開ける前
エルンストが戻ってきた次の日。
いつものように研究室に向かうと、研究室の扉の横に、見慣れない木箱が積まれていた。
「……?」
一つ、二つ。
全部で、六つ。
札を確認する。
研究室宛。
魔石。
検証用。
字は整っている。
書式も、間違っていない。
手続き上は、ちゃんとした荷だ。
「……こんなの、頼んだっけ」
首を傾げながら、箱の一つに手を置く。
重さは、普通。
魔石としては、軽くも重くもない。
封印も、丁寧だ。
雑なところが、ひとつもない。
「……まあ、でも」
中央監査庁で研究が正式に通った。
その関係で、どこかから回ってきたのかもしれない。
そう思えば、説明はつく。
私は、作業台の上に箱を載せ、
留め金に指をかけた。
「中、確認してから——」
言いかけた、その時。
「待て」
低い声。
反射的に、指が止まった。
振り返ると、
研究室の入口に、エルンストが立っていた。
外套を脱ぎかけたまま、
視線は、一直線に、箱を見ている。
「……エルンストさん?」
「それ、どこから来た」
「えっと……研究室宛です。魔石って書いてあって」
「誰からだ」
「それは……」
もう一度、札を見る。
差出人の欄は、部署名だけ。個人名はない。
不自然なほど、簡素だった。
「……この部署、聞いたことないです」
札を見ながら言う。
「研究部、第四区画……?」
首を傾げる。
エルンストが、間を置かずに答える。
「中央監査庁で、よく使われる呼び方だ」
フィーネが、少し驚いて顔を上げる。
「そうなんですか?」
「正式名称は、まず書かない。内部で回す時の、略式だ」
エルンストは、箱に近づかず、
距離を取ったまま言った。
「手を離せ」
私は、言われた通り、そっと一歩下がる。
「……何か、おかしいですか」
彼は、しばらく箱を見つめてから答えた。
「手続きが丁寧な割に、差出人の匿名性が高い。これは普通ではない」
意味が、すぐには分からなかった。
エルンストは、短く息を吐く。
「私が、開ける」
「え?」
「君は、下がっていろ」
そう言って、彼は、静かに魔力を張った。
薄い膜が、箱と私たちの間に広がる。
その様子を見て、
ようやく、背中に冷たいものが走った。
——もし。
もし、私が、一人で、何も考えずに、これを開けていたら。
「……エルンストさん」
声が、少し震えた。
彼は、こちらを見ずに言った。
「防護膜を張っている。何かあっても、そちらには届かない。君はそこにいてくれ」
留め金に、彼の指がかかる。
その瞬間、
箱の内側で、
何かが——
息をひそめて、待っている気がした。




