『悪役令嬢たちと、ざまぁを書かない作者』
この物語には、はっきりとした勝者はいません。
喝采も、断罪の鐘も、爽快な転落も用意していません。
あるのは、「悪役令嬢」と呼ばれた人たちの声と、
そして――ざまぁを書かない作者の問いだけです。
ざまぁは、物語を読む上でとても便利な言葉です。
溜まった感情を一気に放出でき、正しさを短時間で実感できます。
けれど同時に、その言葉は少し乱暴でもあります。
誰が笑い、誰が落ち、誰の正義が採用されたのか。
その過程を、ひとまとめにしてしまうからです。
この座談会では、ざまぁを否定もしません。
肯定もしません。
ただ、いくつかの異なる在り方を並べてみます。
殴った人。
整えた人。
去った人。
何もしていないと記録した人。
そして、どれもが「間違いではない」可能性として存在します。
もし読み終えたあと、
「すっきりしなかった」と感じたなら、
それは失敗ではありません。
その違和感こそが、この物語の本体です。
ざまぁは、物語の中に必ず存在するものではなく、
読む側が欲しがる“名前”なのかもしれない。
その名前を使うかどうかは、
書く側ではなく、読む側の自由であってほしい。
どうか、答えを探すのではなく、
問いを一つ持ち帰っていただけたらと思います。
——この物語は、
そのための静かな場所です。
ここは、どこの王国でもない。大理石の床も、玉座も、聖堂の鐘もない。あるのは長い机と、窓の外に広がる白い空、そして「悪役令嬢」と呼ばれた者たちが座る椅子だけだった。空気は静かで、湿り気も、香の匂いもない。時間というものが、少しだけ外れている場所だ。
私は机の端に座っている。司会、と呼ばれた。とはいえ司会者に必要な台本はない。私には議題も、結論も、判決もない。あるのは問いだけだ。問いがあれば、彼女たちは話す。話せば、世界は勝手に形を持つ。
「お集まりいただいて、ありがとうございます」
そう言った瞬間、数人の令嬢がこちらを見た。礼儀正しい視線も、値踏みする視線も、距離を測る視線もある。私はそれらを受け止めて、受け流した。私は彼女たちの上にはいない。だから下にもいない。ただ、聞く。
「今日は、“ざまぁ”という言葉について伺いたいと思います。ただし、誰が正しいかを決めるつもりはありません。私がしたいのは、定義ではなく、輪郭を見せることです。言葉の輪郭は、人の数だけ変わるからです」
一番姿勢の良い令嬢が、ゆっくりと頷いた。背筋が真っ直ぐで、膝の上で手を組んでいる。爪は短く整えられ、白い手袋の縁が微かに揺れた。彼女は視線を逸らさずに口を開く。
「私は断罪の場で証拠を提示しました。告発の虚偽、金銭の流れ、署名の改竄、関係者の証言。すべて、適法な手続きで揃えました」
声は淡いが、芯があった。淡いのに重い。何かを踏み抜く力が、落ち着きの中にある。
「その場で、相手はどうなりましたか」
「王太子は廃太子。聖女と呼ばれていた人物は、宗教組織から追放。取り巻きはそれぞれの家に処分を委ねられました」
「それを、“ざまぁ”だと感じましたか」
彼女は少しだけ考えた。迷うというより、言葉を選んでいる。
「私は、そうは呼びません。あれは後始末です。不備のある秩序は必ず誰かを壊します。壊れる前に正した。それだけです」
その言葉に、机の向こう側で小さく笑う気配がした。笑ったのは、鮮やかな色の髪飾りを付けた令嬢だった。座り方に余裕があり、足を組むというほどではないが、体の重心を椅子に預けている。
「私は、もっと単純だったわ。証拠も手続きも、頭では分かっていた。でも、許せなかった。だから――殴ったの」
場がわずかに固まる。彼女は平然としていた。自分の告白が場を乱すことも、あえて理解しているように見えた。
「殴った、というのは比喩ではなく?」
「比喩じゃない。頬を、手のひらで。あの瞬間だけは、言葉が役に立たなかった」
