 公望は、今回の戦に猫姫が出てきていない事を確認したうえで、西漢軍に中央突破の陣で公譚軍10万の兵に突撃をかけさせた。それに対し公譚軍は、五倍近くの兵力をもって三角形を形作る両翼の陣を張り西漢軍を囲い込む作戦に出たようだ。


「やはり両翼の陣か。兵力の差からそう来るとは思っておったが、これは手間が省けたぞ」


 公望はにやにやと怪しげに笑っていた。隣に居た仏貴はその姿を見て気持ち悪ぅ!と突っ込みを入れつつ、公望の言った作戦通りに事を進めた。西漢軍が公譚軍の両翼に囲まれそうになる直前に合図のドラを鳴らした。前進していた西漢軍が今度は一転後退を始める。それにつられて、自然と両翼に居た兵は中央に移動し一つの塊になって突撃してくる。


「よし!もう一度ドラを鳴らせ!」


 仏貴の指示に従いまたドラを一回鳴らした。すると西漢軍は今度は左右二手に徐々に分かれながら前進をし、後ろから第二陣の北越軍が正面突撃を開始する。さらに両端に陣取っていた東宮軍、南秦軍も二手に分かれた西漢軍に合流し突撃を開始した。しかし、また公譚軍とぶつかり合いそうになる寸前に、ドラが鳴らされ左右に分かれた西漢、東宮、南秦が若干動きを止めただけで、北越軍は引き下がる。そしてある程度下がるとまた突っ込むというこのヒットアンドウェイの動作を何回か繰り返した。


「おーお、面白いように公譚軍のやつらこちらの思惑通りに動いてくれるじゃないの。あんなに中央に集まっちゃって。そろそろいいんじゃないか、公望?」


「ええ、まさに作戦通りに事は進んでいると思います。最後のドラを鳴らしてもいいんじゃないんですか?」


 仏貴と桐生が公望に聞いた。公望は無言でコクっと頷く。それをみて、仏貴は最後のドラを鳴らす指示をした。ドラが鳴らされる。四国の軍は一挙に公譚軍に向かって突進を開始した。二つの軍の距離が縮まっていく。するとどうだろう。気がつけば公譚軍10万の兵は何時の間にか四国の軍6万に綺麗に円状に囲まれていた。まさに公譚軍は四面楚歌の状態である。円はじわりじわりと小さくなり、それに呼応して中心の公譚軍はさらに小さな塊になっていく。


「よっしゃー!このまま殲滅だー!全軍やっちまえー!!」


 その光景を見ていた仏貴は意気揚々と叫んでいたが、そこに公望は待ったをかけた。


「なんでぇい、公望?」


「もう勝負の結果は見えておる。無駄な血を流す必要はない。それ、花鈴」


 公望が花鈴に指示を出すと花鈴は「はーい」と返事をしドラの所に行き、ドラを二回鳴らした。四国の軍の動きがぴたりと止まる。 


「では、わしはちょっくら行って来る」


「お、おい。行くってどこに?」


「見てればわかるわい」


 風麒麟に乗り公望が戦場の真っ只中に入っていった。そして指揮していた公譚軍の大将を見つけ話しかける。


「そなたが、公譚軍の大将か?」


「そうだ。公譚様にこの軍を任されている僧雲だ。おまえは?」


「わしは、この仏貴軍の参謀である公望と言う。そなたに降参するよう言いに来た」


「降参だと!?」


「そうじゃ、いくら10万の兵をもつそなたらでもこうなってしまっては、唯一方的に消耗させられるだけ。勝敗は見えておる。無駄な血を流すものではない。そなたらはいずれここにいる仏貴の軍と共に新しい国を支え護る新たな刀とならねばならん。あの腐った公譚に義理立てをし、無意味に命を落すより、降参してわが軍に入り共により良い国づくりの手助けをしてやってくれぬか?仮にここでそなたらが死んでも、公譚は何も思いはせん。そなたらの事を一つの駒にしか思っておらんからな。そのような者のために大切な命を粗末にするものではない。そなた達だってもはや公譚に忠義はありはせぬじゃろ?」


