第5話 甘雲ヒロ初配信!
あれから時間はあっという間に流れてついに初配信の日がやってきた。
ツッタカターに初配信をすることを投稿したら万バズしてて凄く驚いた。
初配信の内容は莉乃姉さんと聖奈に相談した結果、簡単な自己紹介と僕の失恋話の詳細をする羽目になった。
確かに話題性はあると思うけど、自分の不甲斐ない失恋話がまた広まってしまうのは結構精神的にくるものがあった。
「でも、そんな弱音ばっかり吐いてても仕方ないよね。それに莉乃姉さんと聖奈が最大限バックアップしてくれたんだから僕は本気で目の前の初配信に取り組まないと!」
自分を鼓舞して最近部屋に置かれたばかりのモニターを見つめる。
OBSは既につけてあるし、枠も立ててある。
あとは、配信予定時間になれば配信を始めるだけ。
大丈夫、あんなに莉乃姉さんに教えてもらったんだ。
絶対にうまくいくはず!
「ひろくん大丈夫そう? もうそろそろ初配信でしょ?」
「うん。莉乃姉さんに言われた通り設定とかは全部終わってるし、枠も立ててるよ。ツッタカターに告知もしたし」
「なら大丈夫だね。私は自分の部屋で配信見てるから頑張って! 本当に不味くなったらマイク切って私の部屋に来てくれたら教えてあげるから。くれぐれもマイクを切り忘れてきたらダメだよ?」
「わかった。ありがとう莉乃姉さん」
「ううん。頑張ってねひろくん」
莉乃姉さんはそれだけ言って満面の笑みを向けてくれるとすぐに部屋を出て行った。
本当に面倒見のいい姉でいつも助けてもらってる。
「……ん?」
僕がモニターに意識を向けようとしたら手元にあったスマホが震える。
画面を見てみればそこには聖奈の名前が表示されていた。
「もしもし?」
「もしもし浩人? 今から初配信でしょ? 頑張ってね。見てるから」
「わざわざそれを言うために電話をかけてくれたのか?」
「当たり前じゃない。幼馴染の門出を応援しないなんて私には無理だから。それよりも気張りなさいよ。Vtuberは初配信が全て! とまでは言わないけどかなり重要なんだから」
「ありがと。頑張るよ」
聖奈だってイラストを描くのに忙しいはずなのにわざわざ僕を勇気づけてくれるために電話をかけてくれるなんて。
ますます失敗することができない。
頑張らないと。
「あと、五分か」
時計を確認してみればあと五分で僕の初配信が始まる。
甘雲ヒロとして初めて世界中の人に声を届けるんだ。
枠で待機している人の数が一万人を超えている。
つまり、僕はこれから一万人の人の前で話すことと同義。
なおの事緊張してきた。
「というか、コメント流れるの速くない? 全然読めないんだけど」
何もかもが初めての経験で、新鮮だけどコメントの流れる速度が速すぎて中々読めない。
配信が始まってもいない状態でここまで速い速度でコメントが流れるのなら配信が始まったら一体どうなってしまうのか?