私は頷く。否定もしないし、肯定もしない。ただ続きを促す。
「その時、何が一番大事でしたか」
「自分が壊れないこと。……それと、嘘を嘘のままにしないこと」
彼女は、ふっと肩を落とした。強さの形が一瞬だけ崩れ、また戻る。
「その後は?」
「後始末が大変だったわ。私は令嬢で、殴った相手は“聖女”。世界は私にとって都合よく回らない。罰を与えられそうになった。だから、私は家を出た。逃げた、と言ってもいい」
「逃げた先で、何を得ましたか」
「……自由。あと、孤独。自由は孤独と同じ顔をしていることがあるのね」
その言葉に、紅茶を飲んでいた令嬢がカップを置いた。音がしないほど静かに置く。その動作が丁寧で、丁寧すぎて、時間を節約する意思がない。彼女は、話す必要があるときにだけ話す人だった。
「私は、何もしませんでした」
さっきの令嬢の「逃げた」と違う響きがあった。“何もしなかった”は、逃げとも抗議とも違う。
「何もしない、というのは?」
「王宮を出ました。黙って。婚約破棄も断罪も、拒否も反論もせずに。ただ出ました。私の役割が、もうそこにはないと思ったからです」
「それで、相手は?」
彼女は窓の外を一度見た。白い空は変わらない。変わらないからこそ、心が動く。
「一年後、内乱が起きました。王太子は判断を誤り、聖女と呼ばれた人物は“民意”を操れませんでした。支える人材がいなかったのでしょう。王国は裂けました」
「それは、ざまぁですか」
「因果です。私が笑う余地はありません。私が望んだ結末ではないから。望んでいないのに訪れた結末を、祝うことはできません」
その場に、短い沈黙が落ちた。沈黙は悪意ではなく、理解に必要な時間の形をしている。私は沈黙を守り、彼女たちが自分の言葉を飲み込むのを待った。
すると、今まで黙っていた令嬢が、恐る恐るではなく、意外なほど真っ直ぐに口を開いた。派手さのない服装で、しかし目だけが強い。自分がここに座る理由を、外から与えられてきた人の目だった。
「……そもそも、私は悪役ではありませんでした」
言い切ると、場の空気が少しだけ変わる。王道の断罪をした者も、殴った者も、去った者も、彼女を見る。違う種類の時間が流れ始める。
「悪役と決められた理由は?」
「都合です。王太子が新しい恋を正当化するため。聖女が“純粋さ”を守るため。私は、古い約束を象徴してしまった。彼らが変えたいものを、私が身に着けていただけ」
「反論はしなかったのですか」
「しました。けれど反論は、しばしば“悪役の言い訳”に変換されます。言えば言うほど、悪役らしくなる。私はそこで気づきました。私は私の言葉を、彼らの舞台に置いてはいけない」
「だから、何を?」
「記録を残しました。私の行動のログ、資金の流れ、交友関係、医師の診断書、侍女の証言。私が“悪役”でない証明ではありません。私が何をしたか、何をしていないかを、未来の誰かが検証できる形で残しただけです」
その言い方は、最初に話した制度の令嬢と似ていた。しかし同じではない。制度の令嬢が秩序を守るために記録を使ったのに対し、この令嬢は自分の言葉を守るために記録を使った。守る対象が違う。
私は、あえて核心に近づく。
「それは、ざまぁを目的に?」
彼女は首を振る。
「目的ではありません。私は“ざまぁ”という言葉が好きではない。あれは誰かを下げる言葉です。下げることで、上がった気になる言葉。私は上がりたくない。私は、戻りたいだけです。自分の場所に」
その「戻る」という言葉は、ここにいる令嬢たちのほとんどが、どこかで持っている欲望だった。断罪の令嬢は秩序に戻りたい。殴った令嬢は自分の心の平衡に戻りたい。去った令嬢は、自分の人生の所有権に戻りたい。悪役ではなかった令嬢は、名前に戻りたい。
私は、ここであえて問いを増やす。増やすことで、言葉は鋭くなるのではなく、広くなる。
「皆さんに伺います。“ざまぁ”は誰のためのものですか」