「むぅ〜」


「そなた一人が公譚に忠義を持っていたとしても、他のものはどうじゃ?皆が皆そなたと同じではないぞ。守るべき家族が居て、自分のこれからの人生を幸せに生きて生きたいと願っておるはず。その願い仏貴なら叶える事ができる。もし、馬鹿な考えを貫いて全軍に死して忠義を見せろなぞというのであれば、わしが自らこの場でそなたを仕留め無理やりにでも降参させるぞ」


 すらりと飛燕を抜き、僧雲に向けた。


「くっ、わかった。確かにお前の言うとおりだ。しかし約束をしろ。必ずより良い国を造ってくれると。俺達が、家族が幸せに暮らせれる政をし、二度と公譚様の様にならないと」


「うむ。約束しよう」


「なら、降参する」


「話のわかる大将で助かったぞ。公譚軍及び四国の軍を代表して礼を言う。そなたらはこれよりわが軍に加わるが良い」


 僧雲は直ちに降参の意思を示すため全軍に武器を捨てさせると、旗を振った。それを見た仏貴は、全軍に戦の終了の合図であるドラ三回叩いた。緊張の糸が一挙に消え、公譚軍合わせた約16万の兵が豪防関にやってくる。公望も仏貴の下に戻ってきていた。


「いやいや、話のわかる大将で助かったわい」


「公望様、降参させてきたのですか?」


 桐生と斎木は感心しながら聞いてくる。


「当然じゃ。あやつらもいずれは新たな国の礎と成る大事な民の集まり。こんなところで命を粗末にしていいものではない」


「じゃあ、おまえ最初からそのつもりだったのか?」


「そうじゃ」


「はぁ〜ん。すげーな。こんだけの大戦で誰一人死なせないなんて」


 仏貴もさすがにびっくりしながら公望の行動を褒めた。


「わしは完全平和主義者じゃからな。血を見るのは嫌じゃし、争いも嫌いじゃ。そなたもこれから民を束ねる存在になるのなら、もっと先のことを考えて、自軍、敵軍関係なしに民がどうやったら幸せに暮らせれるか思考を働かせぬか。その辺がそなたには足りんぞ。行き当たりばったりでは困る」


「その辺はお任せください。私達がしっかり仏貴様を支えましょう。ねぇ、斎木殿」


「無論だ」


「うむ、頼むぞ桐生、斎木達。そなたらがついていれば安心じゃ」


「なーんだよ。俺一人じゃだめだってのか?」


「まだ甘い」


 三人は口をそろえて仏貴に言った。仏貴はへーんだと少しすねたようである。その姿を見て花鈴は笑った。さて、この状況になって困ったのは公譚の方である。自分の陣営で吉報を待っていた公譚は予想外の連絡を聞いた。


「申し上げます!」


「どうした?もう片がついたか?」


「いえ!わが軍は全軍敗北。西漢軍に取り押さえられました!」


「何!?」


 ばっと立ち上がると、陣営を走りぬけ、戦場の見える場所に立つ。すると全軍が武器を捨て豪防関に向かっていくのが見えた。


「ば、馬鹿な!?たった二万の兵にわが軍が負けだと・・・」


 しばし呆然と見つめていると、唇をかみ締め即座にたった一人、象の国に舞い戻っていった。真美城では、優雅に猫姫が戯れている。そこに憤怒した公譚がやってくる。


「どうしたのん、公譚?」


「わが軍が全滅した・・・おのれおのれおのれー!!」


「まあ?やっぱりわらわも行った方がよかったんじゃない?」


「仏貴め!来るなら来い!我が自ら手を下してくれる!!」


「ち、ちょっとぅ、こうた〜ん」


 激怒している公譚は猫姫の言葉も聞かず、自室へと戻っていく。


「むむむ。やってくれるじゃない公望ちゃん。わらわの術が効かなくなってしまったわん。しょうがない。人間界のゴージャス生活はこの辺にして、まずはやっかいな仙人共から潰しちゃわなきゃだめなようねん。でもそのま・え・に、公望ちゃんにはお痛をしておかなくちゃねんっ」


