第33話 掘り返される失恋弟
「じゃあ、さっそく対談配信を始めようと思うんだけど自己紹介から始めようか。西園寺桔梗で~す。よろしくど~ぞ」
「こんヒロ! 甘雲このりの弟の甘雲ヒロだ! 今日は桔梗さんとのコラボ配信ってことで結構緊張してるけどよろしく頼むな」
できる限り、配信の時のテンションを維持しつつ挨拶をする。
こうやって、甘雲ヒロを演じている間は何故だか自分に自信が持てる。
今この瞬間だけは学校の事とかそのほかの悩みとかを全部忘れて配信がすることが可能になる。
一種の暗示みたいな感じだ。
「そんなヒロくんのお姉ちゃんの甘雲このりだよ~こんくも~」
「というわけで、今日は甘雲姉弟+私で対談配信をすることになりました! どうぞよろしく~」
桔梗さんの外見は焔色のショートカットに琥珀色の釣り目で美人系というよりは可愛い系の見た目をした立ち絵だった。
莉乃姉さんみたいなダウナーで美人ではなく、完全に明るい感じの見た目だった。
もちろん、見た目だけでなく性格も明るい人だったわけだけど。
「はいよろしく~という事で司会進行はわたくし甘雲このりが努めますね~」
そんなこんなで僕のコラボ配信が始まった。
最初に話題になったのは残念なことに僕の失恋の話だった。
「ヒロくんはどうして振られたの?」
「いきなりそれ聞きます!? 結構デリケートな話題っすけど」
「そりゃ聞くでしょ! ヒロくんが有名になった……というかVtuberになったきっかけだし」
確かにそれはそうなんだけど。
自分の失恋話を大勢の前でするというのは中々に恥ずかしい話だけど、話題性があるのは間違いない。
流石はVtuber界のレジェンド。
話題選びが完璧だった。
「やめてよきょうちゃん、それは私にも刺さる」
「それはそうだね! もともとはこのりんの配信の切り忘れなわけだし」
「だから言わないでって言ったのに。もう」
二人が良い感じに場を盛り上げてくれる。
僕も遅れを取るわけにはいかない。
せっかくこの機会を用意してくれたんだ。
「桔梗さん、このり姉さんを虐めるのはそこら辺にしておいてください。僕の失恋の話ですよね?」
「そうそう。というか、私のも普段の配信で喋ってるようにしていいよ。というか、して。このりんの弟に変に畏まられるのは気持ち悪いし」
「そういう事ならわかりま……わかった」
「よろしい。じゃあじゃあ、さっそく失恋の話を始めよっか」
最初は緊張して高鳴っていた心臓は桔梗さんと話している間にすっかり落ち着いてしまった。
桔梗さんは人の緊張を解くのがものすごくうまいような気がする。
すぐに彼女のペースに乗せられているというか。
本当にすごい人だ。
「ヒロくんはどうして振られたの? 気になるんだけど」
「どうしてって、言われるとよくわかんないんだけど。結構あっさり捨てられたね。なんか本当に捨てられたって感じで」
「ええ~ヒロくんカッコよくて気遣いもできそうなのになんでかな?」
「それは僕が一番聞きたいんだけどね」
本当になんで振られたのかはあまり自分でもわかっていない。
理沙に対して酷いことを言った覚えもした覚えもない。
適当に付き合っていただけなのか、都合がよかっただけなのか。
それは僕にはわからないし、もうわかりたくもない。
「まあ、女の子が何を考えてるかなんて私達女の子にもわからないからね。でも、私が保証してあげる! ヒロくんは良い男だから安心しな! ねっ? このりん?」
「なんでそこで私に話を振るかなぁ。まあ、ヒロくんは良い男なのはお姉ちゃんの私が一番わかってるんだけどね!」
莉乃姉さんがそう言った瞬間、コメント欄の流れる速度が一気に上がった。
内容を見てみれば……
(このりんのブラコン来たぁ~)
(普段の配信でもこんなに甘々なこのりんがみたい)
(ヒロくん、一日だけ弟の座を変わってくれないか?)