制度の令嬢が最初に答える。
「世界のため、という顔をして、たいていは誰かの感情のためですわね。けれど感情は悪ではありません。問題は、それを世界の正義に偽装することです」
殴った令嬢が、少しだけ笑ってから、笑いを引っ込めた。
「私は、感情のためだった。正直に言えば、私のため。だから私は、ざまぁと言われても否定できない。でも同時に、あの一撃は、嘘に対する拒否でもあった。私は嘘の中で礼儀正しく生きるのが、耐えられなかったの」
去った令嬢は、淡く言う。
「私は、誰のためでもない。ざまぁは、外側の人が私に貼る札です。私は去ることで、誰も罰していない。でも“去ったこと”が罰として読まれる」
悪役ではなかった令嬢が、静かに続けた。
「“ざまぁ”は、読む側のためです。言い換えれば、“耐えた人”のため。現実で耐えている人が、物語で耐えた人に救われたい。救われた気になりたい。だから、ざまぁが必要になる」
言葉が、少しだけ生々しい。私はその生々しさを消毒しない。消毒すると、また嘘になる。
「では、もう一つ伺います」
私は、机の端に置いていた小さなメモを見ずに言った。メモはあるが、見る必要はない。今の流れの中で、最も効く問いは決まっている。
「復讐と秩序は両立しますか」
制度の令嬢は即答しない。即答しないことで、彼女は自分の誠実さを保つ。
「両立します。けれど条件があります。復讐が秩序を装わないこと。秩序が復讐を装わないこと。つまり、目的の透明性です。透明でない報復は、必ず別の歪みを生む」
殴った令嬢が、軽く息を吐く。
「透明性、ね。私には難しい言葉だわ。でも分かる。私は殴ったと認めた。隠していない。隠していないからこそ、後始末を引き受けた。私は“悪役”と呼ばれても、そこに逃げない」
去った令嬢は、首を少し傾けた。
「秩序を守るために復讐をすることは、できる。でも復讐のために秩序を使うと、秩序が腐る。腐った秩序は、結局は誰かをまた悪役にします」
悪役ではなかった令嬢が、小さく頷いた。
「だから、私は秩序に頼りすぎない。記録は残す。でも裁きは求めない。裁きを求めると、裁く側の物語になる。私は私の物語を取り戻したいだけ」
私は、その言葉の上に、さらに問いを重ねる。問いが重なると、答えは割れる。割れると、輪郭が見える。
「では、“ざまぁ”がなくても物語は成立しますか」
制度の令嬢は、少しだけ微笑んだ。初めて見せる表情だった。
「成立しますわ。ただし、“ざまぁがない”ということを読者が耐えられるなら」
殴った令嬢が苦笑する。
「耐えられない人もいる。私だって、耐えられなかった。だから殴った。物語というより、私は自分の中の読者に負けたのよ」
去った令嬢が言う。
「成立する。けれど終わり方が変わる。ざまぁの代わりに、“移動”が終わりになる。勝つのではなく、出ていく。勝利ではなく、選択。読者はそれを“弱さ”と呼ぶかもしれない。でも私は、選択の方が強いと思う」
悪役ではなかった令嬢は、少しだけ目を伏せた。
「成立します。成立するけれど、売れにくい。響きにくい。現実の多くは、ざまぁがないから。物語は現実の不足を埋める。だからざまぁが求められる。でも私は、現実に似た物語を置きたい。現実に似ているから、現実でも歩ける人が出ると思う」
ここで私は、司会として最も危険な場所に足を踏み入れる。危険というのは、彼女たちの感情を傷つける危険ではない。私自身が、何かを言い切ってしまう危険だ。司会者が結論を言った瞬間、座談会は終わる。彼女たちの言葉は私の結論の材料に落ち、作品は単なる説教になる。
だから私は、結論ではなく、問いの形でしか踏み込めない。
「皆さんにとって、“悪役令嬢”とは何ですか」
制度の令嬢は、目をまっすぐにして言う。
「役割ですわ。誰かが主役になるために必要な影。けれど影は悪ではありません。光が作るものです」