 猫姫は相も変わらず優雅に酒を飲みつつ戯れていた。一方象では、今回の戦の話が国中にあっという間に広がり、民衆は新たなる皇帝の存在に期待を膨らませ、仏貴がやってくるのを今か今かと心待ちにするようになり、希望のない生活にたったひとつ希望を見出し始めていた。

仏貴達はというと、勝利の祝賀もあげず休息を早々に取ると直ぐに行動を起こし、今まで作ってきた作物をすべてかき集め、台車にありったけ積み込み豪防関を後にした。その食料の量は、公望の特製肥料の効果もあって、あっという間に作物は育ち、象の国と自分達あわせて食べても何ヶ月ともちそうな程である。そして戦から数日後にはもう象の国の入門まで到着していた。


「良いか、仏貴?この門の先にはそなたを心待ちにしておる民衆が多々おる。こういうのは最初が肝心なんじゃ。威風堂々とした態度で入って行けよ」


「わかってるって」


「仏貴の後ろに斎木と桐生が並んで入って、残りのものは指示した通り直ぐに民に食料を与え、傷ついている者、病の者の対処に回れ。では、門を開けるぞ」


「ああ」


 公望と花鈴は大きな門を開けた。仏貴達はゆっくりと勇ましく入っていく。それを見た民衆がわらわらと近寄ってきて、新たなる皇帝の姿に見惚れた。仏貴は堂々と馬に跨り、大声を張り出しながら、民衆の中を抜けていく。


「皆の者!俺が西漢の統治者仏貴だ!!公譚を倒し新たな国を造るためにやってきた!!まず手始めに食料不足から解消する!!これから、皆に食料を配っていく!量はたくさんあるからなくなる心配はしなくていい!!焦らず、兵士達から受け取ってくれ!!病を患っている者は、遠慮なく申し出てくれ!!!」


 兵士達は直ぐに食料を民衆に配りだした。わー!っと民衆は叫ぶと、久しく見る食べ物に感激をし我先にと食いついてくる。それを、花鈴が兵士達と協力して手際よく捌いていった。本当に久しぶりに象の国に笑顔とうれし涙が溢れた。仏貴の最初の印象付けとしては、最高の状態である。


「なるほどね。兵士達に農作業をさせてたのは、これを見越しての事だった訳か」


「今頃気づくな。桐生なんぞはすぐに気づいておったようじゃぞ」


「そうなのか?」


「うすうすですけどね」


「ふーん。なんにしても、お前を参謀にしたのは正解だったかな」


「まだ気を抜く出ない。ここからが本番じゃぞ。今は敵の目の前にいる。公譚を直に倒すのはそなたの役目、それを持ってはじめて民衆に認められるのじゃぞ。わしはもう手を貸さん。というか、猫姫の問題がある故、わしはわしでそれをなんとかせねばならん」


「じゃ、とりあえず、兵士に指示は出して俺達は身でも隠すか。民衆の事は、桐生と斎木に任せよう」


「わかりました」


 そうして仏貴は、象の国の隅々までに食料を運ばせ、病を患っているものの治療も行なわせた。その間、仏貴、公望、花鈴の三人は真美城近くのとある空き家に身を隠すと、今後の話をし始める。


「ふぅ〜、とうとう象の国に入ったな」


「うむ。ここからが問題じゃ。猫姫のことはわしらでなんとかするが、そなたは大丈夫か?公譚は武芸百般に優れていると聞いておる。勝てるか?」


「武芸の腕なら俺だって負けないぜ?倒せる自信はある。なにより公譚と背負っている物が違う。それより、お前の方こそなんとかなるのかよ?前負けたじゃないか」


「それなんじゃが、花鈴」


「はい?」


「猫姫を人間界から追い出す役目、そなたに任せる」


「ぇえ!?」


「いや〜、わしはあの手のタイプは苦手でな。それにあやつの術は女性には効かん。気をつけるのは、毒だけじゃ。わしがやってはあの嫌ぁ〜な香りだけでやられてしまうわい。と言う訳でよろしく」


