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抑えられた火

 ギルドを出て、ルーカスとともに街の通りを歩いていたときだった。


 ——ぼんっ!


 何かが爆発した音がした。


 次の瞬間。


 熱風が髪を揺らしていった。


「——魔石が爆発した!」


 誰かが叫ぶ。


 馬のいななきが、悲鳴のように響いた。


 通りの先にいる馬車からだ。


 荷台から、黒い煙が上がっている。

 地面には、魔具の破片のようなものが散らばっている。


 そして。


 馬が、暴れていた。


「爆発……?」


「あの、輸送中の馬車だ!」


 近くにいた人たちは口々に叫びながら、散っていく。

 店の中へ、壁際へ。


 馬は、手綱を引きちぎり、

 前へ、前へと突っ走ろうとする。


 御者が、振り落とされた。


「——っ!」


 石畳に叩きつけられ、

 動かなくなる。


 私は息をのんだ。


 制御がなくなった馬は、こちらに走ってこようとする。


 ルーカスが私を庇うように前に出た。


「下がれ!」


 ルーカスの声。


 短い呪文。

 風が、走った。


 見えない力が、

 馬の脚を絡め取るように縛る。


 馬は、横へ倒れ込み、

 蹄が、空を蹴る。


 通りに、静寂が落ちた。



「生きてるぞ!」

「頭を打ってる!動かすな!」


 誰かが御者のそばで叫ぶ。


 遅れて、ギルドの腕章をつけた男たちが駆けてくる。


 壊れた魔具。

 散った魔石の欠片。


 慎重に、布で包まれていく。


 私は、その様子を見つめていた。


 町では、魔石は珍しくない。

 灯り。調理器具。計測器。


 庶民にとっては、便利で、でも、少し怖いものだ。


 許可を持つ魔法使いが、呪文で力を制御した魔石を作り、職人が魔具に組み込む。

 それが、当たり前だった。


 魔石の事故は小さい頃から度々聞いていた。

 だけど、目の前で起こるのは初めてだ。


 頭の中に、魔石の上をなぞる線が思い浮かぶ。


 詰まっていた場所。


 詰まりが限界を超えたらどうなるのだろう。


 ——爆発するのかもしれない。


 私は、自分の背筋が冷えるのを感じた。


 もしかしたら、線が見えたら、ああいう事故は防げるのかもしれない。


———


「馬を止めてくれてありがとな、男前の兄ちゃん!」


 近くの店にいた人たちからルーカスが背中をバシンっと叩かれる。

 そして背中をさすりながらこちらに戻ってきた。


 魔法の使えない私は、輪の外に立っていた。

 ルーカスはさっきまで、あの場の中心にいて、いろんな人からお礼を言われていた。


 ルーカスは咄嗟に判断して、迷いなく呪文を選び、力を制御して、止めた。


 私は、見ていただけだ。


 胸の奥が、少しだけ熱を持つ。


 空を見上げ続けるのは、疲れたはずなのに。

 目の前で見ると、やっぱり顔を出す。


 尊敬なのか。

 悔しさなのか。

 うまく名前がつかないまま、その感情だけが、胸に残る。


 ようやく2人で並んで帰りはじめる。


「……危なかったな」


 ルーカスが、息を整えながら言う。


「うん。馬、止めてくれてありがとう」


「止まってよかったよ。走り出すとなかなか止めれないからさ」


 その言葉に、私は、わずかに引っかかる。


 ——走り出すと、止められない。


 それは、さっきの馬のことだけじゃない気がした。


 力も。


 便利さも。


 きっと、同じだ。


 私は、自転車を見た。

 そして、思う。


 走り出すと、スピードを上げて軽やかに進むこれも、そうなんじゃないかって。


 家に着くと、エミールが飛び出してきた。


「おかえり!ねえねえ、それ!」


 目は、一直線に自転車だ。


「乗っていい?」


 私は、ルーカスを見上げた。


「ルーカス、支えるの、お願いしてもいい?」


「任せろ」


 右側にルーカスが立ち、サドルを支える。


「ゆっくりだぞ」


「わかってる!」


 エミールは、少しだけ背伸びしてサドルに跨った。

 そしてペダルに足をかける。


 くるり。


 前に、進む。


「動いた!」


 エミールの明るい笑い声。


 私は、横で歩きながら、

 足元と、進み方を見る。


 少し、速くなる。


 無意識に身構えた。


 止まるとき、足だけでは、少し足りないかもしれない。


「はい、そこまで」


 ルーカスが、すっと支えて止める。


 エミールは、満足そうに息をついた。


「すごいすごい!また乗る!」


「うん」


 私は、笑って答えながら、自転車に手を置く。


 走る力は、形になった。


 でも。

 止める仕組みは、後回しだった。


 それは、危ないことなのかもしれない。


 それでも私は、

 まず「進む」ことを選んだ。

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