第6話 可愛い幼馴染
「いや、それはわかってるんだけどね」
「そ、それならいいんだけど」
「それよりも遅くなってごめんな。腹減ってるだろ?」
「謝らなくてもいいよ。浩人が初配信頑張ってたの知ってるし。すごく良かったと思うよ」
聖奈は満面の笑みを僕に見せてくれる。
普段はツンケンしてるけど、たまに見せてくれる素の反応が凄く可愛いんだよな。
これで彼氏がいないのだから驚きだ。
世の男たちは見る目が無いんだろうな。
「ありがとう。これも立ち絵を描いてくれた聖奈と協力してくれた莉乃姉さんのおかげだよ」
「いや、それもあるだろうけど大部分は浩人の努力でしょ。コメント欄も凄くいっぱい来てたし。デビュー戦にしては良かったと思う」
「珍しく褒めてくれるじゃん。聖奈に褒められるの嬉しいな」
「私の事なんだと思ってるの?」
聖奈は少しムッとした表情で睨んでくるけど、その表情すらも可愛く見えるのだから美少女はズルいと思う。
毎日のように見てるはずなのに聖奈の顔は見ていて飽きないな。
「可愛い幼馴染かな」
「だ、か、ら、すぐにそんなに恥ずかしい事を言うなぁ~!」
顔を真っ赤にした聖奈に枕を投げつけられる。
どうして褒めたら怒るんだよ。
理不尽じゃないか?
「ごめんごめん。それで、夕飯のリクエストとかあったりする? ある程度何でも作るぞ?」
「そう? じゃあ、私はお肉が食べたい」
「わかった。生姜焼きとかでいいか?」
「うん! 浩人の作る料理は凄くおいしいから好き」
ニコニコしたりムッとしたり、笑顔になったり表情がコロコロ変わって可愛らしい。
こんなにも可愛い幼馴染を喜ばせるためにも腕によりをかけて美味しい生姜焼きを作るようにしないとな。
「じゃあ、作りますか」
すっかり使い慣れてしまった聖奈の家のキッチンを使ってリクエスト通りの生姜焼きを作っていく。
そう言えば、どうして聖奈は一人暮らしを始めたのだろう?
聖奈の家族は仲が悪かったわけでもないし、何か問題を抱えていたわけでもなかったはずだし。
「まあ、聖奈の様子を見るに暗いわけでもないから大丈夫だろうな。それよりも次の配信内容とか、どんなコンテンツを配信していくかを考えないとな」
初配信で凄くうまく運んだからって以降の配信で失速してしまっては意味がない。
せっかく莉乃姉さんと聖奈の協力を得てデビューしたのなら有名になりたい。
「忙しくなりそうだな」
莉乃姉さんは最初の頃はかなり頻繁に配信をしてたって言ってたし、他のVtuberさんの配信を見ても最初の頃は頻繁に配信をしてた。
ゲーム配信、歌配信、雑談配信、etc
これからの僕がそのコンテンツに特化した存在になるかを考えないと。
「僕だけのVtuberとしての強みを作らないと」
莉乃姉さんと聖奈のおかげでだいぶ前向きになれた気がする。
Vtuberとしての道を見つけることが出来なかったら僕はもっと落ち込んでたはずだ。
本当に二人には感謝しかない。
◇
「ねぇ浩人」
「どうしたの?」
「今度の休日遊びに行かない? 初配信のお祝いってことで」
「それは別にいいけど。いいのか? 忙しいでしょ」
聖奈ことユッキーはかなり人気のイラストレーターで凄く忙しいはずだ。
僕の立ち絵だってかなりスケジュール的には無理して描いてもらってるはずだし。
そんな、聖奈と遊びに行っても大丈夫なんだろうか。
「気にしないで。私は久しぶりに息抜きがしたい。付き合って」
「わかった。聖奈が大丈夫なら全然いいよ。行く場所とかって決まってるの?」
「いいや? 決まってないけど、ちょっと買い物に行きたいからショッピングモールかな」
「了解。そう言えば聖奈と遊びに行くのはかなり久しぶりな気がするね。高校に入学して初めてじゃない?」
「……それは浩人が彼女作ったからでしょ」
聖奈はそっぽを向いてまた何かぼそぼそと言っていた。
また変な地雷を踏んでしまったらしい。
聖奈は昔から難しいな。
「というわけで、次の休みはあけといてよね」
「うん。すごく楽しみだよ」
「そ、そか。えへへ」
頬が少し緩んでいる聖奈は見ていてとても可愛かった。
そう言えば、そろそろ家に帰らないと不味い時間帯か?
