性癖ミルメコレオ
「ミルメコレオ」と言う怪物を知っているだろうか?
頭は獅子、体はアリの異形の怪物である。
肉食獣の頭は血肉を欲するが、アリの体ではソレを消化できない。
自身の食欲を満たすことなく、
飢えて死ぬことを運命づけられた哀れな生物だ。
ココにもそんな哀れなミルメコレオが1体。
しかし、彼が満たされない欲求は食欲ではない。
「性欲」の方なのである。
彼は肉食獣の嗜虐性を持っている……だが、肝の大きさはアリ並み。
つまり性的対象を責めたいと思ってはいるが、途中で何だか可哀そうになってくるのだ。
そういうプレイだと重々承知していても、その考えは変わらない。
ミルメコレオの性癖は一向に満たされないのだ。
ミルメコレオは悩んでいた。
自身の性欲を満たすことが叶わず悶々とした日々が続いていく。
相手がどんなドMであろうが関係ない。
この小さいアリの肝っ玉がブレーキをかけてしまうのだ。
彼の心身は衰弱していくというのにチンチンだけは臨戦態勢と言う矛盾。
ミルメコレオはこのまま一生を終えるのではないかと恐怖した。
そんなミルメコレオを見かね、友人が声をかけて来た。
彼の名前は「マンティコア」
人を性的な意味で好んで食べる人面ライオンだ。
人間に置き換えると重度のケモナーと言うことになるが、
性欲を解消できている分、ミルメコレオより遥かにマシである。
「半獣のよしみだ。ここに行ってみないか?」
と、マンティコアは夜の店を紹介する。
ミルメコレオ自身、風俗へ行ったことがないわけではない。
当然、SM志向の店にも行った……だが満たされなかったのだ。
何をいまさらと断ろうと思ったが、マンティコアは話を続ける。
「ここは妖怪が切り盛りしている店なんだ。もしかしたら、お前の特殊な性癖も満たすことができるかもしれない。」
妖怪……。確か東洋のモンスターの総称とミルメコレオは認識していた。
異種族との性交に少し抵抗はあったが、そもそも彼自身もライオンとアリの子。
「アリに欲情した父ライオンと比べれば幾分かマシ」と思うとミルメコレオの心は楽になった。
彼はマンティコアの提案を快く受け入れる。
件の店は木と紙で出来た不思議な建物であった。
海外に行ったことのないミルメコレオは知らないが、和風建築である。
ミルメコレオの小さき心臓は飛行機は勿論、長距離の船旅にも耐えられないのだ。
ミルメコレオが戸を開けると先客が目に入った。
1人は人の亡霊。
死んでも情欲に駆られることを気の毒に思ったが、人の趣向をとやかく言うまいと胸の内にしまい込んだ。
問題はもう1人……いや1頭の方だ。
頭部に生えた美しい角、そして純白の美しい毛並みをした俗人の場に似つかわしくない姿。
そう、ユニコーンである。
ホントに似つかわしくない。
処女厨で有名なお前がなんで風俗に来てんだよ。
とミルメコレオは石の裏にくっついたダンゴムシを見るような目で見つめた。
ミルメコレオは困惑したが、他馬のことを気にしている場合ではないと思い直し、整理券を取って待つことにした。
この店ではオーナーが客の好みに合わせて相手を選んでくれるらしい。
オーナーの名前は青行灯。
日本では顔が広く、その人脈を活かし数多の妖怪を携え異邦の地で店を構えたのだ。
「当店ではどのような方でも必ずピッタリの相手と過ごしていただきます。どうぞ、ご自身の心のままに要望をおっしゃってください。」
オーナーの言葉とは逆にミルメコレオは不安になっていた。
何せ、その言葉を向けている相手がユニコーンなのである。
風俗嬢など最も嫌う存在であろう。
「処女で。」
まるで極上のワインを注文するような声で伝えるが、完全な馬鹿である。
もし、ミルメコレオがオーナーの立場だったら、目の前の駄馬の角をへし折り、塩をぶつけているところだ。
「わかりました。二口女さん、お願いします。」
通ってしまった。