 ぽんっと花鈴の肩を叩いた。花鈴は焦ったが、公望の頼みであるし、もともと公望の手助けをしたくて付いて来たんだから役に立たねばと思い、了承した。


「では、明日行動を起こすぞ」


 そう言って三人は眠りについた。


 次の日・・・・・・


 朝から町の状態を見て周り、ちゃんと食料などが行き渡っているかを確認した後、三人はいよいよ真美城に乗り込んだ。玉座の間に公譚が座り、横で猫姫が立っている。


「公譚。おまえを倒しに来た!俺と決闘しろ!」


 ビシっと仏貴は指をさした。


「ほぉ、待っていたぞ。我を倒そうななど無礼千万。ひよっこが!その罪万死に値する。良かろう、相手をしてやる」


 余裕綽々で公譚が立ち上がると、ふたりは一斉に剣を抜き飛び掛っていった。猫姫はしなやかに公望の方に近寄ってくる。


「ひさしぶりねぇ〜ん、公望ちゃん。あれだけ痛い目あわせてあげたのに、懲りずにまたやってきたのねん?今回の事はちょっとわらわも頭にきたわ。この間程度で済むと思わないことよん?」


「猫姫!」


「あら〜ん?な〜にお譲ちゃん」


「あなたの相手は私よ!お師様には指一本触れさせないんだから!!」


「ふぅ〜ん。ちゃちな代わりね、公望ちゃん。こんな小娘にわらわが倒せると思って?」


「やぁ〜ってみないとわからんぞ」


「まあ、いいわん。二人まとめて痛い目にあってもらいましょ」


 猫姫は手をふわっとあげると毒の香りを風に乗せて花鈴に向けた。しかし、花鈴に効果がない。


「あらん?」


「あなたの使う術が香りと聞いてぴんっときたわ。なぜお師様が私に任せたのか。香りは空気中に含まれる水分に包まれて飛散して飛んでくる。なら、私の周りの空気を凍らせれば香りも凍って効かなくなるわ」


「ふ〜ん。あなた公望ちゃんの弟子なの?公望ちゃんの弟子にしてはできるじゃないん」


「じゃから言ったろ?やってみないとわからんと。言っておくが花鈴はわしより遥かに強いぞ」


「あらあら、おもしろいじゃない。じゃあこうしましょう。わらわに傷一つでもつけられたら、わらわもおとなしく人間界から手を引いてあげるん。でもどんなに強くても、わらわに傷をつけられるかしらん?」


「だそうだ。花鈴、実力見せ付けてやれ」


「はい!」


 花鈴は宝貝を持つと水を超高圧に圧縮してそれをさらに氷でコーティングし、猫姫に斬りかかって行った。こうして、ふたつのバトルが繰り広げられるのである。公望は、そのふたつのバトルをキセルをふかしつつ見守っていた。

 しばし観察する事、仏貴と公譚は一糸乱れぬ攻防を繰り広げ、実力は互角。しかし、若さと今の今まで実戦をしていた仏貴と贅沢三昧をして体のなまっている公譚では、勝敗は自ずと見えていた。それでも尚、仏貴と互角なのはさすが大国の主である。もし現役だったら直ぐにやられていただろう。


「ほほぉ、仏貴も言うだけあってなかなか強かったんだな。これなら、任せておいても大丈夫か。じゃがあやつ、集中力が足りないからなぁ。何時足元すくわれるやら。ま、なんとかなるじゃろ。それより猫姫のほうじゃが・・・何故あれだけの術を喰らって傷一つ点かんのじゃ?そういえば、あやつの羽織っている衣は何処かで見たような・・・?」


 花鈴が斬りかかったり、仙術で攻撃しても猫姫にはまるっきりダメージがない。猫姫は動こうともせず余裕で笑っている。花鈴はさすがに体力が尽きてきたらしく、いったん距離を置いて荒い息遣いをする。


