第4話 初配信の準備が進行中!
あれから一週間後。
莉乃姉さんの注文した機材一式が部屋に運び込まれた。
内容としてはデスクトップパソコン一台。
モニター三枚、キーボード、マウス、マイクにイヤホン。
配信に必要な機材でかなりいい物を注文してくれた。
もちろん、モニター三枚もおけるような机が無かったから机も椅子も注文してもらった。
「こんなに良い物を用意してもらって……本当にありがとう莉乃姉さん」
「全然良いよ~早くひろくんと一緒に配信したくて私、ウキウキしてるんだから」
部屋に機材を運び込み、ある程度初期設定を済ませた僕たちは一息つく。
「莉乃姉さん本当に手際がいいね。流石本職のVtuber」
「いやいや、そんなに難しくはないから。立ち絵は聖奈ちゃんが準備中だから今できるのはこれくらいかな。立ち絵が上がってきたら私がモデリングするからそれまではひろくんができることはそんなにないね」
「莉乃姉さんってモデリングまでできるの!?」
モデリングというのはVtuberのパーツ分けした立ち絵を組み立て各パーツが動く範囲を決めたりして、基本的な動作を設定することを言う。
立ち絵を書いた絵師をママという文化にのっとるなら、モデリングをした人はパパと呼ばれる。
「まあね。これでも私はいろんなことができるVtuberとしてやってるので。歌、絵、モデリングに動画編集。立ち絵も自分で描けたんだけど、聖奈ちゃんの絵に惚れちゃってね」
「さも、普通みたいに言ってるけど。それってかなりすごい事だよね?」
基本的にここまでマルチに活動をしているVtuberは僕の知る限りそこまで多くいないと思う。
流石は登録者五十万人越えの超人気個人勢Vtuberと言ったところか。
「どうなんだろ。私はVtuberになってからずっとこんな感じでやってたし。あとはそうだね~SNSの使い方を教えるくらいかな」
「SNSってツッタカターとかそういうやつの事?」
「そうそう。私はよく配信前にこの時間に配信するよ~とかそういう情報を発信してるかな。あとは、たまに出すグッズの情報とかショート動画の宣伝とかね」
「へぇ~いろんな使い方があるんだね。そう言えば、僕も何回か見たことがあるかも」
他のVtuberが配信時間を宣伝したり、何かの情報を発信したりしていたのを何度か見たことがある。
初配信の告知とかもしていたような……
「だから、ひろくんは初配信の告知をして貰う。とは言っても、聖奈ちゃんが描く立ち絵が上がってきてからだね。モデリングの時間もあるけど、立ち絵が出来れば宣伝くらいはできるからね」
「うん。どんなことを書けばいいの?」
「それは人それぞれだね。どんな配信内容なのかとかを言う人もいれば、ただ単に配信を開始することだけを言う人もいるけど……そこら辺は相談して決めようか」
僕がどんな配信をするのか、か。
考えてもなかったな。
「莉乃姉さんはゲーム配信と歌配信が主だった活動だよね?」
「うん。たまに雑談配信とかしたり、絵を描いてる配信をしてるね。ひろくんは良い声してるし歌も上手だから歌配信とか雑談とかをメインにしたらいいかもね」
「聖奈にも言われたけど、僕の声っていいのかな?」
「うん。ひろくんはめっちゃいい声してるよ。だからデビューしたら絶対にコラボしようね」
莉乃姉さんはニコリと微笑んでそう言ってくれる。
本当に僕にはもったいなさすぎる出来過ぎた姉だ。
そんな莉乃姉さんの弟として活動する以上は笑われれないようにちゃんとしたVtuberにならないとな。
「もちろん。莉乃姉さんがいいなら喜んで」
「いいに決まってるじゃん。私はひろくんが大好きだからね!」
えへへと笑う莉乃姉さんに恥じないように最高のVtuberになると決めた。
肩を並べるまではいかなくても姉さんがバカにされたり笑われないようなVtuberになると。
◇
「それで、ツッタカターにどんな内容を投稿しようか悩んでいると?」
「うん。最近ずっと相談に乗ってもらってごめん」
「謝らなくてもいいけど。でも、難しいね。何を投稿するのかなんてさ」
「だから迷ってるんだよね。本当に何を投稿すればいいんだろ」
自分でもいろいろ調べてみたけど、中々いい感じのものが浮かんでこない。
一体何を投稿すればいいのか。