などなど。
普段ダウナー系であんまり可愛い発言をしたりしない莉乃姉さんが甘い声を出したから一気にコメント欄が湧いたのだろう。
流石は莉乃姉さん。
「はいはいブラコンごちそうさまで~す。全く、あの配信でブラコンバレしてからちょっとキャラが変わってない? このりん」
「いやいや、もともと隠してたわけじゃないし。私はヒロくんが大好きだから。それが配信でバレちゃったから公にしてるだけで~す。あと、コメントであったヒロくんと弟の座を変われって言った人はお説教です」
「ちょっと、このり姉さん。ハズイって」
普段の様子で莉乃姉さんは絡んでくる。
だけど、こんな様子の莉乃姉さんもとい甘雲このりを見たことが無いリスナーは興奮気味にコメントを打っているようで流れる速度が尋常じゃないほどに早い。
「じゃあ、振られた理由は結局わからなかったわけだ」
「そうだな。振られた理由もわからなかったし、今となっては未練もない。こうやってVtuberとしての俺を見てくれている人がいっぱいいるからな!」
これは僕の本心だ。
みんなが見てくれているから僕は暗くならずにいられるし、何よりも今の生活が楽しいと思える。
見てくれているリスナーのみんなには感謝しかない。
「いいこと言うね~じゃあ、質問なんだけどヒロくんの好みの女性のタイプってどんな感じの人なの?」
「それ言わないとダメっすか?」
なかなかに恥ずかし事を聞いてくれる。
それも何万人も見ている配信内で。
でも、ここで答えないのは白けてしまうだろう。
莉乃姉さんも桔梗さんも配信を盛り上げようとしてくれているのに、僕の感情でそれを台無しにしてしまうわけにはいかない。
「それ、お姉ちゃんも気になるな~どんな人が好みなの? 答えてよ。というか、お姉ちゃん命令! 答えなさい」
「ええ~」
莉乃姉さんがここまで強引に何かを聞いてくるのは珍しい。
まあ、ここまで来て隠す必要もないしコメント欄も盛り上がってるから答えないという選択肢は結局なかった。
「いや、まあ答えるけど。タイプって言ったら一緒にいて楽しい人とかかな? 顔とかはそこまで気にしないタイプかも。性格のいい人がいいな~」
「へぇ~最近の男の子はとにかく顔がいい子が好きっていう印象があったんだけど。ヒロくんはそうじゃ無いんだね?」
「それは偏見だと思うけど。まあ、僕は性格重視だね。だって、一緒にいて楽しい人じゃないと付き合っても楽しくはないでしょ」
「そりゃあそうだね。じゃあ、そんな性格重視のヒロくんのお姉ちゃんはどんな男性がタイプなの?」
桔梗さんは僕から莉乃姉さんにターゲットを変えて話題を広げていく。
トーク力の高さは参考にしていきたい。
他にも、彼女は人が触れてほしくなさそうな事には極力触れずに話題を広げてるんだ。
だから、話している側も一切嫌な思いをすることなく話すことが出来ていた。
こういう一面が彼女をVtuber界のレジェンドと言わしめる所以なのだろう。
「う~ん、私はヒロくんみたいな男のがタイプだね~ヒロくん結婚しない?」
「何言ってるの? このり姉さん。流石に気持ち悪いよ?」
「き、気持ち悪い? ひ、酷いよヒロくん」
(ブラコンすぎでしょ)
(弟くん案外容赦ないな)
(でも、こんな風にこのりんが狼狽えてるの新鮮で面白い)
コメント欄は莉乃姉さんの反応に萌えてるらしく、かなりの速度でコメントが流れている。
僕単独の配信でここまで早くコメントが流れるのは初めてだ。
流石はVtuber界のレジェンドと大人気Vtuber。
人気が半端ない。
僕もこの二人のステージに立てるように努力しないといけない。
「へぇ~このりんは相変わらずブラコンなんだから。じゃあ、私がヒロくんの彼女に立候補しちゃおうかな?」
「ちょっ、何言ってるんですか!? 炎上しちゃうっすよ」
「そうだよ! なに私のヒロくんを盗ろうとしてるの? いくらきょうちゃんでも許さないよ?」
「そんな怖い声出さないでよ。悪乗りが過ぎたのは謝るからさ」
莉乃姉さんと桔梗さんは二人でじゃれ合いながら少しづつコメントを拾って読み上げている。
会話をして、次に何を話すかを考えてる僕はコメントの中身まで見る余裕がないのに。
二人は当たり前みたいにそれをやってのけている。
これが経験の差という奴なのだろうか?
「二人はやっぱり仲がいいっすね。長い付き合いなんすか?」
「う~ん、めっちゃ長いってわけでもないけど。もうそれなりに長くはなるかな。このりんが配信初めてちょっとしたくらいからコラボとかしてるし」
「だね~きょうちゃんには新人の頃から助けられてるからね。できれば、ヒロくんとも仲良くしてくれると嬉しいな」
「それはもちろん! 甘雲姉弟とはこれからも仲良くしていきたいと思ってるからね! じゃあ、次の話題に入ろうか」
それからは桔梗さんが話題を選んで僕に質問をして、僕がそれに答える。
時々莉乃姉さんが話題に加わって配信を盛り上げる。
二人の卓越した配信技術に助けられながら、今回のコラボ対談配信は幕を下ろした。
Vtuber界のレジェンドと大人気Vtuberが出演したという事もあって、ツッタカターではトレンド一位に乗っていた。
そして、掘り下げられまくった僕の失恋話も関係してるのかトレンドの二位は《《掘り返される失恋弟》》という謎のワードが入っていた。
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