さよなら病室、おはよう異世界
同じ歳の子がみんな仲良く学校で生活し、公園やどこか遠くに出掛けて遊んでいる中、俺は病院のベッドで本を読み、飽きたら寝る。
そんなことを繰り返す毎日だ。
読んだ本の数すら忘れるほどに繰り返し、繰り返す毎日。
そんな生活に俺は…少し、いや…かなり、疲れてしまったようだ。
だが決してこの本を読む、というのが嫌いだったわけではない。
なぜなら本は健常者だろうが、生まれつき病気をもっていようが皆に平等に夢を見せてくれるからだ。
俺はそんな本という名のビッグスターが、好きなまである。
俺は誕生日だろうがクリスマスだろうが毎日同じ部屋で毎日同じ壁、天井、床を見て生活している。
俺の唯一の変化は窓から見える世界のみ、桜が咲き、散り、また咲く、そんな変化も去年も一昨年も今年も同じだと、ため息が出てしまう。
毎日きっちり三食出てくる病院食は味が薄く、同じようなものしか出てこない。
そんな俺にもいつかは同じ病室の隣人と同じように医者に「退院ですよ。」と一言伝えられる日がくると思っていた。思っていたんだ。しかし現実はそうはいかない。
俺に伝えられたのは、あなたは12歳ほどまでしか生きられないでしょうという余命宣告だった。
その夜は気づけば枕が濡れており、涙もすでに枯れ果てていた。
しかし俺は諦めきれなかった、この俺の…俺だけの人生を、そう易々と手放してたまるかと。
そう強く思っていたおかげか俺は今19歳になり、こうして本を読む生活をしている。
しかし、現実は非情だ、奇跡なんか起こりはしない、神なんてものはいない。
目眩がする…食事が喉を通らない……。
自分の魂の灯火が消えかけている最中俺は強く思った、もし来世というものがあるのなら自分の人生をとても価値のあるものにしたい…と。
そうして俺の人生は一度目の生涯を終える。
俺は終わったと思っていた、終わったんだと。
眩い光に俺の目は自然と開いていた。
俺はすぐさま立ち上がり、素早く周りを見渡し、その場から動けずにいた。
そんなとき突如として俺の背中に緊張が走るような感覚と1人の声が響いた。
「...が欲しいか。…チャンスが欲しいか。」
俺はその声の主の方向に体を向ける。
俺は初めて自分の心臓がこんなにも一生懸命に動けることを知った。
俺の目の前にいたのは。
「巨人…?」
それはまるで光の巨人とでも言ったらいいのか、俺は反射的に身構えた。
「私は巨人では、ないな。安心したまえ、君に危害を加えるつもりはないんだ。むしろ君にとってはいい話を用意しているよ。」
「いい…話…?」
いい話を用意してるとはいえ警戒するなと言うのは無理な話だ。
まるで猫に睨まれたネズミのような感覚に俺はなっていた。
「君は生前、何を強く望んでいた?」
「何って……自分の人生への、価値だ。」
「それなら君に問おう、争い、化け物、魔法が存在し、力無きものは奪われ、弱き者に選択肢は無い、そんな世界でも君は生き抜きたいと思うか。」
そんなことは考えるまでもなく決まっている。
「あぁ、俺はどんな世界だろうと、もう一度人生を謳歌出来るならばな。」
「素晴らしい…。それでこそ、この私が見込んだ人間だ。ならば一つ君へのプレゼントだ、お前は魂への最も良い理解者となるがいい。」
「魂への、理解者?」
「その力がどういうものなのかは自分自身で見つけるといい。」
「ちょっと待ってくれ、この力はどういう……。」
俺が知りたいことを教えないままその巨人は、俺の目の前から消えていった。
俺は葉から差す木漏れ日、頬を伝う森の空気、高級ホテルの枕のような柔らかな感覚と共に、目を覚ました。
俺はすぐさま立ち上がり、腹いっぱいになるまで自然の空気を吸いこんだ。
そして、自分の右足を1歩前へ、左足も1歩前へやった、すると空気とは違う、絶妙な感覚が俺の頬を伝った。
それはかつて枯れ果てたはずのものだった。
俺は涙を拭うことも忘れて、森の中を駆け出していた。
胸が苦しくない、足が震えない、それだけで…それだけの事を今までいくら望んだか。
興奮のままに周りを見渡していると、そこには俺をさらに興奮させる生物がいた。
半透明の体をゆらゆらと横に揺らしながら。
それは、今まで何回も本の中で見てきた生物だったからだ。
「これが…俺の二度目の人生か。」
目の前に突如として現れたスライムが俺の異世界での初めての思い出となった。
見てくれて感謝感激。良かったら感想でも書いて言ってください。d('∀'*)