時計を見てみれば午後八時を回っている。
普段ならもう帰っている時間だ。
「じゃあ、僕はそろそろ帰ろうかな」
「ちょっと待って。今日はもうちょっとゆっくりして行ってよ」
「別にいいけど。何かあるのか?」
「そういうわけじゃないけど。浩人は私と一緒にいるのは嫌なわけ?」
「まさか。何かしたい事でもあるのか?」
いつも通り、聖奈の部屋の片づけは終わらせてるし。
聖奈が僕に話したい事でもあるのだろうか?
「浩人はどうして前の彼女と付き合ったのか聞いてみたいなって。ダメ?」
「別にダメじゃないけど。失恋の話ならたくさんの人に聞かれてるわけだしね」
「じゃあ、聞かせてよ。気になるから」
聖奈は普段から僕の事を深く知ろうとはしてこないからこういった発言をしてくるのは結構珍しい気がする。
心なしか翡翠色の瞳がキラキラしているように見える。
「別にいいけど。何か飲み物でも入れようか?」
「じゃあ、紅茶がいいかな」
「わかった。僕も紅茶飲もうかな」
聖奈は昔から紅茶が好きなんだけど、こいつはほとんど買い物に行かないからネットで取り寄せたりしている。
もちろん、食材系はあんまり取り寄せることができないから僕が買ってきている。
引きこもり体質を治したいと昔は思っていたけど、イラストレーターとして忙しいという事を知ってからは諦めた。
「はちみつは入れるか?」
「じゃあ、お願いしようかな」
「わかった」
聖奈に言われた通り紅茶にはちみつをスプーン一杯分淹れて聖奈に持っていく。
嬉しそうマグカップを手に取って飲み始める。
僕も自分の分を持って聖奈の対面に座る。
「じゃあ、聞かせてもらってもいい? 浩人の元カノの話」
「面白い話でもないけどな」
僕は初めて付き合った彼女、理沙のことを思い出しながら聖奈に話を始める。
どうして付き合ったのか、いつ付き合ったのかを鮮明に思い出していく。
「付き合い始めたのは高校一年のクリスマスだな。相手の方から告白されて付き合い始めたんだっけな」
「浩人……告白されたの?」
「まあな。で、付き合った結果、半年くらいで振られた感じ」
「どうして振られたの?」
どうしてと言われても、明確な答えなんて僕にもわからない。
いらないと言われて捨てられただけだしな。
僕は多分だけど、もともと好きでもなんでもなく適当に付き合っていただけなんだろう。
「多分、そこまで好きじゃなかったんだろうね。簡単に振られたよ。まあ、そこら辺の話は莉乃姉さんの配信で聞いてるだろうけどね」
「辛くないの?」
「辛かったけどさ。振られた日からVtuberとして配信するのはどうかって莉乃姉さんに言われて、聖奈に立ち絵を描いてもらうことが決まってから忙しかったから悲しんでる暇がそんなになかったんだよね」
「確かにそれはそうかもね。私もあの時は凄く忙しかったし」
振られた日から今まで忙しすぎて振られたことを悲しんだり辛くなる余裕がなかった。
甘雲このりの弟の甘雲ヒロとして配信するためにいろんなことを考えて、行動したりしてたから。
で、気が付いて思い返すとそこまで悲しみが湧いてこなくなっているんだよな。
「本当にいきなりお願いしたのに描いてくれてありがとうな」
「それは全然気にしなくていいよ。私が提案したことだしね」
「そう言ってもらえると助かる。でも、元カノの話で話せるのってこれくらいだぞ?」
「うん。話してくれてありがと。未練とかはもうないんだよね?」
「ないな」
全くと言っていいほどない。
あそこまで酷い振られ方をしてまだ好きで居られるほど、僕の恋心は熱くなかったみたいだ。
「ならいいよ。話してくれてありがと。あと、引き止めちゃってごめんね」
「それは全然良いよ。家は凄く近いしな。じゃあ、おやすみ」
「うん。おやすみ浩人」
挨拶を交わして僕は家に帰る。
初配信を終えて少しは気が楽になるかと思ったけど、そんなことは全然なかった。
次に何を配信するのかで僕は再び頭を悩ませることになるのだった。
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