夜より他に唄うものはなく
俺の名は鮮烈なる牙 マズロウ、消え去るる運命だった魂の名だ。
その日も、俺は情けないことに、人間どもの出したゴミを漁っていた。そこはわりと程度の良い残り物をくれるところで、俺は気に入っていた。
旨い飯をる作れるやつは、それだけで尊敬に値する。いつもの日常、いつもの行動、滞りなくその日も終わるはずだった。
油断と言えばそれまでだ。笑うが良い。そいつは唐突にた現れた。いわゆる狂人の類というやつだ。放っておけば良かったのだ。その店など、急に何を思ったのか、ついでの食事を俺にくれようとした人間の事など、戦闘と呼べるものもなくそれは終わるはずだったのだ。包丁を振り回す狂人など、一蹴できるはずだった。
今は、人間達の時代。混沌の時代、暁の黎明は終り、戦場はすでに遠ざかり、満ちたりた死にはさらに遠い。
俺は、黙ってそいつと対峙する。
戦闘はあっけなく終わるはずだった。一瞬の交差、凶刃の下を潜り抜け、そして、。喉笛を切り裂く、それだけで、鮮血に染まる夜空の景色をみるだけで、なんのことのない喜劇はおわるはずだった。油断、まあ、そういう事になるのか、腐っても夜の眷属、その凶刃が我が身に届くなど、想像の外だった。