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理の部屋1

 ギルドの会議室は、大きな机がひとつ、中央に置かれているだけだった。


 削れた縁。

 黒ずんだ天板。

 長年、肘をつき、拳を落とし、図面を広げてきた跡が残っている。


 ここで決まったことは、そのまま街の仕事になる。


 机の向こうに工房を持つ職人たち。

 腕は太く、体格も大きい。黙って座っているだけで圧がある。


 その対面にクララと、商会の人たち。


 私は一歩後ろに立っている。


 クララが口を開く。


「先日、ギルドの窓口で自転車の作製についてご相談しました」


 職人の一人が短く言う。


「反対だ」


 前回と同じ答え。


 クララは表情を変えずに頷く。


「作製に枠を割くことはできない、と伺っています。本日は決定を覆していただきたいのではありません」


 一拍。


「なぜ反対なのか、改めてお聞きしたくて参りました」


 沈黙が落ちる。


 やがて、中央に座る職人が口を開いた。


「儲かるのか」


 単純な問い。


「一台いくらで出している」


 価格を告げる。


「材料を引いて、手間を引いて、いくら残る」


 クララが静かに答える。


 その数字を聞いて、職人たちがわずかにざわめいた。


「……高いな」


「すごい利益率だ」


 クララが続ける。


「はい。利益率は非常に高いです。現在は需要もあり——」


 中央の職人が遮る。


「だが、その利益は、お前たちが少数で回しているから出ている数字だ」


 視線が鋭くなる。


「うちの職人の手間で、同じだけ残るか?」


 クララが言葉を選ぶ、その間に別の職人が重ねる。


「今は売れているらしいな」


「はい。街で走る台数も増えて——」


「珍しいからだ」


 きっぱり。

 ——違う、と言い切れない。


「三ヶ月後も同じ数が出るか」


 机を指で叩く。


「街に一巡したら、止まる可能性もある」


 さらに続く。


「数を出せば、値は下がる」


「今は高くても買う物好きがいるだけだ」


 誰も怒鳴らない。


 だが、譲らない。


「うちは枠を持っている」


 中央の職人が言う。


「その枠は、確実に残る仕事で埋める」


 他の職人も頷く。


「読めない品に、時間は割けん」


 それが前回、止まった理由。


 単純で、動かない。


 そのとき。


「あれを考えたのは誰だ」


 どこかの職人が聞いた。


 クララより先に、私は言った。


「私です」


 一瞬、沈黙が落ちる。


「……この娘が?」


 値踏みする視線。


「どこで学んだ」


「父がやっているのを見て、学びました。父は木工と金属加工の両方を扱っています」


 小さくざわめく。


 両方を扱える職人は多くない。


 誰かが父の名を口にする。


「親父は腕がある」


 それは否定しない。


 だが、すぐに続く。


「だが、継ぐのは息子だろう」


 小さな笑い。


 悪意というより、常識という空気。


 何度も聞いた言葉だ。

 驚きはしない。ただ、少しだけ、息が浅くなる。


「工房は遊び場じゃない。商売だ」


 父は認められている。


 だが、私は違う。


 中央の職人が言う。


「自転車は見た。……正直、腕はあるのかもしれん」


 すぐに、続ける。


「だがな」


 声が低く落ちる。


「腕と商売は別だ。珍しさが消えたあとも売れるか。利益が残るか。続くか。……そこが読めん」


 それは、正しい。

 だからこそ、苦しい。


 理念でも、面子でもない。


 金と時間。


 それだけの話。


 クララが静かに問う。


「続くと証明できれば、枠をいただけますか」


 中央の職人は即答した。


「そのときは考える」


 その瞬間。


 廊下から荒い足音が響いた。


 親方の一人が低く言う。


「……余計なところに話が回ったな」


 扉が乱暴に開いた。

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