箱の中身(ルーカス)
仕分け部屋は、今日も騒がしかった。
「重いって!」
「番号違う、そっちじゃない!」
「午後便、もう一つ来てるぞー」
声と足音と、木箱の擦れる音。
埃と紙と、魔石特有の乾いた匂い。
俺は棚の前で、札を確認していた。
「……あれ?」
棚の端。
他と違って、ぽつんと残っている箱が一つ。
中型。
封印あり。
差出人の札は、簡素。
「これ、何?」
近くにいた同僚に声をかける。
「あー? ああ、それか」
彼は一瞬だけ考えてから言った。
「魔石の研究室行き。今日、どっかから届いたやつ。さっきまとめて持って行ったと思ったんだけど」
「……一つ持って行き忘れてる?」
「っぽいな。数あったし」
同僚は気にした様子もなく、別の箱を持ち上げた。
「後で届けといてくれ」
軽い。
いつも通りだ。
俺は、箱に視線を戻した。
封印は、丁寧だ。
普段はギルドから魔石を提供しているため、外部から届くことはない。
嫌な予感、ってほどじゃない。
でも、引っかかる。
研究室行き。
魔石。
「……確認だけ、するか」
自分に言い聞かせる。
仕分けの規則的には、微妙なラインだ。
でも、検品は俺の仕事だ。
周囲は、相変わらず、がやがやしている。
俺は箱を作業台に乗せ、留め金に指をかけた。
——その瞬間。
ぞわ、とした。
理由は分からない。
でも、確実に嫌な感覚だった。
留め金が外れる。
次の瞬間。
——膨張。
「——ッ!」
魔力が、爆ぜた。
考える前に、魔法を叩き込む。
防護。
圧縮。
遮断。
全部、同時だ。
——間に合え。
衝撃。
熱。
圧。
空気が、殴ってくる。
「ぐ……!」
身体が後ろに持っていかれそうになるのを、魔法で無理やり抑える。
——ドンッ!!
音が、遅れて響いた。
視界が戻った時、
箱は、消えていた。
作業台は焦げ、
床に亀裂が走り、
壁が、歪んでいる。
……一般人なら、即死だ。
それが誰を指すのか、
考えなくても分かる。
俺は、膝をついた。
腕が、熱い。
皮膚が裂けている感覚。
血が、床に落ちる。
「ルーカス!?」
「今の、何だ!?」
「爆発だ!」
声が飛ぶ。
誰かが駆け寄ってくる。
だけど、頭に浮かんだのは、一人だけだった。
——フィーネ。
研究室。
もう、届いている箱。
同じ札。
同じ、差出人。
「……ちくしょう……」
声にならないほど、小さく漏れた。
俺が今、開けたのは——
“残り一つ”だった。
もし。
もし、これが、
研究室で、誰かの手で開いていたら。
「……間に、合え……」
誰に祈ったのか、自分でも分からない。
床に残る、焦げた魔力の痕跡が、
まだ、うっすらと揺れていた。
——これは、事故じゃない。
研究室行きの札。
偶然、とは思えなかった。




