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初めての乗り物

 翌朝、薄曇りの空の下、私は庭にそれを出した。


 二つの車輪。

 細い木の骨組み。

 塗装もされていない、仮の姿。


 昨晩、夜遅くまでルーカスに手伝ってもらいながら組み立てたもの。

 私が初めて作った、”走るもの”だ。


 昨日、形になったとき。

 ルーカスが「ほんとに走りそうだな」と笑った。

 その声を思い出す。

 今日は、きっと風になれると思っていた。


 どきどきしながら試しに乗ってみると——


「う、うまく進まない…!」


 まず、ペダルが異様に重い。

 太ももに、ぐっと力をかける。

 踏み込んだはずなのに、前に進む感覚が薄い。


 なんとか漕ぐと、前輪もようやく回転した。

 同時に、体が前に引っ張られ、ハンドルが左右にふらつく。


 そのとき、地面の小石を、前輪が拾って揺れる。

 手のひらに伝わる震えが、肘まで上がってくる。


 ——怖い。

 転ぶかもしれない、という予感が、体の中で湧き上がる。


「これじゃ、普通に走った方が速いし楽だ」


 一度足をついて止まる。

 乗る前の胸の高鳴りが嘘のように、

 気持ちがどんどん沈んでいく。


 これはダメだ。

 頭を振ってから、深呼吸した。

 落ち込んだって仕方がない。

 最初は失敗して当たり前だ。


 私は自転車を見つめた。

 軸のずれとかの問題じゃない。

 そもそもの構造が良くないのかもしれない。

 

「おっ、もう乗ってんの?」

 

 ルーカスが家の門をくぐってやってきた。


「もう来たの?…朝早くない?」


「そりゃ、昨日組み立てた乗り物が気になるからな。フィーネなら朝には乗って確認すると思ってたし。…うまく行ってる?」


 少し申し訳ない気持ちを持ちながら、私は首を振った。


「全然うまく行ってない。すごく不安定なの」


「うーん、なんで?」


 実際にもう一度乗って見せる。


 さっきのことを思い出して、しっかりと初めから足に力を入れて。

 ハンドルもぐらつかないように握りしめて。


 それが良くなかった。

 ふらついた時に足も腕もガチガチで、上手くバランスが取れなかった。


 視界が傾く。

 空と地面が、入れ替わりそうになる。


 終わった、と思った瞬間、

 腕を強く引かれた。


 地面にぶつかるはずだった衝撃が、

 代わりに、誰かの手の温度に変わる。


 間一髪でルーカスが支えてくれていた。


「大丈夫?」


 心臓が早鐘をうつ。

 彼の腕の中で、私はなんとか頷いた。


 ルーカスは自転車を引き上げ、私をそっと立たせてくれる。


 彼を見上げて、お礼を言う。


 ルーカスは最近、背が伸びた。

 学校に通ってる頃は、私より少し高いくらいの目線だったのに、もう私より頭一つ分は高い。


 落ち着くと、ルーカスの腕が案外逞しかったことを思い出して、私は別の意味でも少し胸が鳴った。


「これは不安定だな」


 ルーカスが腕を組んで自転車を見る。

 それから、少し考え込んだ。


「後輪部分、もう一つ車輪を増やしたら?」


 それは考えた。だけど、


「重くなって、速さが出なくなると嫌なんだ…」


「うーん、そんなに変わるかな」


 ルーカスは首を捻る。

 私は感じたことを口にした。


「設計した作り自体が良くない気がする」


「作りねえ、俺はわかんないな。…もう一回組み直せば、多少は良くなると思うけどな。」


 ルーカスはそう言った。

 今度は私が、首を捻る。


 組み方の問題じゃない。

 乗り物の形そのものが、どこか、違う。


「もうちょっと考えてみる」


 良い案はすぐには浮かんでこない。


 頭の中で、乗り物の動きが何度も繰り返される。


 まだ、何か足りない。

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