要観察対象(エルンスト)
報告書を書きながら、昼間の魔具店で出会った少女を思い出していた。
あの少女。
フィーネ、といったか。
以前、沈石粉を使って、魔石の中の魔力の流れを可視化してみせた少女だ。
しかも——
暴走した魔具の魔石に沈石粉をかけ、流れを読み、詰まりを見つけたという。
そして、一瞬の判断で穴を開け、沈石粉の塊を詰め込んだ。こんな方法で魔具を鎮めたのは、初めて見た。
時間的な余裕は、ほとんどなかったはずだ。
そんな状況で、冷静、かつ、誰もやったことがない的確な判断を、年端もいかない少女がやってのけた。
人助けという名目で、自分がどうなるかも顧みずに。
偶然だけでできることではない。
おそらく彼女は、普段から物事の本質を見抜く目を持っている。
——非常に、危なっかしい。
しかも、彼女は魔法使いではない。
ただの一般人だ。
一般人は、魔石に関わるべきではない。
過去に、止める術を持たないまま魔石に触れ、悲惨な事故を起こした例はいくつもある。
記憶を辿る。
瓦礫。
焦土。
崩れ落ちた家。
制御されなかった力は、必ず形を壊す。
だからこそ、中央監査庁は存在する。
——力は、人を殺す。
さらに過去の記憶を掘り返そうとした頭を、軽く振って切り替える。
それにしても。
魔石の魔力の流れを可視化する。
そんなことが本当に可能だとは思わなかった。
もし事実なら、魔法使いの常識を覆す。
自分も、このことを未だに扱いあぐねている。
中央には報告を出したが、どう扱われることやら。
ただ、世紀の発見を成し得た可能性があるにもかかわらず、
彼女は誇ることも、威張ることもなかった。
事故を減らしたいと、そう、言っていた。
魔石に関わるな、と強く言っておいたが…どうだろうか。
彼女の性格はわからない。
ただ、——目が。
静かな、しかし強い光が、忠告の後も消えていなかった。
威圧したときに、俯くことなく、見返していた。
再び首を突っ込む可能性は高い。
実際、日中、魔具店で彼女は一つの魔具を一心不乱に見つめていた。
沈石粉は使っていない。
線は、見えないはずだ。
店主に聞くと、不具合のある魔具だという。
しかも、それを誰にも話していない、と。
ではなぜ、彼女はあの魔具を見ていたのか。
また、彼女にしか見えない何かを、見ていたのか。
——放っておくと危ない。
彼女は、危険人物になり得る。