「どうして、何も効かないの!もうっ!豪天斬撃掌!!」


 やけになってすばやく印を組み気の斬撃を掌から出したが、やはり猫姫にはそよ風程度にしか当たらない。


「あら〜ん?公望ちゃんより強いって言っても所詮こんなものなのん?猫姫がっかりぃ〜」


 猫姫は指を頬につけくねくねと身体を動かす。


「でも、確かに強いと思うわよん。実力だけだったら、大老君と同じくらいまでいってるんじゃないかしら」


「ううう、お師様」


 困った顔で花鈴は見てくるが、公望はうーんと悩む。そして、ふと頭の片隅にあった記憶が蘇った。


「あああー!!!思い出した!!確かそなたのその衣、超宝貝の一つで、完全絶対防御型の宝貝ではなかったか?」


「そうよん。超宝貝の中でも一級品のニ大宝貝の一つ、防全布よん」


「お師様、何ですそれ?」


「うむ、超宝貝にはその中でも頂点に立つ、二つの宝貝がある。そのうちの一つで完全防御でありとあらゆる攻撃を吸収し、羽織っている者を完全に守る防御型宝貝があるのじゃよ。師匠の話では大分昔に行方がわからなくなっていると聞いておったが、まさかそなたが持っておったとは・・・。こらー!卑怯じゃぞ!!」


「そんなことないわん?公望ちゃんだって、その子使ってわらわの攻撃無効化してるじゃな〜い?お互い様よん」


「お師様、どうしましょう?」


「ふっぬぅ〜」


 さすがの公望もこれは予想外だった。防全布の前では、いかに花鈴が強かろうとも文字通り傷一つつけられない。かといって、面倒くさがりで戦いの嫌いな公望としては自分からやりあいたいとは思わなかった。そんな折に、どうやら仏貴の方が決着がついたようである。


「かはっ!」


 仏貴の剣が公譚の身体を貫いた。公譚は、猫姫の方を向くと手を差し伸べる。


「ま・お・・・き」


「ざ〜んねん!やられちゃったのん?公譚ならそんなやつ返り討ちにしてくれると思ってたのに。誘惑する相手間違えちゃったのかしらん。まあ、いいわ。もうあなたには用はないわよん。さっさと死んじゃいなさい」


「そ・・・ん・な。我・はまお・き・・・のこと・・・本当に愛・・・し・て・・・た」


 仏貴は剣を抜くと公譚はどさっと倒れた。


「最後の最後まで哀れな。しかしそれが己の罪と知れ」


 仏貴は決め台詞を言うと明後日の方向を向いてポーズをとり、自分に酔いしれている。


「阿呆か・・・」


 その光景を見て安心したのと同時に、本当にこやつに国を任せて大丈夫かと一抹の不安を抱きつつ、公望はポツリと呟いた。

 それはさて置いて、猫姫をどうするかである。公望がうんうん悩んでいると、猫姫から意外な言葉が発せられた。


「もういいわん。今回はわらわが引いてあげる。公譚やられて興冷めしちゃたし、公望ちゃんには今度は仙人界で痛い目にあってもらいましょ。じゃあまたねん」


 猫姫はふわっと浮くと空に向かって飛んでいった。しばし、無言の二人。


「お師様・・・とりあえず、猫姫人間界から追い出す事には成功したんですかね。この場合・・・?」


「う、うむ。おそらく。千里眼を用いても人間界にあやつは存在せん。とりあえず、任務は成功したのかの?にしても、最後の最後までわからん奴め!後が怖いっつうのじゃ」


「仙人界で痛い目とか言ってましたよね?」


「何をする気なのやら・・・。まあ、良いわ。仙人界なら師匠その他十二仙達がおる。なんとかするじゃろ。とにかく、これで任務は果たしたぞ」


「はぁ〜、つっかれた〜」


 花鈴はため息をつくと同時に地面に座り込んだ。公望は花鈴にご苦労さんとねぎらうと仏貴の方に行く。


「これ、何時まで自分に酔っておるか」


「んん?あ、悪い悪い。そっちはもう済んだのか?」


「うむ。猫姫は追い払ったぞ。これで晴れてそなたは新たな国の皇帝じゃ」


「よっし!じゃ、早速桐生達呼んで建国支度するとするか!!」


「そうじゃな」


 三人は、哀れに死に絶えた公譚の亡骸を丁重に葬り、墓石を立てると皆を集めに外に出た。これで、ようやく象の国に平和が訪れようとしていたのである。


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