「普通に自分がどんな存在かを伝えればいいんじゃないの? 莉乃さんの許可がもらえるんなら弟であることと失恋の話でもすればいいんじゃない?」
「確かに。それはありなのかな? でも、それって莉乃姉さんのネームバリューを使ってるだけじゃないのかな」
「いいんだよ。使える物は使えば。莉乃さんに話せばきっと快く快諾してくれるよ」
「それもそうなのかな。うん、帰ったら莉乃姉さんにもう一回相談してみるよ」
こういうのはしっかりと経験者に聞いて進めていきたい。
何も考えずに突っ走ったら痛い目を見るのがネットの世界。
それに莉乃姉さん……甘雲このりの弟として活動する以上は失敗は許されないんだから。
「そうした方がいいだろうね。あと、浩人の立ち絵なんだけどこんな感じでどう?」
聖奈がタブレットの画面を見せてくれる。
そこには甘雲このりと同じ綺麗な銀色の短髪と紫色の瞳をしたイケメンが映っていた。
左耳の後ろ辺りから一房伸びた髪を三つ編みにしている。
ぱっと見でも甘雲このりに似ているとわかるデザイン。
弟としてデビューするのならぴったりなデザインだった。
「めちゃくちゃいい! 本当に聖奈が描く絵は綺麗だな。聖奈にデザインを担当してもらえて僕は本当に嬉しいよ」
「別にそこまで褒めなくてもいいんだけど。それよりもこの立ち絵で問題が無いようなら清書してデータ送るけどいい?」
「もちろん! 本当にいい立ち絵だった! 聖奈が真剣に描いてくれた立ち絵のためにも下手な配信はできないな」
「そこは気にしなくてもいいんだけどね。でも、頑張ってね。応援してるよ浩人」
聖奈が描いてくれた立ち絵のためにも、これからデザリングを担当してくれる莉乃姉さんのためにも失敗はできない。
だから、真剣にツッタカターに投稿する内容と初配信の内容を考えないとね。
◇
「というわけで、莉乃姉さんの甘雲このりの弟って投稿してもいい?」
「もちろん。というか、さっき配信で言っちゃったよ? 近いうちに弟がデビューするって」
「……へ?」
「だって、どっちみちデビューするんなら私の配信で言った方がいいだろうしインパクトがあるでしょ?」
僕が相談しようとしていた事に莉乃姉さんはあらかじめ手をうってくれていたようだ。
本当に優秀な人だ。
「た、確かにそうだけど。ありがとう莉乃姉さん」
「良いってことよ。Vtuberになることを勧めたのは私だし、最大限のサポートはしてあげたいんだよ。それを除いても、ひろくんは私の大切な弟なんだし」
莉乃姉さんはまっすぐにこういう事を言ってくれるので、ちょっと気恥ずかしい。
それでも、嬉しいな。やっぱり。
「他にやっておいた方が良い事ってある?」
「う~ん、後はキャラ設定とかを考えたほうがいいんだけどひろくんに関しては失恋弟として印象が定着しちゃってるから手遅れかな」
「そ、そんな」
言われてみれば確かに、僕は甘雲このりの失恋弟としてトレンド入りしたんだ。
この設定だけは外せないみたい。
不名誉ではあるけど、使える物は全部使うって決めたんだ。
自分の汚名であっても活用できるものはして行こう。
「うん。あとは配信の挨拶とかじゃない? 私の場合だとこんくも~とか言ってるし終わるときはおつくも~って感じ。甘雲このりの名前からもじってるけど、ひろくんはVtuberとしての名前は決まってる?」
「それはまあ。甘雲ヒロって名前で行こうと思ってるんだけど、どうかな?」
「良いと思う。私の弟設定を使う以上は苗字はそれしかないし、私の配信でひろくんって呼んじゃったからそれでいいと思う」
莉乃姉さんのお墨付きをもらって一安心だ。
名前は決まったし、立ち絵も聖奈に描いてもらってる。
モデリングに関しても莉乃姉さんに担当してもらうことが決まってるから、後は初配信の内容を考えたりしないといけない。
ここからは僕の仕事だ。
「ありがとう。多分もう少ししたら立ち絵のデータが聖奈から送られてくると思うから、来たら莉乃姉さんにデータを渡すね」
「うん! もらったらすぐにモデリングしてあげるよ。一か月以内に初配信を目指して頑張ろう!」
「うん」
こうして着々と僕……甘雲ヒロの初配信準備が進んでいくのだった。
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