確認事項
建物の中は、外よりも静かだった。
分厚い扉が閉まると、空気が切り替わる。
外の風の匂いが消え、代わりに、張り詰めた静けさが残る。
簡易の応接室。
机と椅子がいくつか並び、窓は小さい。
「座ってくれ」
エルンストが短く言う。
私は椅子に腰を下ろした。
少し遅れて、アルドが向かいのソファにどさりと座る。
ルーカスは端の椅子に座った。
「それで」
エルンストが、低く切り出す。
「話とは、何だ」
私は、頷いてから口を開いた。
先ほど、ギルドでアルドに説明した内容を、そのまま繰り返す。
商会主のクララが、実験場所を貸してもいいと言ってくれたこと。
「……その商会主は、信頼できるのか」
エルンストの声は淡々としている。
「見返りに、何を求められている」
先ほど、アルドには言えなかったが、自転車の件を伝えておくことにした。
「……一応」
言葉を選ぶ。
「私が作った自転車を、売らせてね、とは言われています。それ以外は、まだ、何も」
エルンストの眉が、あがる。
「君が作った、自転車?」
小さく、繰り返す。
研究の話の流れに、場違いな単語が落ちたみたいだった。
「はい。二輪の乗り物で、人が乗って動かすものなんですけど」
短い沈黙。
「……わかった」
エルンストは、顎に手を当てた。
「実験場所を借りる以上、一度は現地を見て確認する必要がある。私が、直接確認しに行こう」
胸が、少しだけ軽くなる。
「君が作った自転車も、後で見せてくれ。その条件が妥当かどうか、確認する。
君の成果が、軽く扱われることは避けたい」
その言葉に、胸の奥が静かに震えた。
私は、深く頷いた。
「商会主の方には、私から連絡しておきます」
「頼む」
エルンストは、一息ついてから、続けた。
「……もし、その場所が使えそうなら、ちょうどいい」
「中央から、ギルドに研究場所の提供を正式に申請しているが、まだ通っていない」
アルドが、視線だけを向ける。
「やはり、外部から圧力がかかっている」
エルンストの声が、わずかに低くなる。
「研究室の荷物の爆発の件も、中央を一度通ったように見せかけているが……」
「実際には、まだ、どこから来たものかわかっていない」
「もうしばらく、時間が必要だ」
ギルドに、圧力。
私の知らない場所で、話が動いている。
私は何もできない。
だけど、研究している以上、当事者だ。
状況は把握しておきたい。
私は黙って聞いていた。
「ルーカス」
不意に、ルーカスが名を呼ばれる。
「はい」
「ギルドにかかっている圧力について、調べられるか」
一瞬の迷いもなく。
「調べます」
ルーカスは答えていた。
エルンストは、小さく頷く。
「無理はするな。だが、頼む」
「はい」
アルドが、面白そうに笑った。
「へえ。ずいぶん素直に使われるんだね」
試すような声音だった。
ルーカスは、何も返さない。
エルンストは、話を切り上げるように言った。
「今日は、ここまでだ」
椅子が引かれ、会議は終わった。