二口女、処女のくせに後ろの穴を使いまくっているガバガバ女である。
ユニコーン的に処女であるからセーフらしい。
なんだか騙された気分になったミルメコレオだが、ふと次なる疑問が浮かび上がる。
この隣に座っている男の亡霊も何か特殊な性癖があるのではないか?と。
ミルメコレオは恐る恐る男に尋ねてみた。
「私は……おっぱいが怖いんです。大小に関係なく」
重症であった。
カメハメ波の効かない天津飯みたいなことを言っているが、内容は月とすっぽんである。
霊は不浄のモノを嫌うと言うのは知っていたが、わざわざ自分から不浄の塊のような店に来ることもなかろう。
……とミルメコレオが諭すと泣き出してしまった。ますます度し難い。
だが、そんな男にもオーナーの青行灯は優しく対応した。
「大丈夫ですよ。のっぺらぼうさん、お願いします。」
のっぺらぼう。乳首と性器がない90年代のちょいエロ漫画みたいな妖怪である。
思春期の頃、興味半分で見た実際の乳首が思った以上にグロくトラウマになってしまった亡霊にとって、彼女の存在はクリティカルであった。
そしてミルメコレオの番となる。
彼は青行灯に向かって自身の性癖を赤裸々に語った。
「今日こそ自身の欲望を満たせるかもしれない」とミルメコレオは思いの丈をオーナーにぶつける。
だがオーナーは即答せず、しばらくの間考え込んでしまった。
「……わかりました。ならばコチラへどうぞ。」
青行灯は嬢を呼ばず、ミルメコレオを奥へと案内する。
手前の客の対応と異なっていることが不安だったが、指定された部屋には女性が待機していた。
「どうぞ、ごゆっくり。」
青行灯が一礼の後、退室し女性と2人きりとなる。
女性の見た目はタダの人間と全く同じだった。
恐らくは何らかの妖怪ではあるのだろう。
「今日はお兄さんの望むがままにしていいよ。」
彼女はミルメコレオに囁く。
「その太い牙を肌に突き立てたいと思ってたでしょ?」
「その大きい口で肉を裂きたいと思ってたでしょ?」
「その長い舌で血をすすりたいと思ってたでしょ?」
そうだ。彼女は人間ではない。何も遠慮することなどないのだ。
ミルメコレオの上半身が女性の首筋に飛び掛かる。
女性の首から赤い血が滴り落ちる。
血液が喉を通るたびに、アリの心臓は激しく鼓動する。
「本当に大丈夫なのか?」
アリの体は疑問を感じるが、ライオンの頭はその疑念を打ち消してしまう。
女性の首からバキバキと音がしても。
女性の肌が青白く変色しても。
女性の腕が抱く力を失っても。
ミルメコレオは止まることはなかった。
ミルメコレオが正気に戻ったのは、女性の頭部と胴体が離れたときである。
折れたマッチ棒のような女性を姿はミルメコレオの鼓動を速めていった。
脈打つ度にミルメコレオの視界が歪む。
グルグルと回る世界を見ながら、ミルメコレオのアリの心臓は耐え切れず、その動きを止めてしまった。
「当店ではどのような方でも必ずピッタリの相手と過ごしていただきます。どうぞ、ご自身の心のままに要望をおっしゃってください。」
ミルメコレオは整理券を手にし、順番待ちをしていた。
先ほどの体験は白昼夢だったのか。
あの血肉と骨の感触がまぼろ「ーーー地縛霊と言うのをご存じですか?」
オーナーがミルメコレオに語り掛ける。
「当店では客に殺されてしまった女性がいましてね。それはそれは惨い死に方でした。」
「彼女の肉体は部屋中に散らかり、流れ落ちた血は池の様に溜まっていました。」
「ーーーでも本当に悲惨なのはここからなのです。」
「彼女は何度も同じように死ぬのです。肉体を失っても部屋から離れられず、何度も何度も。」
「一向に終わることがなく永遠に続けられるのです。」
「同じ地縛霊のあなたならわかりますよね?」
ミルメコレオは漸く死んだことに気が付いた。
永遠にあの部屋で彼女を殺すことで、ミルメコレオは満たされたのだ。




