魔術院2(エルンスト)
書記官が口を開く。
「……爆発は、未熟な術者の暴発ではないのか」
「違います」
即答。
「構造です。技量ではない」
狐爺の指が机を叩く。
「院の術式も例外ではない、と?」
「流れを測らず重ねれば、同じ現象が起きます」
真正面から受け止める。
書記官が前に出る。
「それは院のやり方が間違っていると言うのか!」
「誤りとは言いません」
私は淡々と返す。
「観測していないだけです」
空気がぴんと張り詰める。
「観測すれば防げます。
観測せず、流れを無視して呪文を付与するから事故になる」
狐爺が問う。
「再現性は?」
「とれています。数値も残しています。誰がやっても同じ結果になります」
狐爺が視線を細める。
「中央の長は、どこまで把握しておる」
「実験記録は提出済みです」
狐爺が小さく息を吐く。
その吐息には、計算の音が混じっている。
静寂が広がる。
やがて狐爺が言う。
「研究を止めるつもりはない」
書記官が息を呑む。
「だが、院を外して進めることは認めぬ」
視線が鋭くなる。
「共同研究とせよ。院の立ち会いのもとで進める」
——院の威信を守るために。
「事故が減るなら、形は問いません」
私は頷く。
「それと、もう一点」
最後の紙を置く。
「研究開始後、当工房の魔石搬入許可が三度保留となりました。理由は記載されていない」
書記官の指が、紙の上で止まる。
「また、研究室宛の、爆発事故を起こした荷の搬入経路に、院経由の検閲印が残っています」
狐爺の視線が、ゆっくりと横へ動く。
「説明せよ」
低い声。
書記官の喉がわずかに動く。視線が泳ぐ。
「院の威信を守るため、拙速な流布を防ぐ意図で——」
「爆発は、威信を守らぬ」
冷たい声。
私は何も言わない。
事実だけを置く。
やがて。
「干渉は止める」
狐爺が言う。
「内部の暴走は、院で処理する」
私は頷いた。
そして、静かに告げる。
これは警告ではない。
「これ以上、研究を妨げるのであれば——無知ではすまない」
部屋の温度が一段下がる。
脅しではない。
事実だ。
狐爺がわずかに笑う。
「老いぼれを試すな」
目は笑っていない。
「余計な波は立てぬ」
私は一礼した。
扉が閉まる。
廊下に出る。
扉が遠ざかる。
汗が、背中に遅れて滲んだ。
静寂の奥で、静かに息を吐く。
——もう、盤はひっくり返った。




