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帰り道

建物を出ると、外はもう夕方だった。


昼と夜の境目みたいな光が、石畳を斜めに照らしている。


ルーカスは、無言で隣を歩いている。

肩が触れそうで触れない距離。


手を伸ばせば届くのに、

その半歩が、思ったより遠い。


こんな距離で歩くのは、久々だった。


しばらく、靴音だけが続く。


私は、どう声をかけようか迷っていた。

その時。


石畳の段差で、足を取られかけた。

とっさに、腕を掴まれる。


「ちゃんと前見ろ」


低い声が、近い。

手はすぐ離れたのに、そこだけ熱が残る。


「あ、ありがと」


ルーカスはまた前を見て歩き出す。


「ルーカス」


私が名前を呼ぶと、少し遅れて振り向いた。


「なに?」


「最近、何してたの?…見かけなかったから」


それだけ言うのに、少し間が空いた。


ルーカスは、前を見たまま答える。


「エルンストに、ついてた」


「……さっきの?」


「うん」


私は、歩きながら横目で彼を見る。


「何してるの?」


少しだけ、間。


「魔法」


短い答え。


「教えてもらってる、ってこと?」


ルーカスは、ほんの一瞬、下に視線を逸らした。


「教える、とは言われてない」


言葉を選ぶように、続ける。


「見て、手伝って、やらせてもらってるだけ」


それで十分だ、というふうに。


「……そうなんだ。すごいね」


思ったより、素直に出た言葉だった。


「すごくない」


即答。


「足りないから、やってるだけだ」


少しだけきつい言い方。

その言葉で、ルーカスは、私より先に遠くを見ている気がした。


「足りない、って……」


私が言いかけると、ルーカスは小さく息を吐いた。


「荷物の爆発、抑えきれなかったから」


私は、それ以上、何も言えなかった。


「フィーネは」


不意に、ルーカスが聞いてきた。


「最近、何してたの」


「……自転車のブレーキ、作ってた」


「へえ」


ルーカスが少し驚いたような表情になる。


「できた?」


「……止まる形は、できた」


それ以上、言葉が続かない。


「ねえ」


私が、少し小さく言う。


「ルーカスは……今、楽しい?」


答えが返ってくるまで、少し時間があった。


「楽しい、っていうか」


考えてから、言う。


「……必死だな」


それを聞いて、少し安心した。

遠くに行ってしまったわけじゃなかった。


その言葉の奥にあるものまでは、まだ分からないけれど。


歩き続ける。


家が、近づいてくる。


「また、会えるよね」


確認みたいに言うと、


「当たり前だろ」


ルーカスは、少しだけ不思議そうに言った。


それから、ほんの一瞬だけ、こちらを見る。


「今度、ブレーキ、見せてくれ」


「うん」


短く答える。


それだけで、

胸の奥にあった穴が、少しだけ埋まった気がした。


それぞれが、

それぞれの場所で、

まだ走っている。


ルーカスは、何でもできるように見えて、

努力してる。

私も、今できることを、精一杯やろう。


夕暮れの中を、

二人で歩いていた。

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