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届かない場所

工房の扉を開けると、中に入る前から、声がとんできた。


「……遅い」


やっぱり、と思う。


工房の中央。

腕を組み、仁王立ちでルーカスが待っていた。


「ただいま」


彼の視線が私を上から下まで往復する。

きっと、私の顔色や身体に怪我がないかを確認している。


「……何があった。きちんと説明して」


何かを抑えているような低い声だった。


私は、外套を外しながら答えた。


「市場で、事故があったの。子どもが暖房魔具の魔石を触って…爆発しかけた。それをエルンストが止めた」


その名前を出した瞬間、ルーカスの眉がわずかに動いた。


「それで、どこに連れていかれて、何を話したの」


「ギルドに。魔石の流れの話になって、研究することになった」


「研究?」


私は、エルンストの話を思い出しながら簡単に説明した。

沈石粉を使って、流れを可視化すること。

記録を取って、再現性を探すこと。

中央監査庁として、この研究を正式に扱いたいこと。


話しながら、ルーカスの表情が、変わって行く。

驚き、理解。——そして、苛立ちのような。焦りのような。


ルーカスは、舌打ちをこらえるように、息を吐いた。


「どう考えても危険だ。実験中の魔石の事故だけじゃない。

もしかしたら、魔法使いで、そういう研究を嫌う人間が出てくるかもしれない」


「エルンストさんも、そう言ってた」


「……あの人が言うなら、確実にだ。

もし、そういう連中が妨害してきたら?フィーネは魔法が使えない。危険に対処できない」


それは、事実だ。


「でも、もう、私は魔石の事故を見て見ぬ振りしたくない。暴れを減らせるかもしれないなら、やりたい。

もしルーカスが言うようなことになったら、その時考える」


ルーカスは、しばらく黙っていた。

炉の火が、ぱち、と音を立てる。


ルーカスが、大きく息を吸い込んで、深くため息を吐いた。


「フィーネは、一度決めたら曲げないからな。止めても無駄なんだろうけど」


「…うん」


「1人で抱え込むなよ。何かあったら頼れ。俺でも……あの人でも」


言葉を選び直すその一瞬に、何か彼の感情が見えた気がした。

だけど、何かわからなかった。


「わかった。ありがとう。…そういえば、魔具とかを持ってるのはギルドだから、ギルドとも協力したいって言ってた」


そう言うと、ルーカスは視線を逸らして少し考える。


「……それ、うちのとこと、関係あるかもな」


独り言のように言う。


「え?」


「なんでもない。俺は帰る。もう遅いから、ちゃんとご飯食べて寝ろよ。」


「うん。待っててくれてありがと。またね」


ルーカスを見送って、工房の扉を閉める。


外の音が遮られる。

静かだ。炉の火だけが、ぱち、と音をたてている。

私は、包帯の手を見下ろした。


——もう、戻れない。


でも。


——もう、目を背けなくていい。


怖い。それでも、進みたい。


それは、少しだけ、救いだった。

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