そのことに期待と不安が混ざった複雑な感情になる。
「莉乃姉さんはこんな緊張を配信をするたびに味わってきたのか」
莉乃姉さんが普段味わっている重圧に比べたら、なんてことは無いのかもしれない。
でも、普段から人前で話すような事をしてこなかった僕にとってはかなりハードルが高い。
しかし、もう後に引くことはできない。
ここまで来たのなら当たって砕けろだ。
出来れば砕けたくないけど。
「時間だ。えっと配信を開始してマイクを入れてってと」
莉乃姉さんに言われた通りのキャラを頭に思い浮かべてマイクに向かって声を出す。
「こんヒロ! 甘雲このりの弟の甘雲ヒロだ! みんなには失恋弟って名乗ったほうがわかりやすいかもしれないな!」
甘雲このりはダウナー系美人Vtuberとして名前が通っている。
そんな彼女と対比するように甘雲ヒロは元気系のVtuberとしてデビューするという作戦が僕と莉乃姉さんが考えたものだ。
「いや~あんときは焦ったよ。でも、こうなったらこのり姉さんの弟としてデビューするってことになってな! このり姉さんともどもよろしくな!」
出来る限り明るい雰囲気を出せるように声を作っているんだけど、コメントを見る限り違和感はないらしい。
コメント欄には「ビジュがめちゃくちゃ好み!」とか「声がかっこよすぎる!」というような前向きなコメントが多くて少し緊張がほぐれた。
「で、まずは自己紹介と行きたいんだけどこれがプロフィール帳だな!」
パソコンを操作して僕は少し前に莉乃姉さんに協力してもらったプロフィール帳を画面に映し出す。
プロフィール帳には好きな物や好きな事。
誕生日にニックネームなどが記載されている。
その中の話題を一つずつ拾っていって、初配信を盛り上げていく。
「っと、ここまで自己紹介をしてきたわけだけど! こっから先はゲストに登場してもらおうかな」
僕がそう言った瞬間、配信の画面上に甘雲このりの立ち絵を映し出して通話アプリで莉乃姉さんに入ってきてもらう。
もちろん、莉乃姉さんの音声は配信にのっている。
「こんくも~甘い雲みたいに儚い美少女こと甘雲このりだぞ~よろしく~」
莉乃姉さんは普段僕に話しかけてくるような明るい声ではなく、少し落ち着いている声音で甘雲このりの定番の挨拶をする。
莉乃姉さんが配信に来た瞬間、コメント欄の流れが目に見えて速くなる。
流石は超人気Vtuber。
「というわけで、僕の姉さんのこのり姉さんにゲストとして来てもらったぜ!」
「まあ~可愛い弟のお願いだからね~それに失恋の話が世に出ちゃったのは私のミスだし~」
「その話はしないで!?」
別人と話している気分だけど、紛れもない莉乃姉さんだ。
ここまで雰囲気を変えれるなんて本当にすごいと心の底から感心してしまう。
それからは莉乃姉さんと打ち合わせ通りの配信をこなして僕の初配信は幕を閉じた。
◇
「お疲れ様ひろくん。喋り方凄くうまかったよ!」
「ありがとう。莉乃姉さんにいろいろ教えてもらったおかげだよ」
「それもあると思うけど、ひろくんの努力はちゃんと形になってると思うよ? それはコメントを見てもそうだし、これを見てみてよ」
そう言って莉乃姉さんが僕に差し出して来たスマホの画面にはツッタカターのトレンド画面には#《《甘雲ヒロ初配信》》が一位になっており、二位はこのり~む、三位は失恋弟だった。
トレンド一位になれたことは嬉しいんだけど、僕がVtuberを続ける以上は失恋弟の二つ名がついてきそうな事に少し悲しくなった。
でも、有名になれば理沙を見返すことができるかもしれない。
「これからも頑張るよ」
「うん! 私はあんまり口出ししないけど、ある程度定期的に配信はするんだよ? 次は歌枠をするんだっけ?」
「うん。歌は好きだし、今回の配信でも声を凄く褒められたからね」
「良いと思う! ひろくんすっごく声綺麗だし絶対に人気出ると思う」
莉乃姉さんにもこうやって褒められたことだし、頑張ることにしよう。
「じゃあ、僕は聖奈のところに行ってくるね。今日のお礼も言いたいし」
「そうしてあげて。行ってらっしゃい」
莉乃姉さんに見送られながら徒歩三分で聖奈の家にたどり着く。
合鍵を使って鍵を開けて玄関を開けると聖奈の部屋からガタンと大きな音が鳴った。
「大丈夫……か?」
「浩人、遅かったじゃない」
「ごめん初配信で結構戸惑って。どうやら見ててくれたみたいだけど」
「こ、これは違うから! 私が描いた立ち絵がどんなふうに動くのか、どんな声で話すのか気になっただけだからね!」
聖奈は恥ずかしそうにタブレットを覆い隠していたけど、その画面にはしっかりと甘雲ヒロの初配信画面が映し出されていたのだった。
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