殴った令嬢は、少しだけ視線を逸らしてから戻した。
「私は、怒りを引き受ける器だった。王太子の優柔不断、周囲の嫉妬、聖女の欲望。全部が私の“悪”として整理された。整理されると、みんな安心するのよ。悪を一人に集めると、世界が楽になる」
去った令嬢が静かに言う。
「捨てられる名前です。便利な札。貼られて、剥がされて、また別の人に貼られる。だから私は、札を捨てた。札がある場所から離れた」
悪役ではなかった令嬢は、少し間を置いてから言った。
「奪われる言葉です。“悪役”と呼ばれた瞬間、私は私の言葉を失う。だから私は、言葉を取り戻すために記録を残した。記録は、言葉の代用品ではない。でも言葉の土台にはなる」
私は、机の上の空間を見た。そこには何もない。何もないから、言葉が落ちる場所になる。私は司会者として、最後の問いを選ぶ。最後は、いつも簡単な言葉がいい。簡単だから、逃げられない。
「……では、最後に一つだけ」
令嬢たちが、微かに息を整えるのが分かる。ここまでの問いは、準備運動だった。最後の問いだけが本題だった、と後から気づくような形にしたい。私は声を落とし、しかし曖昧にしない。
「あなたの物語に、“ざまぁ”は必要でしたか」
制度の令嬢は、少しだけ唇を結んでから言う。
「必要でした。私が望んだからではありません。私の世界の制度が、嘘を許さなかったから。嘘が罰されるのは、ざまぁではなく、ルールです。でも読者はそれをざまぁと呼ぶ。呼ぶなら、止めません。彼らが救われるなら」
殴った令嬢は、短く笑って、笑いを消した。
「必要だった。私が自分を守るために必要だった。だけど、私は“ざまぁ”を書かない作者がいることも、必要だと思う。ざまぁをしない選択が、弱さじゃないって知りたい人がいるから」
去った令嬢は、首を振る。
「不要でした。必要なのは、私が私の人生を選ぶことだった。罰ではなく、移動。復讐ではなく、再配置。世界がどう崩れようと、私は私の手を汚さない。それが私の秩序です」
悪役ではなかった令嬢は、少しだけ目を細めた。怒りではない。悲しみでもない。強い集中だ。
「分かりません。必要だったかどうかは、読み手が決める。でも、私は決めたい。私は“ざまぁ”を目的にしない。嘘が続かなくなる瞬間は描く。けれど、誰かの転落を祝わない。祝うと、自分の言葉がまた奪われる気がするから」
その答えが出揃ったとき、私は一瞬だけ、司会者であることを忘れそうになった。忘れたくなるのは、結論を言いたくなるからだ。結論を言えば、読者は楽になる。楽になる代わりに、彼女たちの言葉は小さくなる。
私は、結論を言わない。代わりに、ほんの少しだけ、自分の立場を明かす。作者であることを、隠していたわけではないが、露骨に示してもいなかった。
「私は、“ざまぁ”を書かないと決めているわけではありません」
令嬢たちがこちらを見る。私の言葉が、場の中心に移る。移った瞬間、私は慎重になる。
「ただ、ざまぁを“約束”として書かない。ざまぁは、物語を動かすエンジンにはなる。でも、エンジンはしばしば目的を誤解させる。復讐のための物語は、復讐でしか終われなくなる。秩序のための物語は、秩序の顔をした暴力になりうる。私はそれが怖い。だから、私はまず問いを置く。嘘は何を壊したのか。誰が何を欲しがったのか。悪役とは誰の都合だったのか」
制度の令嬢が、わずかに頷いた。
「問いは秩序の一部ですわね。秩序は、答えだけでできているものではない」
殴った令嬢が、笑わずに言う。
「問いは痛い。でも痛いから、本物だと思う」
去った令嬢が、淡く言う。
「問いがあると、去る場所も見つけられる」
悪役ではなかった令嬢が、小さく息を吸った。
「問いがあると、言葉を取り戻せる気がします」
私は机の上に手を置いた。何もない場所に、手のひらが触れる。その触感だけが現実だった。
「皆さんが話したことは、ひとつの定義にはなりません。けれど、輪郭にはなります。輪郭があれば、人はそこに自分の経験を重ねられる。重ねることで、物語は読む人の中で完成します」
私は、最後にだけ、少しだけ優しく言う。司会者の役割として、ここまで言ったのなら、これ以上は言わない。
「ざまぁとは、誰かが笑うことだとよく言われます。けれど今日、私が見たのは、笑いよりも、回復でした。秩序に戻る回復。心の平衡に戻る回復。人生の所有権に戻る回復。名前に戻る回復。もし“ざまぁ”という言葉がそれらを指すのなら、あなたたちは皆、ざまぁを生きたのかもしれません。ただし――誰かの転落ではなく、自分の帰還として」
誰も拍手しなかった。ここは舞台ではないからだ。代わりに、紅茶の令嬢がカップを手に取った。殴った令嬢が、背もたれから少しだけ体を起こした。去った令嬢が窓の外から視線を戻した。制度の令嬢が、手袋の指先を揃え直した。悪役ではなかった令嬢が、初めて小さく笑った。笑いは勝利ではなく、許可の形だった。
座談会が終わっても、彼女たちはそれぞれの世界に戻るのだろう。断罪の場に戻る者もいれば、国外へ戻る者もいる。戻る場所がない者もいるかもしれない。それでも、今日ここで言葉が交わされたことは、確かに残る。定義ではなく、輪郭として。
私は席を立ち、司会者として最後の仕事をする。締めの言葉は要らない。要るのは、余白だ。読者が自分の物語を置く余白。
ドアは音もなく開き、音もなく閉まる。白い空は変わらない。変わらないからこそ、誰かの中で変わるものがある。
私は結局、何もまとめなかった。
ただ一つ分かったのは、「ざまぁ」という言葉は、物語の中にあるものではなく、読む側が欲しがる“余白の名前”なのかもしれない、ということだけだった。
そして、その余白に何を置くかは、作者ではなく、読者が選ぶ。
だから私は、今日もまた問いを書き、答えを書かない。
答えは、彼女たちが、そして読んだあなたが、それぞれの世界へ持ち帰ればいい。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
最後まで来て、「結局、ざまぁはどうだったのか」と思われた方もいるかもしれません。
その感覚は、とても自然なものだと思います。
ざまぁ、という言葉は、物語にとって強い道具です。
感情を整理し、納得を与え、区切りをつけてくれる。
だから多くの物語が、それを選びますし、私自身も否定する気はありません。
ただ、この話では一度だけ、その道具を机の上に置いたままにしてみました。
使わずに眺めると、
「誰のためのざまぁだったのか」
「ざまぁがなくても、人は立ち上がれるのか」
そんな問いが、意外と静かに残るからです。
悪役令嬢という存在は、しばしば“役割”として消費されます。
誰かを輝かせるための影。
世界を分かりやすくするための悪。
けれど、その役割を一度外して、
ただ「その人自身」として座らせてみたらどうなるだろう、
そんな好奇心から、この座談会は始まりました。
誰かを落とさなくても、物語は終われる。
勝たなくても、人生は前に進める。
叫ばなくても、嘘は続かなくなる。
そういう結末も、確かに存在する――
そのことを、そっと置いてみたかったのです。
もしこの物語を読んで、
「これは自分には合わない」と感じたなら、それも正しい反応です。
ざまぁを求める気持ちも、強い感情を欲する心も、否定されるべきものではありません。
ただ、別の選択肢もある、というだけの話です。
物語は、答えを渡すものではなく、
問いを持ち帰ってもらうものだと、私は思っています。
このあと、あなたが読む次の物語に、
もし少しだけ見え方が変わる瞬間があったなら――
この座談会は、静かに役目を果たしたのだと思います。